コア技術

カーボンニュートラルの実現に挑戦
~ オムロンのパワーエレクトロニクス技術に迫る ~

2023.11.15

左から長岡 真吾、上松 武、岡田 亘

長岡 真吾
技術・知財本部
アドバンストテクノロジーセンタ
アドバンストテクノロジー開発部
エネルギーマネジメント1グループ
グループ長

【主なプロフィール】
2003年- オムロンへ入社し、光学素子開発に従事
2012年- 制御機器に用いられる電源の商品開発の為、事業部へ異動
2013年- 技術・知財本部へ帰任し、電源や非接触給電技術(WPT)などの要素技術開発を推進

上松 武
技術・知財本部
アドバンストテクノロジーセンタ
アドバンストテクノロジー開発部
専門職
工学博士

【主なプロフィール】
1986年- 複数の企業にてパワーエレクトロニクスに関する研究開発に従事
2017年- オムロンへ入社し、パワーエレクトロニクス関連の技術開発を主導

岡田 亘
技術・知財本部
アドバンストテクノロジーセンタ
アドバンストテクノロジー開発部
エネルギーマネジメント2グループ
グループ長

【主なプロフィール】
2007年- オムロンへ入社し、MEMS開発に従事
2010年- 太陽光発電用パワーコンディショナの商品開発の為、事業部へ異動
2017年- 技術・知財本部へ帰任し、次世代パワーコンディショナをつかさどる要素技術開発を推進

今まで語られることが少なかったオムロンのパワーエレクトロニクス技術。今回は開発をリードする開発リーダにその魅力を聞いた。

オムロンの事業を支える屋台骨としてのパワーエレクトロニクス技術

長岡:パワーエレクトロニクス技術(以下パワエレ)はオムロンの事業ドメインで提供するさまざまな商品に広く使われている技術です。例えばファクトリーオートメーションのビジネスでは制御機器の電源として、社会システム事業では太陽光発電を制御するパワーコンディショナや無停電電源装置、そして電子部品事業では遊技機器の電源や近年普及しつつある電動シェアバイクに向けたワイヤレス給電(WPT)応用を検討しています。

図1 オムロンの事業構成

ファクトリーオートメーションにおける電源は、工場の制御盤に組み込まれて使われます。制御盤は工場の生産設備を効率よく稼働できるように集約した設備で電源はその心臓となります。電源は商用の100VACを生産設備で広く利用される24V/48VDCに変換するもので工場を自動化するためになくてはならないものです。制御盤は年々機能の高度化を求められていますが設置するフットスペースが限られることにより、収納するコンポにも小型化が求められます。

図2 制御盤(左)と電源S8VK-S(右)

オムロンは小型化要求に答え、2016年に世界最小レベルの電源S8VK-S(1)をリリースしました。この電源では「変換効率を高める共振回路技術」で発熱損失そのものを押さえ、そして「熱コントロール技術」により放熱性の高い部品配置することで実現しました。この時開発した共振回路技術は電源応用のみならず、WPT(2)へも技術を展開しています。

(1) スイッチング・パワーサプライカタログ
CSM_S8VK-S_S8FS-G_SGTC-066_7_4 (omron.co.jp)

(2) WPTの動画へのリンク
https://www.youtube.com/watch?v=Q_aLA9bE-_Y

WPTのニーズが強いアプリケーションである電動アシスト自転車、電動キックボード、電動車椅子そして、自律走行搬送ロボット(Autonomous Mobile Robot:AMR)では給電の操作性向上が求められています。既存の接触式では電極の摩耗耐性やクリーニング対応、感電防止機構が必要となります。
また、現状のWPTでは厳密な位置決めが必要です。そこでオムロンでは多少の位置ずれがあっても許容して給電ができることを目指して技術を開発しています。そこでポイントとなる技術が電源でも活用している独自の共振回路技術なのです。

太陽光発電になくてはならないオムロンのパワエレ技術

岡田:オムロンの太陽光発電用パワーコンディショナ(パワコン)や住宅向け蓄電システムはともに国内シェアトップで大変好評をいただいています。シェアがトップになれた理由はAICOT(3)技術によります。太陽光発電がまだあまり普及していなかった時代はよかったのですが普及した現在では重要な技術となります。開発当時は太陽光発電が普及した未来を予測して必要となる技術開発を進めてきました。AICOTは多数のパワコン間の相互干渉による動作不良の発生を未然に防ぐ技術でかなり早くに眼をつけ開発しデファクトスタンダード化できました。

その後蓄電池事業を展開、現在はEVに蓄えられた電力を家庭用に活用するためのV2H(Vehicle to Home)パワコンへと事業を展開しつつあります。

従来のV2Hパワコンはかなり大きく、また設置には基礎工事が必要で日本ではなかなか普及が進まないと考えられていました。そこでオムロンでは壁掛けができるサイズを目指して開発し、商品化しました。これが実現できた技術はいくつかありますが、一つ例を挙げるとすれば、普及帯のシステムで初めてGaNデバイス(4)を採用したところにあります。GaNデバイスは従来のSiデバイスと比べスイッチング速度が速いメリットはあるのですが、一方でノイズが出やすく使いこなすことが難しいデバイスでした。私たちは、そのノイズを抑える駆動回路やフィルタ回路を開発し、GaNデバイスを使いこなし、業界トップクラスの小型軽量のパワコンを実現することができました。

(3) AICOT:多数台連系においてもスムーズに系統(電力会社からの電力)に危険な単独運転を防止。実機による相互干渉試験を業界で初めて不要とし、系統の安全を保護する設備投資も削減。太陽光発電システムの設置可能容量を大幅にアップさせます。
https://www.omron.com/jp/ja/technology/information/brand/aicot/

(4) GaNデバイス:窒化ガリウム結晶上に形成した次世代半導体パワーデバイスシリコン系のパワーデバイスよりも大きい電力を少ない損失で扱える。例えば、 https://www.jsap.or.jp/columns/gx/e2-6-2 など

新しいパワエレ技術への挑戦

上松:従来の発電は中央集権型で発電所から電力を伝送していました。しかし近年は、小規模分散型発電へと変化して来ています。電源やV2Hにおける高効率・小型化ニーズには引き続き対応していきますが、それ以外の変化として電力伝送のDC化や、分散電源が増加することに起因する系統の不安定化問題などを解決するために、現状系統が保有する慣性力(5)を模擬的に実現する機能が必要になると考えています。

つまりパワエレ技術のみならずエネルギーの需給バランスを制御する情報管理技術も求められる世界になると考えています。

(5) 慣性力:発電はモーターを用いており、回転しているときにはずっと回り続けようとする慣性力が発生する。従来の発電ではトラブルがあっても動作が維持されるように慣性力が働きます。一方、太陽光を用いる分散電源ではトラブルがあると瞬時に供給が止まり、慣性力が働きません。系統電力にはトラブルがあっても止まらないことが大変重要です。例えば https://www.tdgc.jp/information/docs/5bc445f2c046a78e881ec2d4dd13a619fb1285fe.pdf など

分散電源化は進んできていると公表されて(6)おり、このままでは70%を超えると制御できなくなると言われています。

比較的時間のある遅い周波数での供給電力の変動ではガバナフリー運転(7)、負荷周波数制御(8)などの慣性力を持たせる調整技術が知られていますが1秒以下の変動に対する調整にはパワコン自らが対応する技術が求められるようになってきており、そのような技術をパワコンに実装したいと考えています。

パワエレ技術を磨いてイノベーションを起こしたいと思う方はぜひ仲間になって一緒に挑戦していきましょう。

(6) 電力広域的運営推進機関 第55回調整力および需給バランス評価等に関する委員会 配布資料 資料3

(7) ガバナフリー運転 例えば https://www.iee.jp/pes/termb_081/ など

(8) 不可周波数制御 例えば https://www.power-academy.jp/learn/glossary/id/1417 など

終わりに

今回はパワエレ開発をリードする3名にその魅力を聞きました。新しい技術を商品へ実装する魅力、そして技術開発を通じて未来を予測する感度を磨き続ける姿勢が他にない商品を開発する源泉となっていることにあらために気づかされました。

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