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小型・軽量・高効率 太陽光発電用屋外設置型 単相パワーコンディショナの開発

小林 健二
小林 健二代表執筆者 KOBAYASHI Kenji
環境事業本部
商品開発部
専門:電気工学、制御工学
所属学会:パワーエレクトロニクス学会
野村 康祐
野村 康祐 NOMURA Kosuke
環境事業本部
商品開発部
専門:制御工学
所属学会:電気学会
田内 宏憲
田内 宏憲 TAUCHI Hironori
技術・知財本部
組込システム研究開発センタ
専門:電気工学

太陽光発電は、地球環境の負荷軽減やエネルギー自給率の向上などの観点から、注目を集めている。しかしながら、我が国における太陽光発電の発電コストは、加重平均での世界の発電コストと比較すると、2017 年時点で約1.6 倍と高く、更なる普及拡大には発電コストの低減が必要である。
今回、新たに太陽光発電用屋外設置型単相パワーコンディショナのKPV-A・KPW-A シリーズを開発し、商品化した。2相インターリーブ方式昇圧チョッパの適用と高周波化、及び系統連系制御の最適化によって、KPV-A・KPW-Aシリーズの小型・軽量化と高効率化を図った。これにより、20kg の本体重量を実現し、1人での設置作業を可能としたことに加え、500W程度の低出力時で95.5%、定格出力時で96.0%となる高い電力変換効率を達成した。
KPV-A・KPW-A シリーズは、施工性の向上による初期導入費用の低減と高効率化による総発電量の最大化が図れ、太陽光発電の発電コストを低減することが可能である。
本稿では、KPV-A・KPW-Aシリーズに適用した小型・軽量化技術と高効率化技術について報告する。

1.まえがき

2011年に発生した東日本大震災以降、国内発電量に占める原子力発電の比率は減少し、火力発電への依存度が増している。火力発電比率の上昇によって、二酸化炭素排出量と燃料調達コストの増加、中東への依存度の高まりによる燃料調達安定性の悪化が懸念される。そこで、2015年に我が国のエネルギー政策として、長期エネルギー需給見通し(エネルギーミックス)が策定された1)。エネルギーミックスでは、2030年に総発電電力量における電源構成比率を、化石燃料全体(石油、石炭、LNG)で56%程度、原子力で22~20%程度とし、水力発電や風力発電、太陽光発電などの再生可能エネルギーを22~24%程度にする目標が示された。特に再生可能エネルギーは、二酸化炭素排出量の削減や火力発電における燃料調達コストの抑制、エネルギー自給率の向上が図れるため、期待を集めている。しかしながら、2016年時点で、再生可能エネルギーの導入量は15%程度に留まっていることから、更なる再生可能エネルギーの普及拡大が求められている。
2009年に施行された余剰電力買取制度と、2012年に施行された全量買取制度の影響によって、再生可能エネルギーの中で、普及率が急激に増加したのが太陽光発電である。しかし、加重平均での世界の発電コストと比較すると、我が国における太陽光発電の発電コストは、2017年時点で約1.6倍と高く、更なる普及拡大には発電コストの低減が必要である。発電コストは、燃料費を含む、設備導入から維持管理、撤去や廃棄までの間に掛かる費用を合計した総コストと、稼働期間中に得られた総発電量から決まる。太陽光発電の総コストは、燃料費が不要であるため、初期導入費用が大半を占める。初期導入費用について、太陽光発電の先進国であるドイツと比較すると、我が国の太陽光発電は工事費が高く、約3.7倍もの大きな乖離があるため、工事部材や工事工数の削減が必要である2)。また、稼働期間中の発電ロスを減らし、総発電量を増加させる必要もある。
当社は、太陽光発電の普及拡大を推し進めるために、太陽電池の発電電力を最大化し、太陽電池から得られた直流電力を系統電源で使用される交流電力に変換して、系統電源に逆潮流するための太陽光発電用パワーコンディショナを開発してきた。2016年には、太陽電池設計の自由度と耐環境性、施工性を向上させた屋外設置型単相パワーコンディショナのKPM2シリーズを開発し、商品化した。
今回、KPM2シリーズよりも更に、小型・軽量化と高効率化を実現し、施工性の向上による工事費の低減と総発電量の最大化による発電コストの低減を可能とした屋外設置型単相パワーコンディショナのKPV-A・KPW-Aシリーズを開発し、商品化したので、以下に報告する。

2. パワーコンディショナ仕様と特徴

図1にKPV-A・KPW-A シリーズの外観を示し、表1にKPM2シリーズとの主な仕様の比較を示す。

図1 KPV-A・KPW-A シリーズの外観
図1 KPV-A・KPW-A シリーズの外観

KPV-AシリーズとKPW-Aシリーズは、筐体を共用しているため、同一外観となっている。また、KPV-Aシリーズは野立て太陽光発電システムなどの産業用途向けに、KPW-Aシリーズは戸建て住宅や小規模工場などの住宅用と産業用の建物設置用途向けに商品化した。
定格出力容量ラインアップは、KPV-Aシリーズで5.5kW、KPW-Aシリーズで4.8kWと5.5kWである。KPV-A・KPW-Aシリーズの双方とも、海岸より500m以内の塩害地域や直接波しぶきがあたらない海岸沿いの設置に対応した重塩害対応タイプを商品ラインアップに揃え、設置制約の解消を図っている。また、太陽光発電の大量導入による系統電源の安定化対策として、新たに規定化された出力制御への対応や、業界に先駆けて当社が独自開発し、系統連系規程にて規定化された単独運転を検出する新型能動的方式(ステップ注入付周波数フィードバック方式)であるAICOT®(Anti-Islanding COntrol Technology)を搭載し、現行の最新規格に全て準拠した3)
尚、KPV-A・KPW-Aシリーズの主な特徴は、以下のとおりである。

(1)
500W程度の低出力時で95.5%、定格出力時で96.0%となる高い電力変換効率を達成し、総発電量の最大化を実現
(2)
12A/回路の最大許容短絡電流仕様を実現し、高効率タイプで高電流仕様の太陽電池との接続が可能
(3)
KPV-Aシリーズで過積載率200%以上、KPW-Aシリーズで過積載率250%以上の過積載仕様を実現し、朝夕や曇天などの少ない日射量でも、より多くの発電量を得ることが可能
(4)
20kgの本体重量を実現し、1人での設置作業を可能とすることで、施工性の向上を図り、周辺の設置物や複数台設置時のパワーコンディショナ間における左右の離隔距離と外形寸法の小型化による設置面積の小スペース化で、ケーブルなどの工事部材を削減でき、初期導入費用の低減が可能
表1 主な仕様比較
項目 KPV-A KPW-A KPM2(従来)
容量 5.5kW 5.5kW/4.8kW 5.5kW/4.4kW
直流入力 最大動作入力電流 4回線:40A(10A/回路)
3回線:33A(11A/回路)
4回線:44A(11A/回路) 4回線:38A(9.5A/回路)W
最大許容短絡電流 4回線:44A(11A/回路)
3回線:36A(12A/回路)
4回線:48A(12A/回路) 4回線:44A(11A/回路)
交流出力 定格出力(連続) 5.5kW(力率0.95/1.0) 5.5kW/4.8kW
(力率0.95/1.0)
5.5kW/4.4 kW
(力率1.0)
電力変換効率 96.0%(力率0.95/1.0) 96.0%(力率0.95/1.0) 94.5%/95.0%(力率1.0)
外形寸法(幅×高さ×奥行き) 450×484×232mm 450×484×232mm 720×400×220mm
重量(本体)取付ベース板除く 20kg 20kg 31kg
離隔距離(左右) 3cm 3cm 15cm

3. パワーコンディショナ構成

図2 にKPV-A・KPW-A シリーズの回路構成を示す。

図2 KPV-A・KPW-A シリーズの回路構成
図2 KPV-A・KPW-A シリーズの回路構成

KPV-A・KPW-Aシリーズは、開閉器、逆流防止ダイオードなどから構成される接続箱機能部と、電力変換器である昇圧チョッパやインバータと、系統電源の保護機能や電力変換器の制御を行う制御回路部から構成される。昇圧チョッパは、最大電力点追従制御(MPPT : Maximum Power Point Tracking control)によって、太陽電池の発電電力を最大化するように動作し、インバータに太陽電池の発電電力を出力する。インバータは、昇圧チョッパから出力された直流電力を交流電力に変換し、系統連系制御によって、系統電源の電圧や周波数などの状態に合わせて、交流電力を系統電源に逆潮流する。制御回路部には、MPPT制御や昇圧チョッパ制御、系統連系制御、出力制御、単独運転検出機能のAICOT®、異常検出などの各種系統保護機能を搭載している。

4. 開発技術

今回、開発したパワーコンディショナのKPV-A・KPW-A シリーズは、従来機種のKPM2 シリーズに対して、体積比で80%、重量比で64%の小型・軽量化を実現している。また、KPV-A・KPW-Aシリーズの電力変換効率は、従来機種のKPM2 シリーズに対して、550 Wの低出力時で3.2%、5500Wの定格出力時で1.5%を向上しており、パワーコンディショナの高効率化を実現している。
パワーコンディショナが発生する電力損失の中で、大きな割合を占めるのが、電力変換器である。KPV-A・KPW-Aシリーズは、電力変換器である昇圧チョッパの電力損失を低減することで、パワーコンディショナの高効率化を実現した。また、パワーコンディショナを構成する部品の中で、大きな体積・重量を占めるのがリアクトルであり、リアクトルと電力変換器を構成する半導体デバイスは、高温となる発熱部品である。このため、リアクトルと半導体デバイスの発熱を外気に放熱するための冷却構造物が必要になる。KPV-A・KPW-Aシリーズは、リアクトルの小型・軽量化に加え、昇圧チョッパの半導体デバイスが発生する電力損失を削減し、発熱量を低減することで、冷却構造物の小型・軽量化を図り、パワーコンディショナ全体の外形寸法と本体重量の小型・軽量化を実現した。
KPV-A・KPW-Aシリーズの小型・軽量化と高効率化を実現するために開発した具体的な技術要素は以下のとおりである。

(1)
2相インターリーブ方式昇圧チョッパ(以下、2 相昇圧チョッパ)の適用とスイッチング周波数の高周波化によるDCリアクトルの小型・軽量化技術
(2)
2相昇圧チョッパの適用に加え、入力電流・入力電力領域に応じた2相昇圧チョッパの動作回路数とスイッチング周波数の切り替えによるパワーコンディショナの高効率化技術
(3)
系統連系制御のロバスト化によるインバータ部を構成するACリアクトルの小型・軽量化技術

以下に、昇圧チョッパ部とインバータ部それぞれに対する開発技術を説明する。

4.1 昇圧チョッパ部におけるDCリアクトルの小型・軽量化技術

従来機種のKPM2 シリーズは、単相構成の昇圧チョッパ(以下、単相昇圧チョッパ)を適用している。図3 に単相昇圧チョッパの回路構成を示す。

図3 単相昇圧チョッパの回路構成
図3 単相昇圧チョッパの回路構成

単相昇圧チョッパは、半導体デバイスとDCリアクトルLdcで構成される。半導体デバイスのスイッチング動作によって発生する入出力電流リプルの大きさは、DCリアクトルのインダクタンス値と半導体デバイスのスイッチング周波数によって決定される。同一のスイッチング周波数で入出力電流リプルの大きさを比較した場合、インダクタンス値の大きい方が入出力電流リプルは小さくなり、逆にインダクタンス値の小さい方は入出力電流リプルが大きくなる。昇圧チョッパの入力には、照度変化によって発生する太陽電池の電圧変動を抑制するためのDC入力コンデンサCin が接続される。また、出力には、インバータが系統電源と連系するために必要なDC リンク電圧の平滑化用DC出力コンデンサCoutが接続される。この入出力コンデンサの内部温度上昇仕様や設計期待寿命を満足するために、入出力電流リプルを所望の大きさに制限する必要がある。従来機種のKPM2 シリーズにおいては、DCリアクトルのインダクタンス値を大きく設定することで、所望の入出力電流リプルになるように設計していた。
また、DCリアクトルの電流仕様は、DCリアクトルの外形寸法と重量を大きく左右する仕様の一つである。単相昇圧チョッパの場合、DCリアクトルに流れる定常状態の平均電流は、太陽電池の発電電流と同一になる。当社のパワーコンディショナは、高効率タイプで高電流仕様の太陽電池にも対応が可能な入力電流仕様を設定しているため、従来機種のKPM2 シリーズでは、最大44Aの平均電流がDCリアクトルに流れる。そのため、DCリアクトルの電流仕様は、太陽電池の最大電流に律速され、最大44Aの平均電流に耐え得る高電流仕様で設計していた。
以上のとおり、従来機種のKPM2 シリーズにおいては、DCリアクトルの電流仕様を高電流仕様となる太陽電池の最大電流で設計していたことに加え、インダクタンス値の設計によって入出力電流リプルを制限していたために、DCリアクトルの大型化を招いていた。
今回、開発したKPV-A・KPW-A シリーズは、2相昇圧チョッパを採用した。図4に2 相昇圧チョッパの回路構成を示す。
2相昇圧チョッパは、従来機種の単相昇圧チョッパを2並列接続した構成であり、DCリアクトルの小型・軽量化に対して、主に2つのメリットがある。1つ目は、2回路ある昇圧チョッパのキャリア位相を回路間で180degずらすことによって、各回路で発生する入出力電流リプルを互いに打ち消し合い、入出力コンデンサに流れる電流リプルを低減できることである。

図4 2相昇圧チョッパの回路構成
図4 2相昇圧チョッパの回路構成

そのため、単相昇圧チョッパよりも、DCリアクトルのインダクタンス値を小さく設定することができる。2つ目は、太陽電池の発電電流を2回路の昇圧チョッパで分流することが可能なため、DCリアクトルの電流仕様を低減できることである。ただし、前記2つのメリットを十分に享受するためには、太陽電池の発電電流を昇圧チョッパの2回路間で適正にバランスさせる必要がある。電流アンバランスが2回路間で生じると、入出力電流リプルを回路間で打ち消し合うことができずに入出力電流リプルが増大してしまうことに加え、DCリアクトルに流れる電流が、DCリアクトルの電流仕様を超過する恐れがある。そこで、2回路間の電流を適正にバランスさせるための電流バランス制御を昇圧チョッパ制御に付加した。
また、2相昇圧チョッパの適用に加え、DCリアクトルのインダクタンス値を更に低減するため、昇圧チョッパのスイッチング周波数を従来比の2倍に上げた。
以上のとおり、2相昇圧チョッパの適用と電流バランス制御の付加、及びスイッチング周波数の高周波化によって、KPV-A・KPW-AシリーズにおけるDCリアクトルの小型・軽量化を図った。

4.2 高効率化技術

図5 に2相昇圧チョッパの動作回路数とスイッチング周波数の切り替え領域を示す。

図5 動作回路数とスイッチング周波数の切り替え領域
図5 動作回路数とスイッチング周波数の切り替え領域

2相昇圧チョッパは、太陽電池の発電電流を2回路間で分流することが可能であるため、2相昇圧チョッパにおける1回路あたりの抵抗成分が、単相昇圧チョッパと同等とした場合、I2Rで決まる導通損失は半減する。そのため、2相昇圧チョッパにおける全体の電力損失の内、導通損失の割合が大きく占める高電流・高電力領域においては、2相昇圧チョッパを適用することによって、パワーコンディショナの高効率化が図れる。しかしながら、2相昇圧チョッパは、動作している回路数が単相昇圧チョッパよりも増えてしまうことから、半導体デバイスのスイッチング損失が増加してしまう欠点を持つ。また、DCリアクトルの小型・軽量化を図るために、昇圧チョッパのスイッチング周波数を従来比の2倍に上げたことで、DCリアクトルの鉄損と半導体デバイスのスイッチング損失が悪化する。このため、DCリアクトルの鉄損と半導体デバイスのスイッチング損失が、2相昇圧チョッパ全体の電力損失に占める割合が大きくなる低電流・低電力領域で、2相昇圧チョッパの動作回路数を2 回路から1回路に制限し、片回路のスイッチング動作を停止した。更に、低電流・低電力領域で、昇圧チョッパのスイッチング周波数を従来機種と同一のスイッチング周波数に下げることで、DCリアクトルの鉄損と半導体デバイスのスイッチング損失の悪化を防止した。また、照度変化などによって、太陽電池の発電電流や発電電力が変動した場合でも、動作回路数の切り替えやスイッチング周波数の切り替え動作にチャタリングが発生しないように、低電流・低電力領域と高電流・高電力領域の間にヒステリシス領域を設けた。
尚、低電流・低電力領域では、動作回路数の制限とスイッチング周波数の低減によって、2相昇圧チョッパの電力損失を低減することが可能であるが、入出力コンデンサに流れる電流リプルの増加が懸念される。しかし、低電流・低電力領域における昇圧チョッパの動作モードは、DCリアクトルに流れる電流リプルがゼロ電流にクランプされる電流不連続モードになることに加え、系統電源に逆潮流する出力電力が小さいことから、入出力コンデンサに流れる電流リプルは軽減される。また、DCリアクトルを構成する磁性材の磁化曲線に応じた直流重畳特性によって、低電流・低電力領域のインダクタンス値は、高電流・高電力領域よりも大きくなるため、電流リプルの低減が期待できる。これらの特性を考慮し、入出力コンデンサの内部温度上昇仕様と設計期待寿命を満足できるように、昇圧チョッパの動作回路数とスイッチング周波数を入力電流・入力電力領域に応じて、適正に切り替えている。
以上の技術要素を屋外単相パワーコンディショナに自社として初めて搭載し、低電流・低電力領域から高電流・高電力領域までの全領域で、KPV-A・KPW-Aシリーズの高効率化を図った。

4.3 インバータ部におけるACリアクトルの小型・軽量化技術

図6 に系統連系したインバータ出力部の回路構成を示す。

図6 インバータ出力部の回路構成
図6 インバータ出力部の回路構成

パワーコンディショナは、系統電源に連系するため、インバータの出力部には、送配電網に接続される配電機器や一般負荷に悪影響を与えないための高調波電流を抑制するACリアクトルLacやACコンデンサCacが接続される。また、パワーコンディショナが連系する系統電源には、柱上トランスのインピーダンスや送配電系統における線路インピーダンスなどのリアクタンス成分Lzを含む系統インピーダンスが存在する。特に、遊休地や農地の転用による野立て太陽光発電システムでは、柱上トランスなどの配電機器から遠く離れた送配電網が弱い地域に設置されることがあり、このような場合には系統インピーダンスが大きくなる。系統インピーダンスがインバータのACリアクトルとACコンデンサから形成されるインピーダンスの比率よりも大きくなると、系統インピーダンスとインバータのACリアクトルとACコンデンサ間で相互干渉が発生し、インバータの系統連系制御が不安定に陥る恐れがある4)5)。従来機種のKPM2シリーズにおいては、ACリアクトルのインダクタンス値を大きく設定することで、系統連系制御が不安定に陥らないように、系統連系制御のロバスト性能を確保していた。このため、ACリアクトルの大型化を招いていた。
図7 に系統連系制御の構成を示す。

図7 系統連系制御の構成
図7 系統連系制御の構成

KPV-A・KPW-A シリーズにおいて、制御構成の見直しと安定性解析による制御定数の最適化を行い、必要な外乱抑制性能を確保した上で、系統連系制御のロバスト性能を向上した。その結果、KPM2 シリーズのACリアクトルに対して、インダクタンス値を半減し、ACリアクトルの小型・軽量化を図った。

5. 開発成果

図8にKPM2シリーズとKPV-A・KPW-AシリーズのDCリアクトル外観を示す。

図8 DCリアクトル外観
図8 DCリアクトル外観

KPV-AシリーズとKPW-Aシリーズは、同一のDCリアクトルを適用している。KPM2シリーズにおけるDCリアクトルの体積と重量は、0.93Lと2.5kgであり、KPV-A・KPW-A シリーズにおけるDCリアクトルの体積と重量は、使用員数となる合計2個で0.6Lと1.6kgである。2相昇圧チョッパの適用と電流バランス制御の付加、及びスイッチング周波数の高周波化によって、DCリアクトルのインダクタンス値と電流仕様の低減を図り、体積比で65%、重量比で64%となる小型・軽量化を実現した。
図9にKPM2シリーズとKPV-A・KPW-AシリーズのACリアクトル外観を示す。

図9 ACリアクトル外観
図9 ACリアクトル外観

KPV-AシリーズとKPW-Aシリーズは、同一のACリアクトルを適用している。KPM2シリーズにおけるACリアクトルの体積と重量は、0.93Lと2.6kgであり、KPV-A・KPW-AシリーズにおけるACリアクトルの体積と重量は、0.59Lと1.8kgである。系統連系制御のロバスト性能を向上したことで、ACリアクトルのインダクタンス値を半減し、体積比で63%、重量比で69%の小型・軽量化を実現した。
図10に、太陽電池電圧が320V、系統電圧が202V、系統周波数が60HzにおけるKPM2シリーズとKPV-A・KPW-Aシリーズの電力変換効率比較を示す。KPV-A・KPW-Aシリーズは、2相昇圧チョッパの適用と、動作回路数の切り替え、スイッチング周波数の切り替え機能を付加したことによって、従来機種のKPM2シリーズに対して、550Wの低出力時で3.2%、5500Wの定格出力時で1.5%を向上し、低電流・低電力領域から高電流・高電力領域までの全領域において、大幅に電力変換効率を向上した。

図10 電力変換効率比較(実測値)
図10 電力変換効率比較(実測値)

以上のとおり、リアクトルの小型・軽量化に加え、昇圧チョッパの電力損失を低減したことで、KPM2シリーズにおける本体体積の63Lと本体重量の31kgに対して、KPV-A・KPW-Aシリーズの本体体積を51L、本体重量を20kgとする小型・軽量化を実現した。

6. むすび

本稿では、小型・軽量化と高効率化を実現した屋外設置型単相パワーコンディショナのKPV-A・KPW-Aシリーズについて述べた。
KPV-A・KPW-Aシリーズは、2相昇圧チョッパの適用と高周波化、及び系統連系制御の最適化によって、大型部品であるリアクトルの小型・軽量化と昇圧チョッパの電力損失を低減した。これによって、パワーコンディショナ本体の体積を51L、重量を20kgとする小型・軽量化を実現し、500W程度の低出力時で95.5%、定格出力時で96.0%とする高い電力変換効率を実現した。KPV-A・KPW-Aシリーズは、小型・軽量化による施工性の向上と全電力領域での高い電力変換効率を実現したことによって、初期導入費用の低減と総発電量の最大化が図れるため、太陽光発電の発電コストを低減することが可能であり、更なる太陽光発電の普及拡大への貢献が期待できる。
今後も、再生可能エネルギーの発展と更なる社会的ニーズに応えられるパワーコンディショナの開発を行い、持続可能な社会の実現に貢献していく所存である。

参考文献

1)
経済産業省 資源エネルギー庁.“長期エネルギー需給見通し”.https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/mitoshi/pdf/report_01.pdf,(参照 2019-04-26).
2)
一般社団法人 太陽光発電協会.“太陽光発電が自立した主力電源となるために”.http://www.jpea.gr.jp/pdf/t180418_2.pdf,(参照 2019-04-26).
3)
一般社団法人 日本電機工業会 JEM 1498.“分散型電源用単相パワーコンディショナの標準形能動的単独運転検出方式(ステップ注入付周波数フィードバック方式)”.2017.
4)
Y. Kamatani, T. Nishikawa, T. Zaitsu, and T. Uematsu. “A Compensatorthat Negate the Influence of Grid Impedance based on FrequencySweep Estimation Technique”. OMRON TECHNICS. 2018,vol.161, p.54-59.
5)
Y. Kamatani, T. Nishikawa, T. Uematsu, and T. Zaitsu. “Unique Self-Tuning Method for Stability of Grid-Connected Inverter”. IEEEInternational Conference on DC Microgrids, May 2019.

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