台風や豪雨による洪水被害を防ぐスマート排水システム

近年、地球温暖化に伴う異常気象の激化により、洪水などの自然災害が深刻化しています。
排水インフラが十分に整備されていないことにより台風や突然の豪雨に対処できない都市も多く、道路や地下鉄の駅の浸水といった被害が世界中で生じています。洪水により人命や財産が失われるなど、地域住民に深刻な影響を与えるケースもあり、人々の安心・安全な生活を脅かしています。

制御機器事業を主力とするオムロンは、「事業を通じて社会価値を創出し、社会の発展に貢献し続けること」を存在意義としています。長期ビジョン「Shaping the Future 2030(SF2030)」では、2030年までに生じる社会の変化因子の一つとして気候変動を捉え、これに起因する社会的課題の解決に取り組んでいます。オムロンは、都市型洪水という喫緊の課題を受けて、地球上の生態系のバランスを保ちながら社会の持続可能な発展を促進する革新的ソリューションの開発に取り組んでいます。

 

深刻な洪水の被害に直面した中国

世界的な気候変動の影響を受け、中国では近年豪雨災害が頻発しています。2023年の統計によると、中国では年間5,278万9,000人もの方が洪水の被害を受け、直接的な経済損失は2,445億7,000万人民元に上っています。中国当局はこの状況を踏まえ、洪水による被害を最小化する都市型の洪水防止システムの構築を提唱しています。
そこでオムロンは、30年にわたる中国での事業活動実績と、オートメーション領域における専門知識・技術を活かして、都市における洪水被害を防ぐ都市型の「スマート排水システム」の構築に着手しました。

 

中国のH市における洪水の原因を調査

チームはまず、中国のH市が抱える洪水の課題に対策を講じるため、原因調査に乗り出しました。H市は排水の配管が細く、河道が詰まり、排水トンネルの処理が追いついていない状況がありました。また、複数の管理機関が個別に排水システムを管理し、緊急時に各所が連携した対応が遅れているという課題がありました。
そこでチームは、関係機関・部署と連携を図り、排水トンネルを機能させながら、緊急時には迅速な対応ができる統合的な排水システムの構築に乗り出しました。

最初に協力を仰いだのは、排水トンネル業界です。設計事務所や土地所有者、提携企業など、あらゆる関係者と広範な検討・協議を重ねた結果、都市における排水トンネルの洪水を防止・低減するためには、トンネルのインテリジェント化/デジタル化の強化と、排水ポンプ場の支援が必要であることを突き止めました。

 

制御機器技術を活かして統合的な「スマート排水システム」の導入を実現

オムロンは、設備稼働状況や気象データの共有、科学に基づく早期警報、多様な関係者による一元管理を実現する都市型の「スマート排水システム」の実現を目指して、徹底的に調査をしました。

「中国では都市型のスマート排水システムの実績は多くなかったのです」。そう語るスマートシティ部門の責任者ジュ・リュチャオはプレッシャーにさらされました。「チームは、排水会社や交通局など多様な関係者とコミュニケーションをとる必要があっただけでなく、どうすればこの課題が解決できるか?というソリューションの策定やソフトウェア/ハードウェアの開発といった技術的な課題にも直面したのです」。

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スマートシティ部門の責任者 ジュ・リュチャオ

 

ソフトウェア設計で直面した主な課題の原因は、「スマート排水システム」で管理するデバイス数が多い上に、標準インターフェースの規格がないことにありました。ジュ・リュチャオはこう続けます。「ソフトウェア設計では、提携企業と技術試験を何度も繰り返したことで、「スマート排水システム」の安定性、信頼性、安全性を確保しました」。ハードウェアに関しては、パフォーマンス、互換性、セキュリティなどの観点を含む多次元評価を実施し、デバイスが「スマート排水システム」の要件を満たしているかどうかを適切にフィルタリングする選定指針を定めました。
ソフトウェア/ハードウェアに関するチャレンジングな課題に対してくじけることなく果敢に向き合ったことで、最終的に都市型の「スマート排水システム」の開発に成功しました。

「オムロンがこれまで培ってきた制御機器に関する専門知識やプロジェクト推進の豊富な経験を生かして、関係者と何度も議論を実施した結果、課題解決に向けたソリューションについて合意を得るに至りました。私たちの努力が報われて、みんなとても興奮しています。」ジュ・リュチャオは語ります。

チームは、人工知能(AI)やオムロンのコア技術 "Sensing & Control +Think"をはじめとした様々な技術を用いたデータサービスを通じて、都市における排水トンネルの管理プラットフォームの提供を実現しました。

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「スマート排水システム」導入後の排水トンネルのイメージ

 

H市の今後の災害を緩和・防止するために、オムロンは以下の対策を講じています。

  • 「スマート排水システム」のプラットフォームで排水施設をリアルタイム監視し遠隔調整することで、緊急時の迅速な対応を実現。
  • 排水にかかる資源の最適化により、運用コストを30%削減。結果、経済効率と環境保護が改善。
  • 自動制御および遠隔監視技術を活用してH市内51カ所の排水ポンプ場の自動管理を実現。結果、人材配置が最適化され、作業効率と管理水準が改善。
  • 監視・警戒システムで都市の排水を網羅的にモニタリングし、リスクや危険を即座に検知・警告することで、住民の安全を確保。

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オムロンが構築した「スマート排水システム」のプラットフォーム

 

スマートシティ時代の到来

このプロジェクトはH市が、「スマートで」「環境に優しく」「効率的で」そして「安全な」都市へと進化することを目指したもので、科学的アプローチにより都市型洪水防止と運用コスト削減に寄与しました。「スマート排水システム」は、H市の排水トンネルおよび排水ポンプ場に導入されており、精度の高い洪水防止対策を実現しています。

ジュ・リュチャオは、今回の成功事例を振り返り、次のようにコメントしました。「オムロンは、革新的な技術と総合的なソリューションによって、都市が持続可能な排水管理を実現できるよう全力を挙げて取り組んでいます。私たちは目の前の課題に対処するだけでなく、将来的な都市開発の基礎を築くことも視野に入れています。気候変動や環境保護などのサステナビリティ課題と向き合うことで、私たちの暮らす街がより暮らしやすい場所になることを期待しています」。

オムロンはこれからも、長期ビジョンShaping the Future 2030で目指す「社会全体の豊かさと自分らしさの追求が両立する社会」の実現を目指して、「スマート排水システム」をはじめとしたあらゆるソリューションを生み出すことで、都市の持続可能な発展と人々の生活の向上に取り組みます。

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