京都府舞鶴市の自律社会実現に向けた新しい挑戦(後編)
人口約8万人を抱える京都府舞鶴市とオムロンがパートナーシップを結び、街を活性化させるためのプロジェクトをスタートさせた。
前編で紹介した、現代において失われつつある「お互い様」の仕組みを生み出すというこのプロジェクトの話は、ソーシャルニーズ創造につながるイノベーションの創出を行うオムロン株式会社のイノベーション推進本部「IXI(イクシィ)」がハブとなっている。
後編ではこの「IXI」にスポットをあて、このプロジェクトがどのように進められていったのかを紐解きたい。
舞鶴プロジェクトの特徴のひとつが、多様なメンバーが集まっているところである。プロジェクトリーダーは前編でも紹介した横田美希だが、オムロンの中でプロジェクトに関わるのは横田を含み9名。IXIから事業構想デザインを担当した鵜野充恵、西條和徳をはじめ、太陽光発電などの再生可能エネルギー事業担当、河川監視などのインフラモニタリング事業担当、広報担当など、各分野におけるスペシャリストが集められている。
「オムロンにはもったいないところがありました。それは横のつながりの薄さです。個々の能力はものすごく高いのに、それを結集させることができなかったのです。」
そう話すのはIXIの鵜野だ。一言でいうならば、大企業ならではの事業間の壁。事業間をまたいだプロジェクトはそもそも結成すること自体が難しかった。
「これまで難しかった事業間の壁を越えてチームを作り、ソーシャルニーズの創造に向けた活動ができるプラットフォームがIXIなのです。このプラットフォームとしての役割が非常に重要なのです。」
プロジェクトリーダーの横田もこのように話す。
「人財、技術、情報などのすべてがこのIXIに集まっています。舞鶴市プロジェクトでは、『お互い様』の仕組みづくりにチャレンジしていますが、この課題に辿りついたのも、社内外に幅広いコネクションをもつIXIが、様々な分野のスペシャリストたちをプロジェクトメンバーにアサインしてくれたからといっても過言ではありません。」2人がそう話すように、舞鶴プロジェクトはIXIの存在が大きな推進力になっているのだ。
創業者の立石一真はかつて、ベンチャー企業として様々なソーシャルニーズの創造にチャレンジしてきたが、事業が大きくなるとともに、事業の延長線でのトライ&エラーになってきていた。そこで、今一度原点に立ち戻り、事業の枠組みを越えて全社でトライ&エラーの数を増やすことを狙い、オムロン全社のイノベーションプラットフォームとしてIXIが立ち上げられた背景でもある。
「イノベーションはトライ&エラーの中からしか生まれません。その起点となるトライ&エラーを、全面的にバックアップをするのが、IXIという組織なのです。」
そう語るのは、鵜野とともに舞鶴プロジェクトにIXIから参画した西條である。
様々なメンバーの知見やアイデアが入ることで視野が広がり、新しい角度で現場課題を見出すことができる。舞鶴プロジェクトの課題の洗い出しは、舞鶴市役所の方たちとの1泊2日の合宿からスタートしたそうだが、街灯が少ないといった設備のことから、災害の話、さらには人口減少に至るまで、大小様々な話があがってきたという。地元のママさんバレーボールチームや高齢者の方へのヒアリングなど、生の声にもとことん耳を傾けた。
その後、西條をはじめとするメンバーは、週に2回のミーティングを2カ月間重ね、舞鶴市が抱える課題から仮説を立て検証を徹底的に行った。
「様々な仮説を立て検証を繰り返すことで見えてきたのは、舞鶴市の負のスパイラルです。地域産業の稼ぐ力の衰退、人口減少による地方税の減収、そして高齢化による財政圧迫。それらすべてがまじりあうことで、舞鶴市は十分なサービスが提供できなくなっていくということが明確にわかったのです。」
検討期間は3カ月にもおよんだが、2030年ありたい姿からのバックキャストを行うことで、前編でも紹介した「エネルギー」「キャッシュレス」「街の見守り」「健康」「共生」という5つテーマに絞られていったのである。特に「共生」というテーマは、異なる分野のメンバーが集まったからこそ生まれた視点ともいえるだろう。
ソーシャルニーズを創造するためのイノベーションプラットフォーム「IXI」が、オムロンそのものを進化させ、新たな価値を生み出していく。今後、舞鶴市プロジェクトがどう進んでいくのか、そしてそこで得たノウハウを、全国の自治体に横展開することができるのか。彼らの挑戦は、はじまったばかりなのだ。