We are Shaping the Future! 私たちが手繰り寄せる未来ストーリー
今日の産業用AIの能力を、明日の画期的な研究システムへとつなげ、人と機械の協働がもたらす新時代を切り開こうとしているグローバルイノベーターがいます。
とある日本の最先端研究所では、研究員とともに熱心に働き創薬研究や実験分析などのルーチンワークを自動で行うAI駆動型システムを、オムロンと中外製薬が共同で開発しています。
「次世代ラボラトリーオートメーションシステム」は、AIの飛躍的な技術進化を示しています。様々な器具を使った複雑な操作を伴う実験を自動化することで、継続的に開発されているこのシステムは、研究員がより創造的で重要な仕事に集中することを可能にしようとしています。
オムロンは、インダストリアルオートメーションの分野で高い専門技術を有します。次世代ラボラトリーオートメーションシステムは、科学・技術により社会が一変しつつあることを象徴する事例です。オムロンの創業者である立石一真氏が掲げた経営理念に、「機械にできることは機械に任せ、人間はより創造的な分野で活動を楽しむべきである」という言葉がありますが、オムロンはこの理念に基づき、数十年間にわたり、人の潜在能力を引き出す技術開発に取り組んできました。
オムロンのロボットが製造現場で人と協働する様子
工場のフロアをナビゲートするインテリジェントロボットから、生産工程をリアルタイムで最適化するAIを活用したコントローラーまで、オムロンのAIイノベーションは、品質管理やサプライチェーンの最適化など、産業界が抱える喫緊の課題解決に寄与しています。例えば、「i-BELT」の技術は、製造データを意味のある情報に変換し、製造上の課題を解決します。
「こうした技術は、働き手不足解消や廃棄物削減といった現場の課題を、オートメーションで解決するというオムロンのミッションを体現したものです」と語るのは、オムロンヨーロッパでR&D Managerを務める、ティム・フォアマン氏です。「グローバルで競争力のあるモノづくり、プロセスの最適化、作業者が楽しみながら創造的な仕事に集中できる環境づくりなど、AIを活用したイノベーションには明確な潜在的メリットがあります」
オムロンの先端研究拠点であるオムロン サイニックエックス(OSX)は、革新的技術の創出を通じて、AIを次のフロンティアへと進化させることを目指しています。また、AI自らがイノベーションを創出し実験を行うシステムを構築することで、研究開発の未来に変革を起こそうとしています。
OSXは、探求のパートナーとして人と協働するロボットや、そのための高度なコンピューティング技術、精密にセンシングする技術などを組み込んだ、AI駆動型システムの開発を目指す果敢なプロジェクトをリードしています。このプロジェクトは、"人類最大の課題"に取り組む国のイニシアティブである「ムーンショット型研究開発制度」の一つとして選ばれました。
プロジェクトチームは、「ムーンショット目標3」に基づき、自律的に学習し適応できる、人と協働可能なAIロボットを2050年までに開発することを目指しています。研究員をサポートするだけでなく、創造的なプロセスをも含めたAI駆動型システム開発を、OSXがリードしています。
「私たちが作っているのは、研究を理解し、新たなアイデアを生み出し、自動で実験を行えるシステムです」と、OSXの Vice President for Research、牛久祥孝氏は述べます。「これらのシステムは、研究員と積極的に関わる中で意思決定に影響を与え、研究の方向性を示せるような、深い知見を提供するでしょう」
「オムロンの長期ビジョンShaping the Future 2030において、AIとロボティクスが社会的課題を解決するための基盤となると考えています」と牛久氏は語ります。「私たちの目標は、研究というものを根本から変えるだけでなく、気候変動や健康寿命といったグローバルの課題に対処する方法を構築することなのです。」
オムロンは、強みであるロボット技術と制御技術を活用し、ルーチンワークの自動化に貢献します。それにより、中外製薬との継続的なパートナーシップを通じて、次世代ラボラトリーオートメーションシステムの機能をさらに進化させています。OSXは、この「人と機械の融和」を新たな領域へと押し進めようとしています。OSXは、高度なAIシステムを統合することで、5年から10年先に直面する課題、例えば、固体から粘性物質まで、あらゆる複雑な材料の取り扱いを自動化することを目指しています。将来的には、実験のワークフロー全体を人の手を借りずに計画し最適化するロボットを開発し、新たな薬など、新たな発見を加速させる計画です。
「AI搭載ロボットは、アイデアの創出をサポートするだけでなく、放射線量が高い、あるいは、温度が極端な地域といった危険な環境でも、24時間365日実験を行うことができます」と牛久氏は語ります。「このようなAI科学者ロボットのグループがいれば、研究所の処理能力を飛躍的に向上できるでしょう」
OSXの最終目標のひとつは、2050年までにAI駆動型のロボットがノーベル賞級の発見をするような世界を創ることです。これらのロボットは、アイデア出しや実験、分析、説明に至るまで、研究のあらゆるフェーズに対応できるよう設計されているため、人は戦略的で価値の高い業務に集中することができます。
(左)すり鉢で材料をすりつぶす作業を助けるAIアシストロボット(右)人のようにペグを穴にはめることができるAIロボット
同プロジェクトの最初のマイルストーンは、2025年までに、あらゆる研究の主張を解読し論文を査読することで、研究を再現できるAIロボットを開発することです。2030年までに、こうしたロボットが査読付き学術誌で論文を発表し、2040年までに重要な研究に貢献することを目指しています。このようなシステムは、材料科学や生物学などの分野に革命をもたらすと期待されています。何百もの仮説を並行して検証できるAIの能力は、通常なら何年もかかるような画期的な発見を加速させるでしょう。
「AIロボットは、研究員がさらなるイノベーションにつなげられるような、質の高いエビデンスに基づく提案をすべきです」と牛久氏は述べています。「しかし、ロボットだけで研究プロセス全体を完結させることはできません。ロボットは、人間の創造性を高めるためのものであって、完全に取って代わるものではないのです」
オムロンが掲げるAIビジョンは、単なる自動化に留まりません。人とAIがシームレスに協働する領域横断的なエコシステムの育成を目指しています。このビジョンは、AIの透明性確保や悪用防止といった重要な課題にも取り組んでいます。
"研究員はAIが推論する過程を理解する必要があります。AIの思考がブラックボックスのままでは、AIへの信頼を失い制御が難しくなるリスクがあります。
私たちの目標は、明確なコミュニケーションができ、人のフィードバックから
学習するシステムを構築することです。"
牛久 祥孝
オムロン サイニックエックス株式会社 Vice President for Research
OSXは、AIが異なる分野の研究員間のコミュニケーションを仲介し、科学的な言語や方法論の壁を越えて、研究におけるさまざまな視点の理解を促進する方法を探求しています。これにより、生物学、物理学、化学などの領域からの洞察が組み合わさり、新たなソリューションを生み出す真の学際的イノベーションが実現する可能性を秘めています。
「研究員に求められる主要スキルは、命令や判断を下す能力へとシフトしていくでしょう」と牛久氏は言います。「AIに効果的に指示する力は、この新しい時代における重要なスキルとなるでしょう。私たちの使命は、テクノロジーを通じて人々を力づけることです。未来は単なる自動化だけではなく、AIと協働することでよりよい社会をつくることなのです。」
転載記事 Bloomberg Media Studio制作