10年を超えるオムロンのCVC活動の歩みとオムロンベンチャーズの存在意義
― 2014年7月にオムロンがCVCとしてオムロンベンチャーズを設立した背景とその歩みについてお聞かせください。
当時のオムロンの経営陣の想いとしては、新しい成長の軸となるオープンイノベーションの加速が更に求められる時代において、既存の枠組みにとらわれないスタートアップとの協業と、スタートアップへの投資を通じてオムロンが目指す社会的課題の解決を実現することが、今後のオムロンの長期的な成長には必要であるとの課題感からオムロンベンチャーズを設立しました。
その後、さまざまなスタートアップへの投資・協業活動を行ってきましたが、オムロンベンチャーズにとって大きな転機となったのは、18年の中期経営計画(当時)にあたるVG2.0の折り返しのときと、昨年度からのオムロンでの構造改革と中計ロードマップに向けた取り組みだと思います。
18年は、それまでの国内メインの投資から、海外のスタートアップにも目を向けて投資先を探索し、ステージもアーリーやシードといわれる初期の段階からの投資を行い、より世の中に先行した新たな技術やビジネスモデルを展開するスタートアップの取り込みを目指し活動しました。
そして今年度はオムロンベンチャーズとしても改めて、「オムロンの企業価値に貢献するCVC活動とは」を再定義し、オムロンの事業に還元できる投資・協業活動を進めています。
神谷 直輔
オムロンベンチャーズ株式会社 代表取締役社長
オムロン株式会社 グローバル戦略本部 コーポレート ディベロップメント室長
新卒で日興シティグループ証券(現シティグループ証券)に入社、投資銀行業務に従事。その後、ボストンコンサルティンググループ、UBS証券 投資銀行本部、メリルリンチ日本証券(現BofA証券)投資銀行部門にて勤務し、事業会社のM&Aや資金調達に多数携わる。21年12月にオムロン イノベーション推進本部に入社。22年12月よりオムロンベンチャーズとの兼務を開始。24年3月よりオムロン グローバル戦略本部 経営戦略部 M&Aグループ長。25年4月にオムロンベンチャーズの代表取締役社長に就任。同年5月には、M&AグループとオムロンベンチャーズをCFO直轄組織に再編し、オムロン グローバル戦略本部 コーポレート ディベロップメント室を設立(室長に就任)。
― 今年度、オムロンベンチャーズが転機を迎えたのは、オムロンのグローバル戦略本部にコーポレート ディベロップメント室を立ち上げたことと関係しているのでしょうか。
はい、そうですね。コーポレート ディベロップメント室設立の背景は、M&Aもスタートアップへの投資も、オムロンという会社が掲げる戦略があり、それに対し有望なパートナーと資本的な関係になるという点では共通しています。両者とも成長のための投資ですので、M&AかCVCかは会社がとる手段でしかないと考えています。しかしながら、これまでM&Aはオムロンの経営戦略部門の中にあり、一方で、オムロンベンチャーズは別の管掌役員下の部門にある、というように違うベクトルで動いていたことに、課題を感じていました。そこで、まずはこの2機能を司るコーポレート ディベロップメント室を企業価値への貢献をより加速させる枠組みとして設立しました。
また、これを機に、今までのオムロンベンチャーズの活動の方向性も改めて見直しを行いました。
― 具体的にはどのような方向に見直されたのですか。
まず、大前提として我々が意識しなければいけないのは、25年11月にオムロンが発表した中期ロードマップ SF 2nd Stageです。
その中で、オムロンはデバイス8事業、データサービス5事業の注力13事業を定めています。オムロンベンチャーズもその戦略に則って投資活動を実行していきます。
そして、先ほどのコーポレート ディベロップメント室の立ち上げ時の思い同様、CVC活動においても有望なスタートアップを探して関係をしっかりと構築し、最終的にはオムロンに還元するという協業の枠組みを作っていきます。この枠組みを継続していくことが、将来的にオムロンの企業価値に貢献するCVC活動につながると考えています。
― より具体的に、投資や共創の事例についてお聞かせください。
冒頭に、本年度から、オムロンの事業に還元されるような投資へと方針を転換したと話しましたが、実は、既に昨年度より企業価値向上に貢献できるような投資活動を視野に入れて舵を切り始めていました。
例えば、昨年度に出資した「株式会社HQ」は、福利厚生をコストから投資へ変革することを目指しているスタートアップ企業です。オムロンは23年に「株式会社JMDC」、25年に「株式会社iCARE」のグループインを通じ、職域でのヘルスケア市場に本格参入しました。それらに次ぐ新しい連携の1つとしてHQへの出資を行いました。
現在は、オムロンのグループ企業との事業連携を模索しており、23年にオムロンが立ち上げた健康経営アライアンスの中で、分科会の共同開催などで一緒に活動しています。
また、25年11月に出資した、韓国のスタートアップ企業「Sky Labs Inc.」は、世界初の24時間モニタリング用リング型カフレス血圧計を開発・販売する事業を展開しています。Sky Labsは、以前よりオムロンヘルスケアと事業開発を進めていましたが、ヘルスケアが掲げるミッション「Going for ZERO(脳・心血管疾患の発症ゼロ)」の更なる加速を実現させるため、オムロンベンチャーズより出資を行いました。
その他にも、24年7月に出資した、ANAホールディングス発のスタートアップである「avatarin株式会社」は、オムロンデータソリューション事業本部スマートM&S事業部との知見や技術面での連携を図り、画期的なソリューションづくりを進めています。
このように徐々にではありますが、事業部との連携を強化し、ゆくゆくはオムロンの売上・利益、ひいては企業価値に還元できる投資を行うことで、戦略リターン・財務リターンをしっかりつくっていくファンド運営を継続したいと思います。
少数精鋭の組織でオムロングループの成長ドライバー役に
― オムロンベンチャーズは、スタートアップとオムロンの事業部との連携のカギとなる存在ですね。現在はどのようなメンバーで活動されているのですか。
現在は、投資のフロント業務を担うメンバーが4名、会社の運営企画を行っているメンバーが3名と私を合わせて8名体制です。他社のCVC、金融関係、商社出身のメンバー、オムロン内部から異動してきたメンバーと、多種多様なバックグラウンドがそれぞれの強みを活かし、補完しあいながら活動しています。
少数ではありますが、精鋭揃いのチームです。メンバーには、オムロンの成長ドライバーとして動いているという実感を持ってもらえるように、今後もさまざまな成長機会を作っていきたいと思っています。
オムロンの投資・共創の実行を担う栗下 泰孝氏(写真左)と、小川 知陽氏(写真中央)
― 神谷さんも他社より転職されてオムロンへご入社されました。オムロンにどのような魅力を感じられているのでしょうか。
オムロンの経営理念には、ファクトリーオートメーションやヘルスケアという言葉がどこにもありません。自社の持つ技術、考え方、人などの資産で、その時代や社会における課題を解決しながら成長していくミッション型の企業であるオムロンには、以前から興味を持っていました。
オムロンにはチャレンジを受け入れる組織風土があります。そこが仕事に面白みを感じられるところです。今のオムロンベンチャーズの活動方針へと再定義するにあたり、社長、CFO、CTOをはじめとした経営陣から力強い支持をいただきました。自分自身がM&Aやスタートアップ投資という観点を通じてオムロンが成長するドライバー席の一端を担っていることにやりがいを感じています。
― 最後に神谷さんが思い描く、オムロンベンチャーズの今後の展望をお聞かせください。
オムロンベンチャーズの投資活動の目的は、ポートフォリオ理論でいう分散効果を財務リターンとして獲得することではありません。あくまでもM&Aに近い感覚で、企業価値に還元できる投資と自社の事業との協業を促していくことによって、戦略リターン、財務リターンをしっかり得ていく。そんなファンド運営にこだわっていきたいと考えています。
オムロンの長期ビジョンであるSF2030の達成という目先のゴールも重要ですが、同時にCVCという立場としては、そのもう1つ先の未来も見据えたパートナー探索活動・投資活動を行うことに意識を持つことも必要であると考えています。オムロンが本来持っている力や成長性を最大限に発揮していくために、幅広い視点で、有望なスタートアップの探索活動に取り組んでいきます。
本記事は、日経BPの許可により日経ビジネス2026年3月19日~2026年4月20日に掲載した広告を転載したものです。
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