AI時代 未来は誰が創るのか 人とAIの関係を企業の現場から捉え直す

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AI時代 未来は誰が創るのか 人とAIの関係を企業の現場から捉え直す

「AI時代、未来は誰が創るのか」。
AIの進化により、企業の競争力、働き方、意思決定のあり方は大きく変わり始めています。 この加速度的に進むAI時代において、 企業と人はいかに変わるべきか。 そして、未来の企業はどのように勝ち続けるのか ――。 その本質を考えます。

目次

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    AIは企業の前提条件を変え始めている

    AIは企業をどう変えるのか、その中で人はどのような役割を担う存在へと変わっていくのかという問いは、未来の話として棚上げできるテーマではなくなり、日々の意思決定の質とスピードそのものを左右する現実の論点として、あらゆる業界の現場に落ちてきています

    オムロン デジタル創業50周年の節目に開催されたパネルディスカッションでは、ボストン コンサルティング グループ 植田和則氏、株式会社SHIFT 宮田一平氏、オムロン デジタル株式会社 井上宏之が、AI時代における企業のあり方と人の役割を、抽象論ではなく実践の延長線として語りました。その議論を通じて浮かび上がったのは、AIは導入すれば自動的に価値を生み出す「便利な道具」ではなく、企業の競争力の前提条件そのものを塗り替えつつある存在だという点です。一方で、AIだけで企業が回るほど現実は単純でもありません。むしろ、AIの活用が不可欠になるほどに、その限界や人間の役割も同時に浮き彫りになっている――そうした相反する現実が同時に進行しています。

    黒船という言葉が意味するもの

    ボストン コンサルティング グループ 植田 和則 氏

    議論の冒頭で、植田氏はAIの現在地を次の言葉で表現しました。

    植田:経営者にとってAIは、まさに黒船です。

    黒船という言葉が象徴するのは、単に新しい技術が登場したということではなく、これまでの前提が通用しなくなり、選択の余地が急速に狭まっていく構造変化が起きているということです。実際に植田氏は、2年前、業界全体に「とてつもなく大きな変化が起こっているが、いつが何をすべきかわからない」という温度感があったと振り返りつつ、いまはすでに実装段階を超えて成果も出ていると語っています。

    植田:世界中に数十カ所の工場を持つ企業では、生産ラインにおける熟練エンジニアの暗黙知の78割をAIに置き換えています。

    ここで重要なのは、AI活用を「試す」段階から「実装し、業務を変革する」段階へと移行している点です。ステージが変わり、競争条件が塗り替えられる中、この変化を見落としている企業は、気づかぬうちに市場の中で取り残されてしまいます。

    AIが経営を代替するという問いの限界

    オムロン デジタル株式会社 井上 宏之

    最初のテーマとして提示されたのは、2035年にAICEOを務める企業は存在するのか」という問いでした。この問いに対しては、単純にAIが人を置き換えるか否かという二択ではなく、AIが得意な領域と、人が担うべき領域を分けて捉える視点が共有されました。

    井上:AICEOは出てくると思っています。ただ、業種によると思います。前提条件がある程度決まっていて、最適化が価値になるような業種、例えば株式運用や広告運用といった領域では、意思決定の多くはAIに置き換わっていく可能性が高いと考えています。一方で、エンタメや製造業のように前提条件がばらばらで、「どれも正解かもしれない」という中からどこに賭けるかを決める必要がある領域では、その意思決定をAIに任せるのはまだ難しいと思います。

    この発言が示すのは、AIは最適化のように前提が固定されやすい領域では強さを発揮する一方で、不確実性の高い領域では「どれも正解かもしれない」という状態で賭けを選ぶ胆力や責任の引き受けが必要になり、その意思決定は少なくとも当面は人の領域に残るという整理です。

    また、会場からは「CEOAIだとつまんなそうだなと思った」という直感的な言葉が出てきますが、これは単なる感想ではなく、企業経営が効率だけでは成立せず、人と人が同じ時間軸で悩み、決め、動くことに価値があるという感覚を表しています。

    社員:直感的にAIだとつまんなそうだなと思いました。 僕らは人と一緒に事業をやっていきたい。社長という存在も、同じ時間軸で、一緒に悩んで、一緒に頑張ってくれる「人」であってほしい。

    役割が再定義されるという視点

    株式会社SHIFT 宮田 一平 氏

    宮田氏が提示したのは、AICEOになるかどうかという問いを超えて、CEOという役割自体がAI前提で再定義されるのではないかという視点でした。

    宮田:CEOの仕事は多岐にわたり、AIに代替される部分と、代替されない部分が明確に分かれていくと考えています。インスピレーションを生み出すこと、人と人をつなぐこと、そして感情や文脈を読みながら組織を動かすこと。こうした領域は、やはり人間が担う役割だと思います。そう考えると、「AICEOになる」というよりも、CEOという役割そのものがAIを前提に再定義されていくのではないでしょうか。

    この視点に立つと、AIが人の仕事を奪うという単純な図式ではなく、役割が分解され、AIが担う領域と人が担う領域が再配置されていくという現実が見えてきます。たとえば分析や最適化、反復的な判断はAIが担い、人は文脈を読み、問いを立て、決断し、周囲を動かすという役割に寄っていくという構造です。

    企業と人は進化するのか それとも取り残されるのか

    第二のテーマでは、「AIの進化が企業と働く人にどんな変化をもたらすのか」が議論されました。ここで印象的なのは、宮田氏が「AIで楽になるとは限らない」と言い切り、むしろ新しい価値が生まれることで忙しさの総量は変わらないという現実感を示した点です。

    宮田:AIはいろいろなことを便利にしてくれる存在ですが、AIが入ることで楽になるかというと、たぶん楽にはならないと思っています。AIによって「めんどくさい手作業」がなくなったとしても、その分、別のクリエイティブな仕事が必ず増えてくるAIを使えないと、進化できない。そこには、はっきりとした差が生まれてくる。それが、これからの企業と、そこで働く人の未来なんじゃないかな、と思っています。

    それに対して植田氏は、「AIによって一部の企業や個人が取り残される可能性がある」との見方を示し、厳しい現実を指摘しています。

    植田:進化した企業や人は優位に立ち、そうでないものは取り残されていく。会社も個人もAIを業務に組み込んで、仕事のやり方を根本から変えなければならない。変革に成功した企業・人は生産性が高まり、そうでない企業・人との差は広がる一方だ。

    また井上は、AIのインパクトを「暗黙知の形式化」という観点から捉え、個人の頭の中にあったものがデジタル化され、会社全体で使えるナレッジになることが企業構造を変えると述べたうえで、人に残る価値として現場でデータ化できない空気感や第六感のような感覚、そしてAIが示す方向性に対して踏み出す胆力の重要性に言及しています。

    井上:私が感じているAI一番のインパクトは、熟練工や暗黙知を形式知に変えられることです。これまで人の頭の中にしかなかったノウハウや勘、経験値。それをAIを使ってデジタル化できる。これは企業にとって、ものすごく大きなインパクトがあります。でも、人って現場や組織に入って、データ化できないものを感じ取りますよね。ここに、人の価値が残ると思っています。AIに「こうしたほうがいい」と言われたときに、それをどう受け止め、どう決断するのか。言われた通りにやる胆力、あるいは、あえて違う判断をする胆力。単に作業をこなせるかどうかではなく、慣性や覚悟、意思決定の強さが、これからどんどん問われていくのではないか。個人的には、そう考えています。

    現場を変える力 トップダウンとボトムアップ

    AI活用を成果につなげるには、個別のツール導入ではなく行動変容が必要だという議論の流れの中で、「トップダウンかボトムアップか」という問いに、植田氏は両方必要だと明確に答えています。

    植田氏が紹介したのは、ソフトウェア領域で支援した事例として、地道なチェンジマネジメントを通じて生産性が6割上がったという話です。

    植田:熟練した人ほど生成AIを使っていないことも多いのです。だからこそ、地道に日々のチェンジマネジメントを行い、社員一人ひとりの行動を変えていく必要があります。その結果、1万人規模の組織のうち、8割くらいの人がこれまでの5~6倍の頻度でAIを使うようになり、全体の生産性は6割程度向上しました。ただし、生産性が6割上がるということは、それだけ人の働き方や役割の再配置が必要になるということでもあります。だからこそ、経営としての意思決定と、現場の行動変容、この両輪を同時に回していくことが重要だと考えています。

    この部分は、AI活用が単なる生産性向上の話にとどまらず、経営としての意思決定にも直結していることを示しており、だからこそトップがリスクを取り、現場に時間とエネルギーを投資して行動を変える必要があります。

    さらに、現場変革の具体例として宮田氏が語ったのが「かかとが上がっている状態」という比喩であり、トップや管理層が文化を徹底し、自然に人が動く空気を作ることが重要だという話でした。

    宮田:私たちは、社内の状態をよく「かかとが上がっている」と表現しています。これは、常に一歩踏み出せる状態を意味していて、たとえば期限が1週間のタスクでも、2日目には督促が入る運用を徹底しています。こうした小さな行動を積み重ねることで、スピードを前提にした働き方を文化として定着させています。

    このような状態ができてくると、AIの活用も「導入するもの」ではなく、「自然に使われるもの」として組織の中に入り込んでいきます。一方で、この変化はボトムアップだけでは起こせません。トップや管理層が明確な意思を持って文化をつくり、組織として自然に動く雰囲気を設計していくことが重要になります。

    未来の企業は何で勝つのか スピードと実装

    最後のテーマでは、「AI活用が前提になる時代に企業は何を競争力にするのか」が議論され、ここで3者の答えは驚くほど近づきます。

    植田:AIの進化は非常に速いと感じています。そのため、計画を立ててじっくり考えるだけでは間に合わず、「これから12年でインパクトを出すためにどう変わるのか」を決めて、スピード感を持って動ける会社が結果を出していると思います。スピーディーに意思決定を行い、リスクを取って実行する。これが今後の勝ち筋になると考えています。

    宮田氏もまた、立ち止まって考えることのジレンマを認めつつ、走りながら問いを立て、変え、間違えたらすぐ次のアクションを模索するという「同時並行の動き」が勝ち筋だと語ります。

    宮田:走りながら問いを立て、考えながら変え、間違っていたらすぐ次に進む。新しいものが出てきたら取り入れていく。こうした動きを続けていくことが、これからの勝ち筋になると思います。

    井上は、AIを軸に企業の構造そのものを根本から変えないと勝てないという問題意識を提示しました。

    井上:AIネイティブ企業は、圧倒的に生産性が高いという現実があります。その上で最終的に重要になるのは、自ら変えていく意識を持ち、実際に動ける人財がいる会社が勝ち続けていくという点だと考えています。AIを使って企業の構造そのものを根本から変えていくことができなければ、これからは勝てていかないと思っています。

     結論 未来は誰が創るのか

    ここまでの議論を通して、AI時代の本質は「AIがすべてを置き換えるか」という問いではなく、AIの進化速度を前提に、企業がどれだけ速く意思決定し、現場の行動を変え、実装まで落とし込めるかという問いへと置き換わっていることが見えてきます。AIは確かに強力で、暗黙知を形式化し、組織のナレッジとして再利用できる形に変え、従来は属人的だった仕事のあり方を塗り替えていきますが、その一方で、AIだけでは回らないという現実があり、だからこそトップの意思決定と現場の行動変容という両輪が必要になるという、極めて実務的な結論に帰着します。

    最後に、井上はこの時代にこの場にいること自体が大きな機会であり、現場をリアルに変えるAIの仕組みや運用、人材育成の支援を、50年の歴史を持つ会社だからこそ実装できるという確信を語りました。

    井上:この時代に、この場にいられること自体が、ものすごくラッキーだと感じています。AIは、文字が発明されたときと同じくらいのインパクトを持つものだと思っています。50年にわたって現場で培ってきた経験や知見を持つこの会社で、AIを徹底的に活用していくことは非常に面白い挑戦です。50年現場で必死に汗をかいた皆さんがいるこの会社でAIを徹底的にやるのが面白い。 オムロン デジタルには、現場を知っているからこそできるAIがあります。現場をリアルに変えられる運用。そして、人材育成まで含めたAI活用。それができるのは、50年の歴史を持つオムロン デジタルだからこそだと思っています。もちろん、1社だけでできることには限界があります。だからこそ、今日ご一緒いただいたお二方のようなパートナーのみなさんと一緒に、新しい未来を、オムロン デジタルが軸となり、コアとなってつくっていく。私は、その未来を本気で描けると確信しています。これからも、みなさんと一緒に、本気で挑戦していきたいと思います。

    AI時代、未来は誰が創るのか。その答えはシンプルです。

    AIを前提に、人が問い、決断し、動き続ける。
    その積み重ねが、未来を創ります。

    問われているのは、AIの性能ではありません。
    自分たちが、どれだけ速く変わる覚悟を持てるか――それだけです。