高い機能や性能を備えるだけでなく、制御機器が現場でどのような価値として受け取られるかまで考える。デザインセンターは、デザイナーが持つUXデザインの姿勢を組織の共通言語として浸透させようとしています。ガイドラインを整え、実際の開発テーマを使ったワークショップを開き、実施後も伴走を続ける。顧客起点のモノづくりを組織の文化として根づかせる、現在進行形の取り組みです。
UX(ユーザー体験)を、商品開発の判断軸に
制御機器の開発では機能や性能が重視される一方、市場では機能による差別化が難しい場面もあります。そこでデザインセンターが重視しているのが、お客様を深く理解し、お客様の本質的な課題を起点に、体験の価値を考えるUXデザインです。機能的な使いやすさにとどまらず、「また使いたい」「これなら安心して使える」と感じられる情緒的価値まで含めて、体験として捉えようとしています。
しかし、デザインセンターだけでお客様の体験価値を検討しても、商品化の過程で企画や開発などの判断を重ねるうちに、その意図が薄れてしまうことがあります。そこで目指したのが、UXデザインをデザイナーの専門領域に留めず、組織全体の判断軸へ据えることでした。
その道筋を、デザインセンターは「認知」「理解」「実施」「定着」の4段階で捉えています。これまでもガイドラインや資料を発信し、「認知」や「理解」を促してきましたが、知識として理解しているだけでは、実際の商品開発で活用し、開発プロセスにまで定着させることは容易ではありません。
そこで企画したのが商品企画・開発部門を対象に、実際に手を動かしながらUXデザインを体験するワークショップです。
「知っている」から「活かす」へ。実際のテーマで学ぶワークショップ
UXデザインを実践につなげるために、ワークショップでは、参加する企画・開発部門が実際に検討している商品テーマを扱いました。FA※領域において、デザインセンターが企画・開発部門との協働によって蓄積してきた知見をもとに、ユーザーを特定し、課題を把握し、ユーザーにとっての理想的な体験を定めたうえで商品の要件へ落とし込んでいく。参加者は、この一連の流れを自分たちの仕事に引き寄せて考えます。※ファクトリーオートメーション。工場の生産・管理工程の自動化システムのこと
実案件に即したテーマは参加者の理解を深める一方で、具体的すぎると商品企画を前に進めることに意識が向き、ワークショップ本来の学習目的が薄れてしまいます。そのバランスを取るため、企画・開発部門の担当者と何度も話し合い、相手が期待する成果と、「体験価値を共通の判断軸にする」というデザインセンターの狙いを重ね合わせ、目指すゴールを丁寧にすり合わせました。
FA領域の現場には、設計、立ち上げ、営業、生産技術、オペレーターなど関係者が非常に多く、全員の課題を一度に扱おうとすれば、検討の軸がぼやけてしまいます。そのため、ワークショップの設計では、テーマに合わせて中心となるユーザーを1人に絞りました。作り込んだペルソナも改めて見直し、参加者自身がユーザーの所属業界などを考えられる余地を持たせることで、デザインプロセスの要である発散と収束の両方を体験できる構成へ整えていきました。
目的を論理的に説明し、信頼を得るまで粘り強く対話を重ねる。こうした地道な設計が成果を左右します。
商品や技術、社内の開発プロセスを理解し、ワークショップ実施後も継続して企画・開発部門の取り組みに関われることは、インハウスのデザイン組織ならではの強みです。そして、一度の実施で終わらせず、参加者からの相談に継続的に応える。さらには、別の企画・開発部門ではどのような進め方が喜ばれるのかを考え、得た知見を次の活動へと還元していく。これらは、個々の実践を組織へと広げ、社内から頼られる組織になっていくために大事にしていることです。
活動を広げ、組織の文化へ
UXデザインを組織の文化として浸透させる活動は着実に歩みを進めており、それぞれの商品企画・開発への伴走を起点に、確かな変化の兆しが見え始めています。例えば、「部門全体へUXデザインを伝えたい」という声が上がったり、ワークショップ後に企画・開発部門から具体的な相談を受けたり、商品開発のより上流から関わるテーマが生まれたりといった変化です。ワークショップ参加者からは「仮説をつくっていくことに面白さを感じた」「企画を考えることにワクワクし、期待感を持った」といった感想も寄せられました。地道な活動が次の相談につながり、少しずつ輪が広がっています。
一方で、UXデザインが浸透するにつれ、部署や立場によって「顧客起点」の捉え方に幅が出てきました。これから目指すのは、その意味を組織として揃えていくことです。商品企画・開発で生まれた理解を営業や経営層にも共有し、商品だけでなく営業、WEBサイト、カタログといったお客様とのあらゆる接点で、「オムロンらしい」と感じられる一貫した価値を届けようとしています。
一つの方法を正解として展開するのではなく、それぞれの現場と向き合い、対話と実践を重ねながら、より良い判断のあり方を共に考え続けていく。デザインセンターのUX浸透活動は、顧客起点のものづくりを組織に根づかせていく活動であり、カルチャーデザインの実践の一つです。