「ハード系ベンチャーが成長するエコシステムを作りたい」 テックアクセルベンチャーズの設立背景と今後の取組

記事提供:株式会社アントレプレナーファクトリー

知っているだけで避けることのできる失敗は沢山ある

日本全体で考えると、GDP(国内総生産)は名目・実質ともにほぼ横ばいで、経済成長には起業・創業によるイノベーションが求められています。また、労働者にとっても、多様な働き方を選べる時代となり、組織という枠に囚われず、チャレンジしやすい環境(エコシステム)が整備されつつあります。

アントレプレナーファクトリーも、このエコシステムを作り上げようとする会社の1つです。代表の嶋内秀之がVC(ベンチャーキャピタル)にいたときに感じた

"大きな成功には出会いや幸運、想像を絶する努力が必要かもしれないが、知っているだけで避けることのできる失敗は沢山ある。私は企業や起業家に必要な知識を効果的に提供することで、人と組織の成功を加速させたい"

という想いから、ベンチャーの課題を解決するため、2009年に立ち上げた会社です。

ベンチャーには事業のステージごと、業種ごとに様々な課題があります。特にハードウェア系(以下、ハード系)はIT系に比べるとエコシステムが整備されていないといわれています。

そこで、今回はハード系ベンチャーの育成に取り組む事例を紹介したいと思います。インタビューはオムロン株式会社(以下、オムロン)と株式会社リコー(以下、リコー)、SMBCベンチャーキャピタル株式会社(以下、SMBCベンチャーキャピタル)の3社が設立したベンチャーキャピタル(以下、VC)、合同会社テックアクセルベンチャーズ(以下、テックアクセルベンチャーズ)の投資パートナー、大場正利氏にお願いしました。

 

近年、日本の起業家を取り巻く環境(エコシステム)は整いつつある

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"近年、良くなりつつある景気の影響もあり、多くのファンドが組成されています。独立型のVCだけではなく、大企業のコーポレートベンチャーキャピタル(以下、CVC)も増加し、ベンチャー向けのイベントはここ数年で格段に増えました。つまり、資金調達という意味では、ベンチャーを取り巻く環境は以前よりも恵まれています"

一般財団法人ベンチャーエンタープライズセンターが発表している「ベンチャー白書2017ベンチャーキャピタル等投資動向調査(2017年度)」によると、2016年4月~2017年3月における、日本に籍を置くVC等によるベンチャー企業への投資金額は1,529億円、投資件数(のべ件数)は1,387件で、前年よりもそれぞれ17.4%、19.4%増加しています。しかし、大場氏はこうも指摘します。

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"ハード系ベンチャーにとっては必ずしも恵まれた環境というわけではありません。その理由の1つはハード系ベンチャーの数自体が少なく、注目されていないこと。日本のVCの多くはIT系(最近ではAIやロボティクス、自動運転、アルゴリズム)を投資対象にしています。もう1つの理由は、ハード系を支援できるVCが少ないことです。評価できるVCがいなければ、今後の成長を後押しすることができません"

"一方、ハード系ベンチャー側にも問題があります。例えば大学発ベンチャーは増えていますが、「良い技術を持っているのに、事業化の仕方がわからない」というベンチャーがあまりに多いと感じています"

野村総合研究所の「平成28年度産業技術調査事業(大学発ベンチャーの設立状況等に関する調査)」によると、過去20年の大学発ベンチャーの設立数は急増しています。しかし大場氏が危惧している「大学発ベンチャーをトレーニングする場所がない」という問題は、この分野で活躍するベンチャーを増やしていく上で最大の課題だといえます。

 

事業会社×銀行×VCのタッグで、日本産業界発展に寄与するベンチャーを育てたい

ベンチャーの創出や育成強化のため、官民がそれぞれ多様な取組を行っています(内閣府の「内閣府オープンイノベーションチャレンジ」や事業会社のCVC設立など)。しかし、事業会社がいざCVCを作ってみたものの、技術的目利きはできても、ベンチャーの全般的な支援についてはわからず、支援に限界を感じることもあるそうです。

そこで、オムロン、リコー、SMBCベンチャーキャピタル、が主導となり、事業会社単体の限界を超え、それぞれの強みを活かしたVCを作りたいという想いから設立されたのがテックアクセルベンチャーズです。3社に株式会社産業革新機構と株式会社三井住友銀行が加わり、第1号ファンドが組成されたと大場氏は語ります。まさに「事業会社(ソーシングネットワーク、技術的目利き)×銀行(金融ノウハウの提供)×VC(投資ノウハウ、ファンド管理)」の運営体制ができた瞬間です。

"特徴としては、まず専業で行っているVCのように、一義的に「金銭的リターンだけを求める」というスタンスではないことです。日本の産業界発展に寄与するベンチャーを育てたいという想いがあるからです。2つ目にものづくり系の事業会社が運営・管理していること。オムロンとリコーから、技術的なバックグラウンドを持った人が運営に関わり、事業会社のアセットやネットワークを必要に応じてベンチャーに提供することができます"

オムロンのCVCである「オムロンベンチャーズ」との関係性についても聞いてみました。

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"オムロンベンチャーズはオムロン本体との事業連携を視野に入れてベンチャーを見ているわけですが、比較的ビジネスモデルが確立されている段階のベンチャーに投資しています。一方、テックアクセルベンチャーズは、オムロン、リコーの事業とは遠く、ビジネスモデルが未確立なベンチャーも投資対象としています。そのような関係性ですが、テックアクセルベンチャーズが投資して育ったベンチャーが、結果的にオムロンベンチャーズの投資対象にもなる、いわば2段階での投資となればオムロンとしては理想の形だと考えています"

 

参加ベンチャーの成長を後押しする「Tech Sirius 2018」

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テックアクセルベンチャーズの取組として、2018年2月6日、三井住友銀行東館 ライジング・スクエア3階にて行われた、ビジネスプランコンテスト「Tech Sirius 2018」について伺いました。

"42件の申し込みがあり、当日ファイナリストとしてピッチをしたのは11チームでした。ファイナリストは3週間のトレーニングを受け、「顧客と提供価値の再設計」や「マネタイズモデルの再設計」について学びました。その成果の発表の場が「Tech Sirius 2018」です"

"特徴の1つは、質の高いネットワーキングを実現したことです。ベンチャー企業との協創を促進させるべく、事業会社の新規事業開発、オープンイノベーション推進の人達を中心に招待しました。結果として、約240名に参加していただきました"

ハード系ベンチャーが成長するためには、将来大企業からの支援が必要です。大企業が持つ販売網や研究開発施設、周辺領域の知見・ノウハウを活用することで、ベンチャーはますます加速度的に成長することができます。

"早い時期から大企業との接点を作り、マッチングすることで、ファイナリストや参加者にとって有益なネットワーキングの場を設けたい"

そういう意図があったようです。まさに「ファイナリスト11チームの更なる発展のため」のコンテストだったといえます。

 

「Tech Sirius 2018」優勝を手にしたチームは

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優勝チームは株式会社O:(オー)。睡眠時間と体内時計のズレをデバイスで可視化し、睡眠改善/生産性を向上させるサービスを提供しています。不眠で悩む人は日本に2,300万人存在しますが、そのデバイスを使うと、自分の睡眠を取るべきタイミングがわかるようになるといいます。

体内時計(血中メラトニン)を非侵襲(身体を傷つけない)で測定し、体内時計を可視化する腕時計型デバイスは世界初です。可視化だけではなく、医学的根拠に基づいたコーチングアプリを提供することで不眠症を解消しようとしています。デバイス+アプリ+レポートという、可視化からソリューションまでワンストップで提供できる会社は少なく、その点が審査員の高評価に繋がりました。

 

エコシステムの更なる広がり

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「Tech Sirius 2018」は、実際に参加ベンチャーの成長を後押しするきっかけとなったのでしょうか?表彰式の後のネットワーキングの場で、参加者の声を聞きました。

「ベンチャーのプレゼンを聞いて、引き続き情報交換を行っていきたい企業が何社もあった(事業会社のCVC投資担当者)」

「技術的に近い企業と繋がりたいと思っていて、その会社に評価してもらい、今後も協業できることになったので、参加してよかった(スタートアップ経営者)」

オーディエンスの大企業にとっても、出場したベンチャーにとっても、その後に繋がるイベントだったようです。最後に、テックアクセルベンチャーズの今後について大場氏に伺いました。

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"我々は有望なテクノロジーを持つスタートアップに対して技術視点を基軸とした投資・支援を行い、日本産業界の発展に寄与することを目標として活動しています。Tech Sirius 2018で協賛企業を集めたように、事業会社からのアセットを活用できるようなエコシステム形成(メンバーシップ)を今後も進めていきたいと考えています」

当日の様子(受賞チームのプレゼンや参加者の声)は下記の動画で視聴できます。ぜひご覧ください。

(株式会社アントレプレナーファクトリー:菅野雄太)

 

Tech Sirius 2018(4分22秒)

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