コア技術

ロボット開発に取り組むリーダーたちのチャレンジ 後編
~「人とロボットのインタラクションのありたい姿」を探求し開発にチャレンジ ~

2023.01.16

新たなロボットの実現に向けて、2022年4月にオムロンのコーポレートR&D組織である技術・知財本部にてスタートした「Voyager PJ」。ロボティクスの最先端の研究開発を行うこのPJの中で、ロボットのシステムアーキテクチャをゼロから考え直すところからチャレンジしている2人の開発リーダー 柴田義也と田渕一真に、これまでの開発経験を通して、どのようにしてスキルを蓄積し、世の中にない新たなロボット開発をしたいという想いに至ったのかを語ってもらいました。

後編では、「人とロボットのインタラクションはどうあるべきかを探求したい」という田渕の想いを紹介します

写真左:技術・知財本部 ロボティクスR&Dセンタ Voyager Project部
第1グループリーダー 柴田義也
写真右:同 第3グループリーダー 田渕一真

田渕一真の略歴

2008-2018年

産業用ロボット開発・製造企業でコントローラ開発に従事

2018年

オムロン入社

2019-2022年

OMRON Research Center of America (米国、CA)に駐在し、ロボットアームの制御技術開発、開発企画に従事

2022年-

Voyager PJへ参画

研究開発を通じてロボットが広く普及している世界を実現したい

私は、大学院では人と機械が共生するシステムを目指した人間機械系に関する研究室に所属し、人や組織の認知・判断・行動の特性理解のために、チームリーダーが複数のメンバーへ割り当てるタスクを適切に決めることを学ぶプロセスをマルチエージェント強化学習のフレームワークで分析する研究を行っていました。
具体的には、シミュレーション上で設定したチームにおいて、“チームリーダーが各メンバーに対してどのような状態量に着目してタスクの実行を動機づけるかを学習すること” と 、“メンバーがタスクの達成方法を学ぶこと” を並行して学習させるシミュレーションを行っていました。ロボットとは直接関係しない研究でしたが、研究室が扱っていたヒューマンマシンインタフェースなどのテーマも含めて、この時の経験が “人が機械を扱うことの難しさ”、“機械が人のように作業することの難しさ” を考える原点になっています。

大学院卒業後は、シミュレーションだけでなく実際に機械を動作させることに携わっていきたかったので、産業用ロボットのメーカーに入社し、モータを制御するコントローラの研究開発に従事しました。就職動機は、産業用ロボットの多彩な動きに魅力を感じたということでした。しかし、ロボットやコントローラについての知識があるわけではなく、最初に担当したロボットの動作を状況に応じて動的に変える技術の開発では、ロボットの運動学(キネマティクス)を正確に理解することが難題で、ロボットの多彩な動作を支える技術としてキネマティクスが大変重要であるということを、開発を通した実感として学ぶことができました。
そして、複数のロボットが存在するときにどのように作業を割り当てると効率的か、自動で計画化することを目指し、経路計画(パスプランニング)や動作手順を生成する研究を行いました。

大学での研究やこれまでの開発経験を通じて、ロボットの高速高精度な制御を極めるよりも、人も含めたシステム全体で、個々の機能をどのように組み合せることで高度な作業ができるシステムが実現できるかを突き詰めたいと思うようになっていきました。例えば、ロボットでの自動化に際して、ロボットがすべてを自律的に実行する世界をふんわりイメージして必要となりそうな個別の要素技術を極めていくのではなく、ロボットによる自動化で何を行わせるのかという目的に照らし合わせて、 “各種機能をいかに組み合わせると効果的か” を考えることに面白みを感じるようになったのです。そして、ロボットが人をサポートし、協働して作業を行うロボットが世の中で広く活躍している世界を作りたいと想う気持ちが、ますます強くなっていきました。

オムロンに入社し、新しい開発に挑戦

オムロンに入社したのは2018年のことです。先ほどお伝えした想いから、オムロンの企業哲学である「機械にできることは機械に任せ、人間はより創造的な分野での活動を楽しむべきである」という世界観に共感し、“人と協働するロボット”の開発と、ロボットが活躍する世界の実現へ挑戦できそうだと思えたからです。また、オムロンは製造業や公共交通、ヘルスケアなど様々な事業を展開している点や、これからロボット事業を拡大推進しようとしている立場であることから、オムロンでなら新しい設計思想で新しいロボットを構築できそうだという期待もあり、入社を決めました。

オムロンでは、米国でのAMR(自律走行搬送ロボット)の事業を技術的に強化することを狙い、2018年4月に新たな研究開発拠点として「OMRON Research Center of America」をカリフォルニア州に設立していました。私は入社後まもなく、日本の研究開発とアメリカの新研究開発拠点での研究開発を戦略統合する使命を担って2019年より米国に駐在し、ロボットアームの制御技術の開発や開発企画に従事ました。その後、開発の方向性が一旦明らかになったことから米国での開発は別の駐在メンバーへ引き継いで帰国し、2022年から “Voyager PJ”へ参画しました。この3年間の米国駐在は、入社間もなかった私に対しても様々な提案を求められ、また、提案できる環境で過ごすことができました。新たな開発目標を考え、表出する力を磨くことができたのは、この駐在経験があったからです。

人がロボットの動作予測をする難しさと重要性

人とロボットが同じ場所で協働作業をする場合、ロボットの動きを熟知し動作をプログラミングできる人であれば、ロボットが次にどのように動くかをだいたい予測できます。しかし、プログラミングを行ったことのない人には、ロボットと協働作業をする場合のロボットの動作予測はかなり難しいことです。決められた軌跡しか動かない単純動作のロボットならば容易に予測できるかもしれませんが、人とロボットが協働で作業を行うような複雑なシーケンスや環境に応じた動作生成を伴う動作となると、ロボットと協働している人が必ずしもロボットの動きを予測できるとは限りません。人と人の協働作業であれば、人はそれまでの経験や身体の類似性から相手の動きの予測はできますが、ロボットの形状や動作は人と異なりますし、人と同じ感覚で発揮できる“阿吽の呼吸”もないからです。また、人をまねた動作をするロボットを具体化しようとすることは、ロボットの利点である、人とは異なるより最適な形状や、人にはできない高速動作や高精度などの特徴が制限される可能性があるので、必ずしも正解とは限りません。

一方、安全性の観点でいうと、仮に人と人が接触しそうになったときには互いに柔軟に動作を修正でき、また体も柔らかいので必ずしも怪我に結びつきません。しかし、ロボットが人と接触すると、人に大怪我をさせることにつながります。このようなことから、人とロボットが協働し、互いの利点を生かしながら生産性を高めていくためには、互いの考えを伝えあうことを通じて、互いの動きを理解する“インタラクション”が重要だと考えるようになりました。

インタラクションのあるべき姿の実現と、容易に操作できるロボットへのチャレンジ

人とロボットが協働して作業ができるようにするためには、ロボットの動作をどう人に認識させるかがまず重要となります。現在、製造現場や物流倉庫で普及しているAGV(無人搬送車)では、音や回転灯などで人に機械の存在を知らせたり、LiDAR(レーザー光による障害物検知のセンサ)を搭載して障害物を検知して停止させたりすることが行われています。このような、人がよく知る自動車のような構造のものであれば、動作予測が比較的簡単なので単純な手段でもコミュニケーションできます。一方、多関節ロボットが行うような、より複雑な動作を人がわかるように伝えることは、難易度が高い課題です。
また、すべての回避動作をロボットに担わせるには、膨大なケースを想定するプログラミングや動作速度の制限などの安全対策が必要となり、コストと性能の両立が難しいだけではなく、実現できる動作にも限界があります。例えば、人と人がすれちがうとき、通路の真ん中を歩く人を他方の人が回避するためには広い幅の通路が必要ですが、お互いに譲り合うことができればもっと狭い通路でもすれ違うことができます。人とロボットの場合においてもこのような状態を目指すのがよいのではないかと考え、人とロボットとのインタラクションのあるべき姿を探求したいという思いに至っています。

また、インタラクションと同様、容易に使える操作性を実現することも大事だと考えています。ロボットを利用する人が曖昧に指示をしてもロボットが理解してくれる世界の実現には、ロボットが正常に動作するだけでなく、異常が起こったときへの配慮も必要です。このような異常への対応をどのように設計しておくかが、現在はロボットシステムの設計者であるシステムインテグレーター(SI)の腕の見せ所となっています。しかし、ユーザーが容易に操作できるようになるには、個別に作りこまずとも動作する必要があります。ロボットと人がより効率的に作業をするためには、ロボットを熟知しているSIに頼ることなくユーザーがロボットを使えることが必要です。効率的な作業を考える上での現場それぞれの知見は、SIにもロボットメーカーにもすべてがあるわけではありません。現場に即した人とロボットによる生産性の高いシステムを構築するのは、現場のユーザーの方が行うのが良いはずです。SIが介入せずともユーザーが容易にロボットを扱える未来を実現するため、そのために必要なインタフェースとは何かを具体化し、新たなロボットシステムの開発にチャレンジしています。

現状、単一作業を高速・高精度で繰り返し行う、搬送やピッキングなどの作業工程ではロボットは普及していますが、導入には熟練した人が必要であり,また導入されたロボットは安全性のため機能・性能やポータビリティの面で制限を受けるため,幅広い用途で使用されるレベルには至っていません。人をサポートするロボットがより広いシーンで活躍する世界を目指し、人とロボットがそれぞれどのような役割を担い、どのようなインタラクションをすることがよいのかという独自の切り口から新しいロボットの開発に取り組む田渕の挑戦は続きます。

注)組織名、役職等は掲載当時のものです(2023年1月)



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