阪神高速道路に導入された新重量計測システムとは
国の大動脈として重要なインフラである高速道路は、開通から50年以上が経過した区間も多数存在し、路面や構造体の老朽化が進んでいます。高速道路を安心・安全・快適に利用し続けられるようにするためには、その維持メンテナンスが重要ですが、道路の劣化を早める原因の一つとなっているのが過積載による重量違反車です。阪神高速道路は、この問題に正面から取り組み、オムロン ソーシアルソリューションズ株式会社(以下、OSS)と共同でセンシング技術による新たな重量計測システムの開発と導入を推進しています。
読者の皆さんは、日本で最初に開通した高速道路がどこか、ご存知でしょうか?それは、1963年7月に開通した名神高速道路。滋賀県の栗東ICから兵庫県の尼崎ICの間、距離にして71.7 kmの区間です。高度成長期から整備が続いてきた高速道路網は、50年以上にわたり身近な移動や輸送の手段として私たちの生活を支えてきました。
しかし、今、その巨大な社会インフラは、老朽化の課題に直面しています。各地で高速道路のリニューアル工事を見かけるのも、この問題への対処の一環です。1964年に開通した阪神高速道路でも、全体の6割が開通から40年以上経過しており、老朽化した道路の安全対策が急務となっていました。
私たちは、人々の移動や物資の輸送が高速道路によって迅速に行えることが当たり前となった社会に暮らしており、その恩恵は計り知れません。日本の大動脈として「ぜったいに止めてはいけない道路」である高速道路の劣化に立ち向かい、できるだけ良いコンディションで守っていくために阪神高速道路とOSSは、新たな技術を導入した取り組みを進めています。
このような取り組みの背景としては、長期にわたる利用の中で現在の高速道路の重要度がこれまで以上に高まっていることが挙げられます。高速道路は災害時の緊急道路としての役割も担っているため、温暖化等による異常気象や中・大規模の地震が増えている近年において、耐震対策をはじめ高速道路の安定的な走行環境を確保することが急務となっていました。
中でも阪神高速道路は、1日の自動車利用台数が数十万台もあり、特に大型車は大阪府内道路の約6倍に上るなど、非常に過酷な使用状況にあります。しかも、道路全体に占める橋梁などの立体構造物の比率が9割を超え、コンクリートのひび割れや鋼構造物の腐食、疲労亀裂などの損傷が顕在化しているのです。
こうした状態に、さらなる追い打ちをかける存在として、法律で定められた積載重量を守らない「過積載による重量違反車両」があります。たとえば、軸重20tの重量違反車が道路を走行すると、法律基準内にある軸重10tの車両が4000回走行するのと同等のダメージを一度で与えるとされており、道路の劣化を早める原因の9割以上が、このような違反車両によるものなのです。
以前は、すべての車両が料金所で一旦停止していたため、その際に静止状態で正確な重量を計測することが可能でした。ところが、現在ではETC搭載車の普及によって、料金所でも不停止で通行する車両が多くなっています。そのため、走行中でも精度の高い重量計測が行え、かつ、カメラで車両を特定することのできる自動取り締まりシステムの導入が急がれていました。
これまで走行中の車両を検知し、その重量を測定するシステムがなかったわけではありません。OSSも、「WIM(Weigh-In-Motion)システム」と呼ばれる技術を持っていました。オムロンは創業時からセンシング&コントロール技術で日本初の車両感知器を使った信号制御システムや交通管制システムの開発など交通のオートメーション化を推進してきました。そのような取り組みの一環として開発された「WIMシステム」は、車両検知センサーによって車両の有無を検知し、道路に埋設した重量計測センサーと合わせて、違反車両の特定に必要な重量などの情報を収集・解析するシステムです。走行車両を停止させることなく使用でき、一般国道への納入では20年以上にわたる実績を持っています。
OSSの技術に着目した阪神高速でも、「WIMシステム」を高速道路に活用できないかと検討を進めていたのですが、1つの問題が立ちはだかりました。WIMシステムは、車両を検知して車種を判定するセンサーと重量を測定するセンサーの二つのシステムで構成されています。車両検知センサーは、車体の金属部を検知しているため、金属が多用されている高速道路などの立体構造の道路では正常に動作しないのです。
阪神高速道路は、そのほとんどが高架橋の立体道路であり、鋼床板が多く使われています。そうなると、「WIMシステム」の車両検知方法では運用することができず、設置場所が限られてしまうことが課題でした。
そこで、OSSでは、従来の車両検知センサーの使用をやめるという発想に転換しました。重量をはかるセンサーの出力信号処理を工夫することにより、車両の進入・退出の検知を重量計測センサー側で代用できる仕組みを構築。よりシンプルなシステム構成にまとめ、進化させました。
つまり「新しい機能を追加するために、さらに機器を追加する」のではなく、「2つの役割を1つに集約する」という引き算の発想によって、「車両の検知は、車両検知センサーの役目」という固定観念から脱却したのです。こうして、高速道路という過酷な環境において、道路会社が求める性能や課題に対して大胆な発想で応えた結果、重量違反車の新たな自動取り締まりシステムが完成し、設置可能箇所の大幅な拡大を実現しました。
今回のシステム開発を担当した、オムロン ソーシアルソリューションズ株式会社 社会ソリューション事業本部 交通事業統括部の松永奨生は、こう話します。
「日本の道路交通社会における利用する人、働く人、暮らす人のすべてに安心・安全・快適な価値を提供し続けたいという信念と50年以上にわたって道路交通社会に貢献し続けてきたプライドを持って、このプロジェクトに取り組んできました。そして、目的を達成するために、お客様や社会にとっての価値をゼロベースで考えたことで、このシステムが実現できたのです。
サステナブルなもののあり方が注目される今、道路も『新しく作る』ことから『作った道路をどのようにうまく長く使っていくか』というように社会の要求も変わってきました。
今後の目標としては、この取り組みで得ることができた統計データを活用し、重量車両が、どこをどれだけ走行しているのかがわかるようにすることを考えています。将来的には、高速道路のどの箇所を点検し、どこを優先的に修繕するかといった維持修繕計画の立案にもつなげられるようにし、長く使える道路の実現を通じて、さらなる社会貢献にチャレンジしていきたいです。」
時代と共にかわっていく道路を取り巻く環境に合わせ、新たな社会課題解決を加速することで道路の安心・安全・快適を見守っていく。
道路会社と連携し、道路の持続可能性を高めるためのオムロンの挑戦はこれからも続きます。