CFOインタビュー

進化し続けるROIC経営が自走的成長を実現する 取締役 執行役員専務 CFO 兼グローバル戦略本部長 日戸興史

未曽有の有事の中でさらに高めた収益力

世界各国が厳しい状況に追い込まれ、難しいかじ取りが求められる中、コロナ対策を主導されました。昨年度の振り返りをお願いします。

昨年1月のコロナ対策本部立ち上げ後、私は本部長代理として、各事業や海外の拠点と連携しながら対策を進めました。コロナ禍では、社員の安全と健康を第一に、地域社会の一員としての責任と、お客様に対する供給責任を果たすことを最優先に取り組みました。感染状況は、国や地域によって異なりましたので、基本方針は日本の本社から発信する一方で、個々の地域で対策本部を設置し、働き方を含め、自律的かつ臨機応変に対応することを心がけました。

さらに、大幅な売上減少が想定される中、この危機を生き残るために、年間200億円以上の固定費削減を実施し、リモートを駆使したソリューション提案営業や業務プロセス改革にも積極的に取り組みました。その結果、昨年度は減収ながらも前年度比プラス14.1%の増益を達成、稼ぐ力を示す売上総利益率は、前年度比で0.7ポイント向上させ45.5%と過去最高を更新しました。

昨年度の固定費削減は、単に固定費をカットしたりストップしたりだけではなく、対面を前提としたコミュニケーションなど、従来の仕事の進め方を工夫するきっかけと捉えて取り組みました。その結果、計画していた200億円を上回る、222億円の固定費を削減しました。そして同時に、将来の成長につながるITシステムや制御機器事業、ヘルスケア事業への投資は、コロナ禍においても厳選して実行しました。固定費の削減も成長投資も、将来につながるアクションであるという共通認識を持って取り組んだことで、計画通りに進めることができました。

ポートフォリオマネジメントと逆ツリー展開で支えるROIC経営

2020年度は、10年間の長期ビジョンVG2020の最終年度でもありました。この間、企業理念経営をROIC経営と技術経営の両輪で推進してきました。10年間の成果について、どのように評価していますか。

ROIC経営の根幹には、企業理念があります。この考えに基づき、第一に取り組んでいるのが、「ポートフォリオの再構築」です。我々が目指すのは、事業を通じて社会の発展に貢献することであり、売上や利益の向上が全てではありません。世の中から必要とされるものを提供していれば、おのずと売上や利益につながり、その結果、次なる投資も可能になります。よって、利益を生み出している事業は、成長投資を加速することでさらに提供する価値が拡大できないかを検討します。一方、利益を生み出せていない事業については、世の中に貢献できていないと捉え、オムロン以外でその事業が活躍できるベストオーナーを探すか、事業そのものを収束すべきか検討します。その際、単に数字だけで判断するのではなく、保有している技術と市場の将来性も勘案しながら議論しています。

ROICは、VG2020がスタートした2011年度は4.8%でしたが、2012年度以降、想定資本コストの6%を上回って推移しました。10年間の平均は10.3%です。2020年度は、7.8%となりましたが、これは前年度に実施した車載事業の譲渡の影響もあり、手元キャッシュが月商の4.6ヶ月分と、平時の目安としている1~2ヶ月を大きく上回っていることが影響しています。今後は、さらなる企業価値向上のために、今まで蓄積してきたキャッシュと、今後事業が生み出すキャッシュを、既存事業の強化と新たな成長機会に投資し、成長を加速していきます。引き続き、経営資本の適正配分により、将来キャッシュ・フローの創出能力と資本効率を高めていきます。

投下資本利益率(ROIC)の推移

VG2020期間平均10.3%、2020年度7.8%

ROIC経営を推進するうえで、やはりポートフォリオマネジメントが重要です。

オムロンの事業ユニットは2020年度末時点で、63あります。ROICで事業ユニットを評価する際、各事業には想定資本コストの6%を、企業価値を毀損しているか否かを測るハードルにしています。そして、そこからスタッフ部門などのコストを加えた10%をハードルレートとして課しています。ただし、こうした数字だけで判断することなく、事業のライフサイクルやステージの違いを考慮しながら、まずは現状の数字に基づいて議論し、問題点は何か、いかに改善していくのかを考えます。次いで、ハードルレートをクリアするには、どのようなマイルストーンや施策が必要になるのかを記した行動計画を作成・説明します。その際、ROIC経営の責任者である私がオーナーとなって、事業部門の責任者と合意に至ることが必要になります。

事業部門は常にプレッシャーを感じているでしょうが、ROICを共通言語とした議論を毎年繰り返す中で、「この事業の問題は自分たちで十分解決できる」、「どこかと提携する」、もしくは「譲渡するのが賢明である」といった冷静かつ現実的な意見が自然に出てきます。さらに、全社のポートフォリオの視点から、「制御機器事業とヘルスケア事業を中核事業として注力すべきである」、「社会システム事業は環境事業と一緒になってソリューションビジネスを開発しよう」、「電子部品事業は収益構造を高めるために生産拠点の機能集約を進めよう」といった事業のリポジショニングや組織再編などが検討されるようになります。

2020年度は、2019年度と比べて投資領域(S領域)が3ユニット増加し、収益構造改革領域(C領域)が4ユニット減少するなど、事業ユニットの評価が前年度から大きく改善しました。今後も、ROICを共通言語に事業部門との議論を深めることで、より強くしなやかなポートフォリオの構築に取り組んでいきます。

なお、2021年度からは想定資本コストを従来の6%から5.5%に変更していますが、各事業に課すハードルレートは10%のまま踏襲します。引き続き、ROICの改善と資本コストの低減によって、企業価値の向上を目指していきます。

ポートフォリオマネジメントの対象となる事業ユニット(2020年度)

ポートフォリオマネジメントの対象となる事業ユニット(2020年度)

自走的成長に向けてROIC経営も進化する

ROIC経営の10年の成果ともいえる、財務体質の強靱化について総括をお願いします。合わせてキャッシュアロケーションポリシーについても教えてください。

キャッシュ面から見ると、10年前と比べ、稼ぐ力が大きく向上し、資本が蓄えられています。さらにキャッシュマネジメントをグローバルで統合し、本社でアロケーションできる体制ができ上がりました。

VG2.0期間(2017年度~2020年度)の営業キャッシュ・フローは、稼ぐ力の強化と運転資金の効率的な運用により、着実に増加しています。さらに、車載事業の譲渡収入もあり、営業キャッシュ・フローと合わせて大幅なキャッシュ・インとなりました。一方で、注力する制御機器事業、ヘルスケア事業を中心に、将来の成長に向けた設備投資やM&A投資などの戦略的な投資を実行しています。株主還元については、安定的な配当を継続するとともに、資本効率を考慮した機動的な自己株式取得を実施しました。

このような取り組みの結果、1株当たりの株主資本(BPS)は、2020年度末には2010年度末比で約2倍の3,009円となりました。また、株価を含めたTSR(株主総利回り)は、2010年度末の終値を起点とすると、2020年度末は397.5%と4倍になりました。

1株当たりの株主資本(BPS)

2020年度3,009円

*2010年度末の終値で投資した場合の各年度末時点の値

株主還元を含むキャッシュアロケーションの方針については、引き続き、企業価値の持続的な向上を目指し、既存事業から生まれる営業キャッシュ・フローを継続的に高めるとともに、将来の成長に必要な投資を優先して実行します。そして、将来の投資に必要な内部留保を確保したうえで、株主の皆様への安定的、継続的な配当を実施します。また、長期にわたり留保された余剰資金については、機動的に自己株式の買い入れなどを行い、資本効率を考慮した経営に取り組みます。

キャッシュ・フローの推移

キャッシュ・フローの推移
(注1)為替レートの影響は除いて表示しています。
(注2)投資キャッシュ・フローについては、事業売却・買収等による影響を分けて表示しています。
事業売却・買収等による収入・支出には、連結キャッシュ・フロー計算書の「事業売却(現金流出額との純額)」、「事業買収(現金取得額との純額)」 および「関連会社に対する投資の減少(△増加)」が含まれています。

今後の成長を描くうえで、ROIC経営はどのような進化を果たしていくのでしょうか。

モノとコトを組み合わせていくという世界的な潮流の中で、サービス事業やリカーリングビジネスなどの新しい稼ぎ方が生まれています。この変化は、これまでの逆ツリー展開には十分反映できていない点があるため、KPIも適宜見直しながら、現在進行形で取り組みを把握していく必要があります。同時に、ROICは財務情報として表出された現在価値は示せますが、将来の成長に繋がる無形資産の価値は測ることができないため、今後は新たな指標が必要となります。そこで、次期長期ビジョンに向けて、ESG(環境・社会・ガバナンス)や非財務価値を含め、将来の成長性を指標化・見える化するための議論を行っています。

2021年度は「自走的成長」に向けたスタートダッシュの年と位置づけられています。CFOとしてどのように取り組まれていきますか。

グローバル経済が回復基調にあることに加え、CO2削減のようなサステナビリティに対する社会的な要請が高まっています。2021年度は、これらの事業機会を着実に捉えることで、全ての事業セグメントにおいて増収を実現します。また、商品力の強化などによる付加価値向上や、構造改革に取り組むとともに、コロナ禍で実行した新たな働き方を継続することで固定費の増加を最小限にとどめ、収益力をさらに向上させていきます。

現在、中核と位置づけている制御機器事業、ヘルスケア事業はこれからも大きな成長が見込めるため、ここでしっかりと売上成長を実現していきます。そして売上成長と高い収益力により生み出したキャッシュをM&A&アライアンスやベンチャーへの投資をはじめ、新たな成長機会の開拓に充てることで、次なる成長を実現していきます。また、成長を確かなものにするために、人財への投資と同時に、現在進めている基幹システムの進化を含めたデジタルトランスフォーメーション(DX)もさらに加速させます。この両者には長期的な視点が求められるため、将来キャッシュ・フローを踏まえて取り組んでいきます。

VUCAといわれるように変化が激しい時代です。現状に甘んじていては早晩取り残されてしまいます。この時代においてオムロンは、既存事業を最強化すると同時に、新たな成長機会を捉えた価値創造に取り組んでいきます。次期長期ビジョンでは、モノによる価値提供にとどまらず、サービスを組み合わせ、パートナーとも共創することでビジネスモデルを進化させていきます。そのために、2021年度はビジネスモデルの改革、次なるマネジメントシステムの構想などを加速させ、次期長期ビジョンでの成長を確かなものにしていきます。

証券コード:6645

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