「自己託送」システムで再生可能エネルギー導入を加速

地球温暖化問題への取り組みとしてカーボンニュートラルの取り組みが広がるなか、オムロンは2050年に、Scope1,2の温室効果ガス排出量ゼロを目指す中長期の環境目標、「オムロン カーボンゼロ」を宣言しました。その実現に向け、2024年には自社の事業活動から排出される温室効果ガス(GHG)を2016年度比で53%まで削減する目標を掲げ、日本国内にある全76拠点のGHG排出量ゼロを目指しています。この目標を達成するために、新たな制度を活用した再生可能エネルギー導入に挑戦しました。

Scope1:自社での燃料の使用による温室効果ガスの直接排出、Scope2:自社が購入した電気・熱の使用による温室効果ガスの間接排出、Scope3:自社のバリューチェーンからの温室効果ガスの排出

 

自己託送による再生可能エネルギー導入に向けて

GHG排出量を削減し、カーボンゼロを達成するためには、太陽光発電による再生可能エネルギー電力の導入が不可欠です。しかし、都市部にある事業所では太陽光発電のための十分なスペースが確保できず、電力会社からの購入に頼るしかありませんでした。一方、地方に目を向ければ発電設備の設置に十分なスペースを確保しやすい環境があります。そこでオムロンが着目したのが、「自己託送」による遠隔地からの再生可能エネルギーの電力供給です。自己託送とは、遠隔地にある自社の設備で発電した電気を、送配電ネットワークを通じて自社へ送電する制度です。この制度を利用し、100km離れた場所にある発電設備からオムロンの研究開発拠点へ再生可能エネルギー電力を供給する、カーボンゼロに向けた挑戦が始まりました。このプロジェクトを推進したのは、オムロングループの中で社会システムのエンジニアリングソリューションを展開するオムロン フィールドエンジニアリング(以下、OFE)です。

遠隔地にある自社発電設備で発電された電気を、送配電ネットワークを通じて自社設備へ送電する制度。屋根や空地のスペースを確保できず、自社敷地内への発電設備の設置が難しい場合においては、自己託送制度を利用することで、グループ会社の施設や離れた場所にある発電設備で発電した電力を利用できるようになる。

675_2.jpg京都府宮津市の太陽光発電施設

 

遊休地活用で地域と協業

まずOFEが取り組んだのは、発電設備を設置する場所の確保です。発電設備の建設に適した場所かつ採算が取れるかを検証し、複数にまたがる土地所有者と交渉するなど、調整すべきことは多岐にわたります。そこで、候補に挙がったのは2017年にオムロンと包括連携協定を提携し、再生可能エネルギー導入による地域創生に取り組んだ京都府宮津市です。OFEは、この宮津市内にある1万平米に及ぶスキー場跡地の活用を検討しました。同市では人口減少にともなう過疎地域の増加が問題となっており、特に人の管理が入らず荒れてしまう遊休地の活用が課題でした。OFEは、地元の方々の協力を得ながら候補地を絞り込み、荒れ果てた遊休地を再生可能エネルギーの発電設備へと蘇らせることに同市と共に取り組みました。

京都府宮津市上宮津財産区管理会の関野会長は、今回のオムロンの取り組みについて「再生可能エネルギーの関心は高くなっているが、宮津市で発電した電力を、電力需要のある都市部にまで届けられるとは考えられませんでした。発電システムのための遊休地の活用もでき、地域の活性化につながると期待しています。」と語ります。

675_3.jpg京都府宮津市 上宮津財産区管理会 会長 関野掲司様

 

最大の課題「同時同量」の実現

そして、自己託送を実現するための最大の課題が「同時同量」制御です。自己託送においては、送配電網の安定のために、発電量と消費量をあらかじめ電力会社に提出し、計画値と実績値を一致させる同時同量が必要となります。そして、この実現には精度の高いエネルギー制御が求められます。OFEはこの制御の実現に向け、大型蓄電池を活用した独自のエネルギーマネージメントシステム(EMS)を導入しました。EMSでは、気象庁や民間の気象データ、過去の発電データ、さらには2000件以上の発電設備に関わってきたノウハウを組み込んだ独自のアルゴリズムで、発電量を予測します。この予測に基づいた制御により、発電量が計画値を上回る場合は蓄電池に充電し、計画値を下回る場合は放電することで、計画値と実績値の誤差を抑えるシステムを実現しました。

EMSの開発を担当した梶原は、開発の意気込みをこのように語ります。「システムの運用はまだ始まったばかりです。発電設備がある今回のような山手のエリアは、天気の急変が多く予測が難しい環境でもあります。今後も稼働データを収集・分析することで、エネルギー制御の精度をさらに高め、あらゆる設置環境下でも最適な制御ができるシステムへと進化させていきます。」

675_4.jpg宮津太陽光発電設備とオムロン事業所を結ぶ「自己託送システム」

電気の需要量と発電量を30分単位で予測し、乖離がないように実際の需給と計画値を一致させることを義務付ける制度。同時同量のバランスが崩れると周波数が不安定になり、電気の品質低下や大規模な停電発生につながる。

 

企業の再生可能エネルギー普及に向けて

2023年1月、OFEは発電設備を設置する場所の確保から設備の設計・施工、送配電網の調整までを一気通貫で対応し、自己託送による遠隔地からの再生可能エネルギーの電力供給を実現しました。これにより、宮津市の発電設備とオムロンの事業所がつながり、施設の消費電力の約30%に相当する年間約670MWhの電力供給が可能となりました。

近年、多くの日本企業が2050年のカーボンゼロに向け、再生可能エネルギー発電設備の導入を進めており、自己託送活用への期待は高まっています。今回のプロジェクトを推進した早川は「再生可能エネルギーの電力を使って、新たな製品を生み出し、その製品がまた社会課題の解決に繋がる、こんな循環モデルを目指したい。」と想いを膨らませます。そして、プロジェクト推進責任者の笹脇はこのように語ります。「日本は狭い国土に加え、山間地が多く、太陽光発電システムの導入に最適な場所は、どんどん少なくなってきています。こういった状況の中、今回のような自己託送モデルは、再生可能エネルギー電力の調達方法として社会的に大きな意義を持つと考えています。」

オムロンは、長期ビジョン「Shaping the Future 2030」のなかで、事業を通じて解決するべき3つの社会的課題「カーボンニュートラルの実現」、「デジタル化社会の実現」、「健康寿命の延伸」を設定し、その課題解決に取り組んでいます。自己託送の仕組み活用による再生可能エネルギー普及は、「カーボンニュートラルの実現」に向けた取り組みの一例です。オムロンはこれからも、「カーボンニュートラルの実現」を通じ、人々の便利な暮らしと自然環境が両立する持続可能な社会へ貢献します。

675_5.jpgOFEエネルギーマネジメント事業本部⻑ 笹脇(写真左)
OFEエネルギーマネジメント事業本部 事業創造課 早川(写真中央)
OFEエネルギーマネジメント事業本部 技術開発課 梶原(写真右)

 

関連動画:自己託送による再エネ電力の供給に挑戦 -オムロンカーボンゼロを加速

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