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新技術で社会的課題を解決した世界初の無人駅システム

新技術で社会的課題を解決した世界初の無人駅システム

ビジョナリーの視点 -オムロン創業者・立石一真の思考から紐解くイノベーションと企業経営:第五話

8回にわたって、稀有な技術系経営者であったオムロンの創業者、立石一真の思考と思索の跡をたどり、その成長の過程とビジネス哲学の背景を紐解いていく本コラム。

第五回目は、自動制御の技術にコンピュータを組み合わせた「サイバーネーション」という新しい技術に次の社会的なニーズがあることを確信した一真が取り組んだ挑戦、世界初の無人駅システムの開発をご紹介します。


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日常生活の「当たり前」を支えるイノベーション

普段の暮らしで当たり前に使っている多くのものは、実は昔、画期的な技術によって生み出されたイノベーションが、時間をかけて定着したものだったりします。

読者の皆さんが、毎日のように利用されている駅の自動改札機や、切符発売機、それらの機器を中心に構成されている無人駅システムは、その身近な例の1つといえます。実は、これもオムロンが今から約50年前、1960年代後半に世界で初めて実現したものでした。

今も活用され、私たちの暮らしの当たり前を支え続けているこの交通イノベーションが作り上げられた背景には、一真の技術の革新に対する強い想いがありました。

来るべき社会を見据えて設立した中央研究所

一真は、「技術の革新と資金と経営の練達こそが企業を繁栄させる3つの大切な柱である。この中でどれを優先するかというと、私は技術の革新というのをはばからない」と常々語っていました。

そして、1960年に、当時の資本金の4倍もの建設費を使って、R&Dの要となる中央研究所を設立し、最新技術の研究・開発を進めていくことにしました。あまりに大きな投資金額だったため、周囲からは「技術屋社長の道楽だ」などの声も上がりましたが、一真は、社会課題解決に向けた新しい技術として確立するには、このような規模で自由に研究開発ができる拠点が必要であることを強く信じていたのです。そして、この研究所で開発されたのが「サイバーネーション」という新しい技術でした。

248-02.jpg中央研究所

AIにもつながるオートメーションからサイバーネーションへの進化

「サイバーネーション」とは、オムロンが従来から培ってきた自動制御の技術に、コンピュータの持つ能力を組み合わせて生まれるという新たな技術でした。

自動制御は、その名の通り、機械や装置を自動で制御することを指し、それ自体も高度な技術です。そして、そこにフィードバックという機能を加えると、さらに進んだオートメーションの技術になります。

フィードバックとは、私たち自身を含めた生体が持つ機能で、正しい状態やバランスを保つために不可欠なものです。機械や装置の場合にも、さまざまな要因で正常な動作が行われないことがありますが、その結果を元に、処理の入り口のところで調整して正常な状態に補正することもフィードバックです。

このオートメーションにコンピュータの能力を付加し、処理内容を深めたものがサイバーネーションです。単に機械や装置を自動で制御するだけでなく、ものを数えたり、記憶したり、判断するといった、人間が行う頭脳労働的な要素が加わることで、一層高度な処理を行えるようになります。ある意味で、現在のAIを利用した処理につながるものといえるでしょう。

一真は、このサイバーネーションが、これからの社会課題を解決するために大いに役立つと考え、全力で取り組むことにしたのでした。そして、中央研究所の研究員たちは、未経験のコンピュータとオートメーションを組み合わせた技術開発を行い、自動食券販売機などを開発通じて、サイバーネーション技術の基礎を確立していったのです。

高度成長期の社会課題を解決した世界初の無人駅システム

1960年代の中期、当時の日本では、経済発展によって新たな社会的課題が生まれてきました。都市圏への人口集中による朝晩の通勤ラッシュもその一つです。

この時代には、まだ駅の切符発売口や改札口で、駅員が手作業によって切符を1枚ずつ販売、確認するような対応をしていました。そのため、大勢の利用客たちが詰めかけると、たちまち長蛇の列となっていたのです。

そこでオムロンは、1960年代初頭から研究開発を続け、自動券売機や感応式電子信号機などの開発で培ったサイバーネーション技術を応用して、この課題解決に挑戦することにしました。

当初は、ラッシュ時にはほとんどの利用者が定期券を使うことから、目標を定期乗車券専用の自動改札装置に絞って1964年から近畿日本鉄道と共同で開発に着手し、1966年1月に試作機が完成。実用試験に入りました。通常は開いていて、問題の発生時に閉じるノーマル・オープン方式の改札ゲートも、このときに考案されたものです。

定期乗車券専用の自動改札装置の成功で自信をつけた開発陣は、続いて、阪急電鉄が新設を計画していた千里線の北千里駅における、定期乗車券と普通乗車切符の両用自動改札機の導入に挑戦します。普通乗車用切符の自動改札機となると、切符の形状、材質、記録の内容、表面印刷などまったく新しい分野の開発でしたが、テープレコーダーのテープにヒントを得て磁気材料を塗布し、水につけても折り曲げてもデータを読み取ることができる切符を案出。また、どのように投入されても同じ向きで読み取ることができるように、投入口にコマを設けて切符の向きを揃える工夫も行うなど、研究開発→試作機実験→調整を繰り返し、ついに大阪万博3年前の1967年に完成して本格稼働したのです。

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阪急北千里駅に無人駅を実現

こうした積み重ねにより、最終的に、乗車券販売機、定期券穿孔機、紙幣両替機、自動改札機をラインナップした、世界初の無人駅システムが実現しました。そして、このようなサイバーネーション技術の確立を通じて、コンピュータまでも自主開発するなどした結果、従来はとうてい実現できなかった複雑な自動制御が可能となり、その後もキャッシュディスペンサーの開発などへとつながっていったのでした。

以来、オムロンは50年以上にわたって、世界初・日本初の技術やソリューションを実現し、現在も「未来の当たり前」となるような、様々な社会的課題の解決を行っています。

第六回となる次回は、一般消費者にも馴染み深く、オムロンと聞けば多くの方が思い浮かべる血圧計などを生み出す基礎となった、健康工学にまつわるエピソードをお届けします。

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