スマホから医療現場まで、活用が広がるオムロンの文字入力システム
皆さんは「文字入力」と聞くと、スマートフォンやパソコン、タブレットといった情報機器を連想されるかもしれませんが、文字入力は私たちの生活のさまざまなシーンで使われています。例えば、カーナビに目的地を入力したり、カラオケで歌いたい曲を検索する際に文字を入力したりするシステムや機器もそうです。またテレビで録画したい番組をフリーワード検索で探したり、ゲーム機で検索語句を入力する際にも、文字入力システムが使われています。
多くの場合、一文字入力すれば、いくつも候補の言葉が表示されたり、平仮名を漢字に変換したりといった機能がついているから、難しい言葉や長い文章もスムーズに打ち込んでいくことができます。こうした日本語の文字入力をサポートしているのが、「日本語入力システム」です。
今回は、さまざまな機器やプラットフォームに搭載されているオムロンの日本語入力システムについてご紹介します。
例えば春の日の昼下がり、スマートフォンのメッセージアプリを立ち上げ、メッセージ入力画面に「さ」、あるいは「こ」と一文字入力すると、皆さんがよく入力する言葉の他に、「さ」なら「桜」、「こ」なら「こんにちは」といった言葉が候補として表示されることがあるのをご存じでしょうか? これは季節や時間帯などの状況に合わせて"予測変換"が行われているためです。このようにスマートフォンやパソコンでインターネット検索やメール、通話アプリを使う際、さまざまな情報を元にユーザーに寄り添った文字変換を実行し、日本語のスムーズな文字入力をサポートしているのが、「日本語入力システム」です。
日本語入力システムにはいくつか種類があり、その中の一つがオムロンの提供する「Wnn」(うんぬ)です。「Wnn」が誕生したのは、今から34年前の1987年。オムロンと京都大学、慶應義塾大学、そして株式会社アステックが1985年に共同で開発に着手し、2年の歳月をかけてエンジニア向けの高性能コンピュータ(ワークステーション)に搭載するための、かな漢字変換による日本語入力システムを完成させました。
「Wnn」という名前は、オムロンの開発者だった中野氏が「『私の名前は中野です』という一文くらいは一発で変換できるようにしたい。」と開発チームに要望したことに由来します。当時、文節がいくつもつながった連文節を一度に変換するのは至難の業でした。そんな画期的な技術の開発に挑んだ開発者たちの気概を込めて、「Watashino Namaeha Nakanodesu」の各文節の頭文字を取り、「Wnn」と名付けられたのです。
当初はワークステーション向けだった「Wnn」ですが、1999年に携帯電話向けが発売されると、一気に一般ユーザーにも利用が広がりました。現在は日本で発売されているさまざまなメーカーのAndroidTM搭載スマートフォンに「Wnn」が採用されています。また、AndroidTM向けアプリ「Wnn Keyboard Lab」をダウンロードすれば、「Wnn」が搭載されていないAndroidTM搭載スマートフォンでも無料で使うことができます。
「Wnn」は、スマートフォンに留まらず、さまざまな分野に活用範囲が広がっており、医療現場もその一つです。病院で医師や看護師が作成するカルテには、病名や医薬品の名称など、一般には使われない専門用語が数多く登場します。通常の文字入力システムでは対応しきれない言葉が多く、変換されない言葉が登場するたびに単語登録を行うなどの対応が必要で、医療現場の業務効率を著しく下げる原因の一つになっていました。そうした医療現場の悩みの解消に一役買ったのが、「クラウドで使えるWnn」です。
近年多くの病院が、医療情報を電子データとして管理・記録し、オンライン上で他のシステムとも連携できる電子カルテを導入していますが、オムロンはその中でも株式会社クリプラが提供する電子カルテ「CLIPLA」に、クラウド上で使える日本語入力システムを提供しています。「CLIPLA」向けのWnnは、クラウド上にある医療電子辞書と連動しており、医師や看護師が専門用語をストレスなく入力できるのが特長です。通常は一度で文字変換できない専門用語が最初から候補として表示されることに加えて、「つながり予測変換機能」によって、少ない文字数の入力で予測候補の単語が示されるので、文章作成のスピードが大幅に向上します。これによってカルテ作成にかかる時間を飛躍的に短縮し、患者への対応により多くの時間を割くことが可能になりました。
「『カルテを作成する際、文字入力に時間がかかることが何よりストレスになる。』医療現場の方からそんな話を聞いて、なんとかできないかと考えました。そこで思いついたのが、関係者全員で医療用語を共有できれば、入力の労力を削減できるのではないかということです。医療従事者の方々が、本来の業務である治療や診断、患者さんや他の関係者とのコミュニケーションに集中できる環境を作りたい。その一心で開発に取り組みました。」
オムロンソフトウェア ライフインフラソリューション事業部 UXソリューション部の出野健太郎は、こう振り返ります。「カルテ作成のデジタル化の利便性が文字入力で損なわれることがあってはならない。」という出野たち開発者の強い思いが、システム開発の成功に結びつきました。オムロンソフトウェアでは、この成功をきっかけに、現在は、教育現場や介護・看護の現場向けにもクラウドを活用した文字入力システムの開発が計画されています。
オムロンの文字入力技術の活用範囲は、いまや日本に留まりません。アメリカからEU諸国、東欧、アジア、アフリカまで世界中で販売されている車のカーナビにも、さまざまな言語に対応した文字入力システムが搭載されています。
自動車業界では今、「Connected(コネクティッド)」、「Autonomous/Automated(自動化)」、「Shared(シェアリング)」、「Electric(電動化)」の頭文字をとって「CASE」と呼ばれる新しい領域で技術開発が進んでいます。今後ますます「CASE」が進展していくのに伴って、クルマで使われる文字もカーナビだけでなく多彩になっていくことが予想され、文字入力の機会が増大することでしょう。
その他、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)などのバーチャル環境での文字入力や音声入力の際の変換候補表示にも、文字入力システムの活用範囲は広がっています。「これまでのVRやARでは、ユーザーは常に受け身で映像を見て反応するだけでしたが、バーチャル環境で文字を入力できるようになれば、ユーザー側からも働きかける双方向のコミュニケーションが実現し、より深く、多様なコミュニケーションが可能になります。」と出野と同じグループの上渕貴生は言います。上渕は今、どのような未来を思い描いているのでしょうか。
「将来的には、文字入力システムがユーザーの特長や状況を自動で判断し、一人ひとりにとって最適なインターフェースを提供できるようにしたいですね。ユーザーに『寄り添い』『気遣い』『察する』ことのできる文字入力システムによって、ユーザーが本当に伝えたいことを言葉にするのを自然にサポートし、人と人、人と機械のより豊かなコミュニケーションを可能にしたいと考えています。」
IT技術が浸透し、人々の生活がより良いものへと変革していくDX社会を見据え、オムロンは文字入力技術をさらに磨き、あらゆるシチュエーションにおいて快適なコミュニケーションを実現することを通じてIT化のさらなる推進を後押ししていきます。
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