「実行力」を強化し、
「結果」に拘る
組織へと変革します
私は、昨年の統合レポートで、2025年9月まで1年半をかけて取り組んだ構造改革の完遂と、次の成長ステージに向けた「攻めの経営」へのモードチェンジを宣言しました。そして、11月には中期ロードマップ「SF 2nd Stage」を発表し、2030年に向けた5年間の成長の道筋を示しました。その後、長期ビジョン「Shaping the Future 2030(SF2030)」を必ず実現させるという強い決意のもと、2026年度からのSF 2nd Stage開始を待つことなく、全社を挙げて順次実行を進めてきました。その結果、オムロンは再び収益を伴う力強い成長力を取り戻し、足元の業績として成果が表出し始めた強い手応えを掴んでいます。
2025年度の全社業績は、再成長へと転換した主力の制御機器事業(IAB)がグループ全体を牽引し、3期ぶりの増収増益を果たしました。「再成長」を掲げたIABでは、顧客基盤の回復に加え、AI関連需要の拡大が継続したことにより、大幅な増収増益となりました。このIABを中心とした売上拡大やコストダウンなどの取組みにより、関税影響や原材料・物流費の上昇などをカバーし、売上総利益を拡大。これを原資に成長投資を進める一方、固定費を厳格にコントロールし、営業利益の増益も果たしました。売上総利益率と営業利益率はともに改善傾向にあり、構造改革の効果が着実に収益力向上につながりました。
2026年度も、ロードマップで示した様々な施策の実行を通じて市場の堅調な需要を着実に取り込むことで、2期連続の増収増益を目指しています。特にIABにおいては、構造改革で集中的に取り組んだ顧客基盤の再構築や営業・商品企画・開発・生産・サプライチェーンマネジメント(SCM)を一体でつなぐ事業オペレーション改革が成果を出し始めており、再現性のある「成長の型」を確立しつつあると捉えています。IABは、この成長の型を土台に、生成AIの急速な普及やデータセンター需要を背景に、グローバルで継続する旺盛な半導体投資需要を取り込んでいきます。第1四半期決算でお示しした通り、今期のIABは期初計画を大幅に上回り、過去最高水準の売上高に迫る見通しです。
その他の事業においても、市場環境は総じて堅調に推移する見通しです。ヘルスケア事業(HCB)では、血圧計のオンライン市場向けの販促をより一層強化するとともに、中国や東南アジアなどで拡大する低・中価格帯市場に向けて、価格競争力のある商品を投入し、市場シェア(SOM)の拡大を狙います。あわせて、製造原価の低減と固定費抑制を進め、収益力をさらに高めます。社会システム事業(SSB)では、補助金を背景に堅調が続く再生可能エネルギー領域での成長を取り込み、蓄電システムのSOM拡大を狙います。
もちろん、足元の好業績に満足して改革の手綱を緩めるつもりは一切ありません。地政学リスク、原材料費や物流費の変動、為替影響など、不透明な外部環境が続くことを前提に、製造拠点や物流網の見直し、コスト増の適切な価格転嫁、高付加価値商品の投入などを遅滞なく進めていきます。また、投資原資の創出と資本効率の向上に向けて、事業基盤をさらに強固なものにする取組みも継続させます。中でも販管費率の引き下げは、私自身が最も拘る重要な課題です。販管費率の適正化に向けて、固定費生産性の向上のための取組みをこれからも間断なく進めていきます。その結果として稼ぐ力を一段と高め、外部環境の変化に柔軟に対応できる事業基盤づくりを、CEOとして徹底していきます。
オムロンは、独自の未来予測理論「SINIC(サイニック)理論」に基づき、バックキャストでSF2030を描き、「カーボンニュートラルの実現」「デジタル化社会の実現」「健康寿命の延伸」という3つの社会的課題の解決に挑んでいます。一方、社会の変化はますます速まり、お客様が抱える課題も複雑化・高度化する環境下では、従来のデバイスによる解決だけでなく、新たな価値創出が必要となっています。「オムロンがこれからも、世に先駆けて事業を通じて社会的課題を解決する存在であり続けるためには、どのようなチャレンジが必要なのか」という観点で策定した2030年までの成長の道筋が、昨年11月に発表したSF 2nd Stageです。
SF 2nd Stageでは、「Trusted Growth-GEMBA DX企業への転換に向けた顧客との信頼関係のさらなる深化」を方針に掲げました。構造改革を通じて再構築してきた顧客との信頼関係をさらに深め、再び力強い成長を実現するという思いを「Trusted Growth」に込めました。GEMBA DXとは、オムロンの強みであるデバイスから得られる高品質なデータと、現場にあるその他のデータを、現場の知見を活かして融合することでデータそのものを価値あるものに変換し、データを活用してお客様の本質的な課題を解決するデータサービスの総称です。オムロンが事業を展開するファクトリーオートメーションやヘルスケアの領域では、DX化が大変遅れています。私は、そこに、オムロンならではの成長機会があると考えています。オムロンの現場発の強みを活かして解決していきたいと強く思い、「GEMBA DX企業への転換」を掲げました。
では、私たちは未来に向けて具体的に何を実行していくのか。この5年間では、デバイスの強化に徹底的に拘ります。現在、オムロンの成長と収益の源泉はデバイスです。この基盤をより強固なものにしなければ、将来のデータサービスをはじめとする新たな成長のドライバーは築けません。長期的な視点にいま一度立ち返り、社会に届ける価値を一層広げ、深めていきます。そのために、デバイス事業を徹底的に強化していくことで、ビジネスモデルを進化させていきます。
今回のロードマップで最も拘ったのは、ビジョンや戦略を磨き込むことではありません。オムロンが目指す未来の姿を実現するために、何を実行し、どう結果を出し続けるのか。そこまで具体化したのがSF 2nd Stageです。私は今回、あえて「中期経営計画」ではなく、「ロードマップ」としました。その理由は、時代の変化のスピードがますます速くなり、その変化の大きさも増しているからです。この変化の大きい時代においては、労力をかけて精緻な経営計画を作っても、その前提や市場環境がすぐに大きく変わってしまい、中期的な時間軸の経営計画が意味をなさなくなってきています。私は今回、経営計画に費やす時間を減らし中計策定をやめることで、そのリソースをアクションに最大限に投入し、結果を出し続ける組織へと変革するという強い意思を込めました。同様の観点から、2030年までの期間を分割せずに、5年間のロードマップとしました。これもプランニングではなく、アクションに時間を割くためです。
中期ロードマップ「SF 2nd Stage」におけるコア戦略は「事業ポートフォリオの再構築」です。この戦略の実行にあたっては、全社最適の視点から私がハンズオンで、オムロンの持続的な企業価値向上に資する領域に経営資源を集中させる投資判断を断行します。具体的には、グループの全52事業を「市場成長性」「収益性」「『GEMBA DX』との親和性」の3点で評価し、真の成長ドライバーと成り得る「注力13事業」を特定しました。この注力13事業は、IABを中心とした8つのデバイス事業と5つのデータサービス事業で構成しています。注力デバイス事業がターゲットとする市場は「AI需要で拡大する米欧中での半導体投資」や「グローバルに拡大する心疾患の予防ニーズ」「国内の再生可能エネルギーの普及促進」など、すでに遍在化している成長機会に溢れています。まずは、このIABを中心とする8つの注力デバイス事業に十分な経営資源を投入し、強みを磨き、市場成長以上に大きく成長させます。そのうえで、注力デバイス事業が生み出したキャッシュを投資の原資として、データサービス事業へ再投資し、事業全体のプレゼンスを高め、成長への好循環を構築します。
5つのデータサービス事業がアドレスする市場においても、「スマートファクトリー」「個々人に最適化された予防医療」「小売店舗のオペレーション効率化・高付加価値化」など、各ドメインにおいて事業機会が着実に顕在化してきています。SF 2nd Stageでは、これらの事業機会を獲得するために、事業基盤やビジネスモデルの構築を推進します。既にコンセプト検証を終え、事業化に向けた最終フェーズに入ったプロジェクトも存在しており、データサービス事業の着実な進展に強い手応えを感じています。
オムロングループの事業群の中で、特にデータサービス事業の拡大に不可欠な存在が、2023年度に子会社化したJMDCです。JMDCとの協働による新規のデータサービス事業の創出は、当初の見込み通り順調に進展しています。例えば、予防医療の実現を目指すデータヘルス事業では、両社のデータを活用した疾患リスク予測アルゴリズムを構築。発症リスクを可視化し、疾患の早期発見や予防につなげることを進めています。この予測アルゴリズムを活用し、法人向けサービスを中心に事業化に向けた検証を進めるなど、JMDCとの連携が新たなデータサービスにもつながっています。JMDCの事業は今後も高い成長が期待できる魅力的な市場において強みを持ち、同社の成長性やデータ活用力は当社が出資に際して評価した時点から何ら毀損しておらず、同社の本源的価値に対する評価に変わりはありません。今後は、JMDCとのシナジーをさらに拡大し、2030年までにはグループ全体のデータサービス売上比率を15%まで引き上げていきます。
事業ポートフォリオの再構築のスコープは、52事業を対象とした再構築に留まらず、ビジネスカンパニーレベルでの最適化も含みます。2026年10月には電子部品事業(DMB、現Aratas)がオムロングループから独立します。私自身にとっても、大変重い決断でしたが、Aratasのさらなる成長と、オムロングループ全体の企業価値向上のために必要な決断でした。事業譲渡後もAratasとオムロングループの強固なパートナーシップを継続し、両社のさらなる成長を目指していきます。
Aratasの17事業がカーブアウトすることで、オムロンの事業数をロードマップ発表時点の52事業から35事業へと絞り込みました。注力13事業を除く22事業は、キャッシュカウ事業と投資拡大・売上拡大フェーズのインキュベーション事業です。オムロングループが健全な事業群の集合体であり続けるために、今後もそのときの市場環境、ビジネスチャンスに応じて、事業ポートフォリオの機動的な見直しを実施していきます。
今後5年間のキャピタル・アロケーションは、「成長投資を最優先」とします。私は、成長機会を逃さないことが企業価値向上の最大のドライバーであると考えています。そのため、営業キャッシュフローの最大化に加え、必要に応じて財務レバレッジも積極的に活用し、将来の成長につながる投資を実行します。その原資となるキャッシュ創出力の強化は、私自身が最も重視する経営課題です。13の注力事業を利益成長へ確実につなげるとともに、運転資本改革をはじめとする資本効率改善を徹底し、5年間累計で1兆500億円のキャッシュイン創出を目指します。創出したキャッシュの約8割は成長投資へ振り向け、その約7割はIABを中心とした注力事業に投入します。さらに、M&AについてもIAB領域を最優先とし、欧米を中心とする顧客基盤の拡大や技術・ソリューションの強化に直結する案件へ厳選投資を行います。成長性と資本効率の双方を見極めながら、財務健全性を維持した規律ある投資を徹底します。
資本効率においては、自己資本利益率(ROE)を最も重要な経営指標の一つと位置づけ、2030年度にROE10%超を実現することを経営としての明確なコミットメントとしています。直近のROEは低位に留まっていますが、その最大の要因は、構造改革に伴う一時費用と、収益改善施策の効果が表れるまでの時間差にあります。これらはいずれも一過性であり、2027年度には大きく解消する見込みです。資本市場が求める資本効率を常に意識し、資本コストを安定的に上回る収益力を実現していきます。2026年度のAratas売却とIABの再成長を転換点として収益構造を大きく改善させ、1年でも早くROE 8%を達成し、2030年度の10%超を実現します。
ROE向上の鍵は、IABを中心とした事業成長に加え、価格戦略・事業ポートフォリオ改革・SCM改革による粗利率の改善、そして「小さな本社」へのトランスフォームに向けた本社機能改革など販管費率の抜本改革にあります。これらはすでに実行段階に入り、成果も着実に表れ始めています。今後は、構造改革による一時的な改善ではなく、利益成長そのものによってROEを継続的に高める企業へと変革させます。
株主還元については、企業価値向上の成果を株主の皆様と共有するための重要な経営責任と位置づけています。株主総利回り(TSR)の持続的な向上を基本方針とし、配当は株主資本配当率(DOE)3%程度をベースに、安定性と継続性を重視して実施します。自己株式取得についても、株価水準、資本効率、成長投資機会を総合的に勘案し、企業価値向上に資すると判断した局面では機動的かつ積極的に実行します。
私が今後目指すものは、短期的な利益ではなく、持続的に資本コストを上回る収益力を備えた企業です。成長投資、資本効率の改善、そして株主還元。この3つを同時に実現することが、私が考える資本政策です。利益とキャッシュ創出力を着実に高め、その成果を継続的な企業価値向上と株主還元へ結び付けることで、オムロンを資本市場から期待され評価され続ける企業にしていきます。
オムロンの持続的な成長を支える競争力の源泉は、顧客の現場を深く理解し、そこで使われるデバイスを磨き続けてきた技術と人財にあります。私は、数々の日本初、世界初のイノベーションで社会に貢献してきたメーカーとしての原点に立ち返り、技術と人財の強化に拘ります。
技術面では、注力事業の成長に必要な技術と、将来の社会的課題からバックキャストして必要となる技術を起点に、全社で強化すべき8つの全社重要技術を選定し、集中的に強化していきます。そのために、CTOの統括のもと、全社重要技術の識別・推進・評価・人財育成までを一気通貫で進めることで、技術を確実に事業成長につなげていきます。そして、技術開発と事業戦略をこれまで以上に強く結び付け、どの技術がどの事業で使われ、どのような競争優位や利益に結実したのかまで追いかけます。そのために投資効果をモニタリングし、到達目標として2030年度に開発生産性を2024年度比2.5倍へ引き上げます。
人財面では、注力事業の成長と収益性向上に直結する領域に集中して投資を実行します。具体的には、注力事業の開発およびフロントの領域に約1,000名の人員を増強します。グループ内の適性人財を機動的にシフトさせることをメインとしつつ、必要に応じて社外からの人財確保も積極的に行います。これにより、開発スピードや営業生産性を高め、注力事業の成長の実現性を高める体制を整えます。
さらに今後5年間で、注力事業を牽引する「一騎当千」のトップリーダーを経営陣が総力を挙げて育成します。私自身も責任を持ち、リーダーとサクセッサー候補を常時100名規模で輩出します。この100名には従来よりも大きな責任と権限を付与し、各現場で「結果に拘るマネジメント」を徹底してもらいます。
評価・処遇も、頑張って成果を出した人の努力と貢献に公正に報いるものへ進化させます。保有能力を基準とした従来の評価ではなく、担う役割の大きさを基準とした評価制度へと、今年度中には国内の評価処遇制度を刷新し、高い目標に挑戦して成果を出した人が報われる環境を整えます。例えば、利益貢献の大きいプロジェクトに携わった社員やチームに、一人当たり最大で数百万円の報奨金を社長決裁で支給する特別インセンティブ制度を導入します。人財の力を最大限に引き出すことで、実行力の強化に結び付けます。
これらの施策によって実現を目指す2030年のありたい姿と成長の道筋を、コーポレート主導で定量的・定性的に示したものが「挑戦的目標」です。具体的には、次の5年間にオムロングループ全体で市場成長を上回る水準の売上高年平均成長率7%、営業利益率12%を目指します。私が市場成長を上回る野心的な目標を掲げたのは、 それが顧客から信頼され、選ばれている状態を表しているからです。継続的に顧客から選ばれ続けるためには、競争力のある商品の開発とフロントに向けた投資の強化が欠かせません。そのための原資を確保し続けるために、利益率も高い水準を維持することを目指します。
また、将来のキャッシュフロー創出に機会とリスクの両面で影響を与えうる非財務目標については、オムロンのマテリアリティに則して、事業影響と企業価値に直結する実効性のあるものだけに絞り込みました。これにより、社会価値と経済価値の両立を、より実効性のある形で追求していきます。
ここまで今回のロードマップに込めた思いをお伝えしてきましたが、私は、今のオムロンが資本市場から問われているのは、「描いた戦略を本当に実現できるのか」という点だと受け止めています。ロードマップの完遂に向けて私が最も重視するのは、「結果を出し続ける組織」をつくり上げることです。 そのために私はオムロンのすべての組織階層において「実行力」を徹底的に強化します。 具体的には、「ガバナンス」「スピード経営」「人財」「企業文化」の4つのことに拘ります。
「ガバナンス」においては、注力13事業に集中したリソースの配分を私がハンズオンでやりきります。そのために、経営・ビジネスカンパニー・現場が一体となった経営執行を強化する体制づくりも進めています。 注力事業と全社重点施策を私自身が主導し、全社成長を必ず実現させます。
「スピード経営」においては、市場成長を上回る成長を実現させるため、市場環境や顧客ニーズの変化を競合よりも早く捉え、意思決定のスピードを上げます。 そのために、新CxO体制の構築、ビジネスカンパニーへの大胆な権限移譲を実行します。さらに、現場の状況をリアルタイムで把握し、数字をもとに素早く判断ができる「データドリブン経営」への進化も実現させます。 具体的には、「販売・生産・購買・在庫・物流・会計の業務のやり方」を全社で標準化・一本化するために、今年4月に業務の基幹プロセスをコーポレートシステムへと刷新するなど、 様々な打ち手を既に講じています。
「人財」は、SF 2nd Stageを実現するための最も重要な鍵です。だからこそ、一人ひとりの挑戦意欲を高め、やるべきことを明確にし、最後までやりきる力を引き出す制度改革を進めています。 前述のとおり、頑張って成果を出した人が報われる成果主義を浸透させることで、結果を出し続ける組織への変革を進めます。
「企業文化」においては、結果を出し続ける組織に転換するために「凡事徹底」を根付かせます。目指すこと、やるべきことを明確にし、決めたことを徹底的に最後までやり切る文化を構築します。 さらに、創業の精神にも立ち返り、世に先駆けてチャレンジすることで成長を続けてきたベンチャーとしての気概と情熱をより強固なものにしたい。 そして、凡事徹底とベンチャー精神を融合し、野心を持って社会に貢献した証としての売上と利益にとことん拘る。そんな企業文化を根付かせることで、新たなオムロンへと進化させ、 SF2030で描いたよりよい社会を手繰り寄せます。
オムロンは、これからも事業を通じて社会的課題を解決し隆々と成長し続ける企業として、ステークホルダーの皆さまのご期待に応えてまいります。今後とも一層のご支援をお願いいたします。