だれもが、重病のサインに気づける未来へ ~血圧計と心電計を組み合わせ、疾患リスクを早期発見する~

日本人の最高血圧は低下傾向にある。厚生労働省が継続的に行っている「国民健康・栄養調査」によれば、1960年代をピークに、多少の増減はあるにせよ、男女共に下がり続けているのだ。

さまざまな理由が考えられるが、オムロン ヘルスケアの技術開発統轄部で商品先行開発責任者を務める濱口 剛宏は、次のように話す。
「降圧剤の進化はもちろん、何より消費者の健康意識が高まったことが最大の要因だと考えています」。

その健康意識の高まりには、家庭用血圧計の普及も大きな役割を果たしているという。
「私たちは、40年以上にわたって、家庭での血圧測定の普及に力を注いできました。その結果、2016年には全世界で2億を超える販売台数となりました。オムロンの家庭血圧計は少なからず、人々の健康に貢献できているのではないかと考えています」。

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他方、気になる傾向値もある。最高血圧が低下傾向にあるにもかかわらず、日本人の心筋梗塞および脳梗塞発症率は下がっていないのだ。

濱口は言う。「心筋梗塞および脳梗塞発症率は下げ止まっており減少傾向にありません。家庭での血圧測定により健康管理をすることは重要ですが、今後は、もう一歩踏み込んだアプローチも必要と考えています」。

 

いつでもどこでも血圧と心電を計測できれば、リスクの検出機会を増やせる

オムロンは、「脳・心血管疾患の発症リスクを予測し、未然に防ぐ」ことを、解決したい社会課題の1つに掲げている。寿命と健康寿命のギャップを埋め、健康で充実した人生(QoL : Quality of life)を楽しめる人を1人でも多く増やすという願いだ。

その展望の具現化のために開発中の1つの例が、米ベンチャー企業の心電計測技術を搭載した血圧計である。

健康状態に異常を感じていないほとんどの人にとって、心電計測の機会は年に1回程度の定期検診に限られている。また、何らかの理由で心電計測を必要とする場合も、家庭での心電計測は、携帯式の心電計(ホルター心電計)を病院から貸し出されるのが一般的だ。貸し出されている期間に症状が起きなければ、異常を検出することはできない。測定する機会が少ないと、脳梗塞の重要なリスクファクター(危険因子)である「心房細動」を見過ごす危険性が非常に高くなる。

「脳梗塞は重篤な後遺症を残すリスクが高く、特に心房細動が引き起こす脳梗塞は重症になりやすい。重い後遺症を残す可能性もより高まります。QoLを高めるためには、心房細動の発症リスクを引き下げることが必要です」(濱口)

その打ち手として開発が進められているのが、心電計付き血圧計だ。心房細動患者の約50%が高血圧と言われている。高血圧患者が朝晩血圧を測定する際に、ストレスなく同時に心電計測を行うことで、心房細動の検出機会を増やすことがこの装置の最大の特徴だ。

オムロンは、並行して開発中のウェアラブル血圧計にも、今後、心電計測技術の搭載を検討しており、いつでもどこでも、血圧と心電を計測できる世界を目指している。

158-003.jpgウェアラブル血圧計(写真はイメージ図)

 

米ベンチャー企業との共同開発をまとめる人財

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そのプロジェクトのリーダーを任されたのは吉田 秀輝。それまで技術戦略を立案する部署で数々の成果を挙げてきた。しかし、2009年にカフ(腕帯)タイプを開発して以来、血圧計の開発からは遠ざかっていた。

なぜ吉田だったのか。濱口は、その理由をこう語る。「吉田さんは、グローバルに活躍している人財でした。今回の開発を成功させるために最も重視したのは、米国企業との緊密な協力関係を築き上げること。海外とのコミュニケーション能力-英語力だけでは測れない、グローバルプロジェクトを引っ張っていける能力に期待しました」。

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吉田にとって、チャレンジングな仕事になった。デバイスの形状、測定方法、使用する技術の構成と、ひとつずつ課題を乗り越えた。そして現在は、臨床段階。
「血圧計は血管に圧力をかけて脈波を見ます。一方、心電計が見るのは電気信号。基本的に影響はないはずで、それを臨床試験によって検証している最中です」と吉田は語る。

血圧値と心電図が同時に取れるデバイスがあれば、これらの相関関係をキャッチし、発症リスクをとらえることができる可能性が高い。
「製品は、2018年度中に米国での発売が目標。心房細動と高血圧を抱えている方に、双方の関係を早く気づいてもらうことができるはずです」。

 

「脳・心血管イベントゼロ」の未来へ

濱口と吉田が目指すのは、循環器系の疾患を未然に防ぐ「脳・心血管イベントゼロ」。ウェアラブル血圧計や心電計付き血圧計は、その第一歩だ。

将来は、より多様な疾患を早期発見できる技術開発を構想中。さらに、集約したビッグデータ解析や人工知能などを利用し、ユーザーのリスクを事前に警告する仕組みも展望する。私たちが、いつまでも健康でやりたいことが出来る未来へ。壮大な夢が広がっている。

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