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コア技術

オムロンのデジタルデザイン・DX技術にせまる 前編
~ データを武器に、全社エンジニアリングチェーンのDX化に挑戦するオムロンのAI・データ解析技術 ~

2023.10.13

デジタル技術を活用してビジネスや経営を変革し社会的課題を解決しようとする取り組みは、コロナ禍で急速に拡大しました。現在アフターコロナに突入し、クラウドやAIの活用により、デジタルとリアルを融合した新たな価値創出がより一層求められるようになっています。

左から松原大典、土屋直樹、船本昭宏

そこでオムロンでは、全社エンジニアリングチェーン(1)のDX化に不可欠なデジタル技術の展開を目指し2022年4月にコーポレートR&D組織である技術・知財本部に「デジタルデザインセンタ」を設立しました。

オムロンのモノづくりを革新するデジタル技術を全社に展開するために、データ解析×CAE(2)×AIの三位一体で取り組んでいます。センタを牽引するのは松原大典、そして“データ解析“と”AI“を土屋直樹が、”CAE“を船本昭宏がリードし、課題解決に向けて日々チャレンジしています。

本記事は前編として、デジタルデザインセンタが目指すビジョンと実現したい未来についてデジタルデザインセンタ長の松原大典が、そしてそれを実現するために必要な技術である“データ解析”と“AI”について、設立当初から先頭を走り続け活動をけん引してきた土屋直樹が語ります。

(1) 製造業において、企画構想から始まり、設計、製造準備、製造、アフターサービスまでの一連の業務プロセスのつながり
(2) Computer Aided Engineering:コンピューター上で技術計算やシミュレーション、解析を行うこと

デジタルデザインセンタ センタ長
松原大典

1998- 大手総合電機メーカー研究所にて、通信ネットワークおよびサービス、IoT/AIなどデータ活用の研究開発に従事

2017- 大手損害保険会社にて、スタートアップ協業による新サービス開発やCVC立ち上げに従事

2019- 大手自動車メーカーにて、コネクテッドカー&モビリティサービスの開発および運用に従事

2022- オムロンに参画し、デジタル技術(データ解析/CAE/AI)の開発による全社DXの推進を主導

デジタルデザインセンタ 経営基幹職
土屋直樹

2001- オムロン ソフトウェアに入社し、ソフトウェアエンジニアとして経験を積む

2005- オムロンに転籍。技術・知財本部にて、ヘルスケア領域の技術開発・情報処理に従事

2018- AIの利活用を加速するためにオムロン品川本社に立ち上がったAI開発拠点のマネジメントを主導。システム制御情報学会 学術情報普及委員会 委員(2018-2022)、日本知能情報ファジィ学会 評議員(2019-)

2022- 技術・知財本部 デジタルデザインセンタにおいて、データ解析・AIグループをけん引し、社内業務におけるDX化を推進

データ解析×CAE×AIの三位一体のデジタルデザインセンタ

デジタルデザインセンタでは、どのような技術開発に取り組まれているのでしょうか?

松原:我々は、エンジニアリングチェーンのDX化に不可欠なデジタル技術をオムロン全社に提供することを目指しています。私は、一貫してデータを分析することで社会的課題を解決する業務に携わってきました。その中で必要だと感じたことは、幅広い課題にすばやく対応できるような技術を持つということです。社会的課題を解決するために必要なデジタル技術はそれぞれの現場や課題に応じて非常に多様で、それぞれの難課題に対応できるデジタル技術を持っておく必要があります。

図1:データ解析×CAE×AIの三位一体の技術開発

その課題を解決するため、オムロンのデジタルデザインセンタでは、データ解析×CAE×AIの三位一体で技術開発に取り組んでいます。(図1)デジタル技術のベースとなるAI、データ解析、CAEに加え、これらを掛け合わせた先進技術を開発して持っておくことで、幅広い課題に対してすばやい技術提供を実現できると考えています。

我々は、データドリブン型(3)で経営に貢献していく経営視点と、データを活用しプロセスの効率化や商品力の強化による事業貢献といった事業視点の両輪が回せないとオムロンのコーポレートR&D部門に存在する意義はないと思いますので、しっかりと役割を果たしたいと考えています。

(3) データ(売上データ、マーケティングデータなど)の分析結果をもとに、課題解決のための意思決定を行うこと

データ解析とAIを駆使したオートメーションの実現

経営と事業への貢献を目指したいと思われたきっかけを教えてください。

土屋:デジタルデザインセンタでどのようなテーマ設計をしていくか検討する中で、多くの生産現場・開発現場のメンバーと議論を行いました。例えば1つの例ですが、現場のトラブル回避策において、現在も過去も、成功体験・経験則に頼っていることが多いのが印象的でした。もちろん、みなさんその時の最善の策として取り組まれているのですが、もう少し深ぼって、客観的な情報(データ)に基づいて原因を分析・判断できるようになればいいのではないかと考えました。そうすることで、属人性を低減し、プロセスを効率化でき、事業だけでなく経営にも貢献することができるのではないかと考えたのです。オムロンが今後も、真摯に社会的課題に向き合って解決する会社だと期待してもらえるようにするためには、データや論理に基づいた意思決定を素早くできる必要があると考えます。

今までに取り組まれた事例をご紹介いただけますか?

土屋:社内のある製品生産のシーンで、海外で生産設備を立ち上げる必要がありました。しかし、コロナ渦で立ち上げの協力に行けない、現地では立ち上げるノウハウを持った人もいないという危機的な状況でした。そこで、我々とタッグを組むことになり、効率的に立ち上げる手段がないかを一緒に検討し、我々が得意とする因果分析を行うことにしました。生産設備の品質特性に対する因果構造を定量的に評価し、それに基づいて現地で客観的に判断しながら調節するというチャレンジをしました。結果、設備立ち上げ時間が従来比で75%の時間削減を実現することができました。

75%の時間削減とはすごいですね。どのような活動で、そのような成果を出されたのでしょうか?

土屋:現場には様々なデータがあります。現場にしっかり入り込み、そのデータが何を意味しているのかを充分に理解するようにしています。それだけではなく、解消したい問題を現場のメンバーと一緒に解きほぐしながら課題を形成し、さらに創出した成果をどう実際の業務に組み込んでいくかという支援に至るまで伴走しています。連携先の現場にもリソース投入を含めたコミットメントをいただくことで、本気でDX化を実現しています。

その中で、オムロンならではの特長を教えていただけますか。

土屋:一つは先ほども述べたように、現場とかなり密着して取り組んでいるということです。現場の方は目標達成に向けて日々非常に忙しくされているので、期待できる効果をしっかりとお伝えし納得してもらいながらデータ取りをするなど連携体制を築くことを意識しています。現場のデータが揃ったら分析するというのが一般的な方法ですが、我々は、目的を達成するために必要なデータがあれば躊躇なく現場に取りに行くという姿勢を取っています。現場と密にコミュニケーションしているからこそ、“この部分のデータが取れていないと期待するアウトプットが得られないのではないか“と事前に仮説を立てることができるのです。もう一つは、オムロンには4つの事業領域があり、さらに多種多様な商品がある中で、共通化できるところを見つけ出し、社内外でも活用できるデジタル技術の創出を目指しているという点です。データのカテゴリも多種多様なため、共通化することが非常に難しいのですが、その分、実現することができると汎用性の高い技術になる可能性を秘めていると考えています。こういった環境をどれだけ活かせるか、我々の腕の見せ所だと感じています。

松原:私もその通りだと考えていて、現場に入り込み導出した技術は細かいところで差はあるものの、それらを共通的なものとして集約してオムロン内に展開し実装していくというのが、我々のミッションのコアになると捉えています。

1つ目の特長である現場密着での取り組みについて教えてください。現場の方々の理解を得るために、どのような工夫をされていますか?

土原:忙しい現場に入り、「問題はないですか?」「データをいただきたいです」などたくさん質問やお願いをするので初めはどうしても敬遠されています。しかし、取り組みへの効果を何度も説明すると共に、我々の活動によって次第に問題が解きほぐされ、本質的な課題が明らかにしていくという過程を一緒に経験することで、徐々にステップが進んでいることを実感できているんだろうなと感じています。このようにして、お互いのベクトルを合わせ、“あっ、これならうまくいきそう”というような感覚を一緒に作っているという感じです。

2つ目の特長である共通化の取り組みについて教えてください。共通化が腕の見せ所という話がありましたが、実現に向けてどのように取り組まれているのでしょうか?

松原:オムロンのような多種多様な現場の個別課題を理解するというのがまず大変で、そこからさらに共通点を抽出することは本当に我々ならではのチャレンジだと思っています。

土屋:我々のチームは、1人ひとりがテーマを持ち、そのテーマにおいて責任者という役割を担っています。担当者が現場とコミュニケーションを粘り強く取ることで、結果として現場の方との信頼関係も得られています。ただ、個々人が独立して動いているのではなく、チーム内の情報交換をしっかり行っています。時には、課題に対して全員でしっかり意見を出し合い、リスクに対してチームメンバで対策を立てていくよう運営しています。

松原:我々は、一人ひとりがいち早くエキスパートになることを目指し、このような体制を取っています。問題が発生した時には私もメンバーと共に解決策を検討しています。また共通部分を抽出するために、過去の事例を並べて見つけ出すということを愚直に実行しています。

土屋:共通点をうまく見つけ出すポイントとしては、技術の使い方に視点を置くことです。“その技術がどういう問題を解決できるものなのか”、“抽象化しやすい課題なので以前同じような領域で使っていた技術を応用できないか”、というように。アナロジー(類推)で成果を流用できるというところに、共通性を見い出せると感じています。

こういった取り組みを通して得られる価値は何でしょうか?

土屋:先ほどの生産ラインの設備立ち上げの事例では、「今回取り組んだように、分析に基づいて原因を明らかにし、データに基づいて意思決定をし、対策を打つ、というプロセスを生産の中で浸透させないといけない」と現場のリーダーの方から言っていただきました。現在は、生産ラインの他の設備でも、データによる課題解決ができないか、新たに挑戦しようとしています。
このような活動の効果は、時間面やコスト面だけではないんですよね。効率化したという成功体験や、活動を通して自分が今まで知らなかったことを知ることができている状態。そこに大きな価値を見い出してもらっています。
今までは、ベストなソリューションとして成功体験や経験則に頼っていた部分が、コロナという要因が発生したことで“感じとれない”“伝えられない”といった新たな障壁が生まれ、これまでとは次元の違うソリューションが必要になりました。そのカギとなるのがデータだと確信しています。

今後の取り組みの方向性を教えてください。

松原:技術の進化が著しく、世の中に存在するデータも多種多様になり、解決すべき課題は複雑化しています。新しくかつ幅広い分野の課題にどう向き合うか、難しいところでもありますが、そこにチャレンジしていきたいと思っています。そしてそれを、現場と密着していることを活かすことでどんどん展開していくことが我々にはできます。スピード感をもって日々挑戦していきます。

土屋:オムロンの中で、どの組織でもデータをハンドリングしながら意思決定をしている状態が当たり前になることを目指しています。その過程の中でデジタルデザインセンタが大いに貢献していきます。

最後に、オムロンのデジタルデザインセンタで働く魅力を教えてください

松原:現場のリアルな課題に向き合い、それを社会実装するという経験、さらには事業や経営に貢献しているという実感ができることです。そして繰り返しになりますが、我々の場合は、それが現場の数だけ幅広く経験できるということです。オムロンの注力ドメインであるインダストリアルオートメーション、ヘルスケアソリューション、ソーシャルソリューション、デバイス&モジュールソリューションの各事業におけるエンジニアリングチェーンもあれば、本社機能部門における業務など、本当に多様な経験ができることが魅力だと思います。

土屋:そして、そういった現場に入り込むことにより、新たな価値創出の経験ができることです。新たな課題を見つけ出し、解決する。そして共通点を見つける。それに必要な技術を捉えるために日々アンテナを張っている必要もありますが、その分様々な経験をすることができ、尖りを持った人財に成長することができると考えています。

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データを最大限に活用したDX化へのオムロンの挑戦、いかがでしたでしょうか。
共感・共鳴いただいた方、ぜひ一緒にチャレンジしてみませんか?

次回は後編としてCAEをリードしている船本の想いをお届け予定です。
我々の挑戦はこれからも続きます。お楽しみに!

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