OMRON

Corporate | Japan
健康寿命の延伸を目指して高齢者の自立支援サービスの仕組みづくりに向けた、大分県での挑戦

健康寿命の延伸を目指して高齢者の自立支援サービスの仕組みづくりに向けた、大分県での挑戦

~介護予防の推進を目指して#2~

2020年7月、オムロンと大分県は、高齢者の自立支援に資する介護予防サービス普及に向けた連携協定を結びました(大分県モデル事業)。県内市町に参画いただき、自立支援に資するケアマネジメントの質的向上と負担軽減を目指し、オムロンのテクノロジーを活用した高齢者の自立支援サービスの仕組みづくりに向けた検証を進めています。この取り組みを推進した自立支援事業推進部のプロダクトマネージャである西條和徳が、連携開始に至るまでのストーリーとその後の大分県での挑戦について語ります。

~介護予防の推進を目指して#1~はこちらから

725_2.png自立支援事業推進部 プロダクトマネージャ
西條 和徳
2010年04月:オムロン入社(インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー アプリセンサ事業部 仙台販売課)
2018年10月:イノベーション推進本部 CTO室(2020年4月から本PJに参加)
2022年04月:イノベーション推進本部 自立支援事業推進部
※組織名、役職等は取材当時のものです(2023年2月)

オムロンが2030年に向けて掲げる長期ビジョン「Shaping the Future 2030」では、"人が活きるオートメーション"によって「カーボンニュートラルの実現」、「デジタル化社会の実現」、「健康寿命の延伸」に貢献し、社会全体の豊かさと、自分らしさの追求が両立する自律社会の実現を目指しています。
この中の1つ、「健康寿命の延伸」を実現するために、私たちは「介護予防」に着目。大分県と連携協定を締結しICTを活用したケアマネジメントの質と効率の向上に取り組み始めました。
この取り組みは、大分県での先進的な介護予防の取り組みを進めてきた立役者であり、自立支援型デイサービスで15年以上高齢者を元気にし続けている株式会社ライフリー代表取締役の佐藤孝臣さんとの出会いから始まりました。

 

高齢者が元気でいられるような仕組みづくりを目指して

─佐藤孝臣さんの活動を通して、どのようなことに気づかれたのでしょうか?

佐藤さんの活動は、私にとって驚きの連続でした。生活不活発病といわれる、日常生活の活動が不活発になることで生じる心身機能などが低下した多くの皆さんが、デイサービスに通ううちにここ最近できなくなったことがもう一度できるようになり、笑顔で介護サービスを卒業し、日常生活に戻っていかれるのです。そのポイントは、アセスメントを通じて生活課題とその要因を分析したうえで、一人ひとりに適切な機能訓練や自宅でのセルフマネジメントを提案し、その実行をされていることです。
根本原因へ適切にアプローチし、運動機能や生活機能を向上させ、それによって自信や意欲も向上してさらに活動量が増える。体力も養われ、生活習慣も改善し、認定状態から改善することが可能となります。それを、わずか3カ月から半年で実現させてしまうのが、佐藤さんが手掛ける自立支援サービス(市町村が取り組む介護予防・日常生活支援総合事業のひとつである、短期集中予防サービス)です。

その様子を目の当たりにし、佐藤さんが取り組むこの自立支援サービスが日本中に拡がり、元気な高齢者に溢れる社会をつくることで、オムロンが目標としている「健康寿命の延伸」の実現を加速することができるのではないかと考えました。しかし、このサービスは、約1,700ある日本各地の市町村にはまだまだ浸透していないことがわかりました。それはなぜなのか。浸透の妨げとなっている課題を見出すために私たちは佐藤さんと行動を共にし、解決に資するソリューションを創造するための価値検証に取り組みました。

─価値検証はどのように進めていかれたのでしょうか?

まず、自立支援・介護予防が成立している構造を理解することから取り組みました。
"介護"と異なり、"介護予防"の領域では実施主体は市町村であり、彼らとともに地域包括支援センターやサービス提供事業所をはじめとする多くの関係者が互いに連携し、有効な介護予防事業を展開しています。また、都道府県は、市町村の取り組みを支援する立場にあります。
その中で、短期集中予防サービスなど介護予防を通じた高齢者が元気に溢れる地域づくりには、各関係者の高度な役割の発揮と、関係者同士が連携・連動することが大きなポイントであることがわかってきました。具体的には、まず市町村が地域内の現状を分析し、施策形成します。その施策のもと、地域の高齢者の窓口である地域包括支援センターが、日常生活の困りごとをアセスメントで分析し、適切な支援の方向性をケアプランとして定めフォローするケアマネジメントを行います。その後、サービス提供事業所が、ケアプランをもとに高齢者一人ひとりに自立支援に資するサービスを提供します。また、高齢者ご自身も自宅でのセルフマネジメントといった取り組みに励み続ける必要があります。こうした流れの中で、市町村は各者の現状を把握し成果・課題を考察、次の施策形成につなげていきます。介護予防施策を通じ、元気な高齢者に溢れる地域づくりは、この構造がうまく回った結果であると考えています。

725_3.jpg

─その構造に対して、どのように課題を捉えられたのでしょうか?

介護予防に関わる皆さんの高度な役割発揮と、多くの関係者間での連携・連動が必須であるため、この構造を持続可能かつ再現性高く実現する、そして実現し続けていくのは、針の穴を通すような難しさがあると感じました。どこか1カ所でも滞ると、全体の流れがストップします。また、関係者間の連携・連動がなければ、一体的な支援ではなくなります。
このことから、市町村、地域包括支援センター、提供事業所それぞれをつなげ、高齢者が元気に溢れる地域づくりの"しくみ"が必要だと強く感じ、ソリューションを構想しています。
さらに、その中では地域包括支援センターの役割が鍵を握ると考えています。地域包括支援センターは日常生活に困りごとを抱えた高齢者の相談窓口であり、アセスメントを通じて高齢者の状態像を見極め、数多の支援策の中から自立支援に資する適切な支援を判断し、高齢者・家族とその合意形成をするという"入口"の大きな役割を担っています。
さらに、目線を高齢者一人ひとりから地域に昇華させ、地域課題やその解決策の検討と、多職種連携で実行していく中核的存在でもあります。

─それを解決するために、オムロン独自のICT技術で支援する介護予防ケアマネジメントサービスを始められたのですね。

はい、まずは地域包括支援センターのご支援を第一段として位置づけ、スタートしました。
地域包括支援センターの数ある業務の中でも、アセスメントやプラン作成を軸に自立支援に資する介護予防ケアマネジメントが全体構造のなかの"入口"として特に重要と捉えたからです。
具体的なサービスは、佐藤さんをはじめとする専門職の知識や経験、思考過程をシステム化し、誰もが自立支援に資するケアマネジメントを実行できるように支援するICTと、研修会などでのICT活用・定着を支援する人的フォローアップです。

今回のICTは、単に「任せきり」にするものではなく、介護の現場で人と人とのコミュニケーションを大事にしたうえでICTを一つの武器として捉えた「人が活きるオートメーション」をコンセプトとしています。これは、オムロン創業者・立石一真の「機械にできることは機械に任せ、人間はより創造的な分野で活動を楽しむべきである」という哲学をベースにしています。高齢者の抱える生活課題や阻害要因を聞き取り分析する「アセスメント工程」と、その内容をもとに整理し合意形成を重ねていく「プラン工程」をコアに、訪問の面談時や事務所でタブレットとPCで活用できるものです。専門職の思考過程やノウハウがたっぷり入った独自のサービスで、すでにご好評いただいています。

また、現場の地域包括支援センターの職員や市職員の方々向けに、研修会や人材育成の場もフォローアップとして提供しています。慣れないICTデバイス・画面の体験会や、実際にICTを活用したアセスメント結果を多職種参加の場で共有して見立ての助言をいただけるようなフォローアップも行っています。ICTありきでなく、ICTを通じて高齢者の自立支援に資するケアマネジメントをチーム一体で実現する視点で、広範に取り組んでいます。

 

大分県での事業検証の歩み

─なぜ大分県と連携協定を締結し、地域の中で事業検証を進めようとされたのでしょうか?

私たちが目指しているのは「人が活きるオートメーション」です。自立支援、介護予防を通じて、高齢者が元気になる"仕組み"を提供することが大切だと考えています。その仕組みづくりを考えると、オムロン単独で事業検証を進めることはできません。市町村や地域包括支援センター、介護事業所といったさまざまな関係者の協力を得ることが必要です。
そうした中、大分県は"健康寿命日本一"を目指し、これまで地域ケア会議や短期集中予防サービス、住民主体の介護予防の推進にいち早く取り組まれてきました。今後の更なる推進に向けて両者の想いが合致し、2020年7月に連携協定を締結し、共に実証事業(以下、モデル事業)を進めています。
この大分県モデル事業は、大分県とオムロンが主体者となり、大分県内において自立支援に向けたサービスが適切に導入・実施できる体制づくりに取り組むことを目的にしています。モデル事業のビジョンに共感し、自分たちの地域でも自立支援、介護予防を一層推進したい市町村が手を挙げ、地域包括支援センターなどと一緒に参画いただいています。
そこでは、自立支援に資する介護予防ケアマネジメントを支援するICTの活用などを通じ、専門職個人の知識や経験に委ねられてきたアセスメントやプラン、合意形成をより質的向上・平準化できるか、また業務の効率化を図れるかどうかを実証しています。さらに、私たちの自立支援(介護予防)ソリューションを導入することにより、高齢者がきちんと自立できるか、そのための支援になっているか、重度化防止できているかまでも検証しようとしています。

─現時点での成果を教えてください

モデル事業1年目は4市町でスタートし、2年目の2021年度は大分県内18市町村の半数となる9市町が参画するまでに拡大しました。
ICTを活用することによって、多くのデータを蓄積することができます。それらを分析することで、自立支援サービスの効果測定もできるようになってきました。高齢者一人ひとりの状態に応じたアセスメント結果や実施した自立支援サービスの内容を入力し、経過ごとにどのような改善がされていくのかをデータ化しています。どのような自立支援サービスを続けると何週目で改善が著しくみられるのか、元気になりやすい人はどのような人なのか...といった、自立支援サービスの効果の見える化が行えるようになりつつあります。

─順調に進んでいますね。価値検証を進めていく中で見えてきたことを教えてください

単にICTを導入すればすべて解決するのではなく、日常業務のなかで地域に実装されていくにはステップがあるということです。まずは"自立支援に資する介護予防ケアマネジメント"の重要性やいま取り組むべき理由を、市町村や地域包括支援センター全体で研修会などを通じて理解する。そのうえで、実行に資する思考過程や具体的な業務の流れを、ICT交えて体験。それを日々の業務・実事例でICTを活用し、地域ケア会議やフォローアップの場で佐藤さんや専門職、地域包括支援センター職員同士でフィードバックし合い、次のアクションや次の実事例に活かす。一見長いステップに見えるかもしれませんが、この積み重ねによって本当の意味での実装に近づくと感じています。ケア会議やフォローアップの場は、多いところでは毎月実施するためスピード感もあります。結果として、「モデル事業参加・ICT活用前後で意識と行動が本当に変わった。成功事例も出ているよ」と嬉しい言葉をいただけるようになりました。

また、ICTでしっかりアセスメントして合意形成できた事例を"地域ケア会議"で積み重ねることで、介護予防施策の入口からサービス提供、サービス終了後の出口までの全体像を捉えることができ、市町村ごとに地域課題が見えるようになってきました。ここにICT活用のデータ分析結果も交えることで、より客観的な地域課題の発見につながり、次の施策を導くことができます。例えば、サービスを利用して状態が改善したにも関わらず、"一人で買い物をする"という生活課題が解決していない場合。その理由を探ると、実は最近スーパーが撤退して買い物に行きづらくなったためであることがわかり、そうすると買い物支援などの生活支援体制整備が必要になる...というものです。

こうしたことから、私たちは単なる"ICTシステム屋"ではなく、自立支援に資する地域づくりと、その効果の最大化を支援する自治体のパートナーとして、市町村・地域包括支援センター・介護事業所と密接に連携しながら推進できるよう、各種研修会やコンサルティングなどのサービス展開の必要性を感じています。
2022年度は、12市町での実証に拡大しました。3年目のモデル事業はデータドリブンにも取り組み、さらなる介護予防を推進していきます。

725_4.jpg

 

自立支援サービス実現への想い

─オムロンが目指す高齢者の自立支援とは?

私たちの目標は「健康寿命の延伸」。つまり、高齢者の皆さんが、住み慣れた地域で自分らしくいきいきと暮らし続けられるようになることです。そのために、介護予防に関わる市町村や地域包括支援センターなどの関係者それぞれが自立支援に資する役割を発揮し、関係者間で連携・連動できる仕組みをつくっていく重要性は、佐藤さんの活動から学ばせていただき、大きく共鳴しています。
今後、団塊の世代が 75 歳以上の後期高齢者となる2025年、団塊ジュニア世代が高齢者になる2040年を見据え、自立支援が効果的にワークする仕組みを急ぎ構築していく転換期にあります。
そこに私たちのICT×人的支援のソリューションを通じて、これまで以上に自立支援の仕組み構築を加速させるとともに、再現性をもって日本全体へ拡大することができると考えています。

日本の高齢者の元気な笑顔をどんどん拡げていく。佐藤さんに出会い、大分県と連携を開始する前までは、夢のような話だと思っていました。しかし今では、大分県モデル事業で佐藤さんと一緒に活動し、オムロンの技術を活かした最適なソリューションを確立させることで実現できると確信を持っています。

─今後の目標を教えてください

市町村や現場関係者の皆さんの取り組みに私たちのソリューションを掛け合わせることで実現する、介護予防効果の最大化です。
アセスメントを通じて状態や課題を分析し、適切な支援を通じて生活機能が改善する。こうして高齢者がこれまで以上にいきいきとし元気が溢れる地域づくりを目指したいです。その先には、今後一層上昇するといわれる介護給付費の適正化や、介護人材の不足解消にも貢献していきたいと考えています。
今後10年を見据えると、先手を打って自立支援の取り組みを立ち上げ、加速していくことが求められるのは都市部周辺の市町村であると想定します。中でも、昭和40年代から50年代にかけて開発されたベッドタウンを擁する都市部近郊や大阪は、2025年以降の高齢化率が特に高まります。そのため、一刻も早く日本中に広げていく必要があると感じています。

すでに、2022年4月には大阪府と事業連携協定を、さらに9月には石川県小松市とも包括連携協定を締結しました。今後も、さらに取り組みを加速していきます。

725_5.jpg2022年4月25日大阪府との事業連携協定締結式後、メディア向けに説明をしている様子

また、国や都道府県、市町村の役割も変化してくると予測しています。これまでは、介護予防と生活習慣病の疾病予防・重症化予防が同じ高齢者相手に別々に展開されていますが、いまはそれらが一体的に実施され始めようとしています。こうした取り組みは、超高齢社会を乗り越える大きな動きであり、私たちも貢献できないかと構想しています。
日本が抱える"介護"という大きな社会的課題の解決に向けて、ますます意欲的に大分県や大阪府、石川県小松市との実証に励み、その成果をもとに拡げていきます。

関連リンク

ページ
上部へ