2024年度の取締役会では、どのようなテーマや課題を重視して議論を進められましたか。
また、1年を振り返って、議長としてどのように総括されますか?
2024年度は、構造改革と中長期の成長への布石を同時に打ち出した、まさにオムロンにとって「転機」となる重要な節目の年でした。こうした変革の局面において、取締役会が果たすべき役割は極めて大きいです。オムロンでは、取締役会とは別の集中討議の場としてオフサイトミーティングや執行チームとの意見交換会の場を設けています。このような機会を拡充し、従来の枠にとらわれず、大所高所から意見をし、踏み込んで執行チームの挑戦を力強く後押しすることを心がけてきました。
特に重視したのは、株主の皆様からの信頼回復と、その期待に応えることを意識し、「構造改革の進捗」と「長期ビジョン実現に向けた戦略の進捗」の2点を軸とするモニタリング機能の強化です。中長期戦略をめぐる具体的な議論として、構造改革後を見据えた“戦略シナリオ”について執行側から検討状況の報告を受け、取締役会で議論を行いました。特に、資本市場における企業のあるべき姿やグローバル人財への投資、データソリューション事業のシナジー創出、さらには北米・中国・アジアを中心とする地域戦略について、多角的な意見を交換しました。
また、今後、オムロンの成長のドライバーとして位置付けているデータソリューションビジネスについては、フリーディスカッションを2度にわたり開催し、社外取締役を中心に、中長期目標や成長に向けた課題、JMDCとの協業加速やコーポレートヘルス関連投資の位置づけについて議論を行いました。1年を振り返って総括すると、本質的な対話を通じて取締役一人ひとりの発言が活性化し、議論の質とスピードが高まったことで、取締役会の実効性が確実に向上したと感じています。
構造改革後を見据えて、オフサイトミーティングや執行チームとの意見交換を拡充されたとのことですが、こうした取り組みがどのような成果を生み、中長期的な監督機能にどうつながっているとお考えでしょうか?
2024年度は、監督機能を強化するために、取締役会以外の“対話の場”を拡充し、積極的に活用しました。オフサイトミーティングでの幅広いオープンな議論が、その後の取締役会における各付議事項の議論の深化、取締役会の実効性向上につながっていると思います。
私が強く実感しているのは、“本質的な対話”こそが、ガバナンスの根幹であるということです。異なる立場であっても、企業価値向上という目的を共有し、未来志向で議論することが経営の健全性を支える力になると確信しています。今後も、取締役は平時から執行幹部と議論を重ね、タイムリーなアドバイスを行い、経営の透明性や意思決定の質を高めることで、構造改革後の持続的成長を確かなものとし、企業価値向上への貢献に応えていきたいと考えています。
2025年度、
実効性を進化させるうえで
重視される方針や注力されるポイントは何でしょうか?
2025年度の取締役会の運営方針は、「中長期視点での企業価値向上を目指し、成長戦略の議論を強化する」です。そのうえで重点テーマとして、「中期経営計画の策定と実行力強化」「変化対応力の向上」「構造改革の完遂」の3点を掲げました。
具体的には、定例報告などのアジェンダを整理し、中長期的な戦略議論に集中できる体制に改めました。さらに、CEOからの柔軟な報告や臨時議題の設定により、変化に即応できる仕組みも整備しました。2025年度は、構造改革の完遂を経てオムロンが「未来の成長軌道」に踏み出す年です。取締役会としても、中長期視点での成長戦略に一層踏み込み、戦略と実行の両輪を支える存在へと進化していきます。加えて、取締役会の実効性をさらに高めるために、第三者評価を導入予定です。外部の視点を取り入れることで、内省だけでは見えにくい本質的な課題を明らかにし、持続的な企業価値向上につなげます。
私は、ガバナンスに“完成形”はないと考えています。企業を取り巻く環境が大きく変化するなかで、ガバナンスもまた常に進化していくべきものです。オムロンは、監査役会設置会社の枠組みを軸に、社長指名・人事・報酬・コーポレートガバナンスの4つの諮問委員会を設置し、透明性と客観性を高め、モニタリングボードとしての機能を高めてきました。一方で、制度上はマネジメントボードの枠組みに立脚しているため、モニタリングボードとしての取り組みには一定の制約があるのも事実です。今後も、“あるべき姿”を問い続け、オムロンに相応しいガバナンスの形を追求し、進化させて参ります。
今回新たに導入した
役員報酬制度について、狙いや思いについて聞かせてください。
新たな報酬制度は、企業価値向上に向けた「取締役一人ひとりの企業価値向上に対するコミットメント」を制度面からも明確にしたことです。1つ目は、社長の報酬において株式報酬の比重を高めたことです。当初、社長の報酬構成は、「基本報酬」「短期業績連動(賞与)」「中長期業績連動(株式報酬)」の比率は、1:1:1でしたが、企業価値を最重視する姿勢を制度面でも示すべく、段階的に構成比率を見直してきました。今回、1:1:1.7とすることで、社長の長期視点での経営への責任と覚悟をより明確にしました。
2つ目は、社外取締役に対しても新たに株式報酬制度を導入したことです。これにより、企業価値向上という共通のゴールに向けて、全役員が一体となって挑戦する土台が整いました。これは、重要な役割を担う役員に相応しい人財を確保するための基盤でもあります。今回の変更は、報酬制度という枠を超えて、オムロンのガバナンスの質を次のステージへと引き上げる重要な一歩だと捉えています。
最後に、株主の皆さまへ向けて、
企業価値向上に対する取締役会としてのコミットメントや、
今後への期待についてメッセージをお願いします。
私たち取締役会は、企業価値の持続的な向上にむけて、中長期の戦略とその実行を最重点課題として、監督という立場から後押ししていきます。執行チームが掲げる成長の旗を信じ、その挑戦を支え抜くことこそ、私たちの責務です。なぜなら、オムロンの存在意義は「社会的課題の解決に貢献すること」であり、その実現を担う執行チームの挑戦は、株主の皆さまをはじめとするすべてのステークホルダーと共有すべき未来だからです。
これまでも、株主や投資家の皆さまとの対話から得られた示唆を取締役会でもフィードバックすることで、社外の視点を真摯に受け止め、議論に反映してきました。今後も、株主や投資家の皆さんとの対話の機会を積極的に設けることで実効性を高め、企業価値向上への道をより確かなものにしていきたいと思います。
変革の道のりは決して平坦ではありません。しかし、オムロンは、変化をチャンスに変える力と、あらゆる知見を結集しながら、一歩一歩着実に進んでいきます。どんな局面にあっても、持続的な成長を目指す歩みを止めることはありません。今後とも株主の皆さまの変わらぬご理解とご支援を賜れますよう、心よりお願い申し上げます。