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【技術解説】バイオマスプラスチック普及におけるマスバランス方式の意義

田中 泰法TANAKA Yasunori
インダストリアルオートメーションビジネス カンパニー
技術開発本部 第2技術部
専門:有機化学、化学工学
所属学会:日本化学会

近年、日本政府が2050年までの目標に掲げるカーボンニュートラル社会の実現に向けて、バイオマスプラスチック普及促進が活発化している。既存の石油由来プラスチックからバイオマスプラスチックへの転換では、とりわけ産業界においては、材料特性の実用性とリードタイムの双方において、シームレスな切り替えが主要な課題となる。本稿では、複数ある切り替え方式について、その中で最も現実的な方式として適用が進むマスバランス方式の意義について述べる。また、マスバランス方式の採用における懸念点について材料技術の視点から検証する。

1.まえがき

1.1 カーボンニュートラルの概要

近年、気候変動の要因として指摘されるGHG(温室効果ガス)のうち、人類の活動により大量に大気中に排出される二酸化炭素を対象として、実質的に排出量をゼロにする「カーボンニュートラル」の施策に注目が集まっている。

この考え方は、2015年に採択されたパリ協定1)で世界共通の長期目標として掲げられている。この協定では、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求すること(2℃目標)としている。この目標を2050年までに達成することとし、我が国においても実現に向けた長期戦略2)が政府から示されている。

単純な二酸化炭素排出量の削減だけでは排出量をゼロにすることは困難である。これに対して「カーボンニュートラル」は、二酸化炭素を吸収、固定化することにより残分を相殺し、実質的にゼロとするものである。

1.2 オムロンにおけるカーボンニュートラル目標の設定

オムロンは、カーボンニュートラル社会の実現に向けた具体目標として、2018年7月に、「オムロン カーボンゼロ」を設定した。当初は2℃シナリオに基づき、2050年にスコープ1・スコープ2(自社領域から直接的・間接的に排出される温室効果ガス)で温室効果ガス排出量ゼロを目指す方針であった。これを2022年3月には、1.5℃シナリオに基づいたより野心的な目標に改めた。ここでは、新たにスコープ3(自社のバリューチェーンからの温室効果ガスの排出)について、2030年に18%削減(2016年度比、2℃シナリオに基づく)という目標を新たに設定した3)。このように、オムロンはカーボンニュートラル社会の実現に向けて意欲的な取り組みを推進している。

1.3 政府によるバイオマスプラスチック導入目標の設定

日本国内におけるカーボンニュートラルの推進について、各方面への施策が政府から示されている。材料面では、経済産業省が示すグリーン成長戦略の重点14分野の中にプラスチック原料に関わる項目が含まれている。このなかで、バイオマスプラスチックを年間200万t導入することを目標に掲げ、実現に向けたロードマップが示されている。現状では主に消費者向けの製品でバイオマスプラスチック導入が進んでいるが、産業用途では少なく、今後の採用拡大が期待される。なお、産業用途では、価格の高さが最大の障壁となっており、バイオポリエチレンを例に挙げた場合に石油由来品と比較して3倍の価格となっている4)。この他にも性能面では、新規材料への変更といったリスクも伴うことになる。とりわけ制御機器事業においては、材料に対して高い難燃特性を求める場合が多く、バイオマスプラスチックが検討対象として取り扱われること自体が稀である。現在はエネルギー効率化によるカーボンニュートラル推進が目下の潮流となっているが一方で、オムロン制御機器事業では材料による貢献も必要と判断し、早期段階からバイオマスプラスチック導入にかかる技術獲得を進めている。

2. バイオマスプラスチックの概要

2.1 バイオマスプラスチックの定義

現時点でのバイオマスプラスチックおよびその周辺材料を図1に示した。バイオマスプラスチックは、植物などの再生可能な有機資源(バイオマス)を原料として製造されるプラスチックと定義される。また、環境中で微生物等の働きにより二酸化炭素や水に分解する機能を有するプラスチックを生分解性プラスチックという。これらを総称してバイオプラスチックと呼ぶ。よって、すべてのバイオマスプラスチックが生分解性を有するものではなく、またすべての生分解性プラスチックがバイオマスを原料として製造されるものではない。例えば、生分解性を有しないバイオマスプラスチック(バイオポリエチレン等)や、石油由来の生分解性プラスチック(ポリブチレンサクシネート等)といったものも存在する。バイオプラスチックは今後さらなる多様化の可能性があり、それにより各呼称の整理が進むと想定される。

図1 バイオマスプラスチックおよびその周辺材料の分類
図1 バイオマスプラスチックおよびその周辺材料の分類

バイオマスプラスチックの分類には、既存材料と同じ化学構造のものを既存のプラント内で並行製造するマスバランス方式や、専用プラントにより製造するドロップイン方式(セグリゲーション方式)がある。さらにバイオマス由来特有の機能を追求し、特定のバイオマス原料からでしか製造できないオリジナルバイオマスプラがある。これらの製法や原料などそれぞれの特徴に沿った分類は、時代ごとに求められてきた付加価値に沿った分類である。

なお近年、既存のプラスチックに対して資源米などのバイオマス資源を組み合わせた複合素材の登場が相次いでいる。これらをバイオプラスチックやバイオマスプラスチックに含めるケースがあるが、プラスチックの主体であるポリマーの原料にバイオマス原料が使用されないことから、本稿では除外する。

2.2 バイオマスプラスチックのメリット

従来のプラスチックでは、主に石油をはじめとする化石資源を粗原料に製造されている。石油は太古の昔に生育した生物の死骸が地中の熱や圧力により変化して生成した化石資源であり、人類はそのような資源を採掘しプラスチックの原料として利用している。プラスチックが使用後に廃棄される際には、おおむね焼却されて二酸化炭素として放出されることから、ライフサイクル全体で見た場合、地中内で化石資源として固定化された炭素を二酸化炭素として環境中に放出し、大気中の二酸化炭素濃度を上昇させる。一方、バイオマスプラスチックの場合は、使用後の挙動は同等ながら、原料とする植物は大気中の二酸化炭素を吸収して成長することから地上で炭素循環が成立し、大気中の二酸化炭素濃度の上昇要因から除外して考える事ができる5)。このような石油由来のプラスチックとバイオマスプラスチックとの比較を図2に示した。このような特長から、バイオマスプラスチックはカーボンニュートラルに貢献する材料といえる。

図2 石油由来プラスチックとバイオマスプラスチックの比較
図2 石油由来プラスチックとバイオマスプラスチックの比較

2.3 バイオマスプラスチックの変遷

バイオマスプラスチックの開発の初期段階では、既存の原材料とは全く異なる新しい化学物質の創出に軸足を置いていた。代表的な材料として、ポリ乳酸が挙げられる。これらはバイオマス原料から得られる特有の化学構造を活用しようとしたものの、使いにくさ等から市場規模は限定的であった。ただし、近年は取り扱い技術の発達とカーボンニュートラルの社会要請から市場の拡大に向けた動きがみられる。

次いで石油枯渇の懸念の高まりから、既存プラスチックであるポリエチレンを対象に、バイオマス由来原料への置き換えが模索された。2010年にはBraskem社から、サトウキビ由来のバイオポリエチレンの商業生産をドロップイン方式で世界で初めて開始した。同バイオポリエチレンは現在も生産されており、同社が唯一のサプライヤーである。初期の段階では、バイオポリエチレンは既存のポリエチレンと化学構造が同じであるものの、価格が高くなるため市場の拡大は低調であったが、近年のカーボンニュートラルへの期待から見直され需要が増加している。

近年は、SDGsの浸透やカーボンニュートラル社会の実現に向けた具体的な目標設定といった観点から、バイオマスプラスチックに注目が集まっている。日本国内においては、三井化学が最有力サプライヤーであるフィンランドのNeste社からバイオマスナフサの供給を受け、そこから製造した基礎化学品を各プラスチックメーカーへ供給し始めており、各種のバイオマスプラスチックが続々と登場している6)。ここではマスバランス方式が採用されており、これを契機にマスバランス方式のバイオマスプラスチックの展開が2021年以降、急速に進展している7)

3. マスバランス方式バイオマスプラスチックの概要

3.1 マスバランス方式の考え方

ここからは、前述の通り急速に進展しているマスバランス方式について詳細を述べる。マスバランス方式は、導入原料のうちのある特性を持つ原料について、その投入量に応じて、生産された製品の一部にその特性を割り当てる手法である。例えば、従来の原料と環境価値の高い新原料を7:3の割合で混合して使用した場合、製品の30%に環境価値の高い新原料から製造された、という特性を与え、残り70%の製品は従来の原料から製造されたとみなす。この方式は、パーム油や紙などの多くの業界で適用されている。

マスバランス方式を適用したバイオマスプラスチック製造について図3に示した。ここでは、プラスチック材料の粗原料であるナフサについて、石油ソースとバイオマスソースの各ナフサを混合してナフサクラッカーに投入し、エチレンやプロピレンをはじめとする基礎化学品を製造し、さらにそこからプラスチックを製造する。この製品には、各原料ソースが一様に含まれており、原料ソースごとの区別ができない状態になっている。しかしマスバランス方式では、ある特性を持つ原料(ここでは主にバイオマス由来であること)の投入量に応じ、生産された製品の一部にその特性を割り当てる。正確な割り当てを行うためには、粗原料、原料、樹脂、プラスチック製品、さらにはそれを使用した最終製品に至るまでの全体のサプライチェーンについて、認証システムによりトレーサビリティを確保しなければならない。

図3 マスバランス方式の製造の流れ
図3 マスバランス方式の製造の流れ

3.2 マスバランス方式のメリット

3.2.1 バイオマス度100%の製品の創出

マスバランス方式を採用することで、その製品の実態のバイオマス含有量に関わらず、バイオマス100%の製品として展開が可能になる。これにより、顧客の要求に合わせた材料を100%バイオマスプラスチックとして提供できるようになり、バイオマスプラスチックの社会浸透を後押しすることができる。

マスバランス方式を採用する最大のメリットとしては、多くのプラスチック製品への展開可能性が挙げられる。これまでのバイオマスプラスチックは、前述のポリ乳酸やバイオポリエチレンといった現にバイオマス由来の原料からドロップイン方式により製造できるものに限られていた。ここで新たにマスバランス方式を導入することで、従来は技術的にも実現が困難であったプラスチックにもバイオマスプラスチックとしての割り当てが可能となる。これは技術課題を直接克服するものではないが、バイオマスプラスチックとみなした取り扱いが可能となる方法を提供することで、多種のプラスチックのバイオマス化を後押しできる。さらに、ユーザー側には環境価値の訴求、サプライヤー側には販売数量増加の機会となり得る。マスバランス方式の採用は、社会全体のカーボンニュートラル化を促すものであり、社会的側面からも導入の価値が大きい。

3.2.2 品質の変動管理の容易性

マスバランス方式によるバイオマスプラスチックの製造では、食物油など一旦精製された原料から製造されたナフサを使用する。産地やロットによる品質の差異が比較的大きい石油に対して、食物油は品質の安定したソースと捉えることができ、生産管理上有利である。

バイオマスソースから製造されるナフサは、厳格な品質管理のもと製造されるSAF(Sustainable Aviation Fuel)の副生物であり、今後見込まれるSAFの需給の増加を背景に、品質面、調達面の安定性も担保されている。さらに、これらナフサはナフサクラッカーに投入され、化学分解を経たうえで蒸留を繰り返しエチレンやプロピレンといった基礎化学品に分離される。前述のとおり、品質が比較的安定した原料から製造されたバイオナフサを投入するので、ナフサクラッカーのプラントの変動管理にも有利である。品質管理のうえでは石油由来ナフサの投入を前提とした既存のプラントに対して、バイオナフサを投入した場合の工程管理値の急峻な変調が最も注目される。石油化学におけるバイオマスソースは依然として僅かであり、直ちに現行のプラント規模に対して全量が置き換わるとは考えにくい。そのなかでマスバランス方式であれば、製造者が自己の判断により投入量・投入比を調整できることは、バイオマスソースの導入を容易にする。

3.2.3 設備投資の軽減

マスバランス方式の適用においては、投入する各原料ソースは同質であるという前提を置いている。この前提により石油由来原料を前提に稼働していた既設のプラントに対し、バイオマス由来原料の混合が可能となる。

これによるメリットは第一に、既存の設備をそのまま使用することで、新たな設備投資を最小化できることである。また、大型設備の追加設置が不要なので建設期間や立ち上げ期間が短くて済み、導入決定から実稼働までのタイムラグを抑制できる。次に、導入後の利点として他の原料ソースを任意に混合できる汎用性があり、原料ソースごとの専用設備の設置が不要になる。バイオマスソースは今後多様化すると考えられるが、状況変化に応じた柔軟な対応が可能になる。

マスバランス方式の優位性を検討するために、これを用いない場合のバイオマスプラスチック製造状況について図4に示した。この場合、既存のプラントと、新設するバイオマスプラスチック製造プラントとが並行操業の状態となり、それぞれの製造ラインにおいて多くの課題が生じる。まず既存のプラントにおいては、現状では社会全体の需要に応じた生産規模をとっているなかで、バイオマスプラスチックの台頭により需要を奪われ、最終的にすべてのプラスチックがバイオマスプラスチックに置き換わる場合、既存のプラントは操業停止に至る。このように既存設備では、稼働率低下・遊休化というコスト増が生じる。一方、バイオマスプラスチック製造プラントにおいては、専用設備として新たに設備投資が必要となり、初期供給段階から過大なコスト構成要素となる。操業開始までのリードタイムも発生し、多くの場合は年単位の期間が必要となるため、社会状況に応じて機敏にバイオマスプラスチック提供体制を整えることには至らない。また、新たな原料ソースが登場した場合、それに応じた専用設備の増設が必要になる。さらに増設後も、それぞれの設備をそれぞれの原料ソースの供給量、あるいは需要量に応じて独立で運用する必要がある。ユーザー側も、各製造ラインから製造される製品は異なるものとして取り扱うことになり、製品試験や生産管理等の周辺業務が過大となる。このため、バイオマスプラスチックの社会浸透には大きな足かせになる。このような困難さが双方で並行して生じるため、およそ現実的な施策でなく、その解決策としてマスバランス方式は極めて有効な手段となり得る。

図4 マスバランス方式を用いない場合のバイオマスプラスチック製造設備の状況
図4 マスバランス方式を用いない場合のバイオマスプラスチック製造設備の状況

3.2.4 社会情勢に応じた生産調整の容易性

マスバランス方式においては、社会のバイオマスプラスチックのニーズに沿ってバイオマス由来成分の投入比率を任意に調整できる点が挙げられる。現状では全体のプラスチック生産量に対してバイオマスプラスチックの割合は僅かではあるが、今後さらに需要が拡大した際にもバイオマス由来成分の投入比率を任意に調整できるため、状況に応じたより柔軟な対応が可能である。今後の状況変化について確定できない現状において、想定される事象としてはバイオマス由来成分の投入比率の増加や、原料ソースの多様化、原料導入の複線化といったものが挙げられる。やがて、当該生産ラインの全量がバイオマスプラスチックに置き換わりドロップイン方式へと終着する際にも既存設備での延長線上での取り扱いとなるため過渡期対応として極めて現実的である。

3.3 マスバランス方式のリスクに関する考え方

3.3.1 不純物混入リスク

マスバランス方式を採用する際には、従来の石油由来原料を前提として設計された生産設備に対して、異なるソースの原料を混合して投入することから、製品の品質面におけるリスクの発生が考えられる。石油由来品で設計した品質規格において想定されていなかったバイオマスソース由来の差異が顕在化し品質に影響を及ぼすことである。具体例として想定外の不純物の存在が該当するが、ナフサのクラッキングプロセスでは、そもそも混合物であるナフサに対して化学分解を行い、分留するプロセスである。このことを踏まえると、工程管理内の運転制御がなされている限り基本的に不純物の混入は阻止され、同質のアウトプットとなる。

3.3.2 工程変動リスク

工程管理それ自体のリスクとして、既存のプラントに新たにバイオマスナフサを混合投入する際の工程変動がある。通常、このようなプロセスにおいては、アウトプットの製品の品質項目値のみに限らず、製造時の工程管理値を設定して所定の範囲内で制御することにより安定的に同質の製品を生産している。しかし、異なる原料を混合することにより工程管理値に急峻な変調が起こる場合には、制御が困難になり管理値を外れるリスクの発生がある。投入するナフサのロット間の品質の差異においても同様の制御が必要であるが、食物油から製造されるバイオナフサなどマスバランス方式で使用される原料は、人為的に一旦精製済みの粗原料から製造されるため石油由来のナフサと比較して工程管理上はむしろ有利と考えられる。例として、図5に石油由来原料をもとに連続プロセスとして稼働する設備に、バイオマス由来原料を投入した際の品質に関する工程管理項目の挙動を示した。

図5 マスバランス方式によりバイオマス由来成分を原料に混合した場合の品質に関する工程変動の例
図5 マスバランス方式によりバイオマス由来成分を原料に混合した場合の品質に関する工程変動の例

なお、ナフサの投入の際には予め原料タンク内で混合し平準化されるのが普通であり、急峻な変動に至らぬよう管理される。このような過程にて製造された基礎化学品は、原料ソースによらず実質的に均質と判断してよく、さらにこれらを原料として製造されるバイオマスプラスチックについても通常の品質管理内での取り扱いが可能となる。

3.3.3 マスバランス方式で石油由来プラスチックに割り当てられた製品の扱い

マスバランス方式では、石油由来プラスチックに割り当てられた製品にも、バイオマス由来成分が含まれている。よって、マスバランス方式の適用前後において石油由来品を継続的に取り扱う場合についても、品質への影響についてユーザー側への通知と許諾判断が必要である。品質については前述のとおり、既存の工程管理内であり影響は無い、ないしは管理上より優位であるとして取り扱うことができるが、その許容の判断はユーザー側に委ねられる事項である。ユーザーが許容しない場合には、複数の製造ラインがある場合は原料混合をしないラインから優先的に供給するか、メーカーの変更により回避するといった対応が必要となる。

バイオマスナフサと石油由来ナフサ、またはバイオマスプラスチックと石油由来プラスチックは、同じ製造ロット内での割り当てを行う場合には、いずれも品質的な“差異”は無く実質的に同質であるといえる。しかしながら、既存の原料に対するバイオマス由来成分の投入量の大小に伴う品質の“変動”についてユーザー側の理解が必要である。マスバランス方式を適用する場合、バイオマス由来成分の混合比は可変であるため、例えばバイオマス由来成分の比率が高いロットを用いて商品設計を行った場合、そこから比率が下降した際に生じる品質変動の可能性が受容可能であるかを判断する必要がある。なお、原料品質の変動による影響は既存の石油由来原料にも言えることであり、投入時の規格に即した原料を投入する限り、制御可能な範囲内の取り扱いとなり、品質面の実質的な影響は無いと考えてよい。

このように、バイオマス由来成分の混合による品質への影響は極めて小さいながらも、これまでにない新しいプロセスであることから、投入比率に対する品質への影響を継続監視する姿勢が肝要である。サプライチェーン全体で、各製造ロットに対する投入比率情報を共有し、各工程の管理条件や品質規格との相関関係を理解することが、最終的にドロップイン方式に至るまでの姿勢として望ましい。

3.4 マスバランス方式の優位性

マスバランス方式により享受できるメリット、およびそれに伴うリスクについて前述した。各リスクの検証結果からはマスバランス方式バイオマスプラスチックの導入に致命的な阻害要件は見いだせず、一定の理解のもと取り扱うことで、産業上の多大なメリットを享受できる。

4. オムロン制御機器事業におけるバイオマスプラスチック搭載技術の動向

マスバランス方式バイオマスプラスチックの導入には、検討対象となり得る材料の有無や材料の特性値のほか、製造プロセスや材料品質の変動など、多岐にわたる技術的な受容体制の獲得が求められる。オムロン制御機器事業では、前述の技術的知見の獲得をもとに、精緻な検証を経てマスバランス方式バイオマスプラスチックを受容するための理論体制を新たに構築した。

バイオマスプラスチックのオムロン制御機器事業の製品への展開については、すでに複数の商品、部材を対象に試作検証を実施している。各対象部材において、それぞれ対応する石油由来プラスチックとマスバランス方式バイオマスプラスチックの各物性値、および社内指定の各環境条件に晒した際の物性値の変化を比較したが、いずれも有意な差は認められなかった。部材の成形工程では、双方とも同じ成形条件で問題なく成形が可能であり、製品評価の結果からも同等の品質を担保できることを技術的に確認した。石油由来プラスチックとマスバランス方式バイオマスプラスチックとは、その製造プロセスから材料としての差異は認められないことを、上記の検討結果から実際に確認し、いずれも同質として取り扱いが可能であると結論付けた。試作品の一例として、制御機器製品の筐体を図6に示した。特性、外観含めて従来の石油由来プラスチック品と比較しても見分けがつかず、製品搭載に適う技術を獲得している。

図6 マスバランス方式バイオマスプラスチックを使用した製品筐体の試作例
図6 マスバランス方式バイオマスプラスチックを使用した製品筐体の試作例

バイオマスプラスチックの積極導入を希求する技術推進は、オムロン制御機器事業の競合他社である国内10社においても顕在化しておらず(2023年5月現在)、業界においても極めて先進的な取り組みである。

以上見たようにマスバランス方式の考え方は、バイオマスプラスチックの普及に対して極めて有効な手法である。また、バイオマスプラスチックに限らずプラスチックリサイクルの分野にも有効に適用できると考えられる。

世界のプラスチック需要は人口増加に伴いますます高まると予想され、カーボンニュートラル社会の実現に向けては原料ソースのバイオマス化のほかに、リサイクルによる循環利用、および社会全体でのプラスチック資源の積み増しが必須と考える。プラスチックリサイクルには、使用後に再度溶融して新たな製品とするマテリアルリサイクルや、化学分解して原料として再使用するケミカルリサイクル、焼却処分する際の熱を有効利用するサーマルリサイクルがある。リサイクル手法の優先順位はこの序列に従い、マテリアルリサイクルの取り組みが先行して進んでいる。マテリアルリサイクルが困難なプラスチックは主に焼却されていたが、近年のケミカルリサイクル技術の発展に伴い適用範囲が拡大し、今後ますます技術の高度化が進むと予想される。ケミカルリサイクルでは分子レベルでの取り扱いになること、原料ソースが極めて多岐にわたることから、バイオマスプラスチックと同様にマスバランス方式の適用は有効な手法である。

5. むすび

バイオマスプラスチックの普及を目指すうえで、マスバランス方式を採用する意義について述べるとともに、実際の取り扱い面におけるリスクについて考察し実質的に問題なく使用できることを述べた。マスバランス方式の導入の意義については、バイオマスプラスチックに限らずケミカルリサイクル材料などの環境価値を表出する材料への適用にも広く活用できると考えられ、今後広く活用されカーボンニュートラル社会の実現に貢献する有力な手段のひとつになり得ると考えられる。オムロン制御機器事業では上記の独自の指針のもと、バイオマスプラスチックのほかにケミカルリサイクル材料の適用可能性と、それらを組み合わせた場合の影響について積極的に検証を進め、カーボンニュートラル社会の実現を後押しする。

参考文献

1)
外務省. “パリ協定.” https://www.mofa.go.jp/mofaj/ila/et/page24_000810.html(Accessed: Nov. 17, 2023).
2)
令和3年10月22日閣議決定. “パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略.” https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100305868.pdf(Accessed: Nov. 17, 2023).
3)
オムロン株式会社. “オムロン 統合レポート2022.” https://www.omron.com/jp/ja/ir/irlib/pdfs/ar22j/OMRON_Integrated_Report_2022_jp_A4.pdf(Accessed: Nov. 17, 2023).
4)
環境省, 経済産業省, 農林水産省, 文部科学省. “バイオプラスチック導入ロードマップ.” https://www.env.go.jp/content/900534511.pdf(Accessed: Nov. 17, 2023).
5)
菊池康紀, 平尾雅彦, 成田賢治, 杉山英路, Sueli Oliveira, Sonia Chapman, Rita M. Marzullo, Mariana M. Arakaki, Leonora M. Novaes, “バイオマス由来ポリエチレンのライフサイクル評価,” 第 6 回日本LCA学会研究発表会講演要旨集, 2021, pp. 204-205.
6)
瀧敬一, 川島信之, “バイオマスプラスチックの動向とバイオポリプロピレンへの取り組み,” 日本ゴム協会誌, vol. 95, no. 5, pp. 145-152, 2022.
7)
令和4年度マスバランス方式に関する研究会. “参考資料(マスバランス方式に関する国内外の状況等).” 環境省. https://www.env.go.jp/content/000143869.pdf(Accessed: Nov. 17, 2023).

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