We are Shaping the Future! 私たちが手繰り寄せる未来ストーリー
創造性を発揮するための、組織・人財・空間を兼ね備えた新会社を設立
「完全に自動化された交通網が出来上がったら、信号機は要りますか?」
2018年4月25日に行われた新会社「オムロン サイニックエックス株式会社」設立発表の場で、代表取締役社長 兼 所長の諏訪 正樹は、こう会場に問うた。
「オムロンの現有事業を破壊する可能性」があっても、臆することなくさまざまな構想を自由に研究していくという、強い想いを感じさせる印象的な言葉である。この言葉に隠された、イノベーションを促進させるオムロン サイニックエックス設立の背景や取り組みについて追ってみた。
イノベーションは、既存のプロセスやテクノロジーを全く別のものへと変革する。それは、作業効率の改善や既存の技術の進歩とは異なる。いままでにあったものをより良く「進化」させるのではなく、「破壊」することもある。痛みを伴うリスクはあるが、社会課題の解決という方向を充たすものだ。
オムロンの歴史は、そのイノベーションの歴史でもある。
「機械にできることは機械に任せ、人はより創造的な分野で楽しむべきである」という方針のもと、オンラインキャッシュディスペンサー、無人駅システム、全自動感応式電子信号機と交通管制システムなど、社会を変える多くの発明が羽ばたいた。そして、オムロン自身も、かつての電子部品メーカーから「世の中にないものを作る会社」「世の中から求められているが、世の中が気づいていないことを自ら想像し、実現する会社」へと飛躍することになった。
しかし、グローバル企業に成長した現在のオムロンにとって、このようなイノベーションを起こし続けることは大きな課題のひとつになった。
そこでオムロンは2018年4月、新会社「オムロン サイニックエックス株式会社」を立ち上げた。これは、同年3月にイノベーション推進本部を立ち上げたことに続く構造改革の一環だ。これにより、
■ 進化の部分はイノベーション推進本部
■ ドラスティックなイノベーションはオムロン サイニックエックス
という役割を、それぞれが担うことになる。
オムロン サイニックエックスは、オムロンの大きな意思決定プロセスから切り離すことで、たとえ既存事業を破壊するようなイノベーションであっても自由闊達に議論し、「社会既存の課題が解決された近未来の姿」を構想する。その実現に向けたテクノロジーやアーキテクチャを検討し、その実装概念までを描き出すことが使命になる。
ただし、方向性は明確だ。オムロンには、SINIC(サイニック)理論と呼ばれる技術・科学・社会が相互に影響を与えながら描く未来像があり、オムロンの研究開発活動は、この理論が下敷きになっている。
SINIC理論では、社会が次の段階に進むにあたって、2つの方向性を定義している。ひとつは、新しい科学が新しい技術を生み、それが社会へのインパクトとなって社会の変貌を促す「フォーキャスト」。もう1つの方向性が「バックキャスト」であり、社会のニーズが新しい技術の開発を促し、それが次の新しい科学への期待になるというものだ。SINIC理論は、フォーキャストとバックキャストの2つの方向性がある結果、社会が発展していくと定義している。
オムロン サイニックエックスは、バックキャストのアプローチで、ソリューションが社会に実装された近未来の姿をデザインし、どのようなテクノロジーがあれば実現できるのかという技術アーキテクチャまで構想。フォーキャスト型の事業化構想を進めるイノベーション推進本部と連携を取りながら、さまざまな社会課題の解決を目指すことになる。
人財面では、オープンイノベーション型で「イノベーションの種」を構想する。外部から優れた人財を招聘すると共に、大学・研究機関や他企業と連携。当初は、センシングと人間にフォーカスし、AI・IoT/ロボティクスに注力して近未来の社会を構想していく。
「ここ5~10年先の世界を変える研究者たちが集まった」と、諏訪は力強く語る。
「20代・30代の若い技術者が研究に没頭し、刺激を受けることが出来る環境がオムロン サイニックエックスにはある。是非私たちと新しいイノベーションを生み出そう!」
と、技術顧問の栗原の言葉も熱を帯びる。
また、オフィスは、さまざまな人財が交流し、ディスカッションや新しい発想が生まれやすくなる環境としてデザインされた空間だ。
文京区・本郷の角川本郷ビルに構える新オフィスは、東京大学に近接し、電気通信大学や東京工業大学にも近い。大学の研究室やユニークな技術を持ったスタートアップ企業が集まっており、研究者同士の交流も生まれやすい環境だ。中に入ると、研究に集中できる"静"のスペースと、リラックス感のある"動"のスペースから成っており、将来受け入れるインターンのためのスペースも用意され、ここから新しいイノベーションが生まれる予感を感じさせる空間だ。
「完全に自動化された交通網が出来上がったら、信号機は要りますか?」
冒頭にも記した諏訪の印象的な発言。
それはオムロンが発明した、全自動感応式電子信号機や交通管制システムも、仮に「理想の未来の姿」の中で存在意義が薄いとなれば、外されてしまうかもしれないことも示唆している。オムロン サイニックエックスは、「オムロンの注力するFA、ヘルスケア、モビリティ、エネルギーマネジメントという4つの事業ドメインとシナジーを生まない」場合であっても、「オムロンの現有事業を破壊する可能性」があっても、臆することなくさまざまな構想を自由に研究していくのだ。
2020年度をゴールとするオムロングループの中期経営計画「VG2.0」では、具体的な数値目標のほかに、「2020年以降の成長をけん引する技術、新規事業創出の加速を目指す」と記されている。SINIC理論の名を冠した新会社から、どのような構想が生まれてくるのか期待したい。
「2025年を見据えた交通の未来像」
栗原 聡 |
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諏訪 正樹 |