「ソリューション」がひらく、電子部品の新時代 オムロン・行本閑人執行役員常務 デバイス&モジュールソリューションズカンパニー社長 ※2022年10月時点での役職となります。

オムロンが、4月にスタートしたグループの新長期ビジョン「SF2030(Shaping the Future 2030)」で掲げる社会実現に向けて、事業を通じた社会的課題の解決に注力しています。同社で実際に日々、事業を担う社員は今、新ビジョンを踏まえ、何を考え、どう取り組もうとしているのか。グループの原点である電子部品事業は、部品・モジュールを軸としたソリューションを通じて課題解決に貢献する力を高めようとしています。オムロン執行役員常務で同事業社長、行本閑人氏が協業先企業のウェザーニューズの経営幹部や両社の若手社員と、パートナー企業との価値共創の在り方などについて、千葉市にあるウェザーニューズ本社で意見を交わしました。

カーボンニュートラル、デジタル化社会の実現にフォーカス

事業のトランスフォーメーションを推進

行本 オムロンは、今年4月から新長期ビジョン「SF2030(Shaping the Future 2030) 人が活きるオートメーションで、ソーシャルニーズを創造し続ける」をスタートさせました。このビジョンでは、「カーボンニュートラルの実現」「デジタル化社会の実現」「健康寿命の延伸」という、3つの社会的課題の解決を目標に掲げています。

電子部品事業は、長期ビジョンの中で掲げた3つの社会的課題の中から、「カーボンニュートラルの実現」「デジタル化社会の実現」にフォーカスし、「新エネルギーと高速通信の普及」に貢献する社会価値の創出に取り組んでいきます。

私どもの電子部品事業は、社会的課題を起点に、我々のコアコンピタンスとなる"繋ぐ・切る"技術で、お客様とともに課題解決に必要な機能をデバイス&モジュールを軸としたソリューションを生み出す事業へとトランスフォームしていくという、実現に向けた強い意思を込めて、2022年4月付でカンパニー名称を「エレクトロニック&メカニカルコンポーネンツビジネスカンパニー」から「デバイス&モジュールソリューションズカンパニー(略称:DMS)」に変更しました。

SF2030において、私どもは3つのトランスフォーメーションを実現します。

1つ目は、ソリューション寄りに事業をシフトしていきます。コア技術と多彩な機能の組み合わせで製品の価値を向上させ、お客様が必要な機能をデバイス&モジュールを軸としたソリューションとして提供します。

コアとなる"繋ぐ・切る"は、オムロン創業時から続く技術です。電気を繋いだり切ったりするスイッチやリレーにセンサーが加わり、モジュールはそれらの組み合わせになります。ウェザーニューズ様との協業で気象センサーの開発をしている小島は、このモジュールを手掛けています。

小島 オムロンには、様々なセンサーに関する技術があります。例えば電磁界の技術を使った近接センサー、光の技術を使うフォトマイクロセンサーなどです。こうした個々のコアコンピタンス・技術を組み合わせてモジュール化するのが、私たちの部門です。

これらとアルゴリズムを組み合わせて、人の顔を検出するといった技術も持ち合わせています。

行本 2つ目は、「DCドライブ機器」「DCインフラ機器」「高周波機器」「遠隔/VR機器」の社会的課題解決の領域にフォーカスすることです。3つ目は「グリーン」や「デジタル」「スピード」という、新しい3つの価値の提供です。

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行本 カンパニーの新しい名前にも表現しているのですが、お客様企業の課題解決に貢献するデバイス&モジュールを軸としたソリューションを提供する、ソリューション寄りにトランスフォームしていきます。最後の出口、ソリューションの完成形はウェザーニューズ様をはじめとしたお客様企業との共創で生み出していきます。

当社において、ウェザーニューズ様は、現在最もソリューションビジネスという面で関わりを深めさせていただいているお客様企業の1つになります。現在は、オムロンのハードウェア技術と、ウェザーニューズ様の気象予測システムや対応策サービスなどソフトウェアの開発・提供ノウハウを組み合わせることで、「カーボンニュートラル実現」に貢献する新しい気象センサーのソリューション(サービス)開発に取り組んでいます。

両社の連携で、より高精度な気象予測でエネルギーの高効率化や、自然災害リスク低減で、地球上の人々の安全と安心な暮らしを守るサービスを生み出しています。

石橋 海難事故を防ぎ、船乗りの命を救いたい。私どもウェザーニューズも社会的課題の解決を起点とした「使命ドリブン」でスタートした企業です。

「いざというとき人の役に立ちたい」という理念のもと、気象情報を通じて、安全性はもちろんのこと、経済性などにも資するサービスを、今は「海」だけでなく「空」「陸」のお客様に幅広く提供しています。

精度の高い天気予報を提供し続けるには、「いまの空」の情報を多く集める必要があります。そのためには高精度な気象センサーの観測データが重要となります。

観測データというのは、まず日本だと気象庁が運用する「アメダス」があります。日本国内約1,300カ所に観測機が設置され、データを収集しており、これに加えて人工衛星などを使って収集される気象データがありますが、私どもがサービスを展開していく上では、それだけでは十分とはいえません。

ウェザーニューズは独自の観測機(気象センサー)を含め日本全国1万3000カ所の観測網を有しています。専任のIT技術者が最先端のテクノロジーを駆使して、観測機から取得した観測データやアプリユーザーからの天気・体感報告を、独自の予測モデルに反映することで、予報精度No.1を実現しています。この高精度かつ高解像度な予測データがあるからこそ、企業や個人向けに気象リスク回避につながるサービスを提供することができます。
※株式会社東京商工リサーチ調べ(2022年6月時点)

当社では気象センサーを展開していくなかで、2017年にオムロン様のセンサー(小型気象センサー:「WxBeacon2(ウェザービーコン2)」を採用させていただきました。気温・湿度・気圧・明るさ・紫外線・騒音という6要素の気象観測データを収集できる手のひらサイズのセンサーです。これを全国のユーザーに配布し、より多くの観測データを予測に反映させることで、さらなる予測精度の向上に取り組んでいます。

このセンサーがユーザーに好評だったことから、センサー開発のプロであるオムロン様と組んだ方が良いと考えました。

当社はオムロン様の高い技術力を信頼しており、企業理念についても事業を通じて社会的課題に向き合うといった面で両社に通じるものを感じています。また、社会変化や環境変化に対して、アジャイル(素早い)に取組まれている姿勢や品質向上のためのPDCAに共感し、こうして継続的に協業させていただいている状況です。

326_3.jpg「ウェザーニューズは『使命ドリブン』でスタートしました」(石橋さん)

行本 ウェザーニューズ様の気象データ収集をお手伝いさせていただくにあたっての、当社の強みは、「制御」の技術を持っている点です。センサーからのインプット、そしてアウトプットとしてのデータ提供、それからコントロール。取得したデータを制御、処理して出力し、有用に活用できるようにする。データサンプル数を多くするだけではなく、お客様が必要な機能をいかにアプリケーションにフィットさせアウトプットできるか。オムロンはお客様密着型で取り組んでおり、コスト面も含め、こうした機能を部品・モジュールとしてコンパクトにまとめることができます。ウェザーニューズ様の事業は信頼性が高い、リアルタイムのデータをどれだけとれるかというのが決め手になります。

それを私どもは十分ご支援できると思っていますし、ウェザーニューズ様と協業をさせていただく意義は大変大きいと感じています。

 

社会のために「フラット」「アジャイル」に動く

良質なデータ確保・活用を支援

小島 私は今、開発テーマのプロジェクトリーダーとして、オムロンの開発、営業、生産のフルファンクションを連携させています。そこにウェザーニューズ様とともに一体となったコンカレント(同時並行的)な活動で、商品化スピードを加速し、温度、湿度、気圧などセンシングデバイスと独自のアルゴリズム・通信技術を組み合わせモジュール化した気象センサーを開発しています。

まさにDMSがSF2030のビジョンにおいて取り組んでいる、社会・お客様が必要な機能を実現するモジュール創出の一つです。

326_4.jpg「両社の協業で開発を進める気象センサー」

開発にあたって、根幹にあるのはやはり、デバイス&モジュールを軸としたソリューションでお客様企業の思いに応えたい、社会の役に立ちたいです。気象センサーの開発を進めることで、より詳細な観測データが収集できるようになり、ウェザーニューズ様が提供する気象予測の精度向上をサポートする。お客様企業とともに気候変動対策という社会的課題の解決に貢献したいという思いがあります。

両社の強みを活かすためにオムロンは、精度が高いデータを収集し、そして収集したデータを制御してクラウドに上げるまでをしっかりとやりきることで、ウェザーニューズ様にはデータをいかに価値・サービスに変えるか、データ活用を考えることに注力いただけるようにしたいと考えています。

326_5.jpg「デバイス&モジュールを軸としたソリューションでお客様の思いに応えたい」(小島さん)

藤野 私は今、気象センサーなどのデバイスから取得した気圧・雨量などの気象データに対して、AI(人工知能)・機械学習などをもとにデータ解析することで、より精度の高い予測データを生み出す、いわゆるデータを価値に変える業務を担っています。

「データを価値に変える」中ではいかに質の良いデータがつくれるか、持っているかがカギになります。

質の良いデータを作成する中で、日常生活では出てこないような観測値、「ノイズ」と呼ばれる異常値が課題となることが希にあります。例えば、観測史上最大クラスの最大瞬間風速の値が出るとか。普通に考えるとありえない数値なので、本当にその数値は正しいのか、データ解析する立場として、なぜそういった値が出るのかが分からず、デバイス側の問題なのか、どうすれば確かめられるのかと悩むことがあります。

最終的には、我々側でその数値の確からしさを見極めた上で、誤って観測した値なら解析時に予測に反映するデータから取り除くのですが、この作業にはかなり苦労します。

もちろん異常値は完全になくすことはできないと理解しているので、頻度は少なくても、異常値が出てきたときに、これをどう扱うかをできるだけすみやかに判断する必要があります。そこでオムロン様と日ごろから密な連携をしていれば、欠損がどういったメカニズムで出てきているのか、培われた知見・ハードの知識を補完いただき、適切なサポートをもらえれば大きな力になると思っています。

私たちは天気に関して困っている、悩んでいるお客様の声が日本で一番届く企業だと思っています。ですので、お客様のお困りごとの解決に向けて、オムロン様と密に連携してシステムの完成度を高めることで、より高品質で信頼できる気象センサーやその観測データを活用し社会的課題の解決に貢献するソリューションを提供していきたいです。さらに鉄道、航空、流通、農業などあらゆる市場のニーズに合わせた新たなサービスを創造していきたいですね。

326_6.jpg「当社は天気に関して困っている、悩んでいるお客様の声が日本で一番届く企業です」(藤野さん)

小島 ありがとうございます。そうですよね、「こういうデータが出てきたのでどうしましょう」というのを議論させていただいて一緒につくり込むことで、システムとしての完成度を上げていきたいと思っています。

異常値などの急な変化に対して、スピード感をもってアジャイルに動いていけるかが、ここを一緒に目指せるかどうかが、結構、ポイントになるというふうに考えています。

行本 そうですね。今のお話しにあった異常値に関する対応をアジャイルにできるように努めているのが、小島が所属するモジュール開発部です。

ウェザーニューズ様のようなサービスの最前線にいらっしゃる企業はスピードやイノベーションが勝負でいらっしゃるので、私どももそれに学びながら、アジャイルに対応していかなければならない。そのためには組織がフラットで、マネジメント層と現場の意思疎通が円滑でなければなりません。

そして、なによりも今の若い人たちには、イノベーションのために、何でも自発的にやってほしい。やりたいことはやる。思い切って、面白く。ただし、何をするにしても、「社会の役に立つ」という背骨がしっかり通っていることが大前提です。我々、マネジメント層はそうした場を提供し、事業を通じて社会的課題の解決に取り組むことで事業全体の価値を高めていきます。

石橋 アジャイル・スピード、それは日々移り変わる天気予報を提供する我々にとって重要なポイントとなります。

今、気候変動の影響で、気象予測モデルはさらに絶え間ない変化を余儀なくされています。台風の影響予測も、桜の開花予想も、過去のモデルは機能しません。ルール・モデルを作っても、天気なんてあっという間に変わってしまいますよね。

なので、私たちは常に変化をさせなきゃいけない。

「アジャイル」は社内、そして企業と企業の連携においても大事なことです。気候変動という社会的課題を解決するというお互いが目指すもの、こういうものをつくっていくことについて、きちんとベクトルを合わせ、高い頻度のコミュニケーションを取っていくことで、最適な解に早く到達します。

小島 今、実際、一緒に開発を進めさせていただくなかで、アジャイル・密なコミュニケーションを取りながらいろいろやらせていただいています。プロトタイプ(試作品)をつくって持っていって、ディスカッションを通じてブラッシュアップする。その取り組みで、最も必要なのが、連携力だと私は思っています。新しいこと、新しい分野も取り入れて、新たな取り組みをガンガンやっていく。変化の激しいこの世の中においては、今後、よりそういう要素が重要になってきますし、横のレイヤー・縦のレイヤーがフラットで連携してアジャイルに回していくことで、より良いものをスピーディーに生み出していきたいです。

例えばセンシング機能をさらに向上させれば、雨量だけでなく、雨粒の大きさといった、細かなデータもとることができるようになる。気象センサーにとどまらず、通信・全地球測位システム(GPS)機能を活用して新たなサービスも生み出していけたらよいなと。

藤野 良いですね。私たちの会社も自由度が高くて、どんどんPoC(概念実証)を進めていこうという感じです。なので、オムロン様とも一緒にどんどん新たなことに一緒にチャレンジしていきたいですね。

326_7.jpg「『社会の役に立つ』という想いが根幹にある」(行本さん)

行本 さきほど、石橋様からお話があった通り、ベクトルを合わせて取り組むことでソリューション創出力を更に高めることが、変化の激しい世の中では非常に重要だと我々も思っています。気候変動という社会的課題を解決する、社会の役に立つ。この思いが根幹にあるから、両社の連携でより高精度な気象データを、より早く提供できます。それによって、台風などによる自然災害リスクを低減することもできますし、地球規模でとらえると、気象データを活用することでエネルギーロスを抑えるためのソリューションを生み出し、ウェザーニューズ様を通じて社会的課題の解決ができます。現在提供しているサービスにとどまらず、新たな価値創造に向けて連携をより強化し、フラット・アジャイルに続けていきたいです。

そしてそこには、オムロンの電子部品を軸としたソリューションがあることで、搭載製品の機能や、社会への提供価値が高まる。これからも「オムロンインサイド」による付加価値を提供できるよう、努めていきたいと思っています。

 

未来を起点に、新たな価値を作っていく

326_9.jpg「新たなサービスを生み出していきたい」(藤野さん・小島さん)

予報のあり方も語り合いたい

小島 オムロンの新長期ビジョン「SF2030」で掲げる、"人が活きるオートメーションで、ソーシャルニーズを創造し続ける"について、電子部品事業として捉えたときに、センサーなどのデバイスから取得したデータを活用して、お客様とともに新たなサービスを生み出すことで、人の能力をフルに活かせるような未来を作っていきたいと思っています。

今後、ウェザーニューズ様との取り組みにおいても、両社でどういう未来を作っていきたいのか、天気予報のあり方や、あるべき姿みたいなものをもっと一緒にディスカッションしていきたいと思っています。

藤野 そうですね、当社にはユーザーから1日18万件の天気報告が寄せられ、「浸水被害はどうですか?」「膝とか、くるぶしくらいまで浸水しています」のようなコミュニケーションをとることもできます。

ユーザーとともに、気象予報データを作っている。このデータ・ネットワークが強みです。

ここにオムロン様のハードを融合させれば、もっと新たなソリューションを生み出せそうです。

小島 我々としては仕様を満たすハードウェアの提供だけではなく、ウェザーニューズ様・その先のユーザーにとって、どういったデータがセンシングできたら、より便利で、価値が上がるのかを起点に、一緒にアイディアを出し合っていきたいですね。そうすれば、生み出せる・解決できることってたくさんあると思っています。

藤野 気象データ以外の分野での新しいサービスの創出に向けてトライ&エラーをぜひやっていきたいです。

小島 これからも、フラット・アジャイルなコミュニケーションで、社会・お客様の課題解決につながるソリューション(サービス)を一緒に生み出していきましょう!

326_10.jpg座談会出席者 プロフィル(右から)

小島 英明さん(こじま・ひであき) オムロンのデバイス&モジュールソリューションズカンパニー事業統括本部 商品開発統括部 モジュール開発部 エレキ開発2グループ。ウェザーニューズとの気象センサー開発のプロジェクトマネージャー。

石橋 知博さん(いしばし・ともひろ) ウェザーニューズ取締役専務執行役員。モバイル・インターネット気象事業主責任者、気候テック事業主責任者、経営企画主責任者。

藤野 純平さん(ふじの・じゅんぺい) ウェザーニューズの予報センターに所属。観測した気象データを人工知能(AI)・機械学習などをもとにデータ解析することで、気象予測サービスという価値に変える業務を担当。

※2022年10月17日~2023年3月31日に日経電子版広告特集にて掲載。掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます