We are Shaping the Future!私たちが手繰り寄せる未来ストーリー

――オムロン デジタルソリューションセンタが挑む開発DX
デジタル技術の進化は、製品やサービスだけでなく、それらを生み出す「開発プロセス」そのものを大きく変えようとしています。
オムロンは長期ビジョン「SF2030」の実現に向けた中期ロードマップ「SF 2nd Stage」において、注力13事業を定めるとともに、その競争力の源泉となる全社重要技術領域を定義しました。その一つが、オムロンの開発・生産プロセスを革新する「開発DX/ソリューション」の領域です。
AI・データサイエンス・CAE(Computer Aided Engineering)や、クラウド基盤などのデジタル技術を活用しながら、研究開発から商品開発・生産までのプロセスを革新し、競争力の高い商品をいち早く市場へ投入する。そうした全社的な変革を推進する中核組織が、ストラテジックR&D本部 デジタルソリューションセンタ(以下DSC)です。
今回のインタビューでは、デジタルソリューションセンタ長の土屋直樹さんと、デジタルデザイン部長の蜂谷孝治さんに、組織のミッションや全社で担う役割、そして研究開発DXの未来について聞きました。
ストラテジックR&D本部 デジタルソリューションセンタ長 土屋直樹
──オムロンが研究開発DXを推進する背景について教えてください。
土屋:オムロンでは中期ロードマップ「SF 2nd Stage」の策定にあたり、市場環境や競争環境をあらためて分析しました。その結果、事業成長をさらに加速していくためには、競争力の高い商品をより早くお客さまへ届けることや、研究開発投資の効率をより高めていく必要があるという課題が明白になりました。そこで全社として掲げているのが、開発生産性*1を従来の2.5倍に高めるという目標です。この目標は、小さな改善を積み重ねるだけで実現できるものではありません。従来とは異なるものづくりの手法や、それを支える新しい開発プロセス、デジタル活用を支える技術基盤を一体で進化させていく必要があります。
*1:開発生産性=営業利益/研究開発費ただし投資実行から利益貢献までのリードタイムを見込む
──DSCを立ち上げた背景を教えてください。
土屋:きっかけは、社内の開発や生産の現場に蓄積されているノウハウの多くが、個人の経験と勘に依存していたことです。それは、多様な事業、多種の商品を扱うオムロンが価値を提供し続ける上で必要な強みでもあります。一方で、AIやクラウドをはじめとするデジタル技術が急速に進化し、市場や顧客ニーズの変化も加速する中、製造業においてもDXによる競争力強化が重要な経営課題となっていました。そうした時代変化の中、競争力の高いものづくりを実現していくためには、経験と勘だけに頼るのではなく、論理やデータに基づいて判断し、その知見を組織として継承できる状態に進化させていく必要があると考えました。当時、CAEやデータ解析ができる人財は各事業部門に点在していたため、一つの組織に集約し全社に貢献できる体制を構築しようと、DSCの前身であるデジタルデザインセンタを2022年に立ち上げました。
AI・データサイエンス・CAE、クラウド基盤といったデジタル技術を連携させ、全社の開発プロセスそのものを変革する。それがDSCの役割です。

ストラテジックR&D本部 デジタルデザイン部長 蜂谷孝治
──どのように開発プロセスを変革しているのでしょうか。
蜂谷:DSCでは、「ストック」と「フロー」の両輪で技術開発を進めています。ストックは新しい技術を生み出し蓄積すること、フローはそれを事業で活用し価値につなげることです。さらに、フローで見えてきた課題を次のストックにつなげることで、技術進化と事業貢献の好循環を生み出しています。
そして、この好循環の中で進めているのが、AI・データサイエンス・CAEの融合です。私たちはこれらを個別技術ではなく、「開発プロセスを変革する一連の技術」として捉えています。CAEは物理法則に基づいて演繹的に予測し、AI・データサイエンスはデータから帰納的に現象を解き明かす。それぞれ異なるアプローチですが、組み合わせることで新たな可能性が生まれます。
例えば、CAEの計算を高速・高精度化したり、AIやデータサイエンスの出力に説明性を付与したりすることができます。私たちはこうした技術融合によって、開発プロセスの効率化と高度化を実現するとともに、より高性能で付加価値の高い商品づくりを推進しています。
──その技術融合は、実際の開発現場ではどのような成果につながっていますか。
蜂谷:最も効果が見え始めているのは、パワーエレクトロニクス分野の商品開発です。
この分野では、電力の損失を抑えた高い変換効率や、製品の小型化を実現するための高い放熱性など、高度な設計が常に求められます。そのため従来から、回路や熱流体のシミュレーションを行ってきました。現在はそこに最適化技術を組み合わせることで、より高性能な商品を、より短期間で開発する取り組みを進めています。ここでも、CAE・AI・データサイエンスの融合が重要な役割を果たしています。例えば、最適な設計を探索するためには大量のシミュレーションが必要になりますが、その計算速度を飛躍的に高めるためにサロゲートモデルを活用しています。また、最適化の過程ではデータサイエンスの知見も欠かせません。つまり、CAEだけでも、AIだけでも実現できない価値を、技術融合によって生み出しているのです。
土屋:技術融合の効果は、社内でも着実に認められ始めています。パワーコンディショナの開発部門との取り組みでは、私たちが提案した新しい開発手法の効果を実感していただき、現在では事業部門側から新たな相談や提案をいただく機会も増えています。また、既存商品のVE(バリューエンジニアリング)では軽量化による施工性向上を見出した事例もあります。
さらに、データサイエンス領域では監査業務の自動化による業務効率化、生産部門との連携では海外工場の生産ライン立ち上げ期間を約1カ月から約1週間へ短縮するなど、開発・生産・品質にわたる幅広い領域で成果が生まれています。
こうした成果を通じて、「データ活用でここまで変えられるのか」と価値を実感してもらえることが、私たちにとって何よりのやりがいです。

──オムロンのDSCだからこそ得られる成長機会とは何でしょうか。
蜂谷:最大の特長は、専門性を深めながら、多くの商品と事業に関われることです。
オムロンには、制御機器、ヘルスケア、社会システムなど多様な事業があります。一つの会社にいながら、これだけ幅広い製品や開発課題、物理現象を扱える企業は多くありません。特定の事業や製品に閉じることなく経験を広げられるため、専門性を軸にしながらキャリアの可能性を広げていくことができます。
もう一つの特長は、事業との距離の近さです。私たちは商品開発や生産プロセスの改善に深く携わっています。自分たちが提案した技術や手法が現場で使われ、事業成果につながる瞬間を直接見ることができます。
──人財育成の面では、どのような特徴がありますか。
蜂谷:一般的な企業では、AI、データサイエンス、CAEといった技術領域の専門家は、それぞれ異なる部門や組織で活動していることが少なくありません。一方DSCでは、それらの技術者が同じ組織に集まり、お互いの専門性を学び合える環境があります。CAE技術者がデータサイエンスに触れる。あるいはAIの技術者が物理現象への理解を深める。そうした交流の中から、新しい発想が生まれています。
現在は、一つの専門性だけではなく、複数の技術領域を理解し活用できる人財が求められています。DSCはそうした次世代エンジニアが育つ環境になっています。
──事業と密接に関わるうえで、大切にしていることは何ですか。
土屋:私が常にメンバーに伝えているのが「何のためにやるのか」という問いです。何をやりたいのか、なぜやりたいのか、どんな価値を生み出したいのか。そうした想いを持つことが、成長の出発点になると考えています。もちろん、提案をそのまま受け入れるわけではありません。その取り組みが事業や社会にどのような価値をもたらすのかを議論しながら、一緒にテーマを磨いていきます。
重要なのは、自ら課題を見つけ、周囲を巻き込みながら実行していくことです。そうした経験を通じて、技術と事業をつなぐ視点を持った技術者へと成長してほしいと考えています。
──技術者の成長を後押しするために、組織としてどのような取り組みを行っていますか。
蜂谷:実践を通じて経験を積み重ねることに加えて、私たちが成長機会として大切にしているのが対外発表です。社外のトップランナーと議論し、フィードバックを得ることは、技術を磨く貴重な機会になります。DSCには、各技術領域で社外からもエキスパートとして認知される人財が揃っており、学会や業界団体、共同研究先とのネットワークもあります。成果が出れば、「ここで発表してみよう」と声をかけ合い、発表準備も組織として支援します。研究成果を社外に発信し、評価を受ける経験は大きな成長機会になっています。

──DSCを今後どのような組織に進化させていきたいですか。
土屋:私たちは、オムロンの開発・生産プロセスを変革するという課題認識のもとに立ち上がった組織です。全社に開発DXが定着し、市場成長を上回るスピードで価値を生み出せるようになったとき、DSCの役割は大きく変わっているかもしれません。しかし、それは私たちの挑戦が実を結んだ証でもあります。技術は進化し続けますし、市場や社会から求められる価値も変わり続けます。そのとき、私たちはまた新しい課題に挑み、次の変革を生み出す役割を担っているはずです。だからこそ、その変化を一日でも早く実現したいと考えています。
──最後に、どのような人財に加わってほしいか、メッセージをお願いします。
土屋:自らの専門性に確かな軸を持ちながら、他の技術領域にも関心を広げ、学び合える人に加わってほしいと考えています。私たちは単に技術を開発する組織ではありません。技術成果を事業成長の力に変え、開発プロセスそのものを進化させることで、オムロンの競争力を高めていく組織です。人と人、技術と技術が融合することで、新しい価値は生まれます。オムロンの未来を切り拓き、日本のものづくりの新しいスタンダードを創りたい。そんな志を持つ方と、新たな価値創造に挑戦できることを楽しみにしています。