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デジタル化社会の実現に向けたオムロンのDX推進技術

現在、社会の様々な場面において、データ解析・機械学習・AI(Artificial Intelligence)、シミュレーションに代表されるデジタル技術の浸透が急速に進んでいます。この現象は、社会の自動化(オートメーション)が半世紀以上続いたことに加え、情報化社会の中で発展したデジタル技術が社会に浸透していくことによって進展してきました。デジタル技術によって実現する、社会の生産性向上や安心・安全・利便性の向上などの社会変革をデジタルトランスフォーメーション(DX: Digital Transformation)と呼びます。このDXを支える新たな技術の開発および社会への実装が今後更に加速していくと予想されます1)。本稿では特にモノづくりの現場におけるオムロンのDX推進を紹介し、将来取り組むべき技術開発の方向性と中長期的に期待される展開について述べます。

モノづくりにおけるDX

現在、オムロンではモノづくり現場の生産性向上に取り組んでいます。具体的には、デジタル技術を積極的に活用する製品設計や生産ラインの確立に向けた現場プロセスの変革を推進しています。工場のファクトリーオートメーション向け電源や、家庭用の太陽光発電向けパワーコンディショナの製品設計の現場では、最終製品の性能や品質を担保するために試作品を用いた検証を複数回実施する必要があり、その開発工数と期間が多大になるという課題がありました。これに対し、デジタル化した設計情報にCAE(Computer Aided Engineering)等のシミュレーションツールを適用し、シミュレーション上で性能や品質の検証を行います。このような開発手法を現場プロセスに組み入れることにより、試作の製作と実験に係るコストを削減し、開発リードタイムを短縮することが可能となります。

シミュレーションを活用した開発手法の可能性は、開発リードタイムの短縮に留まりません。設計情報のパラメータの組み合わせを何通りもシミュレーションで再現しながら調整し最適化することで、従来の試作による検証ではコストや開発期間の制約により困難であった小型化や高性能化が可能となります。このような設計最適化に関する技術開発を現在、外部研究機関と連携しながら進めています。

デジタル技術の活用は生産ラインでも進めています。生産ラインでは、製造する製品の変更や設備の不具合発生などの変化が発生した時に設備の調整が必要となります。これらの調整は複雑な操作が必要なものが多く、経験が豊富な熟練者のノウハウとスキルが必要となります。また調整中は生産ラインのダウンタイムとなり、生産性の低下につながります。これらの課題に対応するために、デジタル技術を活用し設備を調整する手法を開発しています。シミュレーションは生産ラインを調整した後の生産ライン全体の動作を検証するために活用します。データ解析・機械学習・AIは設備の状態を把握し調整を支援する役割を果たします。

本号では、このようなモノづくり現場の生産性向上を実現するデジタル技術に関して、オムロンの取り組みをご紹介します。

人と機械のインタラクション

近年におけるAIの技術発展は目覚ましく、大規模言語モデル(LLM: Large Language Model)をはじめとする生成AIにより、人と遜色のない自然な会話のやりとりが可能となってきています。生成AIは、人が本来持っている言語表現のゆらぎを吸収し抽象的な表現を補足することで、人の意図を解釈します。この生成AIの能力を活用し、人が伝える意図を解釈した上で機械が理解できる形に変換することで、自然な言葉を用いて機械に指示を出すことが可能となります。これにより、複雑な操作が必要な機械に対して平易な言葉で指示ができるようになることが期待されます。更には、生成AIの発展形であり、自発的に人や機械に働きかける「AIエージェント2)」の出現により、熟練者でなければ理解できない調整に対しても適切な操作をAIエージェントが人にアドバイスする、またはAIエージェントが自律的に機械を操作するようになることが期待されます。

今後オムロンは、このような人と機械のインタラクションの実現も視野に入れつつ、生成AIを活用する技術の開発に取り組んでいきます。

「人と機械の協働」と自律社会に向けて

デジタル技術により人と機械の自然言語を用いたインタラクションが実現すれば、人は煩雑な現場プロセスの負担から解放されるようになります。デジタル技術がこのようなレベルに到達すると、人に合わせて機械が動作する「人と機械の協働」に近づきます。「人と機械の協働」はモノづくりの現場だけに留まらず、社会のあらゆる場面で活きる概念です。

今までの社会発展をSINIC理論3)と照らし合わせると、機械が人の負担を代替する自動化社会、様々な機械が情報通信技術によってデータでつながる情報化社会、価値観が物による豊かさから精神的な豊かさに変化する最適化社会を経て、現在は自律社会に向かっています。今後、効率や生産性だけを求めて機械を操作する人に負担を課すのではなく、「人と機械の協働」により人が機械の支援を受けながら自律して働き生活するようになれば、人が個人の個性と自由を生かしつつ個々の豊かさを追求できる自律社会に近づくと考えられます。その意味でもデジタル技術の重要性は今後も増すばかりであり、オムロンはその可能性に向けた挑戦を続けていく所存です。

1)
経済産業省. “デジタルガバナンス・コード3.0 ~DX経営による企業価値向上に向けて~.” 経済産業省. https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dgc/dgc3.0.pdf(Accessed: Mar. 14, 2025).
2)
Y. Shavit et.al., “Practices for Governing Agentic AI Systems.” OpenAI. https://cdn.openai.com/papers/practices-for-governing-agentic-ai-systems.pdf(Accessed: Mar. 14, 2025).
3)
中間真一, SINIC理論, 日本能率協会マネジメントセンター, 2022.

松原大典写真
オムロン株式会社
技術・知財本部 技術・知財戦略室 経営基幹職
松原大典

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