介護予防サービスの普及を通じて、健康寿命の延伸を目指す 介護予防サービスの普及を通じて、健康寿命の延伸を目指す

介護予防サービスの普及を通じて、
健康寿命の延伸を目指す

Summary
~介護予防の推進を目指して~

高齢化が加速し続ける中、介護にまつわるさまざまな課題が表出しています。その中で、オムロンは2018年から「介護予防」に注目し、高齢者の自立を支援するサービスをテーマに新規事業の創造を進めてきました。その中で出会った、大分県で健康寿命延伸を目指し活躍されている株式会社ライフリーの佐藤孝臣さんとの共創の始まり、新規事業創造を進める中で、大分県とオムロンが連携協定を結び取り組んでいる検証の背景にこめる想いを、自立支援事業推進部のプロジェクトリーダーである加藤雄樹が語ります。

Profile
加藤 雄樹
自立支援事業推進部 プロジェクトリーダー 加藤 雄樹
2010年3月 臨床工学技士の資格取得、学士(工学)
2012年3月 生体医工学に関する博士前期課程修了、修士(工学)
2012年4月 オムロン ヘルスケア株式会社へ入社
2017年9月 生体医工学に関する博士後期課程修了、博士(工学)
(2014年10月~2017年9月)
2019年4月 イノベーション推進本部 CTO室へ出向
2021年11月 イノベーション推進本部 インキュベーションセンタ 自立支援事業推進部へ転籍
2022年4月 イノベーション推進本部 自立支援事業推進部

きっかけは社内の研修プログラム

2018年、オムロン ヘルスケア株式会社の新規事業創造に向けた社内研修プログラムに参加しました。1チーム5人で、3チーム。各チームは広い視野で社会的課題を見つけ出し、そこでの事業機会を検討し、事業化テーマの創出を目指すプログラムです。

ヘルスケアの事業領域において、健康管理や健康維持、健康寿命の延伸というテーマが議論され、我々は、日本の超高齢社会に注目し、団塊の世代が75歳以上になる2025年問題に着目。健康寿命の延伸に貢献できる事業仮説について調査を始めました。

研修を始めた頃、最初から高齢者の介護予防や自立支援に着目していた訳ではなかったですが、日本の超高齢社会を俯瞰してみると、高齢化に伴うさまざまな社会的課題の解決が連想されました。高齢者の生活機能*1や環境の改善といったQoL*2の向上、高齢化に伴い膨張し続ける社会保障費の適正化策まで。高齢者の自立支援は、介護に関連する多くの社会的課題の解決につながると考えました。

*1:人が生きていくための機能全体を表し、「心身機能・構造」「活動」「参加」の3つのレベルを包括する言葉
*2:Quality of Life:生活の質

そして改めて、それらの社会的課題へ先進的に取り組む組織や団体、地域などをリサーチする中で、大分県で行われている介護予防・自立支援の取り組みを発見しました。話を聞かせてほしいと、早速大分県にアプローチしました。

大分県では、高齢者やその家族が望む日常生活を送れるようサポートをすることで、高齢者自身の生活の質を向上し、住み慣れた地域でいつまでも元気に過ごせるようにすることを目指していました。我々は、大分県の取り組みの素晴らしさに強く共感し、取り組みを加速させるためにお手伝いできることがないかと検討を始めました。もっと詳しくその取り組みを聞かせて欲しいと、大分県庁の担当者へお願いしたところ、大分県での先進的な介護予防の取り組みを進めてきた立役者であり、自立支援型デイサービスで15年以上高齢者を元気にし続けている株式会社ライフリー代表取締役の佐藤孝臣さんを紹介してもらいました。

高齢者が回復する姿を見て、我々の心に火がついた

大分県にあるライフリーの介護事業所を訪問し、まず驚いたのは、デイサービスを利用している高齢者の皆さんが元気で明るいことです。ミーティング時に見せていただいた映像には、足腰の運動機能が低下し、手すりを持ちながらゆっくり歩いていた女性が、3カ月後にはスタスタと歩き、買い物にも出かけていたり、笑顔で介護サービスを卒業していく姿がありました。そのような方が1人、2人ではないのです。多くの高齢者の方が元気になっている様子を見ることができました。

佐藤さんの取り組みは、通常の高齢者介護の考え方とは大きく異なっていました。一般的に、高齢者は生活機能が低下してくると、介護保険制度を活用し、ヘルパーさんによる日常生活のサポートを利用したり、デイサービスに通い始めたり、施設型サービスへ入居する方が多いと思います。一方で、高齢者の生活機能の低下の約半数は、生活不活発、すなわち活動性の低下によることが分かっています。また、生活不活発は、その状態に合わせて適切な介入を行うことで、低下した生活機能を再び向上させることができることも分かっています。つまり、高齢者の状態や、高齢者自身や家族の想いなどに応じて、適切なサービスに繋げることが重要だと言われています。

佐藤さんは作業療法士として病院に勤めた経験があり、リハビリテーションの専門職種として要介護状態の高齢者に多く接してこられました。常々、介護状態になる前の高齢者や、介護が必要と思われる高齢者に、もう一度自立した生活を送ってほしいと思われています。「できないことが、できるように。できることは、もっとできるように」をビジョンに、日常生活のサポートへ安易につなげるのではなく、生活の中でできることを増やし、家庭復帰や社会復帰などの「高齢者のやりたいこと」を応援する、自立支援型のサービスを提供し続けています。

高齢者が回復する姿を見て、我々の心に火がついた

私も、医療職の資格を取得する際に臨床実習で病院に数ヵ月いたのですが、医療現場の治療技術やリハビリテーションの素晴らしさを肌で感じると同時に、「ここまで状態が悪くなる前に何かできなかったのか・・・」と、予防の重要性を感じました。そして、テクノロジーの力で解決できないか、との想いを持って臨床の道に進むのではなく、オムロンへ入社。佐藤さんが目指す自立支援や介護予防の姿に深く共感し、使命感を抱き始めました。そして、自立支援に対する考え方や取り組みで、我々の目指すべきところが佐藤さんの取り組みにシンクロしたのです。

このころから本格的に事業として進めるためにはどんな事業アーキテクチャを描く必要があるのかを検討し始め、社内研修プログラムの成果発表へ臨みました。成果発表では、経営層の方々からポジティブなコメントを頂くとともに、事業観点でのアドバイスもいただきました。すでに強い使命感を抱いていた私は、成果発表の翌日にチームメンバーを集め、経営層の方々から頂いたアドバイスについてすぐに検討。その次の日には、検討結果を資料化したうえで「事業化に向けて更なる検討をさせてもらいたい」と経営層に直談判しました。我々が本気でやりたい・やるべきだという想いを伝えました。その結果、新規事業の創出を担い、「テーマ構想」「戦略策定・価値検証」「事業検証」が一気通貫で実施できる、オムロン全社のイノベーションプラットフォームであるイノベーション推進本部へ出向し、事業検証を進めることになったのです。

イノベーション推進本部には、新規事業を創造する独自のプロセス「事業創造プロセス」があります。このプロセスを活用することで、、事業として進めるために“解くべき問い”を明らかにしながら、現場の我々と経営層やマネージャー層、時には専門職と様々な議論をおこなえます。”クイックな意思決定”をしながら進める事ができています。また、社内外から多様な経験を持つ人財が集まってチームを作っているので、新たな価値を創り込み、その価値を大きく成長できるようになりました。