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CFOメッセージ

お客さまとの「信頼」を
成長の力に変え、
持続的な企業価値向上を実現する

執行役員専務 CFO 兼
グローバル戦略本部長
竹田 誠治

構造改革で築いた基盤を、再成長の力へ

2025年度は、拡大する半導体・AI関連需要を着実に捉えたことに加え、構造改革以降に進めてきた経営施策の効果が業績に表れ始めた一年でした。

売上高は全社で前年比7%増、中でも制御機器事業(IAB)は12%増と高い成長を実現し、全社を牽引しました。この背景には、AI需要に伴う半導体や二次電池の設備投資案件を、これまで磨き上げてきたソリューションで着実に捉えたことに加え、全社で進めてきたデバイス事業の競争力強化があります。特に、代理店様を含むお客さまとの関係強化や、業界・エリアごとのニーズを捉えた新商品の投入が、顧客基盤の拡大に寄与しています。私は、この顧客基盤の拡大を単なる取引社数の増加とは捉えていません。お客さまの現場に深く入り込み、課題を理解し、その解決に継続的に貢献する。その積み重ねによって培われる信頼こそが、次の成長を生み出す経営資産です。信頼が深まれば、新たな商品やソリューションをご提案できる機会が広がるだけでなく、取引の継続性も高まり、お客さまとともに新たな価値を創出できる可能性も大きくなります。同時に、顧客基盤の広がりは、特定の顧客や市場への依存を低減し、環境変化に強い事業構造を築くことにもつながります。

収益力も着実に回復しています。2025年度の営業利益率7.3%に対し、2026年度は9.1%、前年比1.7ポイントの改善を見込んでいます。これは、2023年度に利益を大きく圧迫した在庫課題の解消に加え、人員数の最適化をはじめとする構造改革によって、事業の収益基盤を強化してきた成果です。一方で、販売費および一般管理費(SG&A)は依然として高い水準にあり、さらなる収益力の改善が必要です。インフレ環境を踏まえた価格施策による売上総利益率の向上、固定費運用の厳格化、業務プロセスの効率化などをグローバルで推進し、収益改善施策を重層的に積み上げてきました。今回の収益力回復は、市況や一時的な要因によるものではありません。構造改革で築いた土台の上に、価格・コスト・生産性の各側面から改善施策を積み重ねてきた成果です。環境変化に左右されにくい収益体質へ、着実に変わりつつあります。

こうした成果を支えた最大の要因は、組織全体の実行力が高まったことです。戦略や施策を策定するだけでなく、迅速かつ確実に実行し、成果が出るまでやり切る運営へと変革してきました。事業ポートフォリオ改革、固定費最適化、価格施策についても、経営と事業の距離を縮め、重要テーマでは経営陣が現場と直接対話しながら、意思決定と実行を加速しています。2026年度からは、この実行力をさらなる成長と企業価値の向上に振り向けていきます。

ROEを高める好循環をつくる

オムロンは2026年度より、新たな中期ロードマップ「SF 2nd Stage」のもと、業績回復を目指すフェーズから、持続的な企業価値向上を実現するフェーズへと歩みを進めています。これまでの数年間は、在庫課題や収益性の低下といった過去の課題を解消することに力を注いできました。しかし、業績の回復がゴールではありません。これから問われるのは、将来にわたり顧客価値を生み出し、その成果を売上、利益、キャッシュへと継続的に結実させる力です。

その実現に向け、財務の観点から特に重要となるのが自己資本利益率(ROE)の再拡大です。当社の株価純資産倍率(PBR)が十分な水準に達していない背景には、将来の成長期待を示す株価収益率(PER)だけでなく、ROEの水準と今後の改善に対する資本市場の懸念もあると認識しています。だからこそ、資本効率の向上を中期経営の中心に据え、収益力の強化、成長投資による利益拡大、規律ある資本配分を一体で推進していきます。(図1:参照)

もっとも、ROEは経営の結果を示す指標です。単に資産や資本を圧縮するだけでは、持続的にROEを高めることはできません。重要なのは、投下した資本を顧客価値に変え、その価値を利益とキャッシュにつなげる力を高めることです。

その中核にあるのが、SF 2nd Stageの方針である「Trusted Growth」です。この方針には、GEMBA DX企業への転換に向け、お客さまとの信頼関係をさらに深化させ持続的な成長を実現するという、オムロンの意思を込めています。デバイス事業の再強化を通じてお客さまとの信頼を深め、そのうえで、デバイスから得られるデータをはじめとする現場データを活用したサービスを拡大する。この道筋によって、GEMBA DX企業への転換を目指します。私は、「信頼」を単なる方針にとどめるのではなく、将来キャッシュ・フローを生み出す重要な無形の経営資産として捉えています。

一方で、信頼を築くための活動は、先行投資が必要なケースも多く、その効果は中長期にわたり無形の価値として蓄積されます。短期的な投資収益率(ROI)だけで評価すれば、その価値を過小評価しかねません。だからこそCFOとして、短期的な利益規律を徹底すると同時に、「将来の顧客価値を生み出す力をどれだけ高めたか」という視点を、投資判断と業績管理に組み込む必要があると考えています。Trusted Growthは、利益と信頼のどちらかを選ぶという考え方ではありません。お客さまから選ばれ続ける信頼を起点に、売上成長、収益性、キャッシュ創出力、資本効率を連鎖的に高めていく考え方です。

図1:PBR分解式とROEツリー

注力13事業を、持続的成長の柱へ

SF 2nd Stageでは、2030年度までの成長を牽引する13の注力事業を明確化しました。中でもデバイス事業は、成長市場において競争優位を確立し、市場成長を上回る成長を実現するとともに、利益成長を牽引する中核事業です。デバイスの競争力を再び磨き上げることが、GEMBA DX企業への転換の土台になります。

各注力事業の戦略を確実に実行するため、2026年度よりCEO主導の執行ガバナンスを強化しています。環境変化に応じて戦略や施策を機動的に見直しながら、実行と成果の両面を継続的にモニタリングしています。活動管理では、売価の最適化、供給制約への対応、開発テーマの進捗などに加え、顧客基盤の拡大、すなわち信頼の深まりと広がりを示す先行指標のモニタリングを重視しています(図2:参照)。その具体例が、IABで運用しているCustomer Base Mapです。グローバル約11万社のお客さまごとに、課題、自社製品の採用状況、成長機会などを可視化し、具体的な営業活動と成果につなげています。

また、事業の競争力を高めるためには、十分かつ規律ある経営資源配分が不可欠です。2026年度は、全社開発投資に占める注力事業への投資比率を従来の52%から63%へと引き上げました。保有する35事業に一律で資源を配分するのではなく、成長性と競争優位性を見極めたうえで、勝ち筋のある領域へ重点的に資源を投入しています。ポートフォリオマネジメントとは、単に事業を選別することではありません。選んだ事業がお客さまから信頼され、市場で勝ち切り、資本コストを上回るリターンを生み出すまで、経営として責任を持つことです。事業の選択、資源配分、進捗管理、成果創出までを一気通貫でマネジメントすることで、注力事業を持続的な成長と企業価値向上の源泉へと育てていきます。

図2:注力13事業における顧客基盤の拡大への先行指標例

「デバイス・データ・現場知見・AI」と「信頼」で、GEMBA DXを実現する

デバイス事業の競争力強化の先にある重要な成長テーマが、データビジネスです。注力13事業のうち5事業をデータサービス事業と位置づけ、将来の成長を担う領域として経営資源を配分します。

オムロンの強みは、ファクトリーオートメーション(FA)、ヘルスケア、社会システムなどのドメインで、世界中の現場にデバイスを展開してきたことです。お客さまの現場に近い場所で、日々の稼働データや運用データ、バイタルデータに接し、長年にわたり課題解決の知見を蓄積してきました。しかし、現場データは、それだけで自動的に価値を生むものではありません。オムロンが目指すGEMBA DXは、デバイスから得られる高品質なデータと、現場に存在するほかのデータを組み合わせ、長年培った現場知見とAIによって価値ある情報へと転換し、お客さまの本質的な課題を解決するものです。デバイス、データ、現場知見を組み合わせられることが、オムロンならではの競争優位性です。

具体的な取組みの一つが、ヘルスケア領域における疾患リスク予測アルゴリズムの開発です。家庭で取得されるバイタルデータと、健診・レセプトデータを組み合わせたアルゴリズムの開発が進展しています。睡眠関連疾患や痛風などの発症リスクを可視化し、疾患の早期発見や予防につなげるサービスの事業化に向けた検証も進んでいます。JMDCの連結子会社化から3年が経過し、データを活用した価値創出を事業成果へと結びつける段階に入りつつあります。

データサービス事業では、デバイス事業以上に、お客さまとの信頼関係が重要です。お客さまに安心してデータを託していただき、ともに活用方法を考え、継続的な改善に取り組む関係が不可欠だからです。デバイスを通じて信頼を築き、その信頼を基盤にデータをお預かりし、データから新たな価値を生み出す。その成果によって、さらに信頼を深める。この好循環が、GEMBA DX企業への転換を支えます。

現在、全社注力データサービス5事業は、インキュベーション・事業拡大の段階にあります。今後は、事業化と売上創出に向けた執行モニタリングを強化し、企業価値向上への貢献を着実に実現していきます。

キャッシュ創出力を高め、規律ある資本配分を実行する

2026年度の営業キャッシュ・フローは、2025年度の約600億円から1,000億円超への回復を見込んでいます。これは、売上拡大や収益性改善による当期利益の増加に加え、在庫課題の解消や、注力商品への在庫集中による在庫適正化に取り組んだ成果です。私がCFOとして重視しているのは、単年度だけでなく、持続的にキャッシュを生み出せる経営体質をつくることです。そのため、各ビジネスカンパニー(BC)のキャッシュ創出力への意識と施策の実行力を高めるべく、2026年度から各BCの評価指標に、売上・利益指標だけでなくキャッシュフロー指標を追加しました。また、キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)の目標を設定し、改善に向けたアクションを経営メンバーで議論し、実行に移しています。キャッシュ創出を経営の仕組みとして定着させることで、成長投資の原資を生み出していきます。

創出したキャッシュをどのように活用するかは、重要な経営課題です。持続的な成長を通じて利益とキャッシュを拡大していくうえで、合併・買収(M&A)を重要な戦略的アクションに位置づけています。2025年度は、SF 2nd Stageで設定した注力事業の強化につながるM&Aを実行しました(図3:参照)。2026年度以降は、インダストリアルオートメーション(IA)領域におけるM&Aを最優先とし、特に欧米の顧客基盤の拡大に直結する機会を検討していきます。

実行にあたっては、投下資本の増加を上回る利益成長を実現し、資本コストを超えるリターンを創出できるかを重視します。M&Aは、買収後の初期段階においては、統合作業(PMI)コストや無形資産の償却などにより、ROEを一時的に押し下げる可能性があります。だからこそ、短期的なROEへの影響だけで判断するのではなく、買収後に利益成長とキャッシュ創出力をどれだけ高められるかが重要です。それを確かなものとするため、M&Aガバナンスも進化させています。候補案件が顕在化してから財務面を評価するだけでなく、CEO・CFOが中心となってパイプラインを月次でモニタリングし、注力事業や全社戦略との整合性、競争力強化への貢献、資本コストを上回るリターンの実現可能性を早い段階から確認します。案件の具体化後は、投資委員会でより深く精査します。事業ごとに設定したハードルレートを用いて内部収益率(IRR)が資本コストを十分に上回るかを確認するとともに、ディスカウント・キャッシュフロー(DCF)、正味現在価値(NPV)、投資回収期間など複数の評価軸と第三者評価を活用し、事業価値、買収価格、事業計画、シナジーの妥当性を多面的に検証します。

一方で、適切な成長投資の機会がなく、中長期にわたり余剰資金が見込まれる場合は、株価水準も勘案しながら自己株式の取得を検討します。成長投資によるリターン創出と株主還元のバランスを見極めることで、資本効率を高めるキャピタル・アロケーションを実現し、2030年度に向けたROEの再拡大を確実なものにしていきます。

図3:2025年度に公表・実施したM&A・出資

信頼の好循環を、TSR向上へつなげる

ここまで述べてきた通り、オムロンは持続的な企業価値向上へと経営のフェーズを切り替えました。その実現に向けて、実行力に拘って各施策を推進しています。その成果を企業価値の観点から捉えるうえで、私たちが重視している指標が株主総利回り(TSR)です。ただし、オムロンではTSRを単なる株価や株主還元の結果指標とは捉えていません。企業の成長力、収益力、資本効率、そして経営に対する信頼が総合的に評価された結果であり、企業価値創造そのものを映し出す重要な指標です。オムロンでは、取締役に加え、執行役員の報酬制度にもTSR指標を組み込み、経営陣全体が株主の皆さまと同じ視点で企業価値向上に取組む仕組みを導入しています。

お客さまからの信頼、社員からの信頼、パートナーからの信頼、そして資本市場からの信頼は、それぞれ独立したものではありません。お客さまの課題解決に誠実に向き合い、社員が力を発揮できる環境をつくり、パートナーと公正に価値を分かち合う。その結果として、売上、利益、キャッシュを持続的に成長させることが、資本市場からの信頼にもつながると考えています。

私たちが目指すのは、2030年度の挑戦的目標を達成することだけではありません。その先も、お客さまや社会から信頼され、社会の変化を成長機会へと転換し、価値を生み出し続ける企業へと進化することです。CFOとして、短期的な収益規律と中長期的な成長投資の双方に責任を持ち、将来キャッシュ・フローを生み出す力を高めていきます。そして、その進捗と成果を、財務指標だけでなく、将来の財務成果につながる先行指標も含め、株主・投資家の皆さまに具体的かつ透明性を持ってお示ししてまいります。

Trusted Growth 顧客からの「信頼」を、持続的な企業価値向上へ

(注)人的創造性は、人件費当たりの付加価値額。人的資本投資への取り組み成果を測る指標として活用。

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