AIの可能性を生産現場で実現

This content was paid for by OMRON and produced in partnership with the Financial Times Commercial department.
本記事は英フィナンシャル・タイムズ(FT)とのパートナーシップコンテンツの日本語抄訳版です。

 

チャットボット「ChatGPT」のようなコンシューマー向けアプリケーションが発表されたことを受け、職場向けAIを求める声が高まっています。その陰に隠れていますが、生産現場でのAIには大きな可能性があり、より大きな期待が持てそうな見通しさえあります。

大規模言語モデルやAI画像ジェネレーターは、小説をはじめ、スプレッドシート、ニュースクリップ、ミュージックビデオ、視覚芸術、さらにはディープフェイクに至るまで、コンテンツを生成する驚異的な能力で私たちを感心させてきました 。けれども、私たちは物質世界に生きています。地球人口の増加に伴い、食料、衣料、自動車、住宅、医療など、基本的な必需品への需要は増えていきます。持続可能な進歩を促進するうえで、このような必需品を、環境への影響を最小限に抑え、労働条件を改善しながら生産することが不可欠になります。

産業用AIによって地球の未来が向上する可能性があるのが、この方面です。

データサイエンスやAIの分野を通じて、産業プロセスで得られる大規模な非構造化データセットを分析して、非効率な面を明らかにし、解決策をバーチャルにシミュレーションおよびテストすることにより、生産を最適化することができます 。これにより、コストのかかる無駄な不良品を減らし、産業機器の寿命を延ばし、エネルギーと資源の消費を抑え、最終的に工場をより環境に優しいものにします 。

オムロンの研究開発責任者のティム・フォアマン氏によれば、「AIは業種に関係なく、高品質で欠陥のない製品を低コストで生産するのに役立ち、エネルギー消費と労働力を最小限に抑えます」 。

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AIは作業者の能力を引き上げることもできます。

「簡単に言えば、熟練者が機械を訓練し、機械が非熟練者を訓練します 。将来、AIの恩恵を受けない機械やオペレーターがいることなど想像がつきません。ですから、そこに非常に大きな可能性があるのです」 。

それでも、今のところ生産現場にAIを導入している企業の数は限られています。産業用AI部門の多くの当事者にとって、いかに普及を促進するかが喫緊の課題です。

 

産業用AI導入における課題

このような変化の受け入れに熱心な産業界のリーダーたちが切迫感を高めているにもかかわらず、工場のオペレーションへのAIの組み込みを妨げる障害がいくつかあるとフォアマン氏は指摘します。

第一の課題として、工場の既存の機械が旧式で、往々にして最新の通信機能などAIに必要な機能が欠けていることが挙げられます。米国全体の製造機器の平均使用年数は20年です。旧式の機器を機械学習に対応するようにアップグレードしたり取り替えたりするのは、相当な取り組みとなります。第二の障害は、特に外部の専門技術を必要とする企業にありがちな、データ共有に対する消極的な姿勢と、データセキュリティに対する懸念です 。第三の問題は、アルゴリズムのためにすぐに使えるデータが少ないことです。

「生産現場のデータは、10年前や15年前の視点で作成されていることがよくあり、データサイエンスを念頭に置いていないため、データが不完全であるという問題に常に直面します」とフォアマン氏は言います。「そしてデータクリーニングを行う必要がありますが、これはコストがかかり、大変な作業です。ですからAIプロジェクトは、データクリーニングという初期段階から進まないことが多いのです」 。

こうした課題があるものの、フォアマン氏は、AIが付加価値をもたらし、エネルギー効率を改善し、製造上の欠陥をゼロに近づけ、その結果、コスト削減と企業の評判の保護につながると考えています 。

 

オムロンが産業用AIで価値を提供

オムロンは長年にわたり、「センシング&コントロール+Think」というコア技術 を継続的に発展させてきました。これは、同社のすべての事業の根底にあり、同社の社会貢献の価値を最大化することを意図しています。2011年に初めて導入された「+Think」のカテゴリーは、人の知恵を機械に付与し、製品やサービスにおけるAIの範囲を拡大する技術のことです。

フォアマン氏は、この技術が実際に使われた例をいくつか挙げ、その一つとして、ある自動車工場で生産停止の原因となった問題を発見するのに、オムロンのデータスキャン分析が有用だったことを紹介しました。この介入を通じて、不良品の廃棄を防ぐことにより数万ユーロを節約しただけでなく、停止時間を5%減らすこともできました 。

ほかにも、オランダのハイテク機器製造工場で、オムロンはデータサイエンスを活用し、欠陥の原因となった製造時の設定ミスを突き止めました。このような欠陥がわずか0.01%減るだけでも、重要な節約になります。特に、医薬品や自動車などの分野では、製造上の欠陥が数百万ユーロの損失をもたらす可能性があります 。

別の事例として、イタリアの自動車工場で、オムロンはデータを可視化し、AIを使用してライン検査を完全に自動化するのを支援しました。この自動化によってオペレーターは、不規則な時間に起きる問題を素早く検知して対処できるようになり、安心を得ることができました 。オムロンによれば、このような恩恵は、機械と人をより効果的に協働させることで作業者の自律性、意欲、快適性を向上させるという、同社のAIビジョンを反映しています 。

フォアマン氏によると、「現在、AI駆動型機械の実験を行っており、そこでは、オペレーターに製品を組み立てさせ、そのやり方を記録することにより、最も賢明な作業方法を特定することを目指しており、そうして得られた技術を、他のオペレーターに教えることができます」 。

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このような成功しているプロジェクトのほとんどは、オムロンのAIコントローラーを導入しています。「エッジで」動作する世界初のAIソリューションと称されるこのコントローラーは、生産ラインから収集したプロセスデータに基づいてパターンを認識します 。

エッジAIとは、エッジコンピューティングと人工知能を組み合わせたもので、クラウドコンピューティング施設のような一元化された場所ではなく、ネットワークのエッジでのデータ処理を可能にします。エッジソリューションはその性質上、オフサイトでのセキュリティリスクの回避にも役立ちます。

オムロンのAIソリューションの中核をなすこのようなエッジベースの機能は、生産現場での高速・高精度な反復的機械制御における同社の従来の能力を活用しています 。オムロンは、デジタル、環境モビリティ、食品、消費財、医療、物流など多岐に渡る分野の企業と協業し、幅広い産業用AIソリューションを積極的に構築しています 。

こうした協業に加え、オムロンは、AIの産業界への組み込みを促進することを目的とした国家レベルのプロジェクトにも取り組んでいます 。同社のプログラムは、人間が行う研究を支援するAIロボットの開発を目指す日本政府のイニシアチブ「ムーンショット型研究開発制度」に採択されました , 。プロジェクトチームは、2030年までに査読付きジャーナルに、また2040年までにハイインパクトジャーナルに研究を発表できるAIロボットの開発を目指しています 。

ドイツのオラフ・ショルツ首相は4月に、産業見本市「ハノーバーメッセ2023」のオムロンブースを訪れました 。同首相は同社のオートメーション技術を視察し、ロボット工学とAIによって、組立ラインの柔軟な学習、仮想テスト、オペレーターの訓練をいかに支援できるかをじかに体験しました。ドイツ連邦政府は最近、AI製品の技術革新を奨励するため、2025年までに50億ユーロを投じることを誓約し、この分野への投資を強化しています 。

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データサイエンスと機械学習はまだ黎明期にありますが、さまざまな業界で次の重要な進歩をもたらす存在として浮上しています。オムロンのような世界的な技術リーダーが積極的に投資を推し進め、今後の開発を先導していることから、AIによる物質世界の形成は予想より早く実現するかもしれません。