前編「流れあるところに、ビジネスチャンスあり!」では、データ活用による事業創造を目指し、近未来のデータ流通の姿をえがきながら実現に向けた検証を進め、現場でのデータ前処理という課題にたどりつくまでのストーリーを紹介しました。
後編では、現場でのデータ前処理に課題を見出したその気づきから、オムロンが進める現場DXにつなげた経緯をSDTM事業推進部の今江 友和、イノベーション推進本部の竹林一、本事業の当初から関わってきた河野 智樹(2023年2月までSDTM事業推進部、現在はWESOU JAPAN株式会社 DX事業部 事業部長)の3人が語ります。
(注)組織名、役職等は記事公開当時(2023年3月)のものです)
1981年 | オムロン株式会社 入社 |
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2007年 | オムロンソフトウェア株式会社 代表取締役社長 |
2009年 | オムロン直方株式会社 代表取締役社長 |
2011年 | オムロンヘルスケア株式会社 サービスビジネス事業部長・執行役員 |
2012年 | ドコモ・ヘルスケア株式会社 代表取締役社長 |
2015年 | オムロン株式会社 技術知財本部 IoTプロジェクト・SDTM推進室長 |
2019年 | オムロン株式会社 イノベーション推進本部 インキュベーションセンタ長 |
2022年 | オムロン株式会社 イノベーション推進本部 シニアアドバイザー |
2001年 | オムロン株式会社入社、ATM、自動改札機、自動券売機の開発に従事 |
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2011年 | オムロンソーシアルソリューションズ株式会社へ転籍、アジアパシフィック向け社会システム事業に従事 |
2019年 | オムロンソーシアルソリューションズ株式会社 技術創造センタ ロボティクス技術部 部長 |
2021年 | オムロン株式会社 イノベーション推進本部 SDTM事業推進部 部長 |
1985年 | オムロンソフトウェア株式会社入社 |
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2012年4月 | オムロンソフトウェア株式会社 インダストリアルシステム事業部 事業部長 |
2014年4月 | オムロンソフトウェア株式会社 企画本部マーケティング部 部長 |
2017年4月 | オムロン株式会社 技術・知財本部SDTM事業推進室へ出向 |
2018年4月 | オムロン株式会社 イノベーション推進本部へ転籍 |
2022年4月 | オムロン株式会社 イノベーション推進本部SDTM事業推進部 戦略統括担当 |
2023年2月 | WESOU JAPAN株式会社 DX事業部 事業部長 |
現場DXに、ビジネスの可能性を見る
今江 データビジネスの着想から始まり、絞り込んだサービスの方向性は、現場で活用するためのデータの前処理でした。前処理を自働化するツールを提供するだけでなく、ITの専門家ではない現場の方々が使いこなせるようになるまで支援するサービスとセットにしました。紙帳票やデータベースからの集計作業や転記作業は、手作業で行うのが当たり前だととらえている現場の方々に、自動化ツールを提供するだけではなく、それを使って現場が進める自律的なDXを支援していくことを価値とするものでした。
河野 このツールとサービスのターゲットとして最終的に設定したのは、製造領域の中堅・中小企業のサプライチェーンに属する方々です。サプライチェーンの自動化は、データの前処理部分での定型作業において改善効果が大きく、分析・意思決定の高速化や現場保全といった成果につながると仮説を立て、これに基づいて社内検証と課題の把握を進めていきました。
竹林 社内検証ができるフィールドも出てきて、いよいよ事業フェーズに向かい始めました。
河野
社内検証は、製造系のグループ内企業であるオムロンリレーアンドデバイス(以下OER)で実施しました。やりとりを始めたのは、2019年ごろです。
サプライチェーンをターゲットにとはいいつつも、まずは同社のエンジニアリングチェーンを対象に検証を行いました。そこで見えてきたものは、エンジニアリングチェーンとサプライチェーンとでは、データの使い方に大きな違いがあるという事実です。
エンジニアリングチェーンでは、新しいものや価値を創造するため、ものや価値が変わるとそれらに付随するデータ自体も変わります。一方サプライチェーンでは、ものや価値を安定的に顧客に提供するため、それらのデータそのものは変わらず、月次売上管理表などの管理帳票に現れる変化が重要になります。そのため、データそのものが変わるエンジニアリングチェーンの自動化よりも、管理帳票などの定型書式の変化を見るサプライチェーンを自動化するほうが、現場改善の効率や効果が大きいと判断できました。
99.9%のお客様に「No」と言われる日々
河野 OERでの社内検証は、2020年まで行いました。その中で、我々のサービス活用によって、データの前処理の自動化はもちろん、部門内のデータ連携が自律的に行われ始めるという動きを確認できました。こうした確かな手ごたえを得て、いよいよ社外へのアプローチを始めたのです。
今江
具体的に言えば、見込み顧客として設定した業界・領域の企業の代表番号に電話をかける営業活動を開始しました。並行して、インサイドセールスやマーケティングオートメーションの仕組みも作り込んでいきました。
営業電話では、サービスをオムロングループ内の工場で導入・活用されている実績をお話しさせてもらうのですが、まず聞いていただけません。世の中にない、新しいコンセプトのサービスでしたので、よくスタートアップの方々が直面すると言われているような“壁”に私たちもぶちあたりました。
竹林 99.9パーセントのお客様に「No!」と言われていた時期ですね。
今江
OERへのサービス導入が比較的スムーズに運んだのは、オムロングループ間での相互理解があってのことでした。ひと口に「製造業のお客様」といっても、規模や業種が変われば、お困りごとや関心事もがらりと変わります。OERへの導入が成功したからといって、全ての製造業にサービスが当てはまるとは限りません。それら困り事や関心事を集め続けると、オムロングループでの話からは見えてこなかったリアルなお客様が見えてきました。
それらを整理すると、「決裁する方はどなたなのか」「責任者の方はどんなことをお考えなのか」「現場の方はどんなお悩みをお持ちなのか」「データ活用を考えている情報システムの方のお考えはどうか」といった情報がどんどん蓄積されていきました。
それらがのちに、ツールを提供するのではなく、ITの専門家ではない現場の方が自律的にDXを行うために伴走するオムロンの自律型業務改善サービス「pengu」の価値伝達と成果につながっていくことになります。
河野
オムロンは、モノづくりの会社です。はじめは、「モノを売ってくる」というミッションで営業活動をしていたため、99.9%「No!」と言われめげていた時期もありました。しかし、99.9%に「No!」と言われたら、どうすれば「No!」が「Yes」になるのかを全員が考え始めました。「No!」をプラスで考えるか、マイナスで考えるかですよね。
「売れない=ダメ」だったで終わると、単なる失敗になってしまいます。だから、そこで終わるのではなく、情報を集め、その情報を活かすマインドに切り替えたわけです。
竹林
そうです。失敗で終わってしまうことこそ、大失敗。
「No!」をプラスに転換するために、「提案に対して、どの部門、どのような役割のお客様が具体的にどのような反応をされたのか」、また「どのような価値を感じてくださるのか」「そもそものお困りごとは何なのか」といったことを各自が持ち帰るようにしました。
今江 しだいに、チームメンバー同士が失敗した情報を共有し学びに変え始めました。「それは、こういう類の失敗だから、むしろ前進しているよ」といった声かけが増えたように思います。受注数ではなく、まずは営業の型を作って突破率を上げる、そちらに一丸となって向かえるようになりました。そうすると、気持ちも楽になったのか、営業に対するアイデアも活発に出始めました。
竹林 チーム全員が考え始めた、という印象でしたね。新規事業を生み出すために、我々自身がスタートアップのような動き方ができるようになったと感じた瞬間でした。誰か、たとえばトップがやらなければということでもなく、全員がそれぞれの範疇で、思いきり考えて行動してくれました。アイデアを発表すると、「それは面白い」と、承認される。そうするうちに、お客様からの「Yes」も増えてきました。「Yes」についても、私たちのサービスの説明内容や価値のどこに反応して「Yes」になったのか、という分析・検討が自然になされるようになっていたのが、嬉しい点でしたね。
お客様の課題を掘り下げ、モノ売りからコト売りへ
河野
お客様の「Yes」を分析・検討し、さらに効果的な提案ができるようになってくると、また一つ変化が表れました。お客様からの質問が、価格や機能に関する内容よりも、「そのサービスを導入すると、何ができるのか」といったソリューション展開に関するものに変わってきたと、メンバーが口々に報告するようになったのです。私はこれを、「pengu」という新サービスが価格や機能で比較されるフィールドから抜け出したことの表れだと感じました。
こうした点から振り返ると、営業活動がうまく回らなかった要因は、オムロンはサービスを提供しているのに、モノとして売ろうとしていた点にあったと分析できました。モノの機能や性能を伝えるほうが、相手にメリットをはっきり感じてもらえると思っていました。けれども、コトの提供は、機能や性能の話ではないんですよね。コトを届けようと思ったら、サービス自体はもちろん、お客様を知ることが大切だったわけです。コトを伝えられていないから、「No!」になります。メンバーが失敗をいとわなくなり、情報交換が活発になるにつれて、話す内容が変わってきました。
竹林
「モノ売りからコト売りへ」とはよく言いますが、この言葉の意味を本当に経験できたと思っています。
モノや、モノの機能説明から入ると、お客様の話は他のモノや機能の比較の話になり、コストや値段の話になっていきます。対して、「お客様はいま、どういった地点を目標にしているのですか」というところから入ると、お客様は「こんなことがしたい」「こんなことに困っているから何とかしたい」など熱く語ってくださいます。その理想に至る道に課題があって、その解決に「pengu」が役立つという価値を伝えれば、他のモノとの比較や値段の話にはならずに、価値や課題の深堀の話になっていきます。次第に商談の場では、お客様のお話しを聞く時間が長くなって、その分こちらの説明の時間は短くなる。そしてそれが受注という結果につながっていきました。面白いな、と感じましたね。
今江 お客さまから「自分でできました!次は、こういう課題にチャレンジしたいです!」という喜びの声をいただくのが、何より嬉しいですね。それに導入した後の成果がわかりやすいサービスだというところも大きいです。「pengu」は、現場の持続的成長を目的としたIT導入を支援するサービスです。これを使っていただくと、エンジニアではない現場の方が、数か月後には自分の力でDXに取りかかれるようになっています。お客様と接していて感じるのは、「データ活用」への距離感です。できない、データに疎いといった苦手意識に寄りそって、しっかり方法をお伝えすると、一人で壁を突破していけるようになってくださいます。エンジニアではない方が、想像もしていなかった、でも実は身近にあったスキルを手に入れる。その結果、現場が改善していく。このような状態が手に入るのだという「pengu」の価値を、しっかりお伝えしていきたいですね。
河野 担当者自身が身近にある課題をDXで改善すると、DXについて自律的に考えるようになってくださいます。一つクリアすれば、次は何をしようという姿勢に変わっていきます。そこで、隣の席の同僚に目がいく。「あなた、使っているデータがあるよね。私のデータと連携できないかしら」。こうした取り組みが、グループ内では始まっています。この広がりを、社外でも同様に展開していければと考えています。
河野 知識を手にした人は、変化に対する対応力を身につけます。ソフトを使うだけでは、社内に変化があった時の対応は難しいでしょう。一方、知識と対応力を備えた人は、変化に対しても提案していく力があります。オムロンがめざすのは、お客様がこういった状態になることを支援することです。「pengu」は、ソフトというモノを提供するのではなく、人財育成がサービスの根幹だと考えています。人財雇用に関する課題に対し、今いらっしゃる人財のスキルを上げるお手伝いをすることは、予測できる将来の人手不足にも有効に働くはずです。臨機応変に対応できる人財を育成して、必要であればモノに関するご相談もうかがいます。道具ありきではありません。そうした点に、価値を感じていただければ嬉しいですね。
自律社会を目指すチャレンジと、求める仲間
竹林
データの流れが世界を変えていくという考えのもと、SDTMは誕生しました。その手段となるデータ流通構想の、前段階にあたる現場DX活動は、順調に評価を集めています。
現場の方々が自律的にデータを活用し、DXを行い続けた先に、世界が望むデータ流通社会はやってくるでしょう。このように未来からのバックキャストで社会的課題を解決していくことがオムロンのミッションです。
今江 イノベーション推進本部では、私たちのSDTMを含めて複数のテーマが新規事業創出に向けた歩みを続けています。オムロン創業以来のベンチャー精神が根付くイノベーション推進本部では、新事業創造や、組織文化のDXといった新しい価値創出にもチャレンジできる。素晴らしいことだと思います。
河野
創業者の言葉である「機械ができることは機械に任せて、人はより創造的な仕事を行う。」オムロンはそこに注力するステージに入っています。だからこそ、私たちは人間だけが持つ強みを磨いていかなければなりません。
その強みの一つを私は、人に深い関心を寄せられることだと考えています。私たちが提供するコトの価値を伝えるには、お客様を知り、サービスを知ることが大前提です。人に興味がなければ、現場の動向や、どんな考えを持っているかといったことに考えが及びませんよね。お客様の課題解決というバックキャストから見ても、興味関心は大切な要素だと思います。
竹林
私は、イノベーション推進本部で行っている活動は、オムロン創業者が掲げた自律社会を体現するものだと、考えています。「pengu」のサポートを受けて、お客様の現場でDX活動が自律的に進み、それぞれの新しい世界を切り拓いていく。その先でやっと、データ流通社会は到来します。
今江と河野が口にした、「ベンチャー精神にのっとり、新しい価値創出に挑みたい」という意欲に燃える人、人に強い興味関心を寄せられる人は、私たちのミッションの大きな助けとなってくれるでしょう。
付け加えるなら、そのような方々には自律的な人財であってほしいと思っています。ここで定義する自律的な人財とは、すぐやる人・楽しめる人のことです。ここまで見ていただいたとおり、私たちの事業は頭だけで成しえるものではありません。チャレンジして、壁にぶつかったら、方法を変えて再チャレンジする。そんなアクションの繰り返しです。これを楽しみ、お客様の喜びを自分のものとして喜べる。そんな人には、ぜひイノベーション推進本部にジョインしていただきたいですね。
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