We are Shaping the Future! 私たちが手繰り寄せる未来ストーリー
オムロン京都太陽のあくなきチャレンジ
オムロンは、長く障がい者雇用に取り組んできた。その1つが「オムロン京都太陽」。社会貢献活動の一環ではなく、ビジネスとして利益を上げることを目的としているのが特徴だ。作業者の動きを制約するハンディキャップを機械装置がカバーすることで、だれもが能力や個性を発揮し、それぞれの強みを生かして作業に取り組める生産現場を実現している。
この取り組みの発端は1971年。障がい者に安定した職業を提供し、自立を促すことを目的に、整形外科医の中村 裕先生が立ち上げた社会福祉法人「太陽の家」から、オムロンに接触があったのだ。太陽の家は、「No Charity, but a Chance!~保護より機会を!~」というメッセージを掲げ、共感を得られる企業を探していた。寄付金に代表される資金的な援助ではなく、太陽の家は「仕事」を求めていたのだ。
数多くの企業に色良い返事をもらえない中、オムロン創業者の立石 一真は快諾し、迅速に動いた。翌72年に合弁でオムロン太陽を設立。世界初の試みだった。オムロンは1959年に社憲「われわれの働きで われわれの生活を向上し よりよい社会をつくりましょう」を制定している。この社憲に込めたのは、世に先駆けるパイオニア精神と、企業の公器性という思いだった。さらに、1985年には、本社近くにオムロン京都太陽を設立。翌年から操業を開始し、理念を具現する存在の1つになった。
オムロン京都太陽が目指すのは、障がい者が健常者と同じように働くことのできるモデルケースを作り上げることだ。現在、重度の障がい者を含め、障がい者139名が彼らの個性に合わせてものづくりの現場で働いている。そして、彼らの成長も促す。まずは、「得意なこと」と、「能力に適した仕事」を的確に把握し、作業を割り当てる。その上で、「いまできないこと」をできるようにするために改善を行い、ワンランク上の仕事につけるようにする。
改善は、人材の能力向上を図るだけでなく、作業者をサポートする機械装置をより良くすることも含む。現場の声を反映させ、2017年度までに380の治具・半自動機(使用者をサポートする装置)を開発し、現場に導入した。
オムロン京都太陽 品質環境技術課 技術グループに所属する伴田 久美は、「人の役に立つ仕事をしたい」という思いで入社し、現在治具・半自動機の製作に携わっている。
「治具の開発は、使用者との共同作業です。まずは使用者の声を聞き、試作品を作ります。そして使用者と話し合い、改善に改善を重ねます。作る側と使う側がお互いを信じ、一緒になって作り上げます」。
たとえば、商品の梱包では、必要な材料を取るための移動が発生する。これは車いす使用者にとって困難な作業になる。また、車いすから身を乗り出して材料を取る動作は危険を伴う。そのため、必要な材料を手元に自動的に送ってくれる装置を導入した。設置された装置やラインに作業者が合わせるのではなく、人の個性や能力をサポートする装置を使って作業者の能力を引き出す工夫だ。
伴田の語るように、これらはすべて現場の声から生まれ、ブラッシュアップされて定着したものだ。いまでも、小さな改善から大きな改革まで、さまざまなハンディキャップを抱えた作業者たちの声を拾って改善活動が行われている。その一環として作業プロセスを変えたところもある。かつては「20個作り終えたらまとめて次の作業者へ渡す」という流れだったが、作業者ごとにスピードのばらつきが出ていた。待ち時間の発生はロスであり、しかも前工程で不良が発生していても、次の作業者は即座に指摘することができない。そのため、「1個流し」制を採用。作業者が1つの作業を終えると次の作業者に渡すように改めたことで、前後作業者との負荷バランスを整え、イレギュラーがあった時には異変に気付きやすくした。
品質環境技術課 品質環境グループリーダーの寒川 進はこう語る。
「弊社は、ものづくりの中でユニバーサルデザインを体現している企業です。障がいを持った人たちが働きやすいということは、だれにとっても働きやすいということです」
「私は、品質担当として製品の品質を見ています。お客様に喜ばれる製品をきちんと出荷する。それが私のチームの仕事です。ですから、お客様に喜んでいただくことが、私たちにとって最大の喜びです。障がいを持っている私たちが働く職場ですが、ものづくりをより良くしていこうという気持ちを含め、目指すゴールは一般的な工場と何も変わりません。どれだけ自分たちが作業をしやすくても、製品の出来映えが悪ければダメですから」(寒川)
オムロンの障がい者雇用の取り組みは、中国、インドネシア、マレーシア、イタリアなど世界中に広がっている。2017年度には、オムロン京都太陽への見学者が4,838人を数え、国内だけではなく、欧米をはじめ、アジア諸国や中東、南米、アフリカからの見学者も多数来訪している。
教育関係者からの注目も熱い。そのひとりが、慶應義塾大学で社会政策論を研究する駒村 康平氏だ。2016年から毎年ゼミ生を伴って見学に訪れている。
「特例子会社※の中には、"できることだけをずっとやってくれればいい"というところもあります。しかし、オムロン京都太陽は、社員の能力を引き上げ、生産性を高めています。工夫すれば、高付加価値な製品を作れることを実証しているわけです」と、駒村氏は話す。
社会には、「障がい者のスキルアップは難しい」という先入観があり、障がい者側にも、「障がいがあるから、社会に貢献できない」という諦念があるかもしれない。そうした思い込みは、オムロン京都太陽を訪れれば、"完膚なきまでに"否定される。その驚きを、将来社会に出ることになる学生にも体験してほしい。それが、駒村氏がゼミ生の見学先にオムロン京都太陽を選んでいる理由だ。
「障がい者は、かわいそうで守らなければならない存在ではありません。少しの工夫があれば、健常者と同様にスキルアップし、成長の喜びを感じ、協力して生産性を高めることができる、社会にとって必要な人財です。日本はいま、労働力不足。"障がいを持っているだけで社会に貢献できない"ことが"不条理"であると、オムロン京都太陽は証明してくれました。それを学生に感じてもらうことで、自ら雇用を促進する側に回ってもらいたいと考えています」(駒村氏)
培ってきた実績は、障がい者雇用の"常識"そのものを変えていく。オムロン京都太陽のさらなるチャレンジは続く。
※障がい者の雇用の促進及び安定を図るため、事業主が障がい者の雇用に特別の配慮をした子会社