We are Shaping the Future! 私たちが手繰り寄せる未来ストーリー
~eNFC・和城代表の、40億個のモノとヒトをつなげる挑戦~
「オムロン コトチャレンジ」とは、オムロンベンチャーズ株式会社が主催する、ハードウェアベンチャーに特化したものづくり支援プログラムです。創業したばかりで、ノウハウや設備をこれから獲得していかなければならないベンチャー企業に対して、オムロンのものづくり人財の持つノウハウや設備を提供し、製品の企画・開発をサポートしています。
過去2回のプログラムに参加したスタートアップの中には、その後の資金調達や事業拡大のきっかけを得た企業も少なくありません。オムロンとの事業連携に繋がったケースも生まれています。
今回は2016年に開催された成果報告会(Demoday)で審査員特別賞を受賞した株式会社eNFC、和城賢典代表にお話を伺いました。
触っただけで機械と通信できる、誰もが見たことのあるSFの世界が、現実のものになろうとしています。
-起業の経緯を教えていただけますか?
私は約12年、ソニーに勤めていました。例えば、スマートフォンとPCを無線で通信させるような技術の研究をずっと行ってきました。
今では広く使われている無線技術ですが、みなさんの身の回りでいうと自動販売機などでも使われている非接触ICカードでの通信があります。
これはNFC(Near Field Communication)という、コイルとコイルを近づけて磁界で通信をする技術が使われています。しかし、私はこの技術を進化させて、電極と電極を近づけて電界で通信をする電界型NFC(eNFC)を開発しました。
NFCは、機械どうしの通信なので、読み取り機にカードのようなNFC装置を直接かざすことが必要です。
eNFCを使えば、信号を人の身体などの誘電体を通して遠くまで伝達できるため、身につけたeNFC装置と、読取機のあいだで、さわったときにだけデータを送る、という直感的な通信の仕組みを実現できます。
それによって、モノを操作して得られる「モノとモノの通信」ではなく、人が主役となった「人とモノ」「人と人」のスマートであたたかいコミュニケーションが日常となります。
NFC装置との違いはアンテナ構造だけ、周波数も通信方式も国際規格と同じです。
そのため、既存のNFC装置をあとから簡単に、人体を介した通信装置に換えられます。
つまり、すでに全世界で40億台以上出荷されているNFC対応デバイスが、潜在的に通信可能な相手となるわけです。私は40億を超えるモノとヒトが直接コミュニケーションできる可能性を見出しました。
小さい組織で、何のしがらみのない環境で、自分の生み出した技術の可能性を追求してみたかったのです。初めは趣味で週末だけ取り組んでいたのですが、本格的に取り組み、より多くの人に使ってもらいたいと思い、起業しました。
-解決したい社会課題について教えてください
これまでのウェアラブル機器は、機器を操作して、モノどうしで通信を行いますが、eNFCを使えば、まるで人の体が通信能力を得たように、手で触れるだけで通信できるようになります。
例えばオフィスに入るときに社員証を出すのに手間取ってしまった経験はありませんか?最近ではスマートフォンやスマートウォッチにも電子マネーの機能がついていますが、これらもデバイスを取り出しNFC装置に近づけなければ通信できません。
ドアノブに触れて回すという動作の中で認証し開錠できるので、カードを取り出すという動作が無くなります。
つまり、eNFC通信があれば、直接人が触るだけでモノとつながれる世界が来るのです。
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-コトチャレンジに参加したことで、変わったことはありますか?
参加前までに、スマートフォンを使ったプロトタイプは出来ていましたが、利用シーンをお客様と語り合える状態ではありませんでした。
オムロンのラボを使わせていただき、3Dプリンタでアンテナの見た目をつくり込み、無電源化しICカードを使ったeNFC通信が可能となりました。これでカードに入ったデータを人の身体を通して通信する技術だと分かります。そのうえで、可能性の拡がりを感じてもらうために、ポケットのスマートフォンと通信できるようにし、利用シーンをお客様と議論できるようになったのです。
さらに、コトチャレンジの期間中、オムロングループ(オムロン ソーシアルソリューションズ)のお客様であるアミューズメントパークや公共交通機関の担当者様と意見交換させていただきました。それぞれの現場での利用を想定してもらい、率直な意見が聞けました。
パークのキャラクターと握手をするキャンペーンなど、私が接してこなかった業界の人たちのアイデアはとても斬新だと感じました。
技術も大事ですが、お客様が見つめているユーザーの心を動かす利用シーンが重要だと、改めて分かりましたね。
オムロン ソーシアルソリューションズとは、コトチャレンジがきっかけで、今もプロトタイプの開発やテストを共同でやらせていただいています。
-これからの事業の展開を教えてください
デバイスに関しては、「小型化」と「利用用途の拡大」を進めていきます。
利用用途を拡大していく中では導入するお客様にとっての付加価値や、インフラの整備も課題です。『新しい技術』を『便利な技術』にどう昇華させていけるか。これからが見せ所ですね。
例えば「医療現場の見える化」。看護師さんが、いつ、どこで、どのような作業をしたのか、記録を取る必要があるのですが多忙な現場では、「ここで読み取り機にカードをかざしてください」という動作は現実的ではありません。eNFCの技術を使えば、いつ、誰が、何に触れたのかを、特別な操作をしなくても、日常の業務の中で、体を介して通信し、ログを取れます。
あるいは、「アミューズメント施設での迷子対策」。あらかじめ腕にタグを付けておいて、それに読み取り機をかざして読み取るのでは、子供をモノ扱いしているようで印象が良くありませんよね。eNFCの技術なら、スタッフが子供の手を握ったり、体を抱いたりするだけで名前や連絡先を知れるので、温かみのある魔法のようなコミュニケーションが実現可能なのです。
まだまだ実験段階ではありますが、一般向けへの提供も来年以降行っていけるように頑張ります。
eNFCの技術が活用できるシーンは無数に存在します。インフラ整備(入退場に整理)だけでなく、レジャー施設のアトラクションとしても使えるようになるでしょう。そのために大事になってくるのが、「コトの具体化」と「モノの具体化」です。
オムロン コトチャレンジのなかで開発を支援する役割のメンターたちも次のように述べています。
"eNFCのプロダクトを多くの人に気軽に使ってもらうには2つの具体化が必要です。
1つは、「コトの具体化」。どの社会課題に、この技術を活用し、どのように価値提供するのか、今一度考える必要があるでしょう。我々も一緒にマーケット活動を行いながら、社会に起こす「コト」を具体化していきます。
もう1つは「モノの具体化」です。起こす「コト」やニーズが明確になっていくにつれ、大きさや性能等、「モノ」の具体像が見えてきます。その「モノ」の実現に向けた課題と手段を具体化していかないといけません。"
またオムロンのメンターの方たちはこうも言っていました。
"技術に対する思い・こだわりは、ずっと持っていただきたいと思っています。我々がeNFCに特に伝えたいのは「イノベーションは一人・一社だけでは起こしにくい」ということ。今回のコトチャレのように、共鳴する仲間を創り、信じて、頼ることで、eNFCの技術を社会に拡げていけると信じています。"
同社は2016年10月、第4回TOKYOイノベーションリーダーズサミットにおいて、大手企業からの事前リクエストで人気上位企業が行う「TOP10ベンチャーピッチ」で見事にグランプリを受賞しています。今後もますます世間からの関心は高まるでしょう。
株式会社eNFC、そして和城代表の今後の動向に注目です。