OSXの研究グループ紹介 Vol. 3: PERCEPTIONグループ ~Path Planning~

Vision
未知環境だけではなく、人やロボットが多数介在する環境においても、安全かつ効率的に目的地へ到達できるモバイルロボットの社会実装を通じて、ラストワンマイルの運搬が自動化されている近未来の実現

 OSXの研究グループについて紹介するシリーズ記事 第3弾では、PERCEPTIONグループが取り組むPath Planning(経路計画)の研究テーマを紹介します。

 PERCEPTIONグループは、人とロボットまたは、ロボット同士が協調移動するような世界観を目指しています [Link]。そのような世界を実現するためには、ロボット自身が周囲環境や自己位置を認識することに加え、自律的に目的地へ走行する制御(ロボットナビゲーション)技術も必要だと考えています。我々は、さまざまな環境や状況を想定し、安全かつ効率的にロボットナビゲーションができるように、ロボットの移動経路の計画に関する研究に取り組んでいます。本記事では、以下3つのテーマ領域について紹介します。
未知の環境において、ロボットが自律走行できるようにする技術
工業施設において、大量のモバイルロボットを導入することができるようにする技術
雑踏環境において、人とロボットが互いに譲り合うような経路および行動を考える学習手法

 屋外環境でモバイルロボットの自律走行を想定すると、考え得る環境の情報を事前にすべて収集・調査することは、非常に膨大な作業となり非現実的です。そのため、ロボットが全く知らない環境だった場合、限られた情報で移動経路を計画できるようにすることが必要です。我々は、例えば公園や交差点にある監視カメラなど撮影した映像をもとに移動経路を導き出す経路計画アルゴリズムを研究しています。具体的には、人の移動軌跡をベースに障害物の位置を判断する経路計画技術*1や、機械学習モデルの予測の不確かさを考慮し地形に応じた移動リスクを推定する技術*2などを提案しています。これらの技術により、ロボットが障害物や地形などを自ら判断し、移動リスクを回避できるようにすることで、未知環境においてもロボットが自律的に走行できるようにしていきます。

Neural A*:人の移動軌跡をベースにする経路計画技術*1

 *1: Ryo Yonetani, Tatsunori Taniai, Mohammadamin Barekatain, Mai Nishimura, and Asako Kanezaki, “Path Planning using Neural A* Search,” International Conference on Machine Learning (ICML), 2021.

機械学習モデルの予測の不確実性を考慮する経路計画技術*2

 *2: Masafumi Endo, Tatsunori Taniai, Ryo Yonetani, and Genya Ishigami, “Risk-aware Path Planning via Probabilistic Fusion of Traversability Prediction for Planetary Rovers on Heterogeneous Terrains,” IEEE International Conference on Robotics and Automation (ICRA), 2023.

 倉庫や工場などの工業施設では、多数のモバイルロボットを導入することで、物流や備品管理など生産ラインの支援が実現されつつあります。しかし、複数のロボットを同時に移動させる場合、ロボットは移動する障害物となり、ロボット同士で衝突する危険性があります。このとき、衝突を回避するようにロボットの移動経路を考慮しなければなりませんが、ロボットの台数が多くなると経路計画の計算時間が大幅に増大してしまうことが課題になります。我々は、連続空間・時間における数千台規模の効率的な経路計画技術*3や、ロボット同士が公平に道を譲り合う(各ロボットの到着時間の遅れを同程度にする)ロボットナビゲーション技術*4などを研究成果として発表しています。これらの研究を通して、ロボット同士のローカル通信による協調移動(多数のモバイルロボットによる連携)を実現することで、実用的な時間で大規模な運搬システムを運用できるようにすることを目指しています。

連続空間・時間における数千台規模の効率的な経路計画*3

 *3: Kazumi Kasaura, Mai Nishimura, and Ryo Yonetani, “Prioritized Safe Interval Path Planning for Multi-Agent Pathfinding With Continuous Time on 2D Roadmaps,” IEEE Robotics and Automation Letters (RA-L), 2022. (同時発表制度でIEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots and Systems (IROS) でも発表済み)

時間的に公平なマルチエージェントナビゲーション*4

 *4: Hikaru Asano, Ryo Yonetani, Mai Nishimura, and Tadashi Kozuno, “Counterfactual Fairness Filter for Fair-Delay Multi-Robot Navigation,” International Conference on Autonomous Agents and Multiagent Systems (AAMAS), 2023.

 駅構内やショッピングモールなどの人混みとなりやすい環境においても、モバイルロボットが導入され始めています。将来的に、人やロボットが多数介在すると想定される環境では、安全性と効率性のトレードオフが課題となり、衝突回避を重視することにより目的地に所定時間内で到達できなくなる可能性が考えられます。我々は、人とロボットが互いに道を譲り合うように、ロボットが適切なタイミングで人に働きかけ、自然な人の流れを阻害しないような経路・行動を考える学習*5も研究しています。このように、ロボットが人と同じように周囲に配慮しつつも、人が「ちょっとすみません」と道を譲ってもらうようにロボット自身で経路をつくり出すようにすることで、実世界で人とロボットが共存できる社会に貢献していきます。

雑踏環境における安全・効率的なロボットナビゲーション*5

 *5: Nishimura and Yonetani, “L2B: Learning to Balance the Safety-Efficiency Trade-off in Interactive Crowd-aware Robot Navigation,” IEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots and Systems (IROS), 2020.

 我々は引き続き、実社会においてさまざまな環境・状況を想定し、モバイルロボットの安全性と効率性を両立する経路計画アルゴリズムを研究開発していきます。これらの成果を社会実装に向けて加速させていくことで、モバイルロボットが実社会に溶け込み、ラストワンマイルの運搬が自動化されているような近未来を創っていきます。

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