DX化が導いた積極的な課題共有と改善にコミットする意識

オムロンは2022年からスタートした長期ビジョンSF2030において、人が活きるオートメーションでソーシャルニーズを創造し、自律社会を実現することを目指しています。

その中で、SF2030のスタートにあたり実施した非財務目標投票では、DXに関する研修プログラムが1位に選ばれました。オムロンでは全社で認識を合わせ、同じ目標を達成するためにオムロン独自のDX三要素*を定義し、全社員でDXを推進しています。

※[顧客・社会]顧客ニーズや社会課題の解決に貢献、[自社]自社の業務・製品サービスの変革、[デジタル技術]データやデジタル技術の活用

この記事では、オムロン リレーアンドデバイス(以下、OER)熊本工場が業務自動化ツールを導入し、現場DXを推進することで、市場ニーズや製品の安定供給という社会課題にチャレンジした実例をご紹介します。

 

世界的需要の高まりの中で、稼働率を上げるというOER熊本工場が抱えていた難題

近年、新型コロナウイルス感染拡大によるパンデミックやウクライナ情勢などをはじめとする、世界情勢やグローバル経済の変化をきっかけに、半導体需要の急激な増加にくわえ、深刻な材料不足や更なる需要拡大も重なりました。その結果、世界各地の生産工場で供給が追いつかない事態となり、オムロン リレーアンドデバイス熊本工場 (以下、OER熊本工場)でも同様の事態に陥っていました。チームリーダーとして生産性の向上とDX化導入への中心的役割を担ってきた冨岡は強い課題認識を持ち、増え続ける需要の中で1日でも早いお客様への製品供給を目指し、生産性の向上に向け取り組みました。

当時、日々発生する廃棄ロスやチョコ停と呼ばれる設備停止などのエラー状況は紙ベースで記録していました。また記録された数値は社員一人ひとりがエクセルに手で入力してデータ化。さらにそのデータを集計する作業も手動で行われていました。集計作業に要する時間はおよそ1時間以上。その結果、集計作業は週に一回まとめて行われることが増え、それはあちらこちらで発生していたさまざまなロスの「原因究明」に時間を要し、それがロスを増加させ、稼働率向上における課題となっていました。

その課題を解決するために、プログラミングが不要でITにも不慣れな人でも簡単に活用できる現場業務のIT化支援サービス「pengu」を導入し、現場DXを進めることで稼働率の向上を目指しました。

※penguの特徴
3つの業務自動化ツールと育成プログラムがセットになった業務改善サービス
・SUISUI OCR (PDFになっている画像データを文字データに変換)
・SUISUI ETL (片方のシステムのデータを別のシステムに合う形にして加工、出力)
・SUISUI RPA (人がパソコン上で日常的に行っている作業を、人が実行するのと同じ形で自動化)

 

penguを活用し、集計作業を自動化。毎朝データを見ながら改善箇所や方法論を共有。

「なんとか現場のメンバーでも導入できる自動化の方法はないものか」。そう考えた冨岡が活用したのがpenguのRPAとETLツールでした。データの集計は作業者が入力しているデータを基に、RPAツールを使いCSVデータを抽出。その上でETLツールを使って複数あるCSVデータを組み合わせることで、集計作業を自動で出来るようにしました。この活用方法であれば新しい機械への変更なく既存設備で導入可能。工場の稼働を停止する必要もなく、追加で発生する莫大な投資費用も抑えられ、なおかつ自分たちの作業環境に合わせたカスタマイズも容易だということもあって採用されました。

704_2.pngオムロン リレーアンドデバイス株式会社 産機リレ工場 製造2グループ 冨岡弘一

冨岡「この新ツールの導入にあたって、ひとつ配慮したことがありました。それは長年同じ方法で働いてきた仲間に、新しいデジタルツールをいかにスムーズに浸透させていくか?という問題です。いまの苦しい状況を変えるためにはDXによる新しい取り組みをスタートすることが必須であることは、おそらく誰の目にも明らかでした。しかし、これまで慣れ親しんできた方法を変えることに抵抗を感じる人も少なくありません。そうした人たちに無理強いするようなことだけは決してしたくなかったのです。」

そこで冨岡は、事前に現場の作業員や保全員に実際にETLツールを使ってもらう「トライアル」を実施。導入メリットを数字や肌感覚で実感してもらうことで、いわゆるデジタルアレルギーのようなものも回避でき、スムーズに導入できるのではないかと考えたからでした。これによりメンバー全員が導入することへのメリットを感じ、期待感が工場内に自然に広がっていったのでした。

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こうして導入されたpenguのRPAとETLツールにより、集計作業が自動化されました。これまで一人ひとりの作業者が週に1回手作業で集計していた情報が自動で随時、最新の情報に更新されるようになり、毎朝のミーティングの際には、すでに集計データの閲覧・共有が可能な状況になりました。結果、その場で課題や改善すべきポイントも共有できるようになり、日に日に稼働率が改善していくのを、みんなが実感できるようになっていきました。毎日の変化にもすぐに対応できるようになりました。

また、業務自動化ツールを使っていくうちに、新しい動きも出始めます。たとえば新たに判明した問題点を「todoリスト化」して共有したり、エクセルのマクロを使った工夫を提案したりするなど、自分たちにとってより使いやすいかたちにカスタマイズすることで、積極的かつ効果的な活用しようという試みがあちらこちらで生まれていきました。

 

生産稼働率の向上を実現したDX化推進の予想以上の効果

こうした取り組みが功を奏し、短期間で大きな成果をもたらします。導入後、これまでメンバーの業務負荷となっていた集計に要する時間を年間約240時間削減、設備稼働率40%の向上に繋げることができました。メンバーの業務負荷を減らしつつ、生産性も向上し、お客様からの高評価を得られることとなりました。

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このように熊本工場におけるpenguの導入は、具体的な数字で見ても成功事例といえるのは明らかでした。こうした成功をスピーディーに実現できた理由として、冨岡は部署を越えた社員のコミュニケーションが増えたことを挙げています。

冨岡「まずは自動機を動かす作業員と、ロスなどの管理や機械のメンテナンスを行う保全員とのあいだのコミュニケーションが活発化しました。これまでは、ロスなどの原因究明は保全員が持つ長年のカンやコツに頼っていましたが、導入後は自動集計した数値データなどを見ながら互いに問題のある箇所や原因を分析し共有し合うなど、協力して課題の解決に取り組む姿が頻繁に見られるようになりました。」

さらには先述したエクセルのマクロの活用に代表されるように、penguをチーム内でより機能させるための積極的な提案活動も増加。社員一人ひとりの自主性をはじめ、改善マインドや、デジタルリテラシーなどの向上にも繋がっていきました。こうした波及効果は各所で見られ、冨岡は当初の期待を上回る成果につながったと振り返ります。

 

チームに「改革を推進しよう」というマインドを根付かせたことが、最大のメリット

今回のOER熊本工場の取り組みがDX推進の成功事例としてオムロン社内で広く紹介された結果、計画・調達部門でも同様の取り組みが進められることになったほか、さらに他の部署や事業所などでも導入されており、組織的活動へと変化していきました。また、熊本商工会議所が主催する「くまもとDXアワード2022」において、「DX 3つのステップの実行によるデジタル人財の育成とビジネス醸成」として熊本県商工会議所産業活性化委員会賞を受賞するなど、社内のみならず社外でも高く評価されています。

冨岡「小さな投資でも、自分たちの手でこれだけの結果を出せたという自信が、社内の空気や社員のマインドを一変させました。それこそが最大の導入効果だったと思います。実際に、早くも次なる改革の機運が生まれています。」

今後も熊本工場では入力作業そのものを自動化できる新しい設備の段階的な導入をはじめ、佐賀県の武雄工場、グローバルにある電子部品事業の各拠点との様々な連携による一層のDX化も予定されています。製造現場に限らず、営業や人事、経理などのあらゆる部門で、これまでの定型業務を自動化・効率化することによる生産性の向上が期待されています。

※ 今回OERで導入された業務改善サービスはオムロンが開発・提供している現場業務のIT化支援サービス「pengu」。日報など手書き情報を文字データ化して社内で使えるフォーマットに変換、システムへのアップロード作業やメール送信なども自動で行います。
https://lp.sdtm.omron.com

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