We are Shaping the Future!私たちが手繰り寄せる未来ストーリー

オムロンがFA技術で挑む「農業オートメーション」
2050年には地球の人口が100億人を超え、食料需要は現在から35〜50%増加すると予測されています。一方で、農業の労働人口は減少の一途をたどり、加えて世界的な気候変動による生産被害の拡大や、地政学リスクに伴う化学肥料費の高騰など、農業生産を取り巻く環境は厳しさを増しています。
そうしたなか、オムロンはFA(ファクトリーオートメーション)で培ってきた技術を活かし、農業経営の課題解決に挑もうとしています。本日は、制御機器事業の新ドメイン事業開発センタでプロジェクトを推進する岡田さんと、システム開発を率いる大串さんにお話を伺いました。

制御機器事業 商品事業本部 新ドメイン事業開発センタ
プロジェクト推進リーダー 岡田さん(左)とシステム開発リーダー 大串さん(右)
岡田:一口に農業・農作物といっても多種多様ですが、オムロンがターゲットに定めたのは、すでに大手農機メーカーが参入している米や麦などの穀物類ではなく、露地栽培や施設園芸、植物工場で大規模に果菜類を生産する農業法人です。
果菜類の生産現場では、農業従事者の高齢化や後継者不足が深刻化する一方で、集約化・大規模化が急速に進んでいます。しかし、人材不足のなかで自動化はほとんど進んでおらず、技術的にも市場的にも開発途上の領域です。それだけに、今後大きな成長が見込めると考えています。

大串:私たちが現在進めているのは、オムロンがFAで培ってきた制御技術と、強みであるデバイス、そしてデータを組み合わせた農業オートメーションの開発です。作物の育成状況を精緻に把握し、データに基づいて効率的な作業工程を組むことで、運営コストの削減と収穫量の増加を同時に実現するモニタリングサービスを開発しています。
これまで生産者の「カン・コツ」に頼ってきた現場の運用・管理を、確かなデータに基づく運営へと転換し、農業経営そのものを支えるソリューションを目指しています。

岡田:私たちはまず生産者を訪ね、農園で実際の作業を体験しながらシステム開発を進めました。そのなかで見えてきたのが、「現場の管理・運営をいかに計画的に進めなければならないか」ということでした。
たとえば、作物の育成を促すためには蕾や実を適度に間引く必要がありますが、その作業量は膨大で、しかも開花や受粉のタイミングは極めて短期間です。そのため、効率的かつ大規模な人員の差配が求められます。さらに国内では農家の集約化・経営の大型化が進み、一人当たりの作業面積は拡大の一途をたどっています。現在、全国平均は3.7haにもなり、これは甲子園球場に相当する広さです。
広大な敷地のなかで、エリアごとに作物の育成進捗が異なるため、本来はきめ細やかな管理が必要です。しかし、これだけの敷地を少人数で見るには限界があり、管理が行き届かないことで生産量や品質の低下が生じていました。
大串:ある農園では、400万個の蕾、100万個の実をわずか3名ほどで管理しており、認識・把握の限界を完全に超えていました。収量予測の際にも、広大な敷地をすべて見回ることは現実的ではなく、従来は全体の1%程度をサンプル抽出して予測を行うのが一般的でした。しかしこの手法では精度に限界があり、予測と実績の誤差が20〜30%に達することも珍しくありませんでした。

従来の人によるカウント結果(上)とシステムによるカウント結果(下)の比較、「解像度」の違い
農業経営においては、いかに収穫予測の精度を高めるかが極めて重要です。そのためには、広大な農園で作物の育成状況を正確に把握し、作業シーズンに合わせて人員を効率的に差配する仕組みが欠かせません。
プロジェクト立ち上げ当初、私たちの仮説は「作業自動化へのニーズ」にありました。しかし、お客様との対話を重ねるなかで見えてきたのは、まず広大な農園のなかで作物の育成状況を精緻に把握し、そのデータを活用できる環境をつくること—つまり、生産性を高めるための「素地」を整えることこそが、経営の本質的なニーズだったのです。

大串:こうして生まれたのが、作物の育成データを自動で収集し、可視化するモニタリングシステムです。
まず、高精度な画像センサを搭載したセンサビークルを敷地内で走行させ、作物一つひとつの育成データを自動で収集します。そのデータをもとにエリアごとの育成状況をヒートマップで可視化し、敷地全体を俯瞰的に把握できるようにしました。生産者はこの可視化情報をもとに、「作業がどこまで進んでいるか」「いつまでに終えるべきか」といった詳細な作業計画を立てられるようになります。
私たちが実証実験を行ったキウイ農園では、開花から48時間以内に受粉させる必要がありました。しかしキウイの花粉は高価なため農園全体に一斉散布することはできず、散布するエリアや作業のタイミングを細かく管理する必要があります。そこで私たちのセンサビークルを使って、高精度な育成データを短時間で収集し、エリア別に可視化することで、作業効率を飛躍的に高めることができました。
また、このシステムを実現するには、不安定な屋外環境下でも作物の状態を高精度にセンシングする技術が不可欠です。日中の屋外には日光や陰など撮像に影響を与える外乱が多数存在し、通常は精度が大きく低下します。しかし、私たちが持つセンシング技術とAI技術を組み合わせることで、昼間でも90%以上、夜間であれば99%という誤検知ほぼゼロの検出精度を実現しました。
私たちのサービスを使えば、発芽率、芽や実の数、大きさなどを細かくモニタリングできます。これによりカン・コツに頼ってきた作業管理から脱却し、作業する期間や配置する人員を最適化することが可能になります。さらに収穫量の予測精度が上がることで、経営計画そのものの精度も高まります。センシングの強みとデータを組み合わせることで、新たな価値が生まれたのです。
岡田:さらに今回の取り組みでは、他社との協業も積極的に進めました。本システムでは、足場の悪い農園でも安定して走行できるビークルが不可欠です。そこで、多様なロボットの足回りとなる多目的電動台車「MITRA」の開発を進めていたスズキ株式会社と協業し、センサビークルを開発しました。
今後も、私たちの製品や技術だけで実現できない領域については、外部パートナーと積極的に連携しながら補い合い、お客様の課題を一つひとつ解決していきたいと考えています。

センサビークル(左)/モニタリングシステム画面(右)

岡田:国内の実証実験では、確かな手応えを得ることができました。私たちのシステムを活用いただいた生産者からは、「収益効果で約30%も改善できた」とのお声もいただいています。作業エリアの優先順位を考慮した計画立案や、細やかな作業管理により収穫量が増え、加えて量を正確に見通せるようになったことで、その年の売上規模をあらかじめ把握でき、地に足のついた経営計画を立てられるようになったことが、大きな収益改善効果につながりました。私たちの開発したシステムが、現場の課題解決を経営の課題解決へとつなぐ新たなデータソリューションとして、確かな価値を提供できると確信しています。
現在、2026年度内のサービスローンチに向けて社会実装の活動を進めています。今はモニタリングに特化したシステムですが、ゆくゆくは農生産モニタリングから熟練者の判断を誰もが再現できる農作業ナビゲーション機能へ、さらに人手不足を補う収穫ロボットなどの農作業オートメーション機能へと、生産者のニーズに応えながら事業を進化させていくロードマップを描いています。
農業オートメーションの市場は、今後CAGR(年平均成長率)15%という大きな成長期に入ると言われています。私たちは最終的に、作業者の身体的・心理的負担からの解放を実現し、人々が働きがいを感じられる魅力的な産業を築くことに貢献していきたいと考えています。
オムロンが2021年に掲げた長期ビジョン「SF2030(Shaping the Future 2030)」は、2026年から新ステージ「SF 2nd Stage」に突入しました。私たちは今、コア技術「センシング&コントロール+THINK」をさらに進化させ、強みのデバイスとデータを組み合わせたソリューションの開発に取り組んでいます。創業以来、オートメーションによって新たな社会ニーズに応え続けてきたオムロンの挑戦は、これからも続きます。