製造ラインを流れる部品が正しくつくられているかを測り続ける、レーザ変位センサ「ZP-L」。ラインが正常に動いている間、ユーザーがこのセンサを意識することはほとんどありません。しかし異常を検出した瞬間には、離れた場所や別の方向からでも、ユーザーに確実に気づいてもらう必要があります。そこでZP-Lでは、検出性能を現場で使いこなせるよう、ハードウェアから設定画面までを一つの体験として設計しました。
現場が使いこなせてこそ、機能は価値になる
商品のデザインは、商品企画が立ち上がった段階で、企画・開発部門からデザインセンターに相談が届くところから始まります。そこでの「コンパクトにしたい」「洗練されたデザインにしたい」といった要望をヒントに、デザイナーは本当に利便性につながるのかという問いを重ね、現場の真のニーズを深掘りしていきます。
制御機器のデザインにおいて、最も優先されるのは”機能”とその”性能”です。外観の美しさを追求しながら、商品に求められる性能を高い次元で両立させることが求められます。デザインのために性能を損なうのではなく、むしろその機能がより発揮される状態をつくることが、デザインセンターの役割です。どれほど検出性能が高くても、それがユーザーに伝わらず、使いこなしてもらえなければ、その価値を十分に活かしきれないからです。
だからこそ、数多くの機能や情報を同列に並べるのではなく、重要なものに優先順位をつけながら、確実に伝わり、使いやすくなるよう、デザインを表示や操作へと落とし込みます。
その判断のよりどころは、「実際の使われ方」を徹底してシミュレーションすることです。自分が現場のエンジニアならどう使いたいか、どこで作業が滞るかを緻密に予測しながら設計に臨みます。企画や営業から得た情報に、長年制御機器を手がけてきた経験を重ね、言葉になりづらい負担まで捉えて改善していきます。
「どこからでも気づける」を、細部にまで
一度取り付けられたZP-Lを、ユーザーが作業中に注視することはほとんどありません。しかし異常時には、すぐに異変に気づいてもらう必要があります。機器がひしめく製造現場に設置されることを考えると、これは想像以上に難しい課題です。
そこでZP-Lでは、大きな表示灯を上面と背面の2か所に配置することによって、視界の端に入っただけでも「いつもと違う」と気づけるよう、どの方向からでも確認できるデザインにしています。
表示灯の位置は、机上だけで決めたものではありません。モックアップをつくり、設置環境を想定しながら、表示の見え方やキーの操作性を検証しました。サイズが限られた筐体のなかで、性能、視認性、操作性を一つずつ成立させています。
設定ソフトウェアと表示部の画面も、現場の作業と切り離さずに設計しています。ユーザーの作業手順を理解したうえで画面遷移を組み立て、磨き込んでいきました。設定画面上には現場にある機器の構成や配置をそのまま映し出し、ユーザーの迷いを減らします。
また、機器本体のボタンに操作の方向を示す「く」のグラフィック(図記号)を入れ、説明書が示す操作箇所を機器上で見つけやすくするなど、細部にこだわりながら、表示、画面、現物、説明のつながりまで自然なものにしました。
「操作しやすい」の前に、「その操作は必要なのか」を問う
こうした細部のデザインは、デザイナー1人の発想だけで生まれたものではありません。約2年にわたる開発のなかで、企画・開発メンバーと実現したい体験と技術、コスト、製造上の条件について何度も意見交換を重ねました。小さな筐体にオムロンの商品らしい共通の要素をどう残すかも、こうした議論を重ねるなかで企画・開発メンバーと答えを出した論点の一つです。
提案の場には、企画や開発のメンバーが同席します。そこでデザイナーが意識していたのは、いかにメンバーの「やりたい」気持ちに火をつけるかです。表示灯や画面のグラフィックなど、ユーザーにとっての使いやすさをモックアップによって検証しながら追求し、細部を形にしていきました。こうした現場起点の開発プロセスは社内でも関心を集め、別の開発チームとの技術交流にもつながっています。
表示灯の位置、画面表示、ボタン周りのグラフィックなど、ZP-Lで積み重ねてきた細部のデザインは、いずれも「使いやすくする」ための工夫です。ただ、デザイナー自身は、使いやすさをデザインの到達点とは考えていません。ボタンの押しやすさを考えるだけでなく、「そのボタンを押す行為は本当に必要なのか」まで問い直すのが、本来のデザインの役割です。
あらゆる角度から異常に気づける表示灯も、現場の作業に即した設定ソフトウェアや表示部の画面も、その問いから生まれた答えです。現場のユーザーが余計な手間をかけずに成果へたどり着けるところまで考える。ZP-Lの細部には、デザインセンターの姿勢が詰まっています。