We are Shaping the Future! 私たちが手繰り寄せる未来ストーリー
いま多くの企業にとって、生成AIは業務の効率化、コンテンツの生成、プロダクトデザインの支援などの活用シーンが増え、重要なツールとなりつつあります。オムロンは、生成AIを積極的に活用することがDX推進、企業の成長に不可欠と考え、2023年に全社横断型の生成AI活用推進プロジェクト「AIZAQ(アイザック)※1」を立ち上げました。
※1 プロジェクト名「AIZAQ」は、"AI with Zest, Accelerate and Quest(活力、加速、探求を持ったAI)"の頭文字を取ったものです。科学者サー・アイザック・ニュートン、および、その知恵と知性を連想させることを意図しています。
企業での導入が進む一方で、生成AIの活用に積極的な企業は、一部の大手企業にとどまっており、総務省が発表した2024年版「情報通信白書」によると、日本企業の生成AIを業務で利用している割合は46.8%でした。この結果は、米国の84.7%、中国の84.4%、ドイツの72.7%と比較しても大きく下回っており※2、日本企業における生成AIの活用は遅れているのが現状です。その理由として、特に社内でのナレッジシェアと技術の浸透が浮上しています。一部の社員が積極的に生成AIを活用しても、その取り組みの内容や効果などを社内で共有できていないため、社内に波及することなく、一過性の活動で終わってしまっているのです。
オムロンにおいても、生成AIの有用性は認識されていても、社内全体に浸透するには技術的なハードルが存在し、社員間での活用格差が生じていました。
※2 総務省2024年版「情報通信白書」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r06/html/nd151120.html (参照 2024-11-7)
AIZAQを推進するPMOのひとりで、イノベーション推進本部 DXビジネス革新センタ 古賀達也が着目したのが、ナレッジシェアです。特に、適切なプロンプトの作成方法を理解することが難しく、多くの社員が導入初期でつまずいてしまう状況が課題でした。プロンプトは、生成AIを活用する上でもっとも基本的な要素の一つです。生成AIを業務で活用するためには、プロンプトの使い方を理解し、使ってみることが重要です。プロンプトが、自分が求めていた通りの回答結果が得られるかに影響を与えます。古賀は「AIZAQ Canvas」というポータルサイトを立ち上げ、ナレッジ共有を通じて、社員一人ひとりが生成AIを使いこなせるようになり、全社的な成長と競争力の強化を目指しています。
写真左:プロジェクトリーダー古賀(右から2番目)とプロンプト集作成メンバー / 写真右:ポータルサイト AIZAQ Canvas
行政や企業、機関からもプロンプト集が公開されていますが、そのままでは求める回答が得られないケースがあり、自社の業務に合わせてプロンプトを手直しする必要がありました。そこで、誰でもコピー&ペーストして使えるプロンプト集が必要だと考えた古賀は、約10名のチームメンバーがプロンプト集の作成に着手し、構想から約3カ月で第一弾をリリースしました。
古賀は、プロンプト集の制作に着手するにあたって、一つの目標を立てていました。それは、「使ってもらえるプロンプト」をつくること。どんなにたくさんプロンプトを用意しても、社員に使ってもらえないことには意味がありません。どんなプロンプトにすれば使ってもらえるのか、チーム全員で議論を重ねました。
「使ってもらえるプロンプト」の条件は、自分が求めていた通りの結果を回答してくれるプロンプト。古賀曰く、毎回見当違いの回答を出してくるようなプロンプトは失格とのこと。期待した回答が得られないプロンプトは信頼性に欠けるため、二度と使われなくなるからです。同じ理由から、プロンプト集自体にもアクセスしてもらえなくなります。期待していた内容にかなり近い精度の回答を出してくれるプロンプトでなければならないのです。
古賀は、期待通りの回答結果を出してくれる高品質なプロンプトをつくるために複数人のチーム組み、相互レビューを繰り返すことで品質を高めることに成功しました。特に重要視したのが、業務シーンを想定したレビュー。そのプロンプトが業務のどのようなシーンで使われるのか、徹底的にレビューを重ねチーム全員が納得できるプロンプトであることを大切にしています。
古賀がもう一つ大切にしたのが、プロンプトの基本テクニックです。生成AIは、プロンプトに基づいて回答を生成します。そのため、プロンプト作成の基本テクニックを理解しておくことが重要です。
プロンプト作成時の3つの基本
具体的には、「#役割 :{あなたはカスタマーサポートのスペシャリスト}です」のように、役割を明確に指示することで期待通りの回答が得やすくなります。また、条件を入力する際、「専門用語を使わない」などの否定形ではなく、「初心者でも理解できるようにわかりやすく」など、明確な指示を与えることで期待通りの回答が得やすくなるのです。こうしたプロンプトの作成の仕方については、テクニカルアドバイザーが実践で使える基本を教え、サポートをしました。
企業全体での技術の浸透は、一部の専門家のみが担うものではなく、全社員が主体的に取り組むべき課題です。AIZAQ Canvasでは、プロンプト集をきっかけに、社員同士が生成AIの使用経験や成果を共有する文化が育まれています。そもそも生成AIとは何なのか、どんな業務に向いているのか、どんなことに注意して活用したらよいのかなど、初めて生成AIを使ってみようと考えている社員のガイドラインのような役割も担っています。まだ生成AIに接点のない社員が自分の業務に活用するためのヒントを得てもらう場にも発展させていく考えです。
今後は、生成AIの活用がさらに広がり、AIZAQ Canvasを通じて蓄積された知識が社内外での競争力を高め、さらには新たなイノベーションを生み出す原動力となることが期待されています。
「一部の社員しか使っていない生成AIを、全ての社員が使えるようにしたい」という古賀の熱い思いから始まったプロンプト集は、社内で少しずつ反響を呼び、最初は1600だった閲覧数が、1カ月ほどで約4倍の5600にまで増えました。プロンプトだけでなく、使う際のポイントも掲載されているので、期待していた通りの結果を得ることができたという成功体験も多く報告されました。ポジティブな感想や成果を聞くことで、古賀は、チームメンバーと協力し合いながらつくったプロンプト集が、AIZAQの目的である社内の生成AI活用推進に貢献できたことを実感したと言います。
ナレッジシェアは、生成AIの活用を推進する有効な手段の一つです。生成AIを導入して終わりではなく、社員の理解がより深まり、実務に役立つ活用推進が進みます。2024年11月からはいくつかの生成AI活用プロジェクトテーマが組織実装のフェーズに入ります。
古賀は、「プロンプト集をきっかけに、全社員が生成AIを使ってくれることを目指しています。そして、ナレッジシェアを通して、オムロン社内のDXの加速と、顧客のさらなる付加価値向上に貢献したいと考えています」と話します。オムロンの生成AI活用推進への挑戦はこれからも続きます。