「機械が人の潜在能力を引き出す未来」への大きな一歩 AIで人のモチベーションを高める第6世代フォルフェウス

オムロンが目指す人と機械の未来像、それは機械が人の能力や創造性を最大限に引き出す「人と機械の融和」です。その世界を体現する卓球ロボット「フォルフェウス」は、オムロンのコア技術「センシング&コントロール+Think」を凝縮させ、2013年に誕生しました。それぞれの世代ごとにコンセプトを掲げて進化を続け、2020年には第6世代を数えるまでになりました。

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1~6世代の進化

6世代フォルフェウスでは、第5世代で搭載した、プレーヤーのスキルをレベルアップさせるパーソナルコーチング機能に加えて、プレーヤーの「モチベーションを高めるAI」の開発に挑戦。異業種の企業とコラボレーションすることで、機械が「人の成長をさらに引き出す」姿の体現に向けて取り組みました。

プレーヤーの成長を加速する技術への挑戦

5世代から2年連続でプロジェクトリーダーを務めた技術・知財本部の八瀬哲志(やせ さとし)は、第6世代の開発では「人の成長意欲の向上」に焦点を当て、機械が人の成長を加速するインタラクションに注力して取り組んだと話します。第5世代で、ハードウェアとアルゴリズムを徹底的に改良し、卓球経験者との高速なラリーも可能な高い卓球スキルを獲得。さらに対戦相手の技量に合わせた返球やアドバイスを行うことでスキルアップを促す「パーソナルコーチング」ができるまでに進化をしました。そして第6世代ではプレーヤーの成長を、精神面から加速させることに挑んだのです。

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第6世代開発メンバー(写真右:八瀬)

感情を推測し、モチベーションを高め、維持する「ラリー計画」を生成するメタAI

人の成長を加速するには、モチベーションを高め維持することがポイントです。スポーツ心理学ではプレーに完全に没頭した状態を「フロー」、極限の集中状態を「ゾーン」と呼び、この精神状態に到達した選手は最大の能力を発揮します。このフロー&ゾーンに至るには高いモチベーションが必要です。

人のモチベーションを高めるためには、リアルタイムでプレーヤーの精神状態を知り、それに応じたラリーの計画を組み立てる必要があります。例えば、チャレンジが難しすぎて困惑しているプレーヤーには易しい球を返し、同じく簡単すぎて退屈しているプレーヤーには厳しい球を返すような処理が求められます。つまり、プレーヤーの感情を読み取り、適切なタイミングで、最も相応しい返球を行わなければならないのです。

そこで、着目したのが、ゲーム会社であるスクウェア・エニックスの「メタAI」です。メタAIは、プレーヤーの心理を推測しながらゲーム全体を監視して、適切なタイミングでイベントを起こします。例えば敵キャラクターに、わざと隙を見せたり、巧みに攻撃を回避したり、強力な攻撃を仕掛けるなどを指示します。ゲームバランスを絶えず調整することで、プレーヤーはよりゲームに没頭し、いわゆる「ハマった」状態になるのです。

こうして、スクウェア・エニックスとオムロンがタッグを組み、第6世代フォルフェウスの開発が進みました。両社で卓球というゲームの特徴やそれをメタAIで扱うにはどうすればよいかについて議論を重ね、共同ワークショップとして実際に卓球をプレーしながら仮説の検証や、実際の感情変化の確認などにも取り組みました。オムロンは、独自の人計測技術を活用し、人の表情、視線、心拍等のバイタルデータをカメラでセンシングすることで、プレーヤーのスキルや感情をリアルタイムに推定し、状態を把握します。その結果を踏まえてメタAIが、プレーヤーの感情をどのように動かせばモチベーションが高まるのかを分析してラリー計画に変換します。そして、このラリー計画に沿ってコースや球種、スピードを変化させて正確に返球するという処理を繰り返すのです。

この、人のモチベーションを高めるインタラクションを実現した第6世代フォルフェウスは、20201月に行われた世界最大級の家電見本市「CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)2020」で初披露されました。

人と機械が融和する未来の到来

プロジェクトリーダーの八瀬はこう話します。「ここで培われた「人のモチベーションを高めるAI」は、人の心理状態に合わせた機械の働きかけを可能にします。これは、社会のさまざまな場面での応用が考えられます。例えば、工場のものづくり現場における、技術教育や作業支援などの領域や、医療・介護領域における身体機能や体力が低下した高齢者のリハビリ過程でやる気を引き出すなどにも応用することが可能です」。

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今後の活用シーン(イメージ図)

「機械と人が共に高め合い成長し続ける未来」の実現に向けたフォルフェウスの進化は続いていきます。

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新たな開発に向けて取り組むメンバー

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