聴診器×心電図×IoTで遠隔診療の実現を ~AMI株式会社・小川晋平氏の医師としての挑戦~

記事提供:株式会社アントレプレナーファクトリー

世界を変える新しい「コト」を創造するオムロンコトチャレンジ

2016723日、京都にあるオムロン本社でハード系ベンチャーに特化したプログラムが開催されました。
オムロンベンチャーズ株式会社が主催する「オムロンコトチャレンジ」です。

モノづくり力とグローバルメーカーとしての展開力を活かし、リソースの少ないベンチャーのプロダクト開発をサポートする、この企画。
今年は34チームのエントリーがあり、その中から選ばれた5チームが成果報告会(Demoday)に臨みました。

今回はコトチャレンジで最優秀賞を獲得した、AMI株式会社・小川晋平代表にお話を伺いました。
AMI株式会社は「医療機器」に関する事業を展開しています。

医師として「絶対にこの疾患を見逃してはいけない」

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写真提供:AMI株式会社

-起業の経緯を教えていただけますか?

私は、おもに心臓病や血管の病気を専門とする循環器内科医として働いています。
大動脈弁狭窄症という病気があり、この病気は心臓から全身に血液を送るポンプの役割をしている左心室と、大動脈の間にある弁が十分に働かなくなってしまい、最悪の場合、突然死を引き起こします。
2013年、国内で保険適用され、一般でも手術を受けることができるようになりました。

医師として私が感じたのは「(大動脈弁狭窄症について)適切な診断を受けていない患者が多いのではないか」ということです。
この病気は聴診でスクリーニング(ふるい分け)して、超音波やカテーテルなどの特殊な検査で確定診断をする必要があります。

そこで、
「どんな医師でも、この病気を発見できる医療機器が作りたい」

と考えたのが起業のきっかけです。
実際に、「絶対にこの疾患を見逃してはいけない」という医者としての想いに、周囲が応援してくれていると実感しています。

聴診は心臓の音を聞くためだけのモノじゃない

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資料提供:AMI株式会社

-解決したい社会課題について教えてください

私が独自に実施したアンケートでもわかる通り、「遠隔診療」という言葉を聞いたことがある人は半数近く(41%)いるにも関わらず、実際に使ったことがある人はごく一部(0.2%)となっています。
つまり、遠隔診療はまだまだ浸透していないのが現状です。

「どうすればもっと広がるのか」という問題意識の中、熊本地震を経験しました。
私はドクターカーで熊本入りしてボランティアをしたのですが、現場で感じたのは"聴診の重要性"です。
診察をしていると、胸の痛みが気になる方だけではなく、「肩が痛い」「腰が痛い」など、聴診が必要ない人からも「聴診をしてほしい」という要望が多かったのです。

この経験から、聴診は診断や診察のためだけではなく、「コミュニケーションとしても必要なもの」だと感じました。
「医者に診てもらっている」という実感こそ重要だと気付き、聴診は遠隔診療でも医者と患者のつながりをつくために必要だと思ったのです。

オムロンコトチャレンジを通じた、熊本大学・山川先生との出会い

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写真提供:AMI株式会社

-オムロンコトチャレンジに参加したことで、変わったことはありますか?

オムロンコトチャレンジでは元々、聴診器と心電図を組み合わせ、心電図から不整脈を検知する「大動脈弁狭窄症自動検出器」を開発していました。
しかし、熊本地震を機に「大動脈弁狭窄症自動検出機能付き遠隔診療対応聴診器」に変更しました。
つまり、スマートフォンと連動させることで、医師が遠隔にいても診断できるシステムを追加したのです。

この聴診器を開発するにあたり、熊本大学工学部の山川先生との出会いが大きかったです。
山川先生は医療現場で使われる電子工学技術、いわゆる医用工学の研究者です。
その山川先生が心拍数の変化で、てんかん発作を予測する装置を開発していて、オムロンがプロダクト開発の協業を後押ししてくれました。
開発を支援する立場で関わってくれたオムロンの今村さんも熊本に足を運んでくれたので、3社で連携しながらうまく進めることができたと思います。

自分自身、どっちの方向に進んでいいかわからなかったときに、「(山川先生と)一緒にするのがいいんじゃないか」と今村さんがアドバイスしてくれたのは、とても心強かったですね。

オムロンコトチャレンジのなかで開発を支援するメンターという役割の人たちからは、他にも、「聴診器の大きさはどうするか」「聴診器の周りの心電図の配置をどうするか」など、モノづくりの視点から、数多くのアドバイスをいただきました。
「プロトタイプの時点では、確実にデータがとれる大きめのものを作っていこう」ということで、成果発表会(Demoday)の1か月前はかなりプロトタイプが大きかったのですが、「焦らなくても大丈夫」というメンター陣の言葉に、安心感を覚えました。

遠隔のドクターに、ドクターが相談する仕組みを

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資料提供:AMI株式会社

-これからの事業の展開を教えてください

まずはプロダクトの開発を進めます。オムロンコトチャレンジの成果発表会(Demoday)で発表したのですが、まだ雑音が入ってしまうので、そこを改良します。

私は「医療機器を作っていきたい」というより「社会問題を解決したい」という想いが先行しているので、今後も遠隔診療を中心とした事業展開を行っていきます。

編集後記

「離島の診療所にクラウド総合病院を」

メンター陣に「プロダクトの構想を初めて聞いたときの印象は?」と聞いたところ、

大動脈弁狭窄症をはじめとする心臓弁膜症の異常診断装置について、ターゲットを絞ったデバイスだと感じていました。
しかし、心電と心音の診察をIoT化するなら、より多くの疾患の診断につながると期待しました。」と、プロダクトの可能性を感じていたようです。

このプロダクトを中心に遠隔診療を展開していく小川代表。
離島や僻地の診療所には全ての科に精通した総合医がいるが、それでも専門医に相談したい機会があるそうです。
彼がいう遠隔診療は「離島の患者を遠隔地の医師が直接診療する」のではなく、「全国の専門医が離島・僻地の総合医のお手伝いをする」ことを想定しています。
つまり、これまでは放射線科など特定の領域でしか行われていなかった「遠隔のドクターにドクターが相談する仕組み」を内科診療の領域でも作っていく、という構想です。
AMI株式会社、そして小川代表の今後の動向に期待しましょう。

(聞き手:株式会社アントレプレナーファクトリー・菅野 雄太)

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