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ハーバードビジネススクール名誉教授のカール・ケスター氏が、オムロン京都太陽を訪問
オムロンの創業者 立石一真は、障がい者の積極的な社会進出を支援し、50年前から障がいの有無に関わらず誰もが活躍できる社会づくりに取り組んできました。障がいのある社員が中心となって働く生産拠点の一つに「オムロン京都太陽」があります。多様な人財が個性や能力を存分に発揮しながら働く、オムロンのものづくり現場とは。
ダイヤモンド・オンライン(2024年10月30日)に掲載された記事『ハーバード大教授が「日本は蘇った」と感じた理由、何より驚いた訪問先とは?カール・ケスター教授に聞く(後編)』を転載して紹介します。
約10年ぶりに実施されたハーバードビジネススクールの日本への研修旅行で、参加した教員たちは14の企業を訪問した。その一つが、障がい者雇用推進企業である「オムロン京都太陽」だ。なぜ同社を訪問先に選んだのか。教員たちが注目したポイントとは。研修旅行の幹事を務めたカール・ケスター教授に話を聞いた。(聞き手/作家・コンサルタント 佐藤智恵)
[前編]ハーバードの教員たちが、今こそ日本に行きたがる「3つの理由」(ダイヤモンド・オンライン記事)
佐藤 智恵:京都ではオムロングループ(以下、オムロン)の障がい者雇用推進企業「オムロン京都太陽」を、2024年6月21日に訪問しました。なぜこの会社を視察先に選んだのでしょうか。
カール・ケスター:オムロン京都太陽を選んだ理由は主に2つあります。1つは、製造業の会社であること。私たち幹事は、日本のコア産業である製造業の現場を教員たちにぜひ見学してほしいと思い、少なくとも1社はメーカーを訪問先リストに組み込みたいと考えていました。オムロンは日本を代表する製造業の会社ですから、視察先としてぴったりだと思いました。
もう1つは、社会的なパーパスを明確に掲げていること。近年、ハーバードビジネススクール(以下、ハーバード)では、「企業の社会的目的」について授業で教えている教員が増えてきています。オムロン京都太陽は、さまざまな障がいがある人たちを雇用し、その能力を生産現場で生かしている企業であることから、教員たちにとっても学び多き企業であると思いました。
佐藤:教員たちはどのような点に関心を示していましたか。
ケスター:私自身も他の教員も何よりも驚いたのは、障がいのある社員一人一人の特性にあわせて、生産治具、補助具、半自動機などをカスタマイズしていたことです。なんと革新的な取り組みかと思いました。
オムロン京都太陽の工場では、足の不自由な人、耳の不自由な人、発達障害のある人など、さまざまな障がいを有する人たちが働いています。こうした社員たちに現場で能力を最大限に発揮してもらうには、会社側は一人一人と向き合い、どのようなサポートを必要としているかを考えていかなければなりません。これは並大抵の努力ではできません。
私も一度、障がい者が働いている工場を視察したことがありますが、そこでは車いすが必要な社員数人が働いていただけでした。このような異なるタイプの障がいがある人たちを一挙に受け入れている会社はこれまで見たことがありません。
佐藤:なぜ、オムロン京都太陽は、長年、世界的にも類を見ない社会的ビジネスを続けてこられたと思いますか。
ケスター:多くの教員が関心を持っていたのもまさにその点でした。なぜこのような社会的ビジネスを40年近く継続できているのか。
それは、やはり、オムロン京都太陽の社員も役員も一丸となって、オムロンと太陽の家※の企業理念を実現するために、全力を注いできたからだと思います。
※オムロン京都太陽はオムロンと社会福祉法人太陽の家の共同出資会社
また、「全ての問題は解決できる」と考える日本企業の良き改善文化を守り続けてきたことも、ビジネスを継続できた要因の1つではないでしょうか。「私たちの技術と創意をもってすれば、あらゆる障がいのある人たちが活躍できるような職場をつくることができるのだ」という自負があったからこそ、このような生産現場を実現することができたのだと思います。
佐藤:オムロンにとって、特例子会社のオムロン京都太陽を傘下に持っていることは、どのようなメリットがあると思いますか。
ケスター:オムロンは創業以来、「企業は社会の公器である」という考えに基づき、事業を通じてよりよい社会づくりに貢献することを使命としてきた企業です。オムロンは「ソーシャルニーズの創造」「絶えざるチャレンジ」「人間性の尊重」をバリューとして掲げていますが、このうちのソーシャルニーズには、もちろん障がい者のニーズも含まれています。オムロンの社員にとって、障がい者と健常者がともに活躍できる場をつくることは、まさにこの3つの価値を忠実に実現していることにほかならないのです。
正直にいえば、オムロン京都太陽の売り上げ・利益が、オムロン全体の業績に与える影響は微々たるものだと思います。しかしながら、この会社をグループ会社として持っているということ自体が、オムロンが「企業は社会の公器である」というミッションを実現しているという生きた証拠になるのです。オムロンにとってはかけがえのない大切な意味を持つ会社だと思います。
佐藤:米国ではパンデミックの最中にリモートワークが普及したことから、現在、多くの障がい者が自宅からオンラインで働いています。この時代に障がいがある社員に工場まで通勤してもらい、生産現場で働いてもらうというのは、時代遅れではないかという指摘についてはどう思いますか。
ケスター:確かにオンラインで大半の仕事ができてしまう現代において、「別の形で能力を発揮してもらうこともできるのでは」という意見もあるかもしれません。
リモートワークの普及が障がいのある人たちにさまざまな就労機会を開いたのは言うまでもありません。ただ、だからといってソケットやセンサーを生産する仕事をしてもらう必要はない、ということにはならないと思います。
異なるタイプの障がいがある社員が、1つの工場に集まり、顔を合わせながら、仕事をしたり、雑談をしたりする。あるいは社員寮でともに暮らしたりする――これはすなわち、コミュニティーに参画することであり、一人でリモートワークをするのとは違った成長機会が得られると思います。
先ほども申し上げましたが、ハーバードでは多くの教員が「企業の社会的目的」に興味を持っており、この研究はまさに時代の主流となりつつあります。こうした中、オムロン京都太陽の仕事のスタイルそのものは、昔ながらのスタイルに見えるかもしれませんが、その価値観や考え方は時代遅れどころか、むしろ、時代の最先端を行っていると思います。
佐藤:研修旅行の幹事の一人を務められたケスター教授としては、教員の皆さんにどのように研修の成果を生かしてほしいと思いますか。
ケスター:今回の日本研修の一番の目的は、教員たちに最新の日本経済の状況をより深く知ってもらい、研究対象として興味を持ってもらうことです。これを機に多くの教員が日本の事例を取り上げた教材や論文を執筆し、ハーバードにおける日本研究が隆盛になることを願っています。
私たち幹事が教員たちに研修を通じて何よりも伝えたかったのは、日本経済は活力を取り戻し、再び成長しつつあるということ。あえて今回の研修にタイトルをつけるとするならば「蘇った日本の姿をその目で見よ!」になると思います。
長期停滞に苦しんでいた日本経済に、ようやく復活の兆しが見えてきています。大企業だけではなく、スタートアップ企業や中小企業も力強い成長を見せています。私が特に成長の可能性を感じるのは、地方の企業や中小企業。こうした企業には、今後、世界市場で成長する可能性のあるビジネスが潜んでいると思います。
(出典)
佐藤智恵「ハーバード大教授が『日本は蘇った』と感じた理由、何より驚いた訪問先とは?」ダイヤモンド・オンライン、2024年10月30日
https://diamond.jp/articles/-/352697