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ヘルスケア事業(HCB)

市場環境

世界における循環器疾患(CVD)は依然として主要な死因であり、2022年には約2,040万人が死亡、全死亡原因の約3分の1を占めています※1。また患者数は6億人を超え、低・中所得国に患者が集中する一方、先進国でも高齢化により今後さらに増加が見込まれています。それに伴い、医療費の増大、医師不足、医療アクセス格差などの課題が顕在化しています。一方で、デジタル技術やAI活用の進展、革新的デバイスの普及、新興企業の参入により、治療や慢性疾患管理は大きく変化しています。中でも遠隔診療は2032年までの年平均成長率は約23%と見込まれており※2、今後も、予防医療の確立に向けた重要なソリューションとして市場拡大が期待されています。

※1 出典:WHO「World Heart Report 2023」

※2 出典:Fortune Business Insights

事業の強み

1973年に電子血圧計の第一号機を発売以来、50年以上にわたる家庭向け医療機器事業で培った技術力やノウハウ、医学界と生活者から信頼されるブランド力、130以上の国や地域に広がる流通網がオムロンの強みです。これらをいかしてSF2030では「家庭での心電図記録の普及」と「デジタルヘルス事業の強化」に取り組んでいます。

家庭での心電図記録の普及

心不全や脳梗塞を引き起こす危険因子でありながら約4割の患者に自覚症状がないといわれる不整脈「心房細動」。その早期発見・治療をサポートするために、家庭で簡単に心電図を記録できる心電計付き血圧計や携帯型心電計を2020年からグローバルに発売し、2024年度末時点で約50の国と地域で販売されています。さらに、心疾患治療における活用範囲の拡大や医療従事者からの推奨の獲得に向けて、2025年3月に不整脈や高血圧治療のキーオピニオンリーダーを集めたアドバイザリーボードを開催。脳卒中および心不全の予防と早期発見における家庭での心房細動スクリーニングの臨床的価値や、心房細動検出後のモニタリングにおける活用方法など、実践的な示唆を得ることができました。

デジタルヘルス事業の基盤構築

2024年4月にはルーシーヘルステック社を完全子会社化し遠隔診療サービスの強化を進めています。同社のサービスはオランダの70%以上の病院で、高血圧や糖尿病、肺炎、腎不全など150以上のプログラムが稼働しています。これにより、心不全や妊娠高血圧における予期しない入院件数の減少や、COPD※3患者の医療費削減などの成果をあげています。B to C領域では、健康管理アプリ「OMRON connect」に蓄積された日々の血圧データと、JMDC社の健診・レセプトデータを組み合わせることで、個人の疾病リスクを予測する検証が本格的にスタートしました。これにより、一人ひとりに最適なアドバイスを提供し、生活習慣改善をサポートしていきます。

私たちは、医療とユーザーをつなぎ、予防から治療までを包括する新たなヘルスケアモデルの構築を進めています。

※3 慢性閉塞性肺疾患

「SF2030」実現に向けた成長戦略

革新的なデバイスの創出

50年以上にわたり蓄積してきた圧脈波※4に関する深い知見とAIを活用して、血圧を測定するだけで「心房細動」の可能性を検知することができるオムロン独自の次世代アルゴリズム「Intellisence AFib」を搭載した血圧計を2024年に欧州と米国、中国で発売しました。これは、血圧測定時に取得できる圧脈波データを解析し、心房細動の可能性を判別する今までにない技術です。中国では、主要薬局チェーンと連携し、店舗に「心房細動リスクスクリーニングエリア」を設けるなど、この技術の価値をより多くのお客様に体験していただく機会を増やしています。

脳梗塞の原因のひとつである心房細動の早期発見・早期治療につなげる取り組みを、グローバルに展開していきます。

※4 心臓が拍動し血液が動脈内を流れる際に、血管内壁にかかる圧力

Intellisence AFib搭載血圧計

デジタルヘルス事業の加速

2016年に日本でリリース開始した「OMRON connect」は、現在130を超える国や地域で累計1,500万以上ダウンロードされています。今後、ルーシー社がもつ技術と経験をいかしてOMRON connectをよりグローバルに強化していきます。通信機能つきデバイスの普及拡大による会員基盤の強化に加えて、専門家監修による個人向け健康管理プログラム医療との連携、さらに自社以外のサービスとの連携を拡大していきます。

さらに、外部機関との取り組みを通じて、AIを活用した診断と治療をサポートする「頭脳(アルゴリズム)」の開発を進めます。家庭や医療、健康診断などから得られたバイタルデータを分析し、京都大学や京都府立医科大学などと連携して、生命を脅かす脳・心血管疾患発症の予兆検知、生活習慣改善提案など、個人に最適化されたプログラムを開発、提供していきます。

これらの取り組みにより、私たちは革新的な予防医療の仕組みを社会に実装し、世界中の人々の健康寿命の延伸に貢献していきます。

事業ハイライト

事業別売上構成比
2024年度 | 売上高1,459億円:ペインマネジメント事業4%、呼吸器事業13%、その他(遠隔モニタリングサービスを含む)13%、循環器事業70%
循環器事業
呼吸器事業
ペインマネジメント事業
商品別売上構成比
低周波治療器4%、体温計5%、ネブライザ13%、体重体組成計4%、その他4%、血圧計(心電計含む)70%
売上高/営業利益/営業利益率の推移

                                  2021年度:1,329(売上高),185(営業利益),14.0%(営業利益率)、
                                  2022年度:1,421(売上高),160(営業利益),11.3%(営業利益率)、
                                  2023年度:1,497(売上高),185(営業利益),12.3%(営業利益率)、
                                  2024年度:1,459(売上高),175(営業利益),12.0%(営業利益率)、
                                  2025年度(見通し):1,500(売上高),185(営業利益),12.3%(営業利益率)

2024年度の売上高の状況

主力製品である血圧計市場において日本や欧州などの地域で需要は堅調に推移しました。一方で、中国における個人消費の低迷による需要の停滞が継続しました。また、前年の呼吸器疾患関連機器における特需の反動を受け、ネブライザ・酸素濃縮器の売上高は前期比で減少しました。

2024年度の営業利益の状況

売上高の減少や物流費増加の影響を受け、慎重な固定費運用を行いましたが、営業利益は前期比で減少しました。

INPUT 投資・主要活動
  • 研究開発費 : 81 億円(2024年度実績)
  • 設備投資費 : 51 億円(2024年度実績)
  • オランダの遠隔診療サービス会社「ルーシーヘルステック」を完全子会社化(2024年4月)
  • 血圧測定と一緒に心房細動の可能性を検出する次世代アルゴリズム「Intellisense AFib」を開発。(2024年9月)
  • 「Intellisense AFib」を搭載した血圧計が、医療機器の安全性や有効性を審議する米国FDA(アメリカ食品医薬品局)にて、「血圧計で心房細動の可能性を検出する医療機器」という、新たなカテゴリとして承認される。(2024年9月)
  • 不整脈や高血圧領域のキーオピニオンリーダーによるMedical Advisory Board(MAB)の立ち上げ(2025年3月)
  • 血圧計、ネブライザなど基盤事業の成長に向けて、個別エリア向けの商品開発を強化
OUTPUT 実績
  • 売上高 : 1,459 億円(前期比 2.5%減)
  • 営業利益 : 175 億円(前期比 5.4%増)
  • グローバル血圧計販売 : 2,315 万台(2024年度)
  • 携帯型心電計、心電計付き上腕式血圧計の販売国数47カ国
OUTCOME 創出する社会的価値と対応するSDGs
  • 健康寿命の延伸や医療費の削減など、世界中の人々の健康で健やかな生活の実現
  • 性心疾患イベントの発症を未然に防ぐ予防医療の仕組みを創出し、世界中の人々の健康ですこやかな生活に貢献
SDGs ゴール3.4.1
SDGs ゴール3.4.1