障がい者が働く工場が導く、ダイバーシティが輝くものづくり ~オムロン京都太陽創業30周年~

欧米先進諸国のみならず、アジア諸国、インド、南アフリカ、ブラジル、アルゼンチン、イスラエル、アラブ、サウジアラビアの中東諸国まで、世界中の企業が研修を組んで広くものづくりの学びに訪れる工場が京都にある。

訪問する人々は口を揃えて、
「この工場にこそ、人の個性を引き出し、多様な人財が活躍できるものづくりのヒントがたくさんある」と言う。

オムロン京都太陽。
当時、障がいがあることを理由に、働く機会を得ることが難しかった障がい者に、働く機会を創出することで生きがいを見いだせる環境をつくろうと1985年に設立(1986年創業)。
今では重度の障がい者を含め、140名の障がい者が個性に合わせて、ものづくりの現場に従事している。

ここを訪れる人々の目的は様々。

障がい者が働きやすい環境を学びにきているだけに留まらない。

高齢化と少子化が進む中で、女性や経験が浅い人でも働きやすい環境をどうつくるか・・・
人の流動が多く、定着しない人財にどうやりがいと成長を実感してもらうか・・・
様々な国籍の人が働く環境の中で、どう現場の改善を重ねていくか・・・

設立当時、障がい者が働く環境がまだ当たり前でなかった時代、いろんな疑問があったという。
本当に障がい者は働くことが可能なのか?
本当に健常者と同じ品質の製品を生産して、利益を上げられる工場にできるのか?

オムロン京都太陽は、オムロンの他の工場と同じように、世界に通用する品質システム(ISO9001)を取得し、オムロンの他の製品と同じように、世界中に流通している製品を生産している。もちろん収益も上げている。
障がいのある人達は、間接的な業務に従事するのではなく、世界中に出荷される工場の生産工程で使用されるセンサや電子体温計といった製品のものづくりの生産工程を直接担っている。

機械が人に合わせて動き、人の能力を引き出す

個々の能力を引き出すために取り入れているのが、個性にあったオートメーション。

このオートメーションが、人が動かなくても、機械が人の動きやすいポイントまで自動的に動かし、人の作業をアシストしてくれる。

例えば、部品の袋詰め作業。
小さなポリ袋を1枚ずつ作業者の手元に供給し、袋を開くところまでオートメーションされている。指先が不自由な方がつかみにくい小さい部品は、機械が自動的に袋へ入れる。つかみやすいサイズの部品は作業者自身が入れる。
お互いが得意とする作業を機械と人とで分業しながら、人と機械のベストマッチングを図っている。

部品の袋を開き、袋詰めをアシスト

部品の袋を開き、袋詰めをアシストする

健常者でもよくあるのが、部品の取り間違え。
どの部品棚から部品が取られているか、棚に設置されたセンサが判断して、部品が取り間違えられていたり、取り忘れたりした時に、オートメーションが間違いを教えてくれる。

棚につけられたセンサで取り間違いを防止

棚につけられたセンサで取り間違いを防止

もちろん、多種多様な製品を生産する工場として、生産効率を下げないための仕掛けも考えられている。
作業台をキャスターで分離できるよう工夫。
生産する製品や部品が変わって作業する人が入れ替われば、その人用の作業台に入れ替わる。

「人が機械に合わせるのではなく、機械が人に合わせ、人の能力を引き出す。」
この考えが、ありとあらゆるところに応用されている。

作業者に合わせて変更される作業台

作業者に合わせて変更される作業台

こうした機械を、工場の中で全て手作りしていることに、見学者は皆目を丸くする。

広がる「1人の100歩より、100人の1歩」

驚かれるのはオートメーションだけではない。 ものづくり現場の基本と言われる「3S」を一人ひとりが取り組む、その徹底ぶり。

3Sは、「整理」「整頓」「清掃」の頭文字Sを取ったもので、あらゆるムリ・ムダ・ムラをなくし、生産効率の高い生産現場につなげる活動。

オムロン京都太陽の3S活動の一つ、視覚的に誰でも分かる定位置化・表示活動を取り入れているのが、ギネスに登録されるショベルカーや、クレーン車で知られるコベルコ建機様。

必要な工具が必要な時にすぐにぱっと探さず使えて、片づける場所も迷わない。
誰もが一目で場所と状態が分かるようになり、探す時間や手間がなくなったと言う。

どこに何の工具があるか、誰もが一目で分かる

どこに何の工具があるか、誰もが一目で分かる

この考え方は、製造現場以外でも応用されている。

事務所の備品は場所と鍵で管理され、鍵を差し込んでロックが外れて初めて使用できるようになる。個々人の備品が不要となり、沢山の備品の管理が不必要になる。お金も時間の無駄も3Sでなくなり、しかもエコ。

事務所の備品は場所と鍵で管理

事務所の備品は場所と鍵で管理

「マインドを学ばせてもらった。障がい者だけでなく、海外人財や、力のない女性であっても、多様な人財が働ける環境づくりをどんどん進めていく。」そう語るのは、現場改善をリードする、生産本部の曽利アシスタントマネージャー。

コベルコ建機 生産本部の曽利氏

コベルコ建機 生産本部の曽利氏

社会に還元する

オムロン京都太陽の学びの輪は、オムロン自社の国内外の工場だけでなく、日本の製造業、そして海外へと広がり、その業態は、金融・サービス業にまで及ぶ。

海外企業の研修をコーディネートし、フィリップスを始めに世界中の企業にオムロン京都太陽を紹介する、ブラッド・シュミット氏は、

「人の個性に焦点を当ててサポートするエンジニアが現場にいることや、物を探さなくていい現場活動が素晴らしい。
シンプルなオートメーションの有用性を感じたアメリカのメーカーは、自前の工作室をつくり改善を続けている。
改善は、現場からの積み上げ。トップダウンマネジメントではできない。
その中でも人を中心に、人の能力を活かすマネジメントの考え方に、製造業以外も学ぶところが多い。
世界に名だたる企業も多数訪問しているが、海外の企業の人々は、一番にオムロンで働きたいと言う。」

と、世界の企業が注目する理由を話す。

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海外企業研修のコーディネーター ブラッド・シュミット氏

オムロン京都太陽には3つの使命がある。

「1つ目は、軽度だけでなく、重度の障がいのある方々もオムロンの生産技術と全員の創意工夫で雇用機会をつくっていくこと。
2つ目は、企業としてお客様に満足いただける製品をつくり、収益を確保すること。
3つ目は、ノウハウを広く社会に還元し、障がい者の方々も暮らしやすい社会づくりに貢献していくことです。
社会から、未来から、求められる企業になれるよう、全員一丸となってチャレンジし続けていく。」

オムロン京都太陽社長の宮地は、力強く締め括る。

オムロン京都太陽社長 宮地

オムロン京都太陽社長 宮地

2016年、オムロン京都太陽は創業30周年を迎えました。

取材協力:

コベルコ建機
https://www.kobelco-kenki.co.jp/

オムロン京都太陽の創業と創意工夫、夢を動画でご紹介します

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