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「統合レポート2022」CFOインタビュー

ROIC経営の進化が「企業価値の最大化」を牽引する 取締役 執行役員専務 CFO 兼グローバル戦略本部長 日戸興史

ROIC経営を掲げ、企業価値の向上に努めてきたVG2020(VG)ですが、これまでの取り組みについて総括をお願いします。

VGでは、「成長力」「収益力」「変化対応力」を兼ね備えた強い企業となるべく、ポートフォリオマネジメントやROIC逆ツリーの実践を重ね、その成果は企業力として実を結びつつあると手応えを感じています。

VG期間で事業の選択と集中がほぼ完了し、グループ全体の事業ポートフォリオはより強靭なものになりました。また、各事業における不採算商品の整理も進み、全体の売上高総利益率(GP率)は着実に向上しています。またROIC逆ツリーも、啓発活動に取り組んできたことで現場に浸透したのは大きな財産です。各現場が、グループ全体、個々の事業の目標達成に向けて、自分たちの役割の重要性を理解し、強いコミットメントを持って行動していることを心強く思います。こうした取り組みは、SF2030でもオムロンの変わらぬ強みとして活かし続けていきます。

もちろん、課題がないわけではありません。ROIC経営の本質は価値創造のマネジメントです。リソースを最適化し、伸ばすべき事業に投入する。収益管理はそのための工程の一つですが、再投資が価値創造につながって初めて完結するものです。VGで収益力を強化できたものの、これからの将来を見据えた時、投資領域を選別し、必要なリスクテイクと適切な資源配分がよりタイムリーに行える能力を伸ばしていく必要があります。また、データビジネスのような事業を進化させるには、市場やビジネスモデルを評価できる目を養うとともに、成果が表れるまでの時間軸を見極め、濃淡をつけたドラスティックな投資判断が必要となります。加えて、サプライチェーンマネジメントや現在進めているDXなど、中長期的な事業基盤の強化に向けた投資も不可欠です。先に述べた事業の戦略的投資と合わせ、どのように利益の持続的成長とのバランスを図っていくのか、その舵取りはこれまで以上に難しさを増しています。

SF2030の目標を「企業価値の最大化」と設定されました。その実現に向けてROIC経営をどのように進化させていくのでしょう。

企業価値の最大化という目標のために、ROIC経営を次の2つの側面から変革していきます。

1つ目は「社会価値を起点とした事業ポートフォリオマネジメント」です。SF 1st Stageでは、各ビジネスカンパニーが設定した社会価値の創出を牽引する事業を注力事業と位置づけ、事業単位のポートフォリオマネジメントを実行します。長期ビジョンを検討するにあたって、各ビジネスカンパニーと、どのような社会価値を創造するのか。そのために、解決しなければならない顧客の本質的課題は何かなどについて、幾度となく議論を重ねました。そうして明らかになった社会価値を起点に、バックキャスティングを試み、自らがアドレスすべき市場、創造すべき市場、そして各事業の競争優位性を再評価し、注力事業を設定しています。

各ビジネスカンパニーが、自分たちの注力事業を軸にして成長を牽引し、それぞれの事業価値を最大化させることで、企業価値の向上へと結実していきます。その際、これらの注力事業は、「モノ(商品)」だけでなく、たとえば「モノ(商品)+サービス」「新たなサービス」など、さまざまな形で展開されるため、商品ではなく事業を単位としたポートフォリオマネジメントを進める必要があります。なお、従来の商品を単位としたポートフォリオマネジメント(PPM)は、収益性の規律という観点から今後も継続させます。なお、今回の事業ポートフォリオマネジメントでは、人財のリソースマネジメントとの整合性を特に重要視しました。事業の成長シナリオに沿った人財の適所適財を実現していくことが成功のカギとなると認識しています。注力事業はいずれも成長性が高く、魅力ある市場を対象としているとはいえ、その成長ポテンシャルを最大化するには、最高の布陣を揃え、社員のパフォーマンスを最大化する環境を整えることが欠かせません。この事業ポートフォリオマネジメントと人財のリソースマネジメントの連鎖が、SF中期戦略の特徴の一つといえます。

2つ目は、「企業価値の向上を体系化した新たなマネジメントツリーの構築」です。

その理由は2つあります。1つ目は、事業を進化させるうえで、無形資産の重要性がより高まるということです。我々は、モノ(商品)のコスト競争力だけでなく、顧客の本質的課題を解決する高付加価値を生み出すことで、利益の成長を目指します。その付加価値を生み出す構成要素の多くが無形資産と紐付いています。

たとえば、制御機器事業のi-Automation!の場合、各業界のリーディングカンパニーとの共創により生み出された革新的なアプリケーション群であり、高度な技術を身につけたエンジニアたちが競争優位の源泉です。ヘルスケア事業ならば、長年培ってきた許認可取得のノウハウ、医療業界からの信頼、そしてグローバルに収集・蓄積してきた血圧データなどが他社との差異化を図り、オムロンユニークな価値の創出に大きく貢献しています。こうした無形資産を各事業の生み出す付加価値と紐付けると同時に、投資効果を財務インパクトで測るロジックを備えることが、企業価値の向上において極めて重要です。

2つ目の理由は、昨今の社会構造の変化や価値観の変化により、企業価値を構成する要素が多様化していることです。先程申し上げた事業の無形資産の話に加え、カーボンニュートラルや人権への配慮など、ESG関連の課題においても必要な投資を行い企業価値へと結び付けていく必要があります。しかしながら、ROICを起点に体系化したツリー構造だけでは、十分にその要素をカバーできておらず重要な経営資源配分の精度が落ちるリスクがあります。そのため仮説と検証を繰り返し、評価指標を調整しながら企業価値向上のメカニズムとして確立していきたいと思います。

現在、グループ全体では企業価値を起点に、各ビジネスカンパニーでは事業価値を起点に、新たなマネジメントツリーの構築を進めています。今後の取り組みを通じて、より具体的な姿をお見せできるよう、努めてまいります。

2021年度、JMDC社へ1,000億円を超える出資を行いました。ROIC経営の視点から、この投資判断を行った背景や考え方について教えてください。

JMDC社への出資に関する評価は、中長期的なリターンとリスクについて徹底的に検討しました。資本コストを上回るリターンをどのように創出するのか、従来の経済的価値と戦略的価値の両面から評価しました。

この出資は、オムロングループの新たなチャレンジであるデータビジネスの創出を目的としたものであり、新規事業の評価に近い性格があります。既存事業のようなシナジー測定やバリュエーションをそのまま使うことは適切ではありません。時間軸に沿って、短期的な投資効果、中長期的なデータビジネスの構想と財務ポテンシャルについて何度も何度も議論を重ね、評価を行いました。一方で、戦略的価値は極めて明確です。

JMDC社は、オムロンにはないデータビジネスの知識と知見を持っています。オムロンは、これまでもトライアンドエラーで事業構築を進めてきましたが、我々の知らない領域の知識や知見を有するJMDC社と協業することで、成功確率も変革スピードもよりいっそう高めることができます。これも出資にゴーサインを出した理由の一つです。さらには、JMDC社への出資を契機に、ヘルスケア事業のみならず、制御機器事業や社会システム事業のデータビジネスを加速し、グループが掲げる事業のトランスフォーメーションを実現していきたいと思います。

なお、この度の出資は、経営にとって必要なリスクテイクでもありますが、リスク評価についてはこれまで以上に入念な検討を行っています。より正確にお話すると、オムロンの事業戦略とは切り離した投資のリスク評価の実施です。今回の出資はB/S上では投資有価証券となっていますが、JMDC社の財務的な強み、データプラットフォームの価値、参入障壁、将来的な成長性などについて検証しプロジェクトチームや取締役会で議論を重ねました。もちろん減損リスクの可能性もありますが、現状のオムロンの財務体質であれば、十分吸収できます。

当時、JMDC単体の最終利益は30億円と予想され、したがって33%の持ち分があるオムロンの利益は約10億円となります。足元の投資対効果だけでいえば、1,000億円に対して1%と、ハードルレート(資本コスト)を下回っています。しかしながら、この1,000億円を現金で持っておくのか、あるいは投資に回すのか、その選択を考えた時、5年後、10年後を見据えて、将来の企業価値へとつなげていくのがROIC経営の本質です。本出資により、オムロンが新たなデータビジネスを創造することで、中長期的なトータルリターンを大きく引き上げていきます。その進捗については、別の機会にご報告するつもりです。ご期待ください。

投資計画

直近3カ年見通し
2019~2021年度 累計
1st Stage計画
2022~2024年度 累計
成長投資(M&A含む) 1,404億円 2,000億円
研究開発投資 1,343億円 1,650億円
設備投資(DX投資含む) 913億円 1,300億円
カーボンニュートラルへの投資 38億円 200億円
人財開発投資 20億円 60億円

新たな中期経営計画におけるキャッシュアロケーション、株主還元について教えてください。

SF2030において、企業価値の最大化に向けて、成長投資を優先し、そのうえで株主還元の充実を図ることを新たなキャッシュアロケーションポリシーとして設定しました。これは、オムロンは今後も成長企業であり続けるという強い意志を示したものです。そしてこの新たな中期経営計画から営業キャッシュフローを経営指標の一つに設定しました。企業価値の最大化には、「価値創造と再投資」のサイクルをたえず回していく必要があり、営業キャッシュフローはその要となるからです。

ROIC経営によって、キャッシュを稼ぐ力は年々強化されています。得られたキャッシュは、グループの成長を牽引する制御機器事業とヘルスケア事業にしっかり再投資していきます。また、既存事業に必要な成長投資に加え、新たなビジネスモデルの創出に必要な投資を行い、中長期的な成長力を向上させていきます。その成長を確かなモノとするために、組織能力のトランスフォーメーションを成し遂げる投資も、全社横断的に進めてまいります。その重点領域は主に3つです。1つ目が人財への投資です。事業のトランスフォーメーションには、その実践を担う社員一人ひとりの能力開発、多様な人財が集まる環境づくりが重要です。その実現に向け、グローバルでの人財採用や育成プログラムの実行などを中心に、前中計の約3倍に当たる60億円の人財投資を実行していきます。

2つ目はDXの推進です。我々が目指すデータドリブンによる新規事業の創造には、それにふさわしい事業インフラが不可欠であり、従来のモノを中心に考えられてきた仕組みを、モノ(商品)+サービスを中心としたソリューション提供に最適化された仕組みにする必要があります。同時に、その過程において、各業務プロセスをより標準化し業務の効率化につなげなければ、市場競争には勝つことができません。中長期の投資となりますが、計画に従って実行してまいります。

そして3つ目が、サプライチェーンマネジメントです。ご承知の通り、地政学リスクや地球環境問題への対応など、サプライチェーンを取り巻く環境は複雑化しています。足元の課題はけっして一過性のものではなく、社会全体の構造変化による不可逆なもので、これに適応させたサプライチェーンの再構築避けては通れません。

また、事業と組織能力のトランスフォ―メーションで忘れてならないのが、カーボンニュートラルです。これもグループ全体の重点投資テーマの一つです。気候変動は、オムロンが企業市民として向き合うべき社会課題であり、あらゆる企業が事業活動の与件の一つとして認識しています。

SF2030では、脱炭素社会の実現に向けた取り組みを推進します。CO2の排出ゼロという社会的責任を果たすだけでなく、こうした取り組みを企業の競争力へと転嫁していきます。たとえば、地球環境の問題解決に資する商品の開発、IAB事業やSSB事業でのエネルギーマネジメントなどのソリューションを積極的に展開し、社会とオムロンが持続的に発展していくことを目指します。なお、投資額は、5倍に当たる200億円規模を計画しており、国内76拠点のカーボンニュートラルに向けて省エネ、創エネへの設備投資を実施します。

株主還元は、DOE(株主資本配当率)のみを基準といたしました。なぜなら、株主還元への短期業績の変動影響を低減し、安定的かつ継続的な還元を行うためです。SF 1st Stageにおいても、事業への成長投資を優先する方針に変わりはありません。たとえば優良なM&A案件があれば、内部留保したキャッシュを活用するとともに、適切な資金調達手段も講じてタイムリーに実行していきます。

以上、目指すのは、価値創造と再投資のサイクルを力強く回していくこと。その実践により、企業価値の最大化を実現し、株主の皆様に報いていけるように努めてまいります。

SF 1st Stage キャッシュアロケーションポリシー

  • 長期ビジョンの実現による企業価値の最大化を目指し、中長期視点で新たな価値を創造するための投資を優先します。SF 1st Stageにおいては、社会的課題の解決やソーシャルニーズ創造のための人財や研究開発などへの投資、増産やDXなどの設備投資、M&A&A(買収・合併・提携)などの成長投資に加えて、脱炭素・環境負荷低減やバリューチェーンにおける人権尊重などのサステナビリティへの取り組みに対する投資を優先します。その上で、安定的・継続的な株主還元を実行していきます。
  • これら価値創造のための投資や株主還元の原資は内部留保や持続的に創出する営業キャッシュフローを基本とし、必要に応じて適切な資金調達手段を講じて充当します。なお、金融情勢によらず資金調達を可能とするため、引き続き財務健全性の維持に努めます。

SF 1st Stage 株主還元方針

  • 中長期視点での価値創造に必要な投資を優先した上で、毎年の配当金については、「株主資本配当率(DOE)3%程度」を基準とします。そのうえで、過去の配当実績も勘案して、 安定的、継続的な株主還元に努めます。
  • 上記の投資と利益配分を実施したうえで、さらに長期にわたり留保された余剰資金については、機動的に自己株式の買入れなどを行い、株主の皆さまに還元していきます。
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