放射線技師にとってより安全な医療現場を実現する ~無線ハンドスイッチで、新たなグローバルビジネスの基盤を創る~

1895年、レントゲンによるX線の発明により、人体を傷つけることなくその内部を調査し、病巣の発見と適切な診断を可能にすることで飛躍的な発展を遂げた医療技術。
以来、X線を使用したX線画像診断装置、CT装置は医療現場において欠かせないものとなり、病気や怪我の治療、健康予防に大きく役立っています。
その一方でX線はさまざまな放射線障害を及ぼすことが判明しており、使用現場においては極めて慎重な防護が不可欠。なかでも、日常的にX線を取り扱う放射線技師は誰よりも被爆リスクにさらされており、より良い対策は社会的急務といっても過言ではありません。

この問題に着目し解決に挑んだのが、オムロンの電子部品事業。「放射線技師を救う」という強い使命感から始まったプロジェクトは、今、世界中へ広がろうとしています。

ケーブルを無くし、スイッチを無線化するという新たな発想

社会の高齢化に伴い、増加するさまざまな疾病。
早期発見・早期治療に向けて医療機関ではより充実した設備・環境が求められ、X線画像診断装置の設置数とともに放射線技師の数も毎年のように増加している。
ところが、現場での被爆リスクに対する対策は、まだまだ不十分であり、ヘラルド経済新聞(2016年2月16日)によると、放射線技術者の被曝線量は医師の2.8倍にも及ぶにも関わらず、対策が不十分な環境の中、被爆リスクへの不安がますます高まっていることが問題視されていました。

この社会的課題に着目した電子部品事業のマーケティングチームは、顧客であるX線機器メーカーとさらに実際の現場となる病院にもヒヤリングを開始。その中で浮上した解決の糸口が、「移動式X線画像診断装置の無線化」でした。

145-001.jpg現在、X線の撮影方式には、固定式と移動式の2種類がある。
「固定式は遮蔽ルームの天井に装置が取り付けられており、放射線を遮る壁によって検査時にも被爆のリスクはほとんどありません。一方、手術室での使用や動けない患者のためにどこにでも移動させることができる移動式の場合は遮蔽する壁がなく、機器本体と操作スイッチが重く長さに限界のあるケーブルでつながれているために、技師の動きが制限され被爆のリスクにさらされているのです。この課題をわたしたちが持っている技術でなんとか解決したいという思いから始まったプロジェクトでした」そう語るのはマーケティング部マネージャーの川村。

実際に医療現場からも、"ケーブルをもっと長くして機器と技師との距離を大きくできれば、被爆リスクは減少されるのではないか"という声が出ていました。

顧客や現場からの声をまとめていたマーケティング部の小橋は、「ケーブルを長くすればその分、重量も重くなってしまい、かえって使いづらいものになってしまいます。長さには限界がある、しかし、長さに限界をつけると技師の動きまでも制限してしまうことになります。それならいっそケーブルをなくして無線化してしまえば、問題は一気に解決できるのではないかと考えました。」と語る。

ケーブルが無くなれば、断線の危険性もなく、自由かつ安全な操作が可能になる。
オムロンのハンドスイッチに無線技術を搭載した無線ハンドスイッチが完成すれば、X線画像診断装置から遠く離れても撮影ができ、被爆率の減少に貢献できるはず――。
営業部門も巻き込んだマーケティングの結果は確信へと変わりました。

145-005.jpgマーケティングチームが導き出した新たな着想をもとに、日本を含む世界各国での提案活動を開始し、医療現場の課題に挑む画期的なチャレンジがスタートしたのです。

スピードと粘り強さ、顧客起点の問題解決で信頼を獲得

営業を担当したKimは、まず大手のX線機器メーカーに対し提案を開始。しかし、当初から大きな壁に突き当たりました。
「ワイヤレス技術を搭載した無線ハンドスイッチは、従来の有線タイプよりもコストがかかります。多くの産業と同様、医療現場においても経費削減が求められている中、既存製品よりも高価になることも、それが"被爆不安の解消"に対する価値となることもなかなか受け入れてもらえませんでした。当初は導入検討にあげてもらうことすら困難な状況でした」。

145-004.jpgそこでKimは、新たに参入を目論んでいる企業に目を向けました。
「すでに大きなシェアを持つ大手企業に比べ、これからシェア獲得をしようとしている新規参入メーカーであれば、他にはない、新たな付加価値を必要としていると考えたからです」。この発想の転換が、導入検討に結びついていきます。
"被爆不安の解消"という安全強化を差別化ポイントとして、顧客と戦略的なパートナーシップを結び製品化への一歩を踏み出しましたが、具体的なサンプル開発が始まってからも、新たな試みゆえの試行錯誤は続きます。
さまざまな課題や顧客の要望に即座に対応するため、Kimと開発、生産メンバーは連携を強化。顧客との対話では言語の違いによる「誤解」をできる限りなくすために、イラストや図を活用したコミュニケーションを実施。技術面では専門的なニュアンスが正確に伝わるように、月に一回のペースで技術スタッフが顧客先に赴き、先方のエンジニアとディスカッションしながら製品仕様を決定しました。

導入後のアフターケアにおいてもチームの努力は続く。
医療機器製品は信頼性低下が販売に大きな影響を与えるため、顧客の協力を得て医療現場で発生する問題を徹底的に調査。問題発生時には医療現場に即座に駆けつけ事実確認を行い、開発メンバーと連携しながらリアルタイムに対応することで信頼向上につなげていきました。
こうした絶え間ない努力と迅速な問題解決によって製品への信頼性が高まり、オムロンが提案したX線画像診断装置向け無線ハンドスイッチは、着実に高い評価を得ていきます。

「今回の私たちの挑戦は、お客様にとっても新たな挑戦でした。それを成功に導いた最大の要因は、国の壁を越えチームが一丸となって顧客起点の発想で素早く対応したことです。そこに、パートナーとしてのオムロンの価値を認めてもらえたのではないでしょうか」と、Kimは確かな手応えを実感しています。

グローバル展開の第一歩へ

「世界的に大きなシェアを持つメーカーに採用されれば、メディカルマーケット分野での事業の成長に大きく貢献することができます。そして何より、被爆リスクにさらされていた世界中の放射線技師を不安から救うことができるのです。この成功を足がかりに、世界での顧客開拓に取り組んでいきたいたですね」と、力強く話すKim。

また、マーケティングチームの小橋も、「X線画像診断装置が先行している日欧米マーケットを中心に展開し、世界中のお客様が抱えている課題を解決していきたい」と次なる目標に向け意欲を語りました。

チームが目指すのはそれだけに止まらない。
X線画像診断装置向け無線ハンドスイッチのグローバルスタンダードとして医療現場に役立てるだけでなく、今回のチャレンジで生み出す技術を、幅広く多様な分野でも展開していく予定です。
オムロンはこれからも、世界中の人々のより安全・安心な社会づくりに貢献していきます。

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