「EP100」に加盟し2040年に「エネルギー生産性倍増」へ カーボンニュートラルの実現に向け

オムロングループのヘルスケア事業を担うオムロン ヘルスケア(株)は、2023年4月より、血圧計や体温計の国内生産拠点である松阪事業所(三重県松阪市)において、新たに"エネルギー生産性の向上"に取り組む生産ラインやオフィスの稼働を開始しました。
環境配慮型ものづくり工場の実現を目指す松阪事業所が、カーボンニュートラルの推進に向けて、制御機器事業や社会システム事業、電子部品事業の各事業部門と連携して取り組む、"エネルギー生産性の向上"とはどのようなものか。週刊エコノミスト(4/4号)に掲載された記事『オムロン、「EP100」に加盟し2040年に「エネルギー生産性倍増」へ』を転載して紹介します。

 

世界経済は今、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー危機や想定を超えるインフレ、米中対立の顕在化などにより、先行きの不透明さを増している。日本の製造業各社には、国際競争力の維持向上に向け生産の国内回帰が期待されるが、エネルギー価格の高騰や電力供給の不足が懸念されるなか、脱炭素への取り組みは待ったなしの課題となっている。そこで、解決策として注目されているのが製造現場における「エネルギー生産性」の向上だ。今回は、オムロンが先行して挑戦する、「エネルギー生産性向上」の核心に迫った。

 

エネルギー生産性向上を現場の生産技術として確立

制御機器やヘルスケアなど4つの事業を通じて、社会的課題の解決に寄与する革新的な製品・サービスを世に送り出し、製造現場や社会のオートメーション化に貢献することで、存在感を示してきたオムロン。
長期ビジョン「Shaping the Future 2030」で取り組むべき社会的課題に「カーボンニュートラルの実現」を掲げ、顧客である世界の製造業各社と共に"持続可能なモノづくりの実現"に取り組んでいる。
2005年の京都議定書の発効を契機に、施設や設備のエネルギー消費の改善余地を自動的に分析する「CO²見える化システム」など、脱炭素につながる製品を世界に先駆けて開発・販売し、自社の生産工場で様々な実証実験を重ねてきた。そうしたなか、同社は、生産性と品質向上が、エネルギー利用の効率化に密接に関係することに着目。自社製品である制御機器を組み合わせ、エネルギー利用を可視化し制御することで「エネルギー生産性」を向上させる生産技術を確立させてきた。現在は培った生産技術のナレッジやノウハウを顧客企業に「エネルギー生産性」ソリューションとして提供している。折しも世界では脱炭素への機運が高まる中、エネルギー危機が深刻化。生産性とエネルギー効率を両立させる同社のソリューションが、国内外の製造業から脚光を浴びている。

 

単なる省エネではなく生産性と品質も向上

「エネルギー生産性」とは、自社拠点の温室効果ガス排出を対象に、分母に消費エネルギーの絶対量を、分子に売上高や付加価値額などを置いた指標だ。製造現場において、この指標を向上させることは、単にエネルギー消費を削減するのではなく、生産性と品質の向上による"生産量の増加"と"エネルギー効率の向上"を両立させることを意味する(図表参照)。オムロンは、これまで、製造現場において最も重要な品質や生産性への影響が懸念される生産設備の制御方法に踏み込み、「エネルギー生産性」の向上に取り組んできた。
例えば、同社の綾部工場(京都府)では2万品種を製造する超変種変量生産を行っているが、代表的な製品であるセンサーの組立工程に協調ロボットなどを導入し、生産性を25%向上させながらエネルギー消費量を低減している。また、生産ラインごとの電力消費量を見える化・分析する、エネルギーマネジメントシステム「環境あんどん」を自ら考案し導入するなど、10年以上にわたってエネルギーの可視化や制御技術に磨きをかけてきた。その結果、過去10年間で、製品出荷を金額ベースで35%以上増加させる一方、生産ラインの消費電力を約15%削減している。こうした取り組みは他社の生産技術者や経営者からも高く評価され、広く国内の製造業各社に認知されている。

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EP100にいち早く加盟 製造業では日本初

長年にわたり取り組みを進めてきたオムロンは22年11月、エネルギー生産性の倍増を目標に掲げる国際企業イニシアチブ「EP100」に加盟した。同イニシアチブはイギリスに本部を置く国際環境NPO法人「クライメイトグループ」が主催するもので、同社の加盟は日本企業として4社目、製造業では日本初となる。加盟に際し同社は、2040年までに「エネルギー生産性の倍増」、具体的には1GWhあたりの売上高比率を2016年比で200%にすることを目標として宣言している。
EP100には海外の大手企業が120社以上加盟しており、今回の加盟は同社の取り組みをグローバルに広げていくうえでも意義が大きい。世界が脱炭素化を目指すなかで、製造現場におけるエネルギー生産性の向上は、ますます重要なカギとなるからだ。
同社では、これまで自社で培ってきた技術やノウハウを、現場データ活用サービス「i-BELT」として進化させている。エネルギー効率や生産性を向上させ顧客の製造現場を革新するソリューションとして、2017年から国内外100社以上に提供してきた。
ここで注目されるのは、オムロンが「エネルギー生産性向上」を製造現場における脱炭素取り組みの本丸と捉え、サービスとして顧客やパートナーに提供している点だ。脱炭素に向けた取り組みをバリューチェーン全体で加速させるために、競争力の源泉ともいうべき生産技術の知識やノウハウを自社内に留めることなく提供し、顧客やパートナーと共創していこうという姿勢がポイントである。
EP100への加盟にも、培った技術やソリューションの提供を通じて、加盟企業を増やしていこうという狙いが表れており、この分野における同社のリーダーシップが期待される。

世界経済が今、ニューノーマルへと移行し再び成長軌道に乗ることが期待されるなか、経済活動の前提であるエネルギーの安定供給が危機に直面している。そんな時代だからこそ、顧客やパートナーとともに持続可能なモノづくりの実現を目指すオムロンの、今後のさらなる取り組みとその成果がますます注目される。

679_3.jpg「環境あんどん」は、製造現場において生産設備の稼働状況やエネルギーの使用量などを見える化し、計測データを比較・分析・監視・警告する

 

INTERVIEW

エネルギー生産性向上の支援を通し持続可能なモノづくりを実現

私たちオムロンは、事業を通じて社会の持続的な発展に貢献することに挑戦しています。その重要な取り組みとして、自社工場でCO²削減を含む省エネ活動をスタートし、エネルギー生産性向上のノウハウや特許を取得してきました。制御機器事業では「オートメーションで人、産業、地球の豊かな未来を創造する」をビジョンに掲げ、技術及び製品・サービスをお客様に届けることで、その実現を目指しています。
現在、多くのお客様にご提供している「i-BELT」も、社会変化への対応を先取りしてきたオムロンの企業理念経営から生み出された価値といえます。お客様が直面するお困りごとへの解決策をサービスという形で届け、成果出しまで伴走し、課題解決をともに進めていくベネフィットを提供しています。
昨年はEP100にも日本の製造業として初めて加盟。グローバルで課題となっているエネルギー高騰やカーボンニュートラルへの対応コストなど、製造業が影響を受ける課題を解決するトップランナーであり続けたいと思っています。その実現に向け、ヘルスケア製品を生産する松阪工場(三重県)でも新たなエネルギー生産性向上ソリューションを展開しています。今後は当社の生産工場に順次展開し、さらなる持続可能なモノづくりの実現を目指していきます。

679_4.jpgオムロン株式会社
インダストリアルオートメーションカンパニー
アドバンスドソリューション事業本部 ソリューションビジネス部 部長
滝口 秀昭
「週刊エコノミスト」(2023年4/4号「IR企画」掲載)

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