CFOメッセージ

未来の社会的課題を解決するために。稼ぐ力を極めるROIC経営。2020年9月 オムロン株式会社 取締役 執行役員専務 CFO 兼グローバル戦略本部長 日戸興史

逆境の中で示された収益力と変化対応力

激しい環境変化の中、いかに適応できるかで、会社の力量が試されます。CFOとして、2019年度をどのように総括されますか。

2018年度から続く米中貿易摩擦の影響を受け、昨年度の第2四半期決算発表時に、業績予想を下方修正しました。そこから回復の兆しが見え始めた矢先、第4四半期には想定外の新型コロナウイルス感染症のパンデミックに襲われました。いま振り返ってみても、非常に厳しい1年でした。しかし、最終的には、期中の予想を上回る業績で年度末を迎えることができました。

オムロンは、2011年度から掲げてきた長期ビジョン「VG2020」の中で、「成長力」「収益力」「変化対応力」の3つを重視してきました。厳しい2019年度を乗り越えられたのは、収益力と変化対応力の2つが着実に向上したからにほかなりません。

収益力を評価するうえで重視しているのが、稼ぐ力を示す「GP率」(売上高総利益率)です。これは、オムロンが顧客に提供した価値を測定するうえでの最重要指標です。たとえどんなに優れた製品をつくっても、その提供価値を適切に伝達し、適正な価格で購入してもらえなければ、GP率は向上できません。変動費を含めたコストダウンの工夫はもとより、製品のタイムリーな提供、ソリューション提案による顧客価値の向上など、企画から開発、生産、営業に至るまでのメーカーとしての実行力が問われる、いわば「稼ぐ力の総合力」がGP率なのです。その意味で、2019年度は、売上げが下がったにもかかわらず、GP率が44.8%と過去最高値を記録したのは、大きな自信となりました。稼ぐ力にこだわり、10年にわたって着実に積み上げてきた努力の結果です。

変化対応力については、「事業ポートフォリオの継続的な見直し」が重要だと考えています。2019年度は車載事業の譲渡という重大な意思決定に加え、懸案だったバックライト事業の収束も進めました。これは、オムロンが進めてきた「ROIC経営」の柱の一つであるポートフォリオマネジメントに則り、事業構造の再構築を実践したからです。GP率が前年度より3.6ポイント上昇*した背景には、こうした事業構造の再構築も大きく貢献したと言えます。事業譲渡による売却益も加わり、財務基盤は極めて強固になりました。

*車載事業を2018年度実績に含まない場合の GP率は、前年度比+0.4ポイント

長期ビジョンで重視してきた3つの力のうち、山田社長は、トップライン(売上高)をさらに押し上げる「成長力」が今後の課題だと述べています。どのようにサポートしますか。

未来の成長に向けた投資を続けることです。そのためには、既存事業のオペレーショナル・エクセレンスをいっそう高めていくことが求められます。無理・無駄を省き、生産性を高め、適正な売価で価値を提供することでGP率を向上させる。そして、そこから生み出された原資をどれくらい成長分野に回すことができるか。どんなに優れた成長戦略を描いても、原資がなければ成長の種を撒くことはできません。もちろん投資したからといって必ずしも成長が約束されるわけではありませんが、リスクを取って未来の成長への投資を続けることが、成長の必要条件です。

トップラインを押し上げ、「自走的成長力」を身につけるために、両利きの経営、「既存事業の深化」と「新規事業の探索と確立」に全社一丸となって取り組んでいきます。自社だけの力では限界があるチャレンジもあります。オペレーションの柔軟性を担保しながら、パートナーシップや戦略的提携、M&A&アライアンスなども視野に入れていきます。

コロナショックにより2020年度業績が不透明な企業が多い中で、オムロンの見通しはいかがですか。売上高は13%の減収ながら、GP率は44.8%と高水準をキープした計画値となっていますが。

GP率は、為替によるマイナスの影響を織り込んでいるため、数字としては前年度と同じ計画値ですが、その影響を差し引くと、実質的には0.7ポイントほど上昇できる計画です。すでに、2020年度の第1四半期では45.3%と過去最高値を更新していますので、年間で44.8%という目標は達成できると見ています。

今年度は、売上高が前年度比でマイナス13%と大幅な減収になる中でも、300億円の営業利益を見込んでいます。年間200億円の固定費の削減も計画どおりしっかりとやっていきますが、やはりGP率という本業での稼ぐ力が強化されていることが大きいです。

昨年度以上にさらなる逆境が予想される2020年度において、こうした目標を立てられたのは、現場の理解と協力の賜物です。その背景には、「企業理念経営」があります。我々が社会から何を期待され、どのようにして貢献できるか。企業理念がグローバル全社員で共有できているからこそ、この難局をみんなで乗り越えようという原動力になっているのは間違いありません。危機感だけでは人は動きません。人と人をつなぐものが必要です。オムロンの場合、それが企業理念です。

2020年度連結業績予想(億円)

2020年度計画 前年度比・差
売上高 5,900 △ 13.0%
売上総利益 2,645 △ 12.9%
営業利益 300 △ 45.2%
当期純利益 165 △ 78.0%
売上総利益率 44.8% + 0.0 p*

*為替除くと+0.7P

売上高、営業利益、GP(売上総利益)率 実績の推移(2011年度~2020年度)

売上高、営業利益、GP(売上総利益)率 実績の推移(2011年度~2020年度)のグラフ

アフターコロナで飛躍するために

山田社長は、2020年度と2021年度は、アフターコロナを見据えた準備と変革の期間とし、3つのチャレンジ(①ニュービジネスの確立、②事業のサービス化やリカーリング化、③オペレーションの刷新とデジタル化)に取り組むと言っています。

「モノ」から「コト」へとビジネスモデルを転換するチャレンジを加速させます。そのためには、外部との共創も含めた、新規事業を生み出すインキュベーションの仕組みを整えることが必要です。

一方で、固定費を引き下げ、収益力をより強化するために、コスト構造の見直しを進めていきます。稼ぐ力を示すGP率は上昇しましたが、SG&A(販売費および一般管理費)の水準にはまだ課題があり、効率やコスト構造を徹底的に見直さねばなりません。

さらには、既存事業のオペレーショナル・エクセレンスを向上するためにも、デジタル化が急務です。基幹システムをグローバルに刷新・統合する必要があり、現在、急ピッチで全体構想と設計を進めています。フォーマットや手順が変わるので、現場に戸惑いや混乱が生じるでしょうが、全社一丸となって、これを乗り越えないと、データ経営の基盤が整いません。向こう2年間は、まさにデジタルトランスフォーメーション(DX)の山場です。強い意志と覚悟をもって、もちろんしかるべき資金を投じてやり切っていきます。

すると、この2年間は、オムロンの歴史の中でも、極めて重要な時期となりますね。

2020年度と2021年度は、コロナショックによって事業の前提が大きく変わったため、次の成長に向けた変革を加速する期間と再定義しました。

2008年のリーマンショック時は、まだ量的拡大の時代でしたが、今度のコロナショックでそれが終わり、いたるところで質的転換が起きてくるでしょう。この変化に適応できなければ生き残れないという強い危機感を抱いています。変化対応力を高め、アフターコロナで飛躍するためにも、この2年間で変革を加速させます。

山田社長は「選択と分散」という考え方も打ち出しています。CFOとして、どのように実践していきますか。

アフターコロナで勝ち残っていくには、それぞれの既存事業が自律性を高め、スピードを加速し、新たな価値創出にチャレンジしていく必要があります。同時に、事業を固定しすぎるリスクにも十分に配慮しなければなりません。現在オムロンは、「制御機器」「ヘルスケア」「ソーシャルソリューション」という3つの事業ドメインに、「電子部品事業」を加えた事業ポートフォリオを選択していますが、このドメインで未来永劫やっていけるとは限りません。未来のオムロンをつくり上げていくためには、新たな「柱」となる事業を生み出していく事が必要です。

では、どうするか。そのカギを握るのが「分散」です。自分たちの強みを活かす事業領域を選択をしながら、新たなビジネスを生み出していくために、適度に分散を図る。どのように分散させるかを選択する、ともいえます。

オムロンは制御部品から始まりました。創業者はその技術を活かしてヘルスケアに進出し、駅の自動改札などの社会システムへと事業を広げていきました。「うちは制御機器メーカーだ」と定義していたら、ヘルスケアや社会システム事業は生まれなかったでしょう。つまりオムロンは昔から、コア技術を選択し事業領域を分散してきたのです。

「選択と分散」が機能するのは、ROIC経営が確立してきたからでもありますね。

その通りです。分散にも規律が必要です。既存事業、新規事業にかかわらず、全カンパニー、全事業ユニットにおける規律を高める仕組み、つまりROIC経営を確実に浸透させ、求心力を維持していく。求心力としての集中と、遠心力としての分散、この両者を高度にバランスさせなければなりません。

その両立には、根底に企業理念があるからこそみんなのベクトルを同じにすることができます。これを、ROIC経営でも適用しています。「逆ツリー展開」といって、ROICを自動化率や設備回転率といったKPIに分解し、現場の業務プロセス改善による効率化が業績向上にどうつながるのか、それを逆ツリー型で見える化したものです。

また、経済価値の評価と市場価値の評価に基づいて事業を評価する「ポートフォリオマネジメント」を徹底し、現在約60ある事業ユニットに対して、ROIC10%というハードルレートを課しています。10%という基準は、それがオムロンの想定資本コスト6%をカバーする水準だからであり、それを下回ることは企業価値を毀損するに等しい、と全事業に伝えています。なおROICが6%を割り込むと、一定期間のリカバリーチャンスを与えたうえで、達成できない場合は売却・撤退も検討するというルールを設けています。一方で、成長性も重要な指標として見ています。なぜなら、成長途上の事業は多額の投資を必要とし、収益性が低くなる傾向があるからです。それらの事業には、収益性が低くても、成長を加速させるために、さらなる投資を行うケースもあります。(下図B領域)

撤退基準を明確にしていることで、逆に社員が安心して新規事業に取り組める仕組みになっています。

経済価値評価

売上高成長率(%) B:成長期待領域、S:投資領域、C:収益構造改革領域、A:再成長検討領域 ROIC(%)

市場価値評価

市場成長率(%) BSCA 市場シェア(%)

最後に、株主の期待にはどう応えていきますか。

7月末の第1四半期決算で減収減益の計画を発表したにもかかわらず、市場から高い評価をいただいたのは、ステークホルダーからのオムロンへの期待の表れと理解しています。長期ビジョンをしっかりと掲げることで、長期的視点でオムロンを評価してくれる企業が増えていることを実感しています。この期待に応え、企業価値を高め続けていくために、成長投資、安定配当、自己株式の順で、資本効率を意識したキャッシュアロケーションを実施していきます。

手元のキャッシュは、平時は月商の1~2か月分を目安にしています。金額にすると、約500億円強から、約1,000億円のレンジです。今年度は、昨年度実施した車載事業の売却益があるのと、ウィズコロナの中、事業環境の急変に備えて、月商の3〜4か月分にあたる、約2,000億円前後に積み増しています。この手元資金を臨機応変に活用することで、ウィズコロナの中においても、将来の成長につながる投資は着実に実施していきます。

配当については、今年度は、減収減益を予測していますが、配当金額は84円を継続する予定です。事業環境の見通しが立てにくい状況下ですから、DOE(株主資本配当率)基準を適用し、的確に資本配分を行っていきます。

規律を保ちながらも、将来の成長を確かなものにするための投資をやり切ることで、企業価値を高め、株主の期待にも応えていく。CFOとして、その責任を果たしていきます。

ポートフォリオマネジメントの対象となる事業ユニット(2019年度)

ポートフォリオマネジメントの対象となる事業ユニット(2019年度)のグラフ

証券コード:6645

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