case #06

グローバル展開まで視野に入れ、より高精度な体温計の実現を目指す。

PROFILE
オムロンヘルスケア株式会社
技術開発統轄部
2007年入社/工学部 機械工学科
PROFILE
オムロンヘルスケア株式会社
商品開発統轄部 開発企画部
2007年入社/工学部 機械工学科

PROJECT

オムロンヘルスケアは、約60秒での予測検温を可能にした予測式電子体温計を2009年にリリース。測定時間の短さと予測測定精度の高さで好評を得た。そのリリースからまもなく、60秒から15秒への大幅な高速化と予測測定精度のさらなる向上を可能にするプロジェクトがスタート。数年にわたるこのプロジェクトが、2011年に実を結ぶことになった。

高い予測精度の実現に向けて

2009年の夏に発売された予測式電子体温計の高い予測精度は、新たに開発したアルゴリズムによるものだ。お客様からの感想が直接届くコールセンターからも「予測測定精度の高さが好評です」という声が伝わってきて、それまでの苦労が吹き飛んだ。

しかしより速く、より正確に測りたいという市場のニーズがなくなることはない。このニーズをさらに満たすべく、好評を得ている60秒予測検温の既存機種に劣らぬ予測精度を備えながら、測定時間を15秒に大幅短縮するプロジェクトが始まった。60秒測定から15秒測定へ。それはアルゴリズム開発を担う自分にとって、大きな挑戦だった。

膨大なデータと向き合い改善を繰り返す

わきの下にはさんで測定するタイプの体温計なら、実測で通常約10分の測定時間がかかる。この所要時間を、測定値の上昇パターンをもとにした予測により大幅に短縮する体温計、それが予測式体温計だ。測定位置や測定中のわずかな動きによって、測定値の上昇の仕方は微妙に変化する。さらに平熱の場合と発熱している場合、環境温度の違いによっても測定の上昇のカーブはまったく異なってくるため、アルゴリズムも変える必要があるのだ。

道のりは容易ではなかった。1000人以上にものぼる膨大なデータを解析するために、各種のノイズを取り除くソフトウェアも自ら構築していかなければならない。データ解析の次は、その結果をもとに試作したアルゴリズムを実例に当てはめて、予測精度の確認を行う必要がある。不具合が見つかれば、問題を改善するために再度膨大な数値を見直す。その作業をひたすら繰り返す毎日だった。通勤や帰宅の電車内でも頭の中を数式が駆け巡る。休日に突然アイデアがひらめいたことも、一度や二度ではなかった。

製品を通して感じた確かな手応え

予測式測定のアルゴリズムが完成に近づいてくると、製品としての発売に向けて他部門との連携作業が増えていく。製品開発が佳境を迎えていることを実感し、気持ちが高ぶった。ソフトウェアだけでは解決できない課題が発生した際には、メカやエレキなど他分野の仲間に協力してもらい、連携することで乗り越えることができた。企画、品質、製造、コールセンターなど、ともにモノづくりを進める仲間たち。部門やチーム、グループを越えて、それぞれの立場から市場を見つめ、夢を描き、刺激を与え合った。

そして、2011年夏。所要時間を大幅に短縮し15秒で検温ができる予測式体温計が発売された。高速応答センサを含めた感温部(先端部)の性能も改善し、挑戦は見事に実を結んだ。精度と予測時間以外にも音と光で検温終了を知らせる機能や、わきにしっかりフィットし短時間で体の熱をとらえるためのフラット形状の感温部など、様々なアイデアと技術を搭載。「小さな子どもから高齢者まで簡単に正確な検温ができる」という喜びの声を、コールセンターを通して聞くことも多い。「良いものをつくった!」と自信を持って言えることが、やりがいにつながっている。

広い視野を持って開発に挑む

機械や電気分野にも知識を広め、体温計の新商品開発プロジェクトを率いる力を養うこと、それが今の目標だ。現在、同様の技術を婦人向け体温計にも展開するプロジェクトが進行している。女性にとって、基礎体温のチェックは美と健康を守る第一歩。日々の微妙な変化を把握することが基礎体温を計測する主な目的である以上、基礎体温計の予測測定精度もさらに向上させなければならない。世の女性たちに喜んでもらえるまったく新しい婦人向け体温計をつくるためには、これまで以上に各部門と連携していくことが不可欠だ。ソフトウェア開発だけに目を向けるのではなく、商品開発という広い視野を持ってチームを牽引するよう意識している。

あらゆる文化圏のニーズに応える体温計を

血圧計では世界をリードしているオムロンだが、体温計の世界シェアはまだまだ低い。その分、伸びしろは大きく、これから市場のシェア拡大を目指せる分野だといえる。だからこそ1日も早く、自分の手で体温計のグローバル展開を担いたい。計測方法や計測部位、使用する体温計は国や地域によって異なる。海外では、婦人向け体温計というカテゴリーすらない。巨大市場中国では、いまだに水銀式体温計が主流であるため、環境汚染防止の観点からも市場のニーズに合うデジタル式体温計を提案する必要がある。また、体温管理により熱中症を防ぐなど、未来型ヘルスケアをカタチにした新しい体温計を開発する構想もある。体温計グローバルNo.1を目指し、これからも挑戦は続く。

comment

好奇心旺盛なところが私の長所です。いったん「なぜだ?」と思うと、もう止まりません。だからこそ最後まで投げ出すことなく、膨大なデータから欲しいアルゴリズムを導き出せるのだと思います。好奇心は、私にとって深く、広く進むための大切なエンジン。これからも好奇心を持ち、異分野への理解も深めながら、様々な立場の人と連携するための幅広い知識を身に付けていきたいと考えています。