変化スピードが速く先行き不透明な現代において、どのような未来社会が訪れるのかを明らかにすることは、私たちの生き方や暮らしを考えるうえで重要な要素です。みなさんは、2~3年先の近未来やその先に続く中長期視点での未来、そこで生きる自分自身や社会の姿について考えたことはありますか。
オムロンの創業者、立石一真はよりよい社会づくりには未来を予測することが必要だと考え、未来学研究に取り組みました。その後、1970年に国際未来学会で発表したのが「SINIC(サイニック)理論」です。この理論は「科学」「技術」「社会」が相互に影響を与え合いながら発展していくというもので、「情報化社会」や「最適化社会」は当時の予測どおりに確かに訪れています。
→SINIC理論の詳細はこちらをご覧ください
https://www.omron.com/jp/ja/about/corporate/vision/sinic/theory.html
では、次に訪れる未来とはどのようなものなのでしょうか。SINIC理論では、2025年頃から「心」の価値を重視した「自律社会」が到来すると予測しています。オムロンのグループ会社で未来研究シンクタンクである株式会社ヒューマンルネッサンス研究所(HRI)が、来る「自律社会」が具体的にどのような社会であるかを予測研究する中で、自律社会の構成要件を「自立(自ら立つ)」「連携(繋がり合う)」「創造(創り出す)」の三つと置きました。「自立」と「連携」の重なるところには「共生」が生まれ、「自立」と「創造」の重なりには「個性」が、「連携」と「創造」の間には「共創」が生まれます。そして、三要件すべてが重なり合った部分に「未来可能性」=節度ある自立共生・共愉という「コンビビアリティ」が生まれるとしています。つまり、愉しみ合いながら創り出す自立共生社会に向けた方向性がここにあるのです。
感覚、感性、情緒といった精神文明への関心が高まる社会。管理社会から解放されて一人ひとりが生きる歓びを享受できる社会。社会的孤立や経済格差などの問題が解決され、他者と共生しながら自己実現に向けて努力する社会。このような社会がすぐ近くまで迫っているかもしれないのです。
そのような自律社会を見据えると、新たなソーシャルニーズを満たす科学技術をいかにデザインするかも問われます。より人間の内面、精神性、感情に関わる精神生体技術が新たな分野として立ち上がり、技術に対して倫理的な影響を与えていくことも重要になります。2025年には、「個人と社会」「人と機械」「人と自然」が最適にバランスを取れている状態が望ましいのかもしれません。
ヒューマンルネッサンス研究所では、長年の研究結果に基づき、さらに未来予測のゴールを目前に控えて、2022年に「SINIC理論」のアップデートをしました。そのポイントは以下3点です。
これらのアップデートを踏まえて、SINIC理論のさらなる進化と、間近の「自律社会」解像度をより高めるため、ヒューマンルネッサンス研究所は2023年6月29日に「比叡山未来会議」を初開催しました。当日は、円環的に関係する「科学」「技術」「社会」それぞれの分野の有識者や未来創造の実践者など187名が、一人ひとりが輝いて手をつないで"円"になることができればすばらしい世界が生まれるということを説いた最澄にゆかりのある比叡山の延暦寺会館に集まり、よりよい未来づくりに向けた活発な議論を行いました。参加者からは「専門分野によって異なる見方があったり、自分にはない新たな視点を把握できてよかった」「未来を考えるには過去の振り返りや人間そのものの考察が必要だと感じた」「これからの社会のありかたを真剣に考えて行動するきっかけになった」と言った感想が聞かれました。
概要 | 登壇者 |
イントロダクション | NPO法人 ミラツク 代表理事 西村 勇哉 |
いけばなパフォーマンス | 桑原専慶流十五世家元 桑原 仙渓さん |
開会ご挨拶 | オムロン株式会社 CTO兼 代表取締役 執行役員副社長 宮田 喜一郎 |
チェックイン | NPO法人 ミラツク 代表理事 西村 勇哉 |
基調講演「共感革命とコロナ後の未来」 | 総合地球環境学研究所 所長 山極 壽一さん |
主催者講演「SINIC、自律社会、その解像度を高める」 | ・株式会社ヒューマンルネッサンス研究所 エグゼクティブ・フェロー 中間 真一 ・NPO法人 ミラツク 代表理事 西村 勇哉 |
セッションA「自律を支える基盤と未来社会への実装」 | ・東北大学大学院 情報科学研究科 教授 大関 真之さん ・関西大学文学部心理学専修 教授 石津 智大さん ・宇沢国際学館 代表 占部 まりさん <ファシリテーター:中間 真一、西村 勇哉> |
セッションB 「身体、生命、知と未来」 | ・京都大学人と社会の未来研究院 准教授 熊谷 誠慈さん ・広島大学大学院 生物圏科学研究科 教授 長沼 毅さん ・一般社団法人イノラボ・インターナショナル 共同代表 井上 有紀さん <ファシリテーター:中間 真一、西村 勇哉> |
閉会ご挨拶 | 株式会社ヒューマンルネッサンス研究所 代表取締役社長 立石 郁雄 |
「比叡山未来会議」ダイジェスト動画はこちら
7月21日に電波新聞【電波時評】に掲載された記事「SINIC理論と比叡山未来会議」を転載して紹介します。
よりよい未来づくりに向けて議論しよう-。オムロンの未来研究所ヒューマンルネッサンス研究所が多様な知見や経験を有する学識者や未来創造実践者、若い世代に呼びかけ、6月に比叡山延暦寺で「比叡山未来会議2023」を開催した。187人が参加。会議は登壇者を聴講者が囲む車座の形で続いた。
オムロンの創業者、立石一真氏が1970年に国際未来学会で発表した未来予測理論「SINIC(サイニック)理論」で示した「自律社会」(2025~32年)、「自然社会」(33年以降)という未来仮説を科学・技術・社会の各観点の知を基に両未来社会の解像度を上げ、どう実現していけば良いのかを熱く語り合った。
SINIC理論では、現在を情報処理の自動化が進んだ「情報化社会」(74~04年)を経た「最適化社会」(05~24年)とし、工業社会から自律社会へと向かうパラダイムシフトの過渡期。価値観や行動が転換し、情報処理の結果が最適化に活用される社会と予測。その先に自立、連携、創造が重なり、モノ中心・個人中心の近代工業社会の価値観の対極となる、こころ中心・集団中心の価値観に基づいた自律社会が到来。ひと、技術、自然がよいあんばいに作用し合う自然社会につながっていくとみる。
経営に未来予測が重要な価値になることを感じ取り、科学・技術・社会が作用して社会発展が進むSINIC理論にまとめ上げて50年以上。理論は色あせず、共感と関心を与え続けている。立石氏の発想力と慧眼(けいがん)。SINIC理論を一企業で囲い込まず、未来会議を通じて社会で共有し、共によりよい未来をつくるためのオープン・ソースにしていくと決断したオムロン、手弁当での未来会議参加者に敬意を表す。次回の未来会議が待ち遠しい。(拭)
オムロンは、「われわれの働きで われわれの生活を向上し よりよい社会をつくりましょう」という社憲にもとづき、よりよい社会をつくるために様々な社会的課題の解決に挑んでいます。この比叡山未来会議も、近未来の解像度を高めてよりよい社会をつくる活動の一環として実施しています。主催者のヒューマンルネッサンス研究所 エグゼクティブ・フェローの中間真一は、会議開催後に次のように述べていました。「世の中の未来への関心は、近年驚くほど高まりを見せています。特にコロナ禍を経てリモートワーク等が浸透し、一時は予測通りに訪れるか疑いさえした自律社会が一気に現実味を帯びました。このような転換期に比叡山未来会議を開催し、多角的に未来について議論できたことは非常に有意義だと感じています。生成AIに関するニュースが毎日のように飛び交っていますが、何のためにテクノロジーを利用するのかを明確にすることは重要です。イノベーションも身体感覚を含めた人のニーズもどちらも必要であると会議を通して再認識できました。所属団体や企業に関わらず、未来についてともに協力し合う、この会議こそが未来型だと捉えています。会議を開催したことがゴールではなく、参加者の方々とよりよい未来をどのようにつくっていけるのか、今後も手を取り合って研究し続けたいです」。
よりよい社会を実現させるために、オムロンだけでなく現代を生きる皆さまや企業の羅針盤となれるよう近未来を予測する研究を今後も続け、皆さまとともに未来をつくってまいります。