インダストリー4.0で物流プロセスの効率化を図り、作業員に優しい職場環境を実現

ここ数年、製造業の事業環境に大きな変化が見られるようになりました。生産現場において、ものづくりのプロセスが複雑さを増す中、人手不足が深刻化しています。こうした傾向は物流倉庫の管理業務にも当てはまります。また、個人の力量に依存する体制は、作業員の精神的負担を増大させ、ヒューマンエラーのリスクを高めます。オムロンが掲げる「人と機械の高度協調」は、モノづくりや物流の現場に立ちはだかる問題の解決を目指しています。本稿では、ある顧客の生産プロセスにイノベーションをもたらした先進的な取り組みをご紹介します。

 

喫緊の課題であった物流プロセスの改善

ガーネット社はオートメーションやロボティックスといった分野の商材を扱う欧州拠点の輸入・販売業者で、世界中で多くのメーカーに様々な部品を提供しています。モーター、ドライバ、エンコーダーとレゾルバのコンビネーション、パワー半導体、プラスチックのボールねじ、線形アクチュエータと、多種多様な商品を取り扱っていることもあって、物流プロセスの管理にはずっと悩まされてきました。

そのため、日々の業務の効率化を一日も早く実現し、属人的な体質から脱却を図ることが喫緊の課題となっていました。現場では、作業員が多種多様な部品のピッキングを目視で行っていました。また、集めた部品を広大な構内の指定の場所まで搬送するため、作業員は重いカートを押してかなりの距離を移動する必要がありました。すなわち、作業員は単純ではあるものの厳しい作業を繰り返し行うという作業環境から抜け出せないでいました。こうした個人の経験が頼りで、肉体的にも負荷のかかる作業を繰り返し行うプロセスは、ヒューマンエラーを招くだけでなく、作業員のやる気を奪いかねません。また、生産性にも大きな影響を与えています。こうした課題に着目したガーネット社は、インダストリー4.0を推進し、統合的かつ迅速な自動化ソリューションを通じて課題解決に取り組んでくれるパートナーを探し始めました。

 

オムロンとファスシンク社――お互いの長所を活かしあう

ガーネット社のパートナー探しに手を挙げたのはオムロンと、製造業や物流倉庫の自動化を支援するファスシンク社。両社は共創し、統合型の製造・物流ソリューションの実現を目指しました。目指したのは物流プロセスの進捗状況をリアルタイムでモニターし、部品の種類を自動で検知することによって、これまで作業員が手作業で行ってきたピッキングを自動化するシステムの開発。また、倉庫内で部品の補充や配送をスムーズに行うことによって、作業員の負担を軽減する効果も期待されていました。

この目標に向かって、オムロンとファスシンク社は互いの強みを活かす形で革新的なソリューションの創造に着手しました。ファスシンク社の最大の関心事は、物流・製造プロセスの改善を実現する現場ならではの技術を統合することでした。「ピック・ツー・ライト(P2Light)」と呼ばれる同社の革新的技術は、部品のピッキングやハンドリングといったプロセスを最適化するアプリケーションです。一方、オムロンはセンサーやロボティクスからオートメーションプラットフォームに至るまで、ありとあらゆるソリューションを自前で取り揃える、世界唯一のメーカーです。両社が力を合わせれば、物流プロセスを統合的に管理するだけでなく、様々なタスクを自動化することができます。

P2Lightは、直感型のオーダーピッキングシステムで、作業員による取り違えをなくします。オーダー番号を読み取るとライトが点灯してピッキングを行う場所に作業員を誘導し、同時に非接触型のセンサーで正しい部品がピッキングされたかを確認します。

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搬送自動化により生産性を向上、作業員はより付加価値の高い仕事へ

オムロンの自律搬送モバイルロボット(AMR)は工場や倉庫を自律的に動き回ることのできるロボットです。安全システムと高度なアルゴリズムによって、作業員との協業も可能です。ファスシンク社のP2Light技術と倉庫管理システム(WMS)をロボティクスシステムに融合させることによって、ロボットが行うピッキング作業をアプリケーション側でチェックすることが可能となり、システムの運用や管理を行う作業員の負担を軽減することができます。

OMRON Electronics(イタリア)のシステムインテグレーション担当マネージャー、ルカ・フラティチェリ(Luca Fraticelli)は、このシステムが作業員にもたらす効果についてこう語っています。「このロボットは革新的なデバイスであるP2Lightを複数搭載し、可視信号を発することで作業員を部品の保管場所まで誘導し、ピッキング業務を支援します。ピッキングの作業指示が完了するとロボットは受注伝票の内容に従って、部品を次の作業位置まで搬送します。この画期的なプロセスは、受注伝票に沿って複数の部品を準備している間にエラーが発生するリスクを最小限に抑えるとともに、ピッキングの回数を減らしてくれます。また、ピッキング作業員は重い部品を持って構内を歩き回る必要もなくなります。ガーネット社は、作業員を単純な作業から解放し、より付加価値の高い作業に集中することを可能にしました。」

581_3.jpgオムロンが開発したガーネット社向けのPick2Light搭載モバイルロボット

 

持続可能な製造現場をDXで実現

オムロンとファスシンク社のパートナーシップは、ガーネット社に自動化ソリューションをもたらし、同社の物流プロセスに劇的なDXを実現しました。ガーネット社の革新的な物流プロセスにより、部品の搬送を担当する作業員が一日に歩く距離は大幅に短くなりました(以前は約10キロ)。また、ピッキングのエラーや回数が減る一方で様々なデータが蓄積されたことによって、物流プロセスの柔軟性が向上し、トレーサビリティもより強靭なものとなりました。

ガーネット社のレオ・イウリーノCEOもこうした取り組みを高く評価し、以下のように述べています。
「インダストリー4.0がもたらしたイノベーションによって、われわれは物流や生産現場の課題をこれまでとはまったく異なるアプローチで解決できるようになりました。近い将来、市場が我々に突きつける課題、すなわち、いかに迅速かつ柔軟に変化に対応していくか、あるいはどのようにして従業員のエンゲージメントを向上していくのか、といった課題にも十分対応ができるものと考えています。」

インダストリー4.0で可能になることは生産性の向上だけではありません。OMRON Electronics(イタリア)でロボティクスソリューションを担当するキーアカウントマージャー、マルコ・ミーナ(Marco Mina)がその可能性を次のように説明してくれています。「オムロンのイノベーションの原点は、『われわれの働きで われわれの生活を向上し よりよい社会をつくりましょう』という企業理念にあります。ガーネット社のケースでは、安全でユーザーに優しいソリューションが生み出され、作業員の方々の負担を軽減しただけでなく、作業効率とやりがいの向上にも寄与しました。昨今、経験を積んだ人財を確保することはますます難しくなってきています。オートメーションは、経験の浅い工場の労働者や作業員によるタスク遂行のハードルを下げてくれるので、なくてはならないツールとなりました。また、ピッキングエラーによる作業指示ミスを減らしてくれるだけでなく、不必要な搬送業務をなくすことにより、ガーネット社やその顧客の業務に付随して生じるカーボン・フットプリントを削減することにもなっているのです。」
オムロンはこれからも事業を通じて、世界中の働く人々の幸せと産業の高度化に貢献し、サステナブルな社会の実現に貢献します。