オムロンの存在理由とは、社会の価値創出と永続的発展に寄与すること オムロン2022年度ESG説明会レポート

オムロンの企業理念の源流は、1959年に創業者の立石一真が制定した社憲「われわれの働きで われわれの生活を向上し よりよい社会をつくりましょう」だ。企業は社会に役立ってこそ存在価値があり、利潤を上げることができ存続していけるのだという思い、そして自らが社会を変える先駆けとなるという決意が込められている。今まさに企業に求められているサステナビリティの概念そのものだ。

オムロンは、3月8日に2022年度ESG説明会を開催。挨拶に立った山田義仁 代表取締役 (2023年6月 取締役会長就任予定)は、「この社憲により経営と社員の間に一体感が生まれ、その後の飛躍的な成長につながった」と語った。オムロンの「企業価値の最大化」「社会価値と経済価値の創出」「非財務目標」「人的創造性」の取り組み、そして3月末の退任を発表した山田氏の経営にかけた思いをサステナブル・ブランド ジャパン編集局がレポートする。

678_02.jpg山田義仁 代表取締役 ※2023年6月 取締役会長就任予定

 

オムロンが目指す企業価値の最大化

説明会の冒頭で山田氏は「企業理念の実践は企業価値最大化のための原動力であり、成長の源泉そのもの」だと述べた。オムロンはこれまで「社会に役立ってこそ」の理念をもとに、社会が抱える課題やニーズに対応し、自動改札システムなどの製品やサービスを生み出してきた。昨今では、少子高齢化による人財不足を補うため、FA(Factory Automation)の分野でロボット統合コントローラーを世界で初めて導入している。

だが、山田氏は「創業当時から根付いていた、貪欲に成長しようというアニマルスピリットが緩やかに失われ、成長力にも陰りが見え始めた」と続ける。2000年代以降には、ITバブルの崩壊やリーマンショック、2011年3月には東日本大震災など大きな外部変化が重なり、多くの企業がかつてない危機に直面した。

山田氏が就任したのは2011年、そうした厳しい事業環境だったが「どのような逆風が吹いても、オムロンを力強く利益成長する企業へ鍛え上げると決意した」と振り返る。そのために山田氏が取り組んだのは、「稼ぐ力の強化」と「企業理念の浸透」だ。

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まず、売上総利益率の向上を経営指標として掲げ、成長力・収益力・対応力などを強化。結果、2011年度実績と2022年度実績見通しの比較では、売上総利益率は36.8%から45.1%に向上し、また売上総利益額は1.7倍、営業利益額も2.4倍に拡大した。

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次に、社憲を「Our Mission」として受け継ぎ、社員一人一人が大切にする価値観を「Our values」としてまとめた企業理念を2015年に改訂し、昨年には定款に組み込んだ。「創業時のアニマルスピリットを取り戻すことと、今まで以上に社会に価値を創出する企業にしたい」という強い思いがあったからだ。新しい企業理念には、 オムロンは、「よりよい社会を作る」ために存在する、 そして、「ソーシャルニーズの創造」こそ、我々の使命である、 という想いが込められている。

いかに現場に企業理念を浸透させ「共鳴を呼び起こすか」を考えた山田氏は、各事業所の社員と約2時間対談する「社長車座」を実施。終了後に届く参加者からのメールに対してその倍以上の熱量で全員に返信しているという。

またグローバルで取り組んでいるのが「The OMRON Global Award( TOGA)」だ。TOGAは社員による企業理念実践の提案を表彰し全員で共有する大規模イベントで、2012年から10年間続いている。昨年度は、延べ5万1736名が参加した。TOGAには「褒め称え合う文化」を醸成する目的もあり、山田氏は「個人の思いを尊重する組織風土、チャレンジする風土が広がってきた」と実感している。

 

サステナブルな社会への貢献を通じた社会価値と経済価値の創出

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オムロンは2022年4月に長期ビジョン「Shaping the future(SF2030)」を掲げ、次の10年に向け新しいスタートをきった。事業を通じた社会課題の解決を進め企業価値の最大化を目指し、「カーボンニュートラルの実現」「デジタル化社会の実現」「健康寿命の延伸」の3つの社会的課題に取り組む。また解決に向けてインダストリアルオートメーション(IAB)ヘルスケアソリューション(HCB)ソーシャルソリューション(SSB)、そしてデバイス&モジュールソリューション(DMB)を用い、山田氏は「徹底的にオートメーションを極めたい」と強調した。

678_03.jpg井垣勉 執行役員常務 グローバルインベスター&ブランドコミュニケーション本部長 兼 サステナビリティ推進担当

続いて、井垣執行役員常務が、「IABでは持続可能な社会を支えるもの作りの高度化、HCBでは循環器疾患のゼロイベント、SSBでは再エネの普及・効率的利用とデジタル社会のインフラ持続性、DMBでは新エネルギーと高速通信の普及に、それぞれ貢献する」と説明。

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また、SF2030の最初の中期経営計画である「SF 1st Stage」では、前述の3つの社会課題の解決への取り組みを主力事業と定めた。2021年度比で2024年度までに、プラス45%を超える1494億円の売上成長を計画している。

この売上計画について井垣氏は、カーボンニュートラルに焦点を絞って説明。顧客や社会に対して制御機器事業から自社商品サービスの提供を通じたカーボンニュートラルを推進すること、自社拠点で推進することの両面からアプローチするという。

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オムロンは、2022年10月に日本の製造業として初めて、国際イニシアチブEP100(Energy Productivity 100%)に加盟。2040年までにエネルギー生産性を200%に高めることを宣言した。また、自社においては、2050年までに自社拠点から排出される温室効果ガスをゼロにする「カーボンゼロ」を宣言している。温室効果ガス排出量は基準年である2016年度と比較して2021年度は50%削減という実績であり、2024年度では53%削減、SF2030のゴールとなる2030年時点では65%削減を目指す。

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2022年度は、削減目標の51%を上回る58%削減を達成する見通しであり、売上増に伴う排出量増加分を考慮しても良い結果だ。また、国内拠点のカーボンゼロは目標の9拠点から10拠点が達成できる見込みで、IABのグループ内展開や、グループで初となる再エネ電力の自己託送の取り組みが成果となって表れた。

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続いてKPIの進捗では、カーボンニュートラル実現に向けた取り組みが着実に進んでおり、井垣氏は「これらの社会価値のアウトカムを経済価値に繋げることで、今年度2022年度は2020年度比でプラス34%の売上成長見通し」だとまとめた。

 

非財務目標達成に向けた取り組み

678_04.jpg劉越 サステナビリティ推進室長

SF2030では11項目の非財務指標を設定しており、1~7番はオムロンが生み出す社会価値とその価値を生み出すための人財能力の獲得を示した目標だ。8~10番は、社員自ら投票し定めた目標で、「そのプロセスによって取り組みへの参画意識が高まり、社員の行動力と企業の競争力につながる」と劉室長は述べた。

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2024年度達成目標に対して2022年度末の進捗状況では、「目標ごとにマイルストーンが異なるため全体の進捗率に差はあるが、目標に必要なアクションは実行されており達成に向けて順調」だと説明する。

プラス1目標は、各業務のトップマネジメントが主なサステナビリティ方針に基づき、地域社会に対してコミットメントし実行する目標だ。例えば中国では、現地の基金と連携して蔵書が不足している農村部の小学校へ約4万5000冊の本を寄贈。劉室長は、「こうした活動は、社員のモチベーション向上と現地コミュニティーとのパートナーシップ構築につながっている」と効果を挙げた。

 

人的創造性の向上について

678_05.jpg冨田雅彦 執行役員専務 CHRO 兼 グローバル人財総務本部長

「SF2030で示した価値創造実現の鍵は、ダイバーシティ&インクルージョン」と冨田執行役員専務は述べた。オムロンでは、「よりよい社会作りへ挑戦する多様な人たちを引きつける」ことをダイバーシティ、「一人一人の情熱と能力を解放し、多様な意見からイノベーションを創造し、成果を分かち合うこと」をインクルージョンと定義した。「このダイバーシティ&インクルージョンを加速させることで、価値創造を推進。その実践がどれぐらいできるのか測るのが人的創造性だ」と説明した。

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オムロンでは人的創造性を重要な戦略目標として位置づけた。「人財への投資をしっかり行うことで、それ以上に価値を見出せる」という。冨田氏は、人的創造性を高めるポイントとして「人財の最適な配置」「人財の能力獲得・評価」「保有能力の発揮」を挙げた。2022年度はグローバルで人件費の高騰等があったが、2021年度比102%の見込みであり、目標に向けて順調な進捗といえる。

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次に冨田氏は、経営層と社員が対話するエンゲージメントサーベイ「VOICE」を紹介。2022度は社員からの回答率は91%、フリーコメントは3万8000件あった。対象者約2万人に対してコメント数が多く、冨田氏は、「社員が自分の声を届けることで経営メンバーが会社をより良くしてくれるとの期待の証」と強調する。

このVOICEには、ヘルスケアにおける事業プロセス効率化や、権限移譲や業務プロセスのシンプル化に関する改善要望や提案が多く寄せられている。山田氏と冨田氏が全てのコメントに目を通しており、「大変な作業だが、いつも新たな気づきや課題発見があり、とても楽しみ」だという。

また冨田氏は、「ダイバーシティ&インクルージョンの実践、そして人的創造性の向上は簡単ではない。人的投資や人財政策の成果が出るまで時間が必要だ」と話し、だからこそ、各取り組みを地道に進めていくと同時に、中期的な視点で評価を行うことが重要だとまとめた。

678_06.jpg2022年度ESG説明会 会場の様子

最後に山田氏から3月で社長を退任するとの挨拶があった。社長に就任して12年間、一貫して成長力・収益力・対応力を兼ね備えた事業を展開する、強いオムロンを作り上げることを目指してきた。しかし、「それだけが目的ではなく、事業を通じて社会価値を創出し、社会の発展に貢献し続けること。これこそがオムロンの存在理由」だと力を込めた。そして、オムロンはまだ発展途上にあり、長期ビジョンSF2030で描いた物語を、後任に任せたいと話した。「熱意あふれる新しい経営チームにぜひ期待してほしい」と最後に力強く語った。

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