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プリント配線板における部分放電開始電圧・部位予測と高周波域への拡張

博田 知之HAKATA Tomoyuki
グローバル購買・品質・物流本部
品質技術室 工程品質技術部
専門:機械工学、磁気設計
技術士(金属部門)
佐藤 博SATO Hiroshi
グローバル購買・品質・物流本部
品質技術室 製品品質技術部
専門:電子回路

近年の電力変換機器の高周波化や高電力化に伴い、多層のプリント配線板における絶縁破壊リスクが増大している。リスクに対応するため、高周波域への対応も含めた部分放電発生部位および部分放電開始電圧の予測技術が望まれていた。

従来、エナメル線のツイストペアや球電極などの簡易形状には、電界CAE解析と理論から部分放電開始電圧を予測する検討がなされていた。しかし、プリント配線板、特に高周波領域を含む予測技術はなかった。

本稿では、多層のプリント配線板を想定し、絶縁層を挟んだ上下銅パターン間の部分放電現象、特に高周波領域(MHz帯含む)の予測技術の検討を行った。

電界CAE解析と放電理論による部分放電開始電圧と放電部位の明確化および実測評価により、高周波領域での部分放電開始電圧が、周波数依存の補正係数追加で導出可能であることを示した。その結果、30%の精度で5MHzまでの部分放電開始電圧を予測できるようになった。

1. まえがき

2050年のカーボンニュートラル実現に向け、脱炭素社会への取り組みが進行しつつある。電力変換機器においては、高効率化が求められるとともに、再生可能エネルギー導入に向けた分散化等を実現する小型化(高電力密度化)が強く求められている1)

一方、電力変換器のスイッチングに使用されるパワー半導体においては、従来のシリコン(Si)に比して高耐圧・高周波化可能なワイドギャップ半導体(SiCやGaNなど)が実用化され、スイッチングの高周波化(数百kHz~MHz帯近傍)が可能な環境になってきている。また、プリント配線板は多層化が進んでおり、回路パターンも高密度化してきている2,3)。スイッチングがより高周波化すれば、LC素子の小型化が可能となり、プリント配線板の多層化と相まって、電力変換器の一層の高電力密度化を図ることが可能となる。

ただし、高周波化やプリント配線板の多層化による電力変換器の高電力密度化は「サージの増大」「絶縁厚み低下」を生じさせ、その結果、部分放電が発生しやすくなっている。部分放電とは「導体間の絶縁を部分的にのみ橋絡する放電」である4)。部分放電のエネルギーは低く、わずかに絶縁層を劣化させる程度であるため、通常問題にならない。しかし、電力変換器が高周波化すると、部分放電による絶縁層劣化は加速されると考えられるため、絶縁破壊のリスクは高くなる。一方で、プリント配線板の多層化により、放電箇所の推定が難しくなるため、絶縁破壊のリスクがより高まっている。さらに、電圧印加の周波数により放電開始電圧は変動すると言われており5)高周波化により部分放電が生じやすくなるリスクも考えられる。

これらリスクへの対策を立案するにあたっては、高周波域の部分放電挙動も含めた部分放電発生部位および部分放電開始電圧の予測技術構築が有効である。

例えば、エナメル線では、ツイストペア形状を用いた電界CAE解析(2次元断面)による部分放電部位特定と放電理論(パッシェンの法則)による部分放電開始電圧予測や実測結果が報告されている6)。しかし、プリント配線板のような3次元形状ではない上、印加電圧はインパルスや低周波を対象としたものであり、高周波電圧に対する評価ではない。

また、高周波電圧に対する放電評価としては、単純形状(球電極)における実測結果7)やプリント基板の沿面放電の評価8)などが報告されている。しかし、絶縁層(誘電体)を挟んだ上下導電パターン間における部分放電現象に関する報告、特にMHz領域に踏み込んだ検討はほとんどない。

そこで、我々は、多層のプリント配線板を想定し、絶縁層を挟んだ上下導電パターン間の高周波域を含む部分放電予測技術の検討を行った。本稿では、低周波域における3次元電界CAE解析による放電部位および部分放電開始電圧を推定した上で、部分放電開始電圧周波数依存性の実測評価を行い、高周波域における部分放電開始電圧の補正を可能としたので報告する。

2. 理論背景

2.1 プリント配線板における分圧と放電部分

部分放電とは、導体間の絶縁を部分的にのみ橋絡(キョウラク)する放電をいい、導体間を完全に橋絡する放電は含まない(JEC-0401-19904)より)と定義されている。放電は主に気体の絶縁破壊に伴う電子の移動であるため、部分放電現象は電極間(導体間)に含まれる気体部分で発生する。放電ではオゾン発生や発熱を伴うため、放電近傍の絶縁層などは劣化していくことになる9)

多層のプリント配線板における部分放電の例を図1に示す。多層のプリント配線板では、銅パターン横にある空気部分のキャパシタンスと絶縁層のキャパシタンスが直列に配置されるため、分圧により空気部分の電位差が大きくなる。また、放電は主に気体部分で発生するため、気体でかつ電位差が大きい空気部分で放電しやすいと想定できる。なお、部分放電開始電圧は、プリント配線板の放電開始時における高圧電源の電圧値とする。

図1 プリント配線板(断面)の部分放電
図1 プリント配線板(断面)の部分放電

2.2 放電発生条件(パッシェンの法則)

放電は、以下のプロセスで持続放電に至る。一つは、電極間で加速された電子が気体原子に衝突し、原子を電離させ、新たな電子が供給される現象(α 作用)である。α 作用により、指数的に電子が増加し、絶縁が破られ放電する。α 作用は電子と原子の衝突が原因であるため、電子が十分な衝突エネルギーになるまで加速する適切な分子間距離や衝突確率(分子密度)に影響を受ける。また、2次電子を放出した原子はイオンとなり、イオンは電極に衝突し、電子を供給(γ 作用)し放電を継続させる。

放電発生条件はパッシェンの法則に従う10,11)(図2)。パッシェンの法則は、放電開始電圧が気体圧力(p)×電圧がかかる電極間距離(d)の関数となることを示したものである。pdは電極間に含まれる気体分子の密度に類するものと言え、前段のα 作用に関連する。気体種類により曲線は変化するが、図2では空気の場合を示した。図2より、最も放電しやすい条件があることがわかる。気体が空気で常温(25℃)かつ1気圧(1013.25hPa)の場合、電極間距離約8μmが最も放電しやすい条件であり、328V付近が放電開始電圧となる。また、気体の状態方程式からわかるように、横軸のpd(気体分子の密度)は周囲温度の影響も受けるため注意を要する。

図2 パッシェンの法則
図2 パッシェンの法則

また、高周波域においては、質量の大きいイオン運動が放電開始電圧に影響し、パッシェンの法則を変化させることが知られている7,12)。高周波域においては、放電開始電圧はpdに加え、印加電圧の周波数(f)×電極間距離(d)の関数になるとされている。例えば、球電極の実測評価では、周波数増加に伴い、部分放電開始電圧が低下し、1MHzではDCの8割程度に低下する。逆に、1MHz以上では、部分放電開始電圧は増加する傾向にある7)。これより、印加電圧の周波数により大きく放電開始電圧が変化することがわかる。

プリント配線板においては、高周波域における放電電圧変化が不明なため、実測に基づく実験理論式を求めることとした。

以上のように、プリント配線板における空気部分の電界分布を評価することができれば、印加電圧周波数を含めたパッシェンの法則の放電条件(放電開始電圧とpd)を用いて部分放電開始電圧を見積もることが可能になる。(なお、電界分布は、後述のように電界CAEで評価することが可能である。)さらに、プリント配線板における放電開始電圧の周波数特性を取得することにより、高周波領域まで部分放電開始電圧を予測することができるようになると考えた。

3. 電界CAE解析と放電理論による部分放電開始電圧と放電発生部位検討

3.1 CAE検討モデル

図3のように多層のプリント配線板を模擬したCAE用検討モデルを作成した。一般的なプリント配線板を想定し、L1およびL2層はCuであり、厚み18μmとした。絶縁層も、一般的なプリント配線板の絶縁層(FR4プリプレグ厚み)に基づき、絶縁層は0.076mm、0.1mm、0.15mm、0.3mmと4種類とした。また、使用した材料定数を表1に示す。FR4の比誘電率や誘電正接はMHz帯までほぼ変化ないため、一定の値を使用した。なお、プリント配線板のエッチング精度などを考慮し、L1層角部をC0.1とした。

図3 CAE用検討モデル
図3 CAE用検討モデル
表1 CAEモデル用材料定数
材料 材料定数
導電率
(S/m)
比誘電率 誘電正接
L1/L2層 Cu 5.98E7
絶縁層 FR4 4.25 0.01

3.2 電界CAE解析条件

電界CAE解析にはFEMTET(ムラタソフトウェア株式会社)を使用した。また、図4のように、L1、L2層間に交流電圧を印加する解析を行った。将来的にパワエレ機器で想定される高周波領域として5MHzと現状のAC60Hzおよびその中間ほどである300kHzの周波数を設定した。

図4 電圧印加箇所
図4 電圧印加箇所

3.3 電界CAE解析における部分放電判定方法

印加電圧AC1kV0-Pかつ周波数60Hzにおける電界CAE解析結果(電界コンター図 絶縁層表面)を図5に示す。図5より、L1層C面エッジ部において電界が集中していることがわかる。理論より部分放電はこの位置で発生することが予想される。

図5 電界CAE解析結果(コンター図)
図5 電界CAE解析結果(コンター図)

前述のように、パッシェンの法則により最も放電しやすい条件は常温常圧(25℃かつ1気圧=1013.25hPa)下で電極間約8μmかつ電位差328Vであった。今回のプリント配線板において放電するのはL1層と絶縁層間にある空気層である。従って、電界CAE解析における部分放電開始電圧の導出は、次のようにした。ある印加電圧下における電界CAE結果から、L1層と絶縁層間の空間距離8μmかつ最も電位差の大きい場所(図5の電界集中箇所)を見出し、電界集中箇所の電位差が328Vとなるよう印加電圧を変化させる。その際の印加電圧を部分放電開始電圧とした。また、電力制御機器の規格から、高地(海抜3000m)かつ高温になる電子部品近傍の温度(135℃)を想定した。この場合、簡易的に空気密度比で25℃に換算すると気圧518.60hPaと計算される。以上をパッシェンの法則で換算すると、空間距離15.6μmかつ328Vが放電条件となる。

なお、この電界CAE解析では、パッシェンの法則における周波数特性影響は加味していない。周波数による電界分布変化のみを考慮している。

3.4 解析結果

図6に電界CAE解析結果を示す。なお部分放電開始電圧は電圧ピーク値(V0-P)で記載した。結果より、縁層厚みの増加により部分放電電圧が高くなっていることがわかる。518.60hPaの条件においては、常温常圧(1013.25hPa)時に比して30%近く部分放電開始電圧が低下している。

図6 電界CAE解析結果
図6 電界CAE解析結果

これは、気圧が1013.25hPaから518.60hPaになると、放電開始電圧が最低値となる空間距離は、8μmから15.6μmと長くなるためである。空間距離が長くなると、(同じ電界分布の場合)電位差が大きくなるため放電しやすくなる。本結果より、高地・高温環境における電力変換機器の絶縁設計は注意を要することがわかる。

なお、今回検討した周波数域においては、電界分布はほとんど変化しなかった。そのため、本電界CAE解析では部分放電開始電圧に周波数依存性がなかった。

4. 部分放電開始電圧の周波数影響実験

4.1 実験サンプルと実験条件

プリント配線板における高周波領域までの部分放電開始電圧を実測することで周波数影響の検討を行った。図7および表2に示すように絶縁層の厚みを変化させた多層プリント配線板を準備した。寸法や材料特性は電界CAEと合わせた。なお、絶縁層はFR4であるが、誘電率が規定されているものを用いた。

図7 実験サンプル形状
図7 実験サンプル形状
表2 実験サンプル層構成および材料
材料 厚み(mm)
L1/L2層 Cu 0.035
絶縁層 FR4
(誘電率4.2~4.4)
0.076 0.1 0.15 0.3

また、高周波領域の部分放電挙動を測定するため、L1層とL2層間に20kHz、300kHz、1MHz、2MHz、5MHz交流電圧を印加し、実験を行った。

さらに、135℃かつ標高3000mを気圧換算し、常温常圧と比較を行った。具体的には周囲温度25℃前後で気圧518.60hPaもしくは1013.25hPaに調整し実験を行った。

4.2 部分放電評価システム

図8のようなシステムを用い、シールドルーム内でサンプルに交流電圧を印加して部分放電の評価を行った(電波法対応のためシールドルーム、人体保護のためシールドテント使用)。アンプの周波数制限から20kHz~500kHzと1MHz~5MHzは異なる構成になっている。使用した装置を表3に示す。

図8 部分放電評価システム
図8 部分放電評価システム
表3 評価装置
装置 メーカ・型式
発振器 (株)テクトロニクスAFG1022
高周波アンプ (株)エヌエフ回路設計ブロックHSA4052
トランス 20kHz用 300~500kHz用 
2種類(自作)
オシロスコープ (株)テクトロニクス
MSO44-3-BW-500
高周波高圧発生装置 カスタム品

また、部分放電の計測には、自作の高周波用CTを使用し、放電で発生する高周波電流を取得した。さらに、気密ボックスを使用し、気圧調整をして実験を行った。

4.3 部分放電評価方法

部分放電発生有無のCT電流波形を図9に示す。図9より部分放電が発生した際、ノイズのような波形が出ることがわかる。この波形が発生した際の印加電圧を部分放電開始電圧とした。

図9 部分放電波形
図9 部分放電波形

なお、本実験において、電圧印加時間は、部分放電発生を判断するのに十分な時間である10秒とした。10秒の間に、部分放電発生がない場合は、印加電圧を20V上げ再測定し部分放電が発生するまで繰り返した。

4.4 部分放電観察方法

部分放電による発するUV光観察には、UVカメラ(ViewTer-500UV 3R社)を使用した。

5. 部分放電開始電圧の周波数影響実験結果

5.1 部分放電開始電圧の気圧および周波数依存性

印加周波数と絶縁層厚みを変えた際の実験結果を図10および図11に示す。なお、図10と図11は気圧条件を変えたものである。

図10 1013.25hPa(常温常圧)の部分放電開始電圧
図10 1013.25hPa(常温常圧)の部分放電開始電圧
図11 518.60hPa(高所高温)の部分放電開始電圧
図11 518.60hPa(高所高温)の部分放電開始電圧

図10と図11の比較から、気圧が下がる(高所かつ高温)と、周波数に関わらず部分放電開始電圧が一律に20%程度低下していることがわかった。これは、パッシェンの法則において、放電開始電圧に対する気圧影響と周波数影響には交互作用が少ないためと推測する。

さらに、絶縁層厚みや気圧に関わらず、周波数の増加に伴い線形的に部分放電開始電圧が低下する傾向にある。(低下割合は100kHz毎に0.7%程度)これは、パッシェンの法則の周波数依存性と考えられるため、放電開始電圧の補正係数として採用する。

5.2 部分放電発生位置

部分放電による発するUV光の観察を行った。図12は実験サンプルのL1層先端部分の部分放電を撮影したものである。図12より、電界CAEによる電界集中箇所(図5参照)と同じ位置で部分放電が発生していることが観察できる。

図12 部分放電のUV写真
図12 部分放電のUV写真

5.3 MHz帯の部分放電による絶縁破壊

絶縁層厚み0.076mm厚のサンプルに1MHzで部分放電開始電圧を連続印加した。結果、おおよそ100秒程度で絶縁破壊した。その後、絶縁破壊後のプリント配線板表面を観察した。観察結果を図13に示す。図13より、部分放電が発生している場所において、FR4部分に孔が空いていることがわかる。

図13 1MHz連続放電によるFR4部分の孔
図13 1MHz連続放電によるFR4部分の孔

1MHzのような高周波であると、部分放電のみで100秒以内で容易に絶縁破壊に至った。

6. 電界CAE解析への周波数特性の反映

実験結果より、プリント配線板を考慮したパッシェンの法則においては、次のことが分かった。①気圧と周波数は独立である。②放電開始電圧は周波数の1次関数になる(100kHzごとに0.7%程度低下)。以上より、高周波領域までを含むパッシェンの法則は、周波数に依存した補正係数を加味することで算出できると推測した(5MHzまで)。そこで、電界CAE解析と周波数影響を加味したパッシェンの法則を元に部分放電開始電圧を推定した。絶縁層厚み0.076mmの例を図14に示す。

図14 電界CAE解析と周波数補正による部分放電開始電圧
図14 電界CAE解析と周波数補正による部分放電開始電圧

CAEによる推定値と測定値の定性的傾向は一致している。誤差は他の絶縁層厚みも含め、最大30%程度であり、部分放電開始電圧の予測は可能といえる。

低周波側における誤差原因の一つとして、実験サンプルの形状精度が挙げられる。プリント配線板のCuパターン形状はエッチングにより作製するため、表面には微視的な凹凸がある。また、絶縁層厚みにもばらつきがある。そのため、電界分布が変化し推定値と測定値の違いに現れると推測する。

7. 考察

今回実験評価を行ったプリント配線板では、周波数増加に伴い部分放電開始電圧が線形的に減少した(5MHzまで)。前述した球電極では、1MHz程度まで部分放電開始電圧が減少し、その後増加に転じていた。その違いについて考察する。

放電は前述したように原子の電離が関係する。高周波交流電圧が電極に印加されると、α 作用で電離された質量の大きいイオンの一部が電界の変動に追従できず電極間にトラップされる。そのため、低周波と同電圧においても、電極間の電界を大きく歪ませ、局所的に電位差を大きくする。結果、高周波では、放電開始電圧が低下する。また、より高周波になると、多数のイオンが電極間にトラップされ、γ 作用が低下し、放電開始電圧は上昇する7,12)

以上の現象は平等電界におけるイオンの運動のため、実際は電極間距離と電界の状態に大きな影響を受ける。

球電極における電極間の電界は平等電界であるため、理論に近い動きをしていると考えられる。対して、プリント配線板では、Cuパターンと絶縁層間が不平等電界であり、場所ごとにイオンの動きが異なると考えられる。そのため、球電極とプリント配線板では部分放電開始電圧の周波数依存性が異なるのではないかと推測する。

8. むすび

近年の電力変換機器の高周波化や高電力化に伴い、多層のプリント配線板における絶縁破壊リスクが増大している。リスクに対応するため、高周波域への対応も含めた部分放電発生部位および部分放電開始電圧の予測技術が必要であった。

従来、ツイストペアや球電極などの簡易形状には電界CAE解析と理論から部分放電開始電圧を予測する試みはあるが、プリント配線板、特に高周波領域を含む予測技術はなかった。

本稿では、多層のプリント配線板を想定し、絶縁層を挟んだ上下銅パターン間の部分放電現象、特に高周波領域(MHz帯含む)の予測技術の検討を行った。

検討の結果、電界CAE解析により部分放電開始電圧と放電部位を明確化するとともに、高周波領域までの補正係数を導出し、5MHzまで部分放電開始電圧を予測できるようにした。また、高周波では短時間で絶縁破壊することを確認した。

本検討により、電力変換器の高電力密度化に伴う品質リスクを先行的に把握することが可能となった。

また、今後も沿面放電も含む、別のパターン形状との比較や予測精度向上を行っていく。

品質技術室では本結果を踏まえ、パワエレ製品の多層プリント配線板設計基準を策定中である。品質技術室は、このような、製品トレンドや技術トレンドに基づく先行的な品質リスク検討を行っており、今後も継続的に活動していく予定である。

参考文献

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