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オムロンが描くインクルーシブな未来社会

オムロンが描くインクルーシブな未来社会

日本発「インクルージョン国際会議」登壇レポート

毎年12月3日から9日は「障害者週間」です。それに先駆け、10月29日から31日に開催された「インクルージョン国際会議2025」 に、オムロン太陽株式会社 代表取締役社長の辻潤一郎と株式会社ヒューマンルネッサンス研究所 代表取締役社長の立石郁雄が登壇し、インクルーシブな未来社会への貢献について熱く語りました。

 

雇用の場でマジョリティもマイノリティも作らない

WHO(世界保健機関)によれば、障がい者は世界人口の約15%を占め、多くの人が社会の主流から取り残されています。こうした課題を議論するため、国内外からさまざまな立場の参加者が集まり開催されたのが「インクルージョン国際会議」です。今回の会議には、国連人権委員会の副議長、事務局長をはじめ、世界中から関係者が参加し、障がいの有無を越えて共に価値を生み出す「共創社会」への進化がテーマとして掲げられました。

国内外の参加者が多角的な話をする中で、障がい者雇用の先駆的な企業事例としてオムロン太陽社長の辻が登壇しました。
オムロン太陽は1972年に日本で初めて設立された福祉工場で、共生から共創の職場を50年以上にわたり実践し続けています。国際会議で辻は次のように語りました。

「障がいのある人が働くことが想像されなかった時代に、仕事に障がいはないとの思いと、『よりよい社会をつくりましょう』というオムロンの社憲の精神によって設立されたのがオムロン太陽です。利益を出し、雇用を生み、社会に貢献してきました。障がいがあっても技術や仕組みがあれば、働くことは実現可能です」

日本の「障害者雇用促進法」において、身体障がい者の雇用が事業主の義務となったのは1976年です。オムロン太陽はその前から障がいのある方の雇用に取り組み、会社運営を続けてきました。しかし、障がい者雇用は簡単に成し遂げられるものではありません。

厚生労働省が発表した2024年「障害者雇用状況の集計結果」によれば、民間企業の雇用省者数、実雇用率とも過去最高を更新しましたが、法定雇用率2.5%を達成した企業の割合は全体の46%にとどまっています。こうした状況の中で、オムロン太陽は76%という高い障がい者雇用率を50年以上維持していることを、辻は今回の国際会議でも改めて紹介しました。

「私たちは、マジョリティもマイノリティも作らない。障がいのある人もない人も同じように働く。その姿勢を半世紀以上続けてきました。ハンディのある人が健常者と同じように仕事ができるように環境を整えるのは企業の責務。そのうえで個人や組織が努力を重ね、生産性をさらに高めていく。しかし、これは容易なことではなく、従来のやり方のままでは実現が困難です。

そこで私たちは、そのための重要施策として『ユニバーサルものづくり』("ゆにもの")に取り組んでいます。これはオムロン太陽が2017年に提唱したコンセプトで、モノづくりの現場で扱う治具、マニュアル、生産ラインの改善、障がい者自身の自己成長の促進やサポート環境の整備を含む施策です。障がいがあってもなくても、同じように生産性を高め、共に利益を生み出す。これを地道に行っていく。また、その考え方を広く社会に浸透させることが、インクルーシブな社会の実現には不可欠と考えます。その実現のための施策の一つとして、オムロン太陽が保有する"ゆにもの"に関する特許20点を2025年5月に無償開放しました。他社にも"ゆにもの"の技術と仕組みを活用していただくことで、障がい者雇用の促進につながり、さらには誰もがインクルーシブに参加できる「共生社会」を実現するための一助になればとの想いから実行しました。」

750_3.jpg障がい特性の理解を深めながら、働くことを希望する人がその能力を最大限に発揮できる職場づくりを続けていく

 

SINIC理論が予測した「共に創る未来」の実現へ

「オムロン太陽は、『社会福祉法人 太陽の家』を創設した整形外科医の中村裕先生から福祉工場の話を聞いた立石一真が、SINIC理論で2025年に『自律社会』を予測していたことから設立に至ったとも聞いています」

オムロングループのシンクタンクで人文科学系の研究所であるヒューマンルネッサンス研究所社長の立石郁雄は、パネルディスカッションで、このように語りました。

立石一真らは、社会ニーズを先取りした経営をするためには未来社会を予測する必要があるとの考えから1970年に未来予測理論「SINIC理論」を提唱しました。この予測では、2025年以降心の豊かさが重要視され、個人から集団中心へと価値観が変化していく「自律社会」が到来します。自律社会は、自らの思うように生きることが結果として社会に調和し、よりよい社会への価値創出に貢献する社会と定義しており、その構成要件として「自立」「連携」「創造」の3つを掲げています。

過去にオムロン太陽の社長を2年間務めていた立石は、次のように語りました。

「中村先生も立石一真も、当初は3年間の赤字を覚悟しながらも、オムロン太陽には従業員に対して『絶対に利益を出せ』と厳しく伝えていたそうです。ところが、初年度から黒字になった。それは、障がいのある方々が、税金で守られている立場から税金を納める立場に変わったことを意味します。誰かの援助を受けながらの人生から、自らの働きで社会に貢献できるという意識へと変化したことで、人生や仕事への姿勢にも反映されたのだと思います」

750_4.jpg立石(右)と共に、社会福祉法人 太陽の家 山下理事長(中央)と株式会社カムラック 賀村代表取締役(左)が登壇

 

技術や制度などを工夫し、障がいの有無に関わらず共に働く環境づくりに取り組むオムロン太陽では、従業員の中に自然に"自律"が芽生えたと考えられるのです。立石は、オムロン太陽を例に上げて次のように話を続けました。

「障がいのある人とない人が一緒に働くことには価値があるんです。一体感や助け合う感覚の享受など見えないプラスがいっぱいある。今の会計基準の利益では可視化しにくいけれど、長期的には社会価値と経済価値につながると思うのです。支援するというよりも、"共創"が大切といえます。その価値がいずれは見える時代が来ると思って、一緒に、共感できる人と共振してアクションを起こし、価値を広めていきたいと考えています。一人ひとりがありのままの自分でいながらも、全体が調和し、よりよい社会につながっていくのが自律社会。自然やテクノロジーもかけ合いながら、真のインクルーシブな社会について、多くの方々と認識をさらに共有できればと思っています」

障がいのある人の就労は、単なる支援ではなく「共に働く」重要性を実感できる国際会議でした。モノづくりにおける"共創"も、2025年以降に訪れる自律社会への重要なアクションと捉えることができます。つまり、SINIC理論を基にしたオムロン太陽の実践が広がることで、インクルーシブルで自律的な未来社会の扉が大きく開く可能性があります。その未来像が垣間見えた国際会議だったといえます。

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