We are Shaping the Future! 私たちが手繰り寄せる未来ストーリー
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Valuable500 日本における会員企業から対面およびオンラインで約60名が参加
2024年11月21日、オムロン株式会社京都本社にて、Valuable 500の日本企業交流会が行われました。Valuable 500は、障がい者の排除をなくすために協力する500以上の企業やパートナーからなる世界的な組織です。2019年1月に開催された世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で発足し、障がい者が社会、ビジネス、経済における潜在的な価値を発揮できるような改革を、世界500社のビジネスリーダーが起こすことを目的としています。ダボス会議において「障がい」にフォーカスしたセッションが設けられたのは初めてのことでした。
今回の交流会は、ニューロダイバーシティ(発達障がい・神経発達症)人財への取り組みがテーマです。身体障がいや知的障がいのある人々と比べ、精神障がい・発達障がいのある人々の雇用が進んでいない現状があるなかで、どのような取り組みが行われているのか。対面・オンライン含め約60名が参加した交流会をレポート形式でご紹介します。
オムロン株式会社グローバル人財総務本部 宮地功
第1部では、オムロン株式会社グローバル人財総務本部の宮地から、オムロンの取組について紹介しました。
オムロンは、企業理念のバリューのひとつに「人間性の尊重」を掲げています。障がい者採用においては、1972年に日本初の福祉工場「オムロン太陽」を設立するなど、日本で先進的に取り組んできました。オムロングループ全体として障がい者採用を実施し、現在では全社員のうち3.5%(※2024年の法定雇用率は2.5%)が障がい者となっています。長期ビジョンで設けたサステナビリティ重要課題において、海外28拠点での障がい者雇用の実現と日本国内の障がい者雇用率3%維持を目指しています。採用試験や採用後の合理的配慮実施のために、一般採用と障がい者採用のプロセスを分けていますが、採用は全て総合職採用、評価基準・処遇は一般採用と変わりません。
そんな中、従来の障がい者採用プロセスでは、ニューロダイバーシティ人財を採用しづらいという課題が浮かび上がってきました。従来通り、webテスト+面接で採用をする場合、多数派に合わせた範囲の能力を求めることになります。
例えば、エンジニアとして高い技術力を持つ応募者がいたとしても、自閉スペクトラム症の特性があって面接が苦手な場合は、採用に至らないのです。
そこで、オムロンでは従来の採用プロセスを改める必要があると考え、従来の障がい者採用プロセスに加えて、新たにニューロダイバーシティ専用の採用プロセスを設けました。
まずは、各事業に必要な人財要件を明示して募集をします。応募者の得意なスキルと採用要件とのマッチングは、長期インターンシップで時間をかけて確認します。併せて本人が活躍できるための合理的配慮や、不得意な領域をチームでカバーするための業務調整も行っていきます。その後、社員として採用します。この流れを取り入れたことで、ニューロダイバーシティ人財と会社の双方にとって有益な採用を実現することができています。発達障がいのある社員が得意分野で活躍し、組織全体の生産性やマネジメントに良い影響を与えています。
今後、ニューロダイバーシティ人財の活躍をさらに推進していくための取り組みも始めています。オムロンの本拠地・京都でニューロダイバーシティ地域連携会議を立ち上げ、現在京都の企業12社が協力し合いながら、ニューロダイバーシティ採用の認知を広げる活動を実施しています。この連携会議をきっかけに、多くの企業でニューロダイバーシティ人財が活躍できる環境を整え、採用活動を進めていきます。そうすることで、発達障がいがある求職者が「自身の得意な領域」を活かして活躍できる新たな選択肢があるということを広く知ってもらい、多くの方に活躍の場を得ていただきたいと考えています。
東京大学 近藤武夫教授
ニューロダイバーシティ京都地域連携会議のアドバイザーのお一人、東京大学 先端科学技術研究センター 社会包摂システム分野の近藤武夫教授に、リモートで登壇いただきました。近藤教授が取り組む 「DO-IT Japan」では、障がいや病気による困難を抱える学生、一人ひとりの希望の実現をサポートすることで、未来社会のリーダーとなる人材を育成する、産学連携プログラムを展開しておられます。その視点から、示唆もいただきました。
これまでは支援が少なく、将来に希望を持つことが難しくなり、重い不適応状態になってからようやく発達障がいの特性が発見されるケースが多くありました。しかし、これからは、幼い頃から、子ども一人ひとりにとって必要な環境や合理的配慮について試行錯誤することで自身の特性やあり方を肯定的に捉えられるようになり、自己実現の方策を探ることができるようになるとイメージしています。これに合わせて、働き方も作っていく必要があります。
現状は、高い能力を保有する発達障がいの学生が就活で総合職採用のルートを選んだ場合、従来の慣行(適性検査と面接で採用)が障壁になり、持てる強みがなかなか評価されていません。一方、障がい者採用のルートでは個別の能力評価が行われるものの、専門性を活かした職務やポスト、給与体系が用意されていないことがあります。このギャップを解消する打ち手の一つとして、ニューロダイバーシティと専門スキルを尊重したスペシャリスト型の雇用が日本でも広まりつつあります。この取り組みはまだ発展途上にあるため、地域連携で事例や方法を共有するなど、新たにニューロダイバーシティ採用に取り組む企業を支える活動が期待されています。
京都大学・村田淳准教授
ニューロダイバーシティ京都地域連携会議のアドバイザーをしていただいている京都大学 学生総合支援機構 チーフコーディネーターの村田淳准教授は、今回書面でコメントを寄せてくださいました。村田准教授は障害のある学生に関する相談・支援コーディネート・各種コンサルテーションをはじめ、支援現場で様々な取り組みを行っておられ、その視点からのご示唆もいただきました。
「障害者差別解消法に代表されるような法整備の影響が、初等・中等教育にも浸透し始めており、その結果としてこれまで以上に多様な学生が高等教育にアクセスしている現状がある。(このような傾向は欧米に比べると20〜30年程度、遅くなっている。)多様な障がいがある学生が急増しており、既存の障がい者採用の現状だけでは有効な社会進出のルートを描くことができず、個人の権利保障という側面はもちろんこと、社会としての損失も生まれている。ニューロダイバーシティ採用はその解決にむけた重要な実践になると大いに期待している。」とコメントを寄せてくださいました。
オムロン インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー技術開発本部 藤本慎也
オムロン インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー技術開発本部の藤本慎也が登壇、「異能人財採用によっておこったマネジメント変革職場風土変革」について話題提供しました。藤本は、ニューロダイバーシティ人財が働く部署の上司です。
オムロンの主力である制御機器事業では、先端技術開発を担う高度技術者、。特に、AI技術者・画像認識技術者を必要としていました。高い専門性を持つ人財を求め、ニューロダイバーシティ採用において「異能人財」を募集することにしました。
そこで、Aさんと出会いました。Aさんは自閉傾向が強く、面接では名前以外には一言も発しなかったと記憶しています。しかし、学生時代の成績や研究実績が非常にハイレベルでした。また、彼が作ったソフトウェアの一覧を見せてもらい、オムロンが必要とするスキル内容に合致していたため、インターンシップを実施すると、やはり高い技術力を発揮してくれました。受け入れ部門の業務プロセス調整と上司・同僚の理解促進を進め、Aさんを正社員として採用するに至りました。
一緒に働いてみるまでは「在宅ワークを中心にするのがいいだろうか」「口頭よりもチャットでのコミュニケーションがいいか」「依頼するときは細かい仕様書を書いた方がいいか」などと考えていました。しかし、実際にはフル出社、口頭での業務依頼が合っているようです。合理的配慮を行う必要はありますが、コミュニケーションを深める中でより良いやり方を見つけ、高い技術を使って活躍してもらえることが大事です。異能人財は、多様性の観点で「象徴的」ではありますが「例外ではない」のです。その点では、マネジメントを見直すきっかけをもらったと考えています。また、避難訓練などにおいては、メンバー主導で障がい者の観点での取り組みが追加されるなど、組織風土にも変化がもたらされたと感じます。
株式会社Kaien 足立寛子氏
続いて、今回オムロンの取り組みを支援してきた株式会社Kaien 法人向けサービス シニアコンサルタントの足立寛子氏が登壇しました。Kaienは国内最大の発達障がい人材の採用プールと支援ネットワークを持ち、企業支援と福祉両面での豊富な経験に裏打ちされたアセスメントを実施しています。
ニューロダイバーシティ人財の採用において、まず重要なことは、必要なジョブの創出です。オムロンでは、まず経営層が全社へのD&I推進の強いメッセージを出し、具体的に"1部門3テーマ・前組織で9テーマのジョブの提案"を目指しました。そして、採用の前段階として、求人数とインターンシップ参加数を大幅に増やしました。ジョブを創出する上で重要なのは、障がい者の方のために仕事をつくるのではなく、チームで本当に必要なジョブを出し、そこで強みを発揮してもらうことです。
そして、実際にニューロダイバーシティ人財をマッチングさせていく段階では、書類だけではなく、実際に会って話を聞き、本人のストーリーを聞くことが大切です。ストーリーを聞くことで、現場の視点が大きく変わっていくことが多いです。
オムロンは、障がい者雇用を、組織のイノベーションの起爆剤、あるいはマネジメントの底上げにするために取り組んでいる点が一貫していると感じます。そもそも会社の理念に『人間性の尊重』があり、『自分だけ』『自分たちのチームだけ』といった考えではなく、『人のため』といった感覚が強いと感じます。
交流会の最後には、パネルディスカッションを行い、話題提供者の3名とValuable 500の日本アジア太平洋地域担当マネージャーの合澤栄美氏が登壇。会場およびオンラインで参加したみなさんからの質問に答えました。
会場からは「ミスが起きたとき、発達特性によるミスなのか、改善しなければならないミスなのかの見極めが難しい。苦手な部分を平均に引き上げないとは言っても、本人の努力が必要なところもあると思う。その点をどう考えるか?」との質問が寄せられました。
これに対し、宮地は「障がい者採用の文脈よりは、マネジメント変革の文脈で語りたい」と答えます。「ニューロダイバーシティとは、発達障がいと診断される人だけのことを指すわけではありません。あらゆる人に特性があり、グラデーションの濃淡があると捉えます。ですから、ミスが起こったときに、本人だけの努力が必要なのか、チームの仕組みを改善しなければならないのか、障がいの有無に関わらずマネジメント側が問われます。ニューロダイバーシティ人財の取り組みを行うことによって、マネジメント全体が変化していく起爆剤にしていきたいと思います」と語りました。
オムロンは、今後もニューロダイバーシティ人財の取り組みを推進していきます。